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核戦略

(一般)
かくせんりゃく

Nuclear strategy(英)

核兵器を使用するための戦略。いかに核戦争を戦うかというマスター・プラン*1。核兵器の性質上、狭義の戦略面だけでなく兵器の開発・生産・配備はもちろん、国家全体の防衛や指揮のシステムにまで踏み込んだ物とならざるを得ない。
以下、アメリカの核戦略の変遷についてまとめた。

大量報復戦略

アメリカ最初の核戦略。「ニュー・ルック戦略」とも。アイゼンハワー政権下、ダレス国務長官によって提唱された。
何が起きても大威力の核兵器で報復する、という体制を構築すれば戦争を抑止できるという戦略。そこから、大雑把に言うと、次のような好循環の生成を狙った。

  • 大量の核兵器を配備→通常兵器を使わなくていい→軍事予算を節約できる→浮いたお金で国力を増大→大量の核兵器を配備(以下繰り返し)

が、冷静に考えると、何が起きても「核兵器で反撃する」か「何もしない」かの二者択一を行わなくてはならない、というのは現実的な方策ではない。

柔軟反応戦略

ソ連の核戦力が向上したことで、柔軟性に欠ける大量報復戦略は放棄され、その代わりにケネディ政権によって採用された。
「グリーンベレーから核兵器まで」、戦争のあらゆる局面に対応可能な軍事力を建設して、紛争の各段階において適切な戦力を展開する能力の保有を目指す。これによって戦争を抑止できると考えた。
以後、ニクソン政権の「ターゲティング・ドクトリン」、カーター政権の「相殺戦略」など、名前を変えながらアメリカの核戦略の基本となった。

相互確証破壊

MAD*2とも。核戦略というよりは、核戦略の状態を示す概念。「恐怖の均衡」「相互抑止」の中身。
「報復攻撃を行って相手国に致命的な打撃を与えるだけの戦力(=確証破壊)を、先制核攻撃を受けた後でも残せるのであれば、攻撃を抑止できる」
という考え(確証破壊戦略)を拡張し、米ソのいずれもがそのような核報復能力を保有することで、いずれも先制攻撃を行えない状態になった、とする。
実現のために核兵器搭載戦略爆撃機の空中待機、戦略原潜のパトロール配備、ICBMサイロの強化、移動可能ICBMの配備などが計画・実施された。

SDI

1981年に登場したレーガン政権によって打ち出されたスターウォーズ計画こと戦略防衛構想のこと。実際にはレーガン政権が推進した核戦略の名称というわけではない。「宇宙空間にビーム兵器を搭載した人工衛星を配備して、飛んでくる核ミサイルを打ち落とす」というイメージを持たれているが、レーガン軍拡の本当の中身はそのような点にはない。
当時、「脆弱性の窓」理論と呼ばれるものがあった。大雑把に言うと、「ヴェトナムでアメリカが足踏みしている間を利用して、ソヴィエトは新型ミサイルを着々と配備している。これを使用したソ連からの先制核攻撃を受けた場合、アメリカの核戦力が破壊される危険性がある」というものである。想定されていたのは、概ね以下のようなシナリオである。

  1. ソヴィエト側から、(新型ミサイルを使用した)アメリカの核戦力「のみ」を目標とした先制攻撃を受ける
  2. アメリカの保有する第一撃用のICBMと爆撃機が破壊される
  3. アメリカに残された核兵器が戦略原潜に搭載されたSLBMだけになる。
    • ※SLBMは移動する潜水艦から発射するから、精度と威力で劣り、十分な防御力を持つハードターゲット(硬化目標)を破壊することはできない
  4. 第一撃は核戦力を目標とした攻撃だったので、アメリカの都市のほとんどは無傷である

以上のような状況が発生した(してしまった)場合、アメリカの取り得る選択肢は以下の二つになる。

  1. ソ連の通常戦力が好き勝手するのを座視する
  2. アメリカの都市がソ連のSLBM(と長距離爆撃機)に破壊されるのを承知の上で、ソ連の都市へ向けてSLBMを発射する


実際にこんな展開が起きる可能性があったかというと、そこは大いに怪しかった*3。だが、就任早々にソ連を「悪の帝国」と呼んだレーガンは、そのような状況は甘受できないと考えた。
かくして、前任のカーター政権下で開発・計画されていながら生産・配備が凍結されていた兵器群、MXミサイルや核搭載巡航ミサイル、B-1爆撃機、トライデントSLBMなどの配備が進められることとなった。これらはいずれも飛躍的に向上した精度を持ち、ソヴィエトの硬化目標を破壊する能力を与えられていた。
要するに「ソ連がやる気なら、こっちも同じことを(より上手く)できるようになってやる」ということである。デタントの時代は終わり、冷戦はここに新たな頂点を迎えることになる。

*1:の、素になるもの

*2:Mutual Assured Destructionの略語。

*3:そもそも全面攻撃を是とするソ連的なドクトリンとも矛盾するアイディアだ

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