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傷つける性

(読書)
きずつけるせい

オタク用語の一つ。
おたくのセクシャリティを規定するための概念。評論家のササキバラ・ゴウの提唱による。
初出は『傷つける性 団塊の世代からおたく世代へ――ギャルゲー的セクシャリティの起源』*1

「ノベル系のギャルゲーでは……女の子の内面を探り当て,それを受け止めるという形で物語が進むことになる。それは女の子の側から見ると,〈彼に私の内面をわかってもらう〉という形になる。その結果ギャルゲーに登場したのは,かつての少女まんがに定番的に存在した〈あこがれの彼に本当の自分をわかってもらう〉的な,リリカルでロマンチックな物語だ。70年代のおとめちっくまんがや,ラブコメディがそのままタイムスリップしてきたかのような描写が,多くのギャルゲーに発見できる。」
 「ギャルゲーは,女の子の内面を描こうとして,すでに80年代で死滅してしまった古典的な少女まんがから,そのモチーフを得ているように思われる。」(ササキバラ論考108頁より引用)

〈傷つける性〉とは何か

以下は解説のために記したものであってササキバラの提示とは異なる記述を含むのであるから,批評に際しては原文を参照されたい。

  • いわゆる「24年組」の活動を通し,少女まんがにおいて〈内面〉を語るという表現手法が確立された。これを受けて男の子たちは,女の子キャラが〈内面〉を持つものであることを認識する。〈内面〉の存在に気づいた男の子は,自分の欲を発動させると〈ぼくの好きな女の子〉がそのせいで傷つく。男という性は〈傷つける性〉なのである。
  • 女の〈内面〉という存在を意識し,彼女たちが〈第二の性〉であることに気づいた男は,自分が〈第一の性〉であることに気づかされると同時に,〈気づかされる〉という受動性において〈第三の性〉となる。男は,〈第二の性〉の影響を受けて行動を規定されるという意味で,〈第二〉の後に従う受動的な〈第三の性〉となる。しかしそれは,男が〈第一の性〉から〈第三の性〉へと移行したという意味ではない。〈第一の性〉と〈第三の性〉のふたつの間で身を引き裂かれて,ポスト少女まんが時代の男の葛藤が生ずる。
  • 〈少女まんがをよんでしまった男の子〉が〈内面性をもった女の子とつきあう方法〉の答は,〈乙女ちっく少女まんが〉の中にある。男の子がすべきことは,彼女の内面をきちんと〈理解してあげる〉ことのできる自分になることである。その結果,男の子の挙動は,自分の気持ちを基準に行動する〈能動性〉ではなく,相手の気持ちを汲み取って行動する〈受動性〉へと変化する。
  • 女の子の内面に〈可傷性〉を見出し,自分の暴力性に気づいた男の子は,もはや,無邪気にその子をくどくことはできない。〈傷つける性〉としての自覚は,男の子に性的な抑圧として作用し,葛藤を生む。
  • 女の子の中に内面という〈可傷性〉を発見した男の子は,女の子の内面を壊してしまうことをおそれ,手出しできない。それゆえに,男の子は先回りして敗北する。〈美少女〉という概念は,男の子が女の子に敵わないことを思い知り,それをマゾヒズム的に自覚することで70年代に作り出した偶像である。

視線としての私,彼女をわかってあげられる僕

 こうしたオタクのセクシャリティ特性については,同じくササキバラ・ゴウの著作『〈美少女〉の現代史――「萌え」とキャラクター』(ISBN:4061497189,2004年)でも触れられている。そこでは,

  • 「美少女」世代は,彼女の内面を思いやり,理解するという行為を通じて,「そういう能力を持っている僕」という新しい優越的な場所を確保した。「かわいい」という価値を女と共有することで,無意識のフェミニスト的偽装を可能とし,純粋に「視線という暴力を投げかける者」となった。
  • しかし,1980年代後半に「少女まんがの崩壊」が起こり,内面的な表現が大きく後退するという大変動が起こった*2。女性の側から〈内面〉が示されなくなったために,男性は感情移入する手がかりを失った。
  • その結果,男性は安心できる地位を失い,偽装されていた自分の視線の暴力性がむき出しにされる。そして,ただ女性の前で受動性を強めていくしかなくなる。

 そしてササキバラは,(1)視線を受け止めてくれる相手として,傷つくことのないキャラクターが求められ,(2)かつての〈特権的な僕〉を回復しようとして,〈彼女の内面〉をフィクションとして作り上げているのだ,と言う。その現れが1990年代後半以降のギャルゲーであり,そこには「陵辱する視線」と「内面的かつ叙情的なテキスト」が同居している――と評している。

関連資料

*1:『新現実 vol.2』(ISBN:4047213926,2003年3月)所収。

*2:その境界点として,ササキバラは紡木たく『ホットロード』を挙げる。

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