翻訳家。 簡潔かつ表現力に満ちた美しい翻訳が魅力。
1956年、神奈川県横浜市生まれ。 1982年、東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。 現在、東京工業大学外国語研究教育センター教授。
主な訳書に、ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』(新潮文庫)、アーサー・ゴールデン『さゆり』(文春文庫)、エドガー・アラン・ポー『黒猫・モルグ街の殺人』(光文社古典新訳文庫)、F・スコット・フィッツジェラルド『若者はみな悲しい』(光文社古典新訳文庫)など。
2018年の夏のある日、シリア出身だという人に初めて会った。彼は広島大学の大学院で建築を勉強していると言った。F市で行われたインターンシップに私たちは参加していた。インターンとは言ってもほとんど観光のようなものだった。F市にある工場や会社を巡って話を聴くのだ。のらりくらりと大学生をしながら就職もまともに考えたことのない私にとっては気楽なものであった。社会科見学でお菓子工場を訪れた9歳の時と同じ感動をもって金属製品が作られる工程を見ていた。港に面した工業地帯から山際にある漬物工場へ、その次は地域に密着した老人ホーム。私たちはバスに揺られて移動した。隣りに乗っていたのがシリア人の彼だった。 F市の…
フィッツジェラルドの短編集が多い! 1.村上春樹訳以外のもの 2.村上春樹訳のもの 収録作一覧表 フィッツジェラルドの短編集が多い! 『グレート・ギャツビー』で知られる作家スコット・フィッツジェラルドについては弊ブログでも二度紹介し、どちらの記事も非常に多くの方に読んでいただいております。 戦間期の好景気に沸いた狂乱の20年代とその後に来る大恐慌の時代を生きた、「ロスト・ジェネレーション」を象徴する作家、さらにはアメリカ文学を代表する作家とまで言われるフィッツジェラルドですから、読者が多いのも不思議はありません。 ところでいざ『グレート・ギャツビー』以外の小説、それも短編を読んでみようかなと思…
何があってもおかしくない エリザベス・ストラウト 小川高義訳 早川書房 図書館本 『私の名前はルーシー・バートン』で、ルーシーと母親の会話の中に断片的に出てきた人々が、たくさん登場する。本作の導入として『ルーシー・バートン』が書かれたのかと思うくらいだった。名前は覚えていなくても、「この人知ってる!」と思い当たる。キャラクターが印象的だったのだろう、確かめたくて『ルーシー・バートン』(電子書籍)を読み返してみたり人名を検索してみたりで、少し忙しい読書になったので再読したいと思う。 ルーシーの生まれ故郷である、アメリカ中西部のアムギャッシュという田舎町が主な舞台。何もないような貧しい土地で今も暮…
ポー短編集 黒猫 (ホラー・クリッパー)作者:にかいどう 青ポプラ社Amazonもちろん、「黒猫」のような残酷な猫虐待小説が良書なわけがありません。でも、文学を愛する人々はみんな知っています。子どもにはむしろ悪書をこそ手渡すべきだということを。 ポプラ社〈ホラー・クリッパー〉シリーズの第5弾。いままで三田村信行・富安陽子・松原秀行・令丈ヒロ子といった人気実力を兼ね備えた押しも押されもせぬベテランが並んでいたシリーズでまだキャリアが10年に満たない作家が起用されるのは通常なら違和感が持たれそうですが、にかいどう青であれば当然という感じがします。 にかいどう青が選んだポー作品は以下の通り。 「黒猫…
ra927rita1.hatenablog.jp 台北近郊にある方の国家人権博物館の図書館室に置かれていた『紅字』を見てぎょっとしたあと、買ったSIMで接続しているインターネットで検索したら『緋文字』だということが分かったし、表紙に描かれている髭おじは著者のホーソンらしいこともわかった。 過去に世界史選択の学生をしていたのでホーソン(『緋文字』)、エマーソン、ホイットマンが19世紀ロマン主義文学に分類される合衆国の作家で、婚外の姦通をした主人公がピューリタン的な植民地法のもとで胸につけさせられたそれこそがタイトルの『緋文字』であるというのは脳に刷り込まれているんですけど、そういえば読んだことが…
ああ、ウィリアム! エリザベス・ストラウト 小川高義訳 早川書房 図書館本 作家であるルーシー・バートンは二番目の夫を亡くしたが、前夫ウィリアムとの友人関係はそのままだ。ウィリアムの亡き母キャサリンの秘密を知ったウィリアムは、母の故郷であるメイン州へ同行することをルーシーに頼む。ルーシーの現在と過去の回想は、子供時代の貧困のなかでの母親との関係、義母キャサリンとの思い出、離婚、結婚、娘たちとの関係などを行ったり来たりする。どのエピソードも印象的で、会話文のような平易な文章で描かれる人物像が巧みなので、たくさん欠点を持っているごく普通の人びとに対する愛おしさが湧き上がってくる。 さらに、作中でル…
ヘンリー・ジェイムズの代表作のひとつ 1898年作品。原題は「The Turn of the Screw」。古い翻訳だと『ねじのひねり』とされていることもあるかな。作者のヘンリー・ジェイムズ(Henry James)は1843年生まれ。アメリカで生まれ、イギリスで活躍した小説家。1916年に没している。 邦訳版は古くからいくつも出ているのだけど、わたしが読んだのは2012年刊行。光文社、土屋政雄(つちやまさお)訳の古典新訳文庫版。 光文社版は960円(税別)とややお高め。お買い得さで考えると2017年に出た、新潮文庫名作新訳コレクションの『ねじの回転』が490円(税別)とリーズナブル。こちらは…
107冊読みました。来年もこれぐらい読みたいです。 どれも素晴らしい作品ばかりでしたが特に好きな作品は ・フランケンシュタイン ・七つの魔剣が支配するシリーズ ・十二国記シリーズ です! 2024はお恥ずかしながら炎上しているのを見て初めて知った世界の常識など、大人として知らなきゃいけない事を勉強したいなと思っています。 政治とか地政学とか宗教とかセンシティブだけど知らないと恥かくし、人を不快にさせたくないし、なにより自分を守るためにも。 以下読んだ本リストですが3万字もあるのでお暇なときにどうぞ、、、 1.0105 スコット・フィッツジェラルド 村上春樹(訳)グレート・ギャッツビー ❤️3章…
ヘミングウェイの『老人と海』を 2 回読んだ。最近 2 回読むとよく理解できることに気づいた。1 回読んだだけではどんな話だったか覚えていない。 老人は巨大なカジキに引っ張れて陸地から遠ざかり、そのまま漂流してしまうのではないかと心配になった。 振り向けばもう陸地は影も形もない。だからどうだ、とい彼は思った。いつだってハバナの方角はぼんやり明るくなってくれる。 ヘミングウェイ『老人と海』 訳者:小川高義 光文社 発売日:2014/9/20 Kindle版 老人はいつでも前向きに考える。老人は決断した後にこれでよかったのかとか、決断後の思わぬ孤独を感じて迷う。しかし迷いや不安が生じる度に前向きに…
12/9 (土)11:00 - 12:30 エリザベス・ストラウト×小川高義「わたしたちの大好きなエリザベス・ストラウトと語ろう!」『ああ、ウィリアム!』(早川書房)刊行記念トーク SPBS本店 https://spbs20231209.peatix.com ああ、ウィリアム! 作者:エリザベス・ストラウト 早川書房 Amazon
早いものでもう年の瀬ですが、早いといえばこの12月で当ブログももう開設2周年でした。どうにか細々と続けております。日頃のご愛顧のほど誠にありがとうございます。まだしばらくは趣味として続けていければと思います。 それでは11月の気になる新刊から。 フィッツジェラルド10-傑作選 (中公文庫 む 4-14) 作者:スコット・フィッツジェラルド 中央公論新社 Amazon 村上春樹訳によるフィッツジェラルドの短編傑作選が中公文庫より登場。春樹ふくむフィッツジェラルドの翻訳については当ブログの人気記事であるこちらをどうぞ。 『グレート・ギャツビー』冒頭の翻訳3種類を比べてみた 野崎孝・小川高義・村上春…
久々です。 気分が良いので日記を書こうと思います。 先程心理学実験に参加してきました。 みぞおちの部分に電極を貼り、心拍数などを計りながら面接を行いました。 まずは事前のインタビュー。自分の長所、困難だった経験、、など。 それから就職活動における企業での面接を模した本番のインタビューに移ります。 事前インタビューの会話量と面接における会話量の関係を調査していたようです。 んで、今からフリー ピザまんを買って来ましたよ〜 なんか薄い? 雲ひとつない晴天! ちょっと寒いけど読書をします。 今はフィッツジェラルド『グレート・ギャッツビー』を読んでいます。小川高義訳。 そういう訳です。では。
フィッツジェラルド 小川高義訳 『若者はみな悲しい』 光文社古典新訳文庫 フィッツジェラルド(1896-1940)の『若者はみな悲しい』を読了しました。短編集はどうしても「傑作選」ということになりがちなフィッツジェラルドのオリジナルな短編集を読むことができるのは嬉しい限りです。そうした「パッケージ」に何らかの意味や価値を見出そうとすることは、音楽も切り売りされる現代にあっては時代遅れの行為なのかもしれませんが。 とはいえ印象に残る作品はといえば「お坊ちゃん(The Rich Boy)」などの有名作品で、独自編集の短編集というものが生まれることにもやはりそれなりの理由があるのだなと思わされます。…
『緋文字』ナサニエル・ホーソーン 小川高義/訳 光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.9.28読了 母国では学校の課題図書として読まれるほど、アメリカ文学史のなかでは定番であり名作と言われている。刻まれた文字、過ちを償う、キリスト教などの言葉が並び、ちょっととっつきにくいイメージがあってまだ読めていなかったのだが、名翻訳家小川高義さんの訳が光文社から刊行されていたので読んでみた。ようやく読めたという安堵感。 そもそも『緋文字』が「ひもんじ」と読むのか「ひもじ」なのかわかっていなかった。どうやらこの本は「ひもんじ」が正解というか、出版物には読み方を確定しなくてはならないから、光文社古典新訳文庫…
トム・ハンクスの小説家デビュー作である『変わったタイプ』を読了。はなから作家と言っても通用する、まともな作品だった(笑) トム・ハンクスの映画を観ていれば、ロマンスからミステリー、戦争ものまで何でもこなす器用さが、彼の感性に幅広い影響を与えているだろうから、小説家としても失敗はないだろうと思っていたが、その通りだった。 約450ページ程の分厚い本は、その分厚さが個人的に好みだったのだが、開いてみたら「短編集」で、短編より長編の方が好きな私としてはちょっとがっかり。 昨今、ジョン・アーヴィングのように分厚い長編を書く作家は少なく、短編の方が多いように感じるのだけれど、私の誤解だろうか。いい短編は…
Ⅳ トルーマン・カポーティ――叶えられなかった祈り 第2章 その作品 第Ⅳ節 不気味なものへの誘い、あるいは恐怖の根源へ――『夜の樹』 【目次】 第Ⅳ節 不気味なものへの誘い、あるいは恐怖の根源へ――『夜の樹』... 1 1 長篇小説作家になり切れなかった、天才短篇小説作家... 3 2 「北部もの」「南部もの」... 6 3 「ミリアム」... 9 4 「夜の樹」... 11 5 「夢を売る女」... 16 6 「最後の扉を閉めて」/「最後のドアを閉めろ」... 25 6-1 「北部もの」の典型的な代表作... 25 6-2 梗概... 26 6-3 自業自得... 28 6-4 中心のない…