論説「映画痴人 蓮實重彦」 A 表層批評の紋切り型 蓮實重彦の表層批評はコンテクストがあってこそできる放言にすぎない。文芸批評における『夏目漱石論』(講談社文芸文庫、二〇一二年)ならば作家の伝記的事実に基づいた解釈を否定し例えばあえて「横臥」に着目したり、『大江健三郎論』(青土社、一九八〇年)においては政治性や寓意を無視して「数字[一]」にのみ触れる遊戯、曲芸だ。それは映画についても同じことで、ジョン・フォードの映画といえば『真珠湾攻撃』December 7th(一九四三年)、『ベトナム、ベトナム』Vietnam! Vietnam!(一九七一年)といった作品を完全に黙殺して恣意的に選んだ商業的…