木走日記

場末の時事評論

株価暴落まで招いた日銀総裁と村上ファンドの関係〜揺らぐ「日本銀行の独立性と透明性」

日銀総裁村上ファンドに1000万円拠出〜自ら国会で明かす

 今日(13日)の産経新聞電子版速報記事から・・・

日銀総裁村上ファンドに1000万円拠出

 日銀の福井俊彦総裁は13日午前の参院財政金融委員会に出席し、証券取引法違反インサイダー取引)容疑で逮捕された村上世彰容疑者が前代表として率いていた「村上ファンド」に対し、平成11年秋に1000万円を拠出し、現在も資金は回収しておらず、預託を続けていることを明らかにした。
 答弁によると、福井総裁が富士通総研の理事長だった10年ごろ、同総研の研究会などに出席していた当時通産省(現・経済産業省)官僚だった村上容疑者と知り合った。

 11年夏に同容疑者がファンドを立ち上げた際に「応援の意味で」(福井総裁)他の総研関係者とともに1人あたり1000万円を拠出。「引き続き繰り延べ投資しており、キャッシュアウト(現金化)していないが、帳簿上の利益は納税している。そんなに巨額の利益があがっているわけではない」と話した。

 また、村上ファンドとの関係は、「ガバナンス(企業統治)に関し大所高所からアドバイスしたことはあるが、役員としての契約はせず報酬も受けていない」とした。

 一方で、村上容疑者の逮捕については、「具体的評価は差し控えたい」とコメントを避けたが、「基本的な考え方は承知している。その出発点と到着地点との大きな落差は大変遺憾」と述べた。

 民主党の大久保勉議員らへの答弁。

 福井総裁は資金拠出の目的を「応援の意味で」と述べ、自身の金儲けではないことを強調しているが、結果的にはファンドから利益を得たうえ、村上容疑者の活動を側面支援した形になる。

(06/13 11:54)
http://www.sankei.co.jp/news/060613/kei063.htm

 今日(13日)の午前中の国会質疑において日銀の福井俊彦総裁が自ら答弁で「「村上ファンド」に対し、平成11年秋に1000万円を拠出し、現在も資金は回収しておらず、預託を続けていること」を明かしました。

 また「ガバナンス(企業統治)に関し大所高所からアドバイスしたことはあるが、役員としての契約はせず報酬も受けていない」としましたが、いくらご本人が資金拠出の目的を「応援の意味で」と述べ、自身の金儲けではないことを強調しても、記事結語にあるように「結果的にはファンドから利益を得たうえ、村上容疑者の活動を側面支援した形になる」と指摘されても仕方ないでしょう。



●政府側は繰り返し会見し火消しに努めるも、株価は大暴落

 午前中のこの発言を受け政府側は日銀総裁の責任論に発展することを回避する発言を繰り返し火消しにつとめます。

 朝日速報から・・・

福井日銀総裁の村上Fへの拠出、不適切という根拠ない=与謝野担当相

2006年06月13日11時55分
 [東京 13日 ロイター] 与謝野経済財政・金融担当相は13日、福井日銀総裁がMACアセットマネジメント(村上ファンド)に1000万円拠出していたことを明らかにしたことについて「何ら問題はない。総裁になる時に、どう始末するかは福井総裁の問題。不適切と言う根拠は見出せない」と述べた。

 参院財政金融委員会で平野達男委員(民主)の質問に答えた。

 日銀総裁にも資産公開が必要ではないかとの質問に対しては「資産公開が正しいかは、相当慎重に考えなければならない」と語った。

http://www.asahi.com/business/reuters/RTR200606130038.html

 担当大臣である与謝野経済財政・金融担当相は「何ら問題はない。総裁になる時に、どう始末するかは福井総裁の問題。不適切と言う根拠は見出せない」と責任論とはならないとの見解をしめします。

 つづいて産経速報から・・・

日銀総裁村上ファンド拠出 首相「道義的責任はない」

 小泉純一郎首相は13日昼、福井俊彦日銀総裁村上ファンドに1000万円を拠出していたことに対する道義的責任について「それはないのではないか」と述べた。また、自身の村上ファンドとの取引については「関心がないから」と否定した。首相官邸で記者団の質問に答えた。
(06/13 12:37)
http://www.sankei.co.jp/news/060613/sei069.htm

 お昼には小泉首相が道義的責任について「それはないのではないか」と否定します。

 しかし、株式市場では敏感に反応します。

 日経速報から・・・

東証後場寄り・下げ幅300円超 「福井総裁の村上ファンド拠出が重し」

 13日後場寄り付きの東京株式市場は幅広い銘柄が売られ、日経平均株価は一段安。下げ幅は300円を超え、心理的な節目の1万4500円を割り込んだ。目新しい買い材料が見当たらないうえ、取引が始まったアジア市場で主要な株価指数が下落していることも投資家心理を冷やした。東証株価指数(TOPIX)も一段安。前場安値を下回り、下げ幅は30ポイントを超えた。

 海外相場の下落に加え、「福井俊彦日銀総裁村上ファンドに拠出していたことが市場参加者の心理的な警戒感を誘った」(国内証券の情報担当者)との指摘もあった。福井総裁は13日午前の参院財政金融委員会でインサイダー取引容疑で逮捕された村上世彰氏が率いていた投資ファンドに1000万円を拠出していることを明らかにした。

(後略)

(6/13 14:58)
http://markets.nikkei.co.jp/kokunai/summary.cfm?id=ds0iss1413&date=20060613

 午後には安倍官房長官が会見で弁護します。

 ロイター速報から・・・

日銀総裁の交代は考えず=村上Fへの拠出で安倍官房長官

[東京 13日 ロイター] 安倍官房長官は、日銀の福井総裁が村上ファンドに1000万円を拠出していたことについて、日銀総裁の交代は考えていないとした。また、ゼロ金利政策解除との関係については「この問題とゼロ金利解除とは全くかかわりがないと思う」との認識を示した。そのうえで「日銀は、ゼロ金利政策で金融面から経済を下支えしてもらいたい」と述べた。13日午後の記者会見で述べた。

 安倍長官は、福井日銀総裁の交代は考えているかと聞かれ「考えていない。そもそも5年間の任期と言うことになっていると承知している」と答えた。

 この問題については「日銀の内規との関係においては、内規には触れていないと承知している。総裁に就任する前の話だったと言うことだが、福井総裁自身がこの問題についてきっちりと説明することが大切だと思う。総裁として職務を行うには、国民からの信頼も極めて重要だ」と指摘した。

 また「総裁として国会で説明責任を果たしていると思うが、様々な場において説明するだろう。福井総裁は、今までも市場からの信認の厚い方だった。国民からも信頼される総裁だった。そういう意味において、しっかりと説明してもらえればと思っている」と述べた。

 安倍長官は「極めて有能な方を総裁として選んだと考えている」とし「調査するということは今のところ考えていない。99年当時は、このファンドはスタートする段階だったこともあり、拠出したのだろうと思う」とした。
 
http://today.reuters.co.jp/news/newsArticle.aspx?type=topNews&storyID=2006-06-13T165552Z_01_NOOTR_RTRJONC_0_JAPAN-217099-1.xml&archived=False

 結局、政府側は日銀総裁の責任論に発展することを回避する発言を繰り返し火消しにつとめましたが、株式市場は614円安という今年最大の下落幅を記録し、年初来安値を更新します。

 日経速報から・・・

日経平均終値614円安の1万4218円・今年最大の下落幅

 13日の東京株式市場で日経平均株価は急落。大引けは前日比614円41銭(4.14%)安の1万4218円60銭と6月8日の安値を下回り、昨年11月16日以来の安値水準となった。下落幅は今年最大で、米同時テロ直後の2001年9月12日の682円85銭安以来の大幅な調整だった。米経済の先行き不透明感や下げ止まり感が出ない株式相場を警戒し機関投資家個人投資家の見切り売りが出た。後場終盤には株価指数に大口の売り注文が相次ぎ、主力株を中心に株式相場の下げを加速した。東証株価指数(TOPIX)の大幅安で3営業日ぶりに年初来安値を更新した。下げ幅は1月18日の56.94ポイント安に次ぐ、今年2番目。

(後略)
(15:37)
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060613NT001Y18713062006.html

 株価下落の全てが日銀総裁の国会発言に起因しているわけではもちろんないですが、日経記事の分析福井俊彦日銀総裁村上ファンドに拠出していたことが市場参加者の心理的な警戒感を誘った」が正しいとすれば、タイミングも最悪な国会答弁だったことになります。



●東大法学部の後輩で下野の時世話になった村上世彰氏を独立時からサポートし続けていた福井俊彦日銀総裁

 時系列に少し整理いたしましょう。

 そもそも福井俊彦日銀総裁は、村上ファンド村上世彰氏の大先輩として58年に東大法学部を卒業後、日本銀行に入行した日本銀行プロパーであります。

 94年には日本銀行副総裁になりますが、一連の大蔵省・日銀スキャンダルの為に、松下康雄総裁と共に監督責任を問われ、98年に日本銀行を一旦退き下野します。

 同年民間である富士通総研理事長に就任、この年、同総研の研究会などに出席していた当時通産省(現・経済産業省)官僚だった東大の後輩である村上容疑者と懇意になるわけです。

 翌99年村上容疑者は村上ファンドを立ち上げますが、「応援の意味で」(福井総裁)他の総研関係者とともに1人あたり1000万円を拠出するわけです。

 ここでひとつの重大なポイントは、福井俊彦日銀総裁の場合、ただの出資者ではなく、村上ファンド設立時の出資者でありかつ、その後も村上ファンドの経営諮問委員会にあたるアドバイザリーボードのメンバーを務め続けていた事実です。

 当時は民間に下野していたわけで確かにこの時点では、与謝野担当相の発言通り、一民間人であった福井俊彦氏の村上ファンドに対する設立投資およびアドバイザリー活動自体は「不適切と言う根拠は見出せない」でしょう。

 しかし時代の風は福井俊彦氏にいっきにフォロー(追い風)となります。

 日銀プロパーの速水優が総裁に就いた為、一時は福井総裁誕生の可能性が薄らいだのですが、折りしも中央銀行の独立性の確保の為に新日銀法が制定され、大蔵省・日銀間のたすきがけ人事の慣行が廃止されることになり、福井俊彦氏は再び総裁候補として浮上することとなったのです。

 03年、同じく総裁候補だった中原伸之審議委員を制して、念願の日本銀行総裁に就任します。
 福井総裁誕生によって、日本銀行は人事面で旧大蔵省からの独立を勝ち取ったわけです。

 ここに本件の二つ目の重要なポイントがあります。

 03年に日本の中央銀行総裁となった福井俊彦氏は、その後06年6月の現在まで、村上ファンドへの投資とアドバイザー(※1)を打ちきることなく継続してきた事実です。

 いかに本人が国会で「ガバナンス(企業統治)に関し大所高所からアドバイスしたことはあるが、役員としての契約はせず報酬も受けていない」と言い逃れしたところで、村上ファンド設立時からの特赦な関係の出資者であり、結果的にはファンドから利益を得たうえ、村上容疑者の活動を側面支援した形を継続してきたことは否定しようがありません。


●本件は「日本銀行の独立性と透明性」に抵触していないか

 日本銀行のホームページでは、中央銀行としての日本銀行の特殊な役割がわかりやすく説明されています。

 その中で日本銀行法で厳しく日本銀行の独立性と透明性が守られていることを説明しています。

日本銀行の独立性とは何ですか?
http://www.boj.or.jp/oshiete/outline/01102001.htm
日本銀行の透明性とは何ですか?
http://www.boj.or.jp/oshiete/outline/01102002.htm

日本銀行の独立性とは何ですか? より抜粋

 1.金融政策の独立性

 過去の各国の歴史を見ても、中央銀行の金融政策にはインフレ的な経済運営を求める圧力がかかりやすいことが示されています。物価の安定が確保されなければ、経済全体が機能不全に陥ることにも繋がりかねません。

 こうした事態を避けるためには、金融政策運営を、政府から独立した中央銀行という組織の中立的・専門的な判断に任せることが適当であるとの考えが、グローバルにみても支配的になってきています。

 日本銀行法において、独立性確保がはかられているのは、こうした考えによるものです。

 つまり日本銀行が政府から独立した中央銀行という組織の独自性を法律により保証されているのは、時の政府や特定の勢力に組みすることのない中立性・専門性を守るためなのです。

 そのような特別な役割を有する日本の中央銀行の最高責任者である福井俊彦日銀総裁が、設立に深く関与した一民間企業の出資者兼アドバイザー(※1)という関係を、出資時点では民間人であったかも知れませんが、日銀総裁就任以降も3年以上も継続していたということは、どう説明なさるのでしょうか。

 ・・・

 一国の中央銀行総裁が一民間企業にここまで深く関与してきたことは、日本銀行法でうたわれている「日本銀行の独立性と透明性」に鑑みて、何の説明も無しで看過できる問題とは思えません。

 本件は「日本銀行の独立性と透明性」に抵触していなかったか検証する必要があると思います。

 国会は日銀法を制定した立法府のその責務において、本件の事実関係を徹底して検証し国民の前に全てを明らかにすべきです。



(木走まさみず)



<テキスト修正履歴>(※1) 2006.06.15 18:00
 コメント欄およびトラックバックからのご指摘で、日経社説によれば「総裁就任時にアドバイサーはやめていた」とありました。
 私のテキストの記述の2箇所を誤りとして訂正・削除させていただきました。
 検証のため訂正が遅れたこと、申し訳ございませんでした。