衆院補選結果は本当に自民「完勝」を意味するのか?〜あらためて見せつけられた自民党候補者の当落の命運を握るのは公明党である事実
●安倍自民党、初陣2勝…神奈川16区・大阪9区補選
安倍自民党が見事初陣を飾りました。
今日(23日)の読売新聞記事から・・・
安倍自民党、初陣2勝…神奈川16区・大阪9区補選
当選を決め万歳をする原田憲治氏(中央)=大阪府茨木市で 安倍政権発足後初の国政選挙となった衆院統一補選が22日投開票され、神奈川16区で自民党の亀井善太郎氏(35)、大阪9区で同党の原田憲治氏(58)の両新人が当選した。
高い内閣支持率を背景に与党が2勝したことで、安倍首相の求心力が高まりそうだ。首相は、教育基本法改正や北朝鮮の核実験への対応が焦点となる臨時国会で、与党主導の運営を目指す構えだ。
一方、民主党は4月の千葉7区補選で勝利した勢いを持続できず、今後、小沢代表ら執行部への批判がくすぶる可能性もある。
与野党は、今回の統一補選を来年春の統一地方選や夏の参院選の前哨戦と位置付け、総力戦を展開した。
安倍首相は22日夜、自民2候補の当選を受けて自民党の中川幹事長に電話し、「自公連立政権に国民から大きな力を与えていただいた。国民に公約した政策の実現に全力を尽くす」と伝えた。
民主党の鳩山幹事長は22日夜の記者会見で、敗因について「北朝鮮の核実験が起き、我々の主張した格差問題が十分な争点とならなかった」と語った。
神奈川16区補選は、自民党の亀井善之・元農相が5月に死去したことに伴うもの。元農相の長男で自民党の亀井善太郎氏は、父の後援会組織や、自民、公明党の手厚い支援を受けて「弔い合戦」を前面に打ち出し、支持を広げた。民主党新人の後藤祐一氏(37)は自転車で支持を訴えるなど、無党派層を意識した選挙戦を展開したが、固い自民党の地盤を崩せなかった。
亀井氏は22日夜、「新しい自民党を有権者が支持していただいたと思っている」と当選の弁を述べた。
大阪9区補選は、自民党の西田猛・前衆院議員の死去に伴うもの。自民党の原田氏は、公明党の支持団体である創価学会の強い支援を受け、8月に自民党公認を得た出遅れの挽回(ばんかい)に成功した。民主党の元衆院議員、大谷信盛氏(43)は「格差の是正」や「医療・年金の不安解消」を訴えたが、有権者の高い関心を呼び起こすには至らなかった。
原田氏は22日夜、「自公連立政権による改革の前進が認められた結果だ」と語った。
両選挙区の投票率は、神奈川16区が47・16%、大阪9区が52・15%。ともに昨年の衆院選(神奈川16区は64・77%、大阪9区は67・56%)を大幅に下回った。
(後略)
(2006年10月23日1時58分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20061022it14.htm?from=top
「与野党は、今回の統一補選を来年春の統一地方選や夏の参院選の前哨戦と位置付け、総力戦を展開した」わけですが、結果は自民党の2勝となり、読売記事の分析では「高い内閣支持率を背景に与党が2勝したことで、安倍首相の求心力が高まりそう」とあります。
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早速選挙結果を受けて、今日(23日)の主要紙社説はこの自民完勝の補選結果を社説で一斉に取り上げています。
【朝日社説】衆院補選 まずは合格点の安倍首相
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【読売社説】[補選自民2勝]「与党を後押しした『北』の核実験」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061022ig90.htm
【毎日社説】衆院統一補選 「北の核」安倍自民の追い風に
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/
【産経社説】補選自民2勝 安倍政権の信任といえる
http://www.sankei.co.jp/news/061023/edi001.htm
【日経社説】補選勝利を追い風に懸案に立ち向かえ(10/23)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20061023MS3M2300123102006.html
各紙の社説とも、今回の補選は自民党完勝というよりも民主党完敗とみる論説が目立ちます。
【朝日社説】衆院補選 まずは合格点の安倍首相
小沢代表にとっては、安倍新政権の出ばなをくじき、参院選へ弾みをつけるのに重要な戦いだった。この完敗で「選挙の小沢」のイメージの後退は否めない。
確かに野党・民主党が政府に対峙する明確な争点を国民に提示することにまたしても失敗したという情けない体たらくは自民の勝因に加えてよいでしょう。
選挙責任者の鳩山幹事長自身が敗因について「北朝鮮の核実験が起き、我々の主張した格差問題が十分な争点とならなかった」などと、昨年の衆議院選挙完敗の時となんら変わらぬあいかわらず評論家のような無責任なコメントを出しているありさまなのです。
しかしまた、今回の選挙結果は、政府自民党・安倍新政権にとって有利な追い風が吹いていた勝つべくして勝利した「完勝」であったのも事実でありましょう。
・新政権発足直後の70%前後の高支持率に支えられた「ご祝儀相場」選挙であったこと
・電撃的な中韓歴訪による外交課題の克服や北朝鮮核実験を巡る政府対応に多くの国民が支持を示していること
・自民党の2候補ともいわゆる世襲議員であり選挙基盤が盤石であったこと
冷静に考えて今回の補選は自民党にとり死角はまったくなかった、勝利すべきして勝利した選挙と考えてもいいでしょう。
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しかしこの結果を産経社説タイトルのように「補選自民2勝 安倍政権の信任といえる」かどうかは多少疑問があります。
はたして今回の勝因が、神奈川16区補選で亀井善之・元農相の長男で「弔い合戦」を前面に打ち出して勝利した自民党の亀井善太郎氏曰くの「新しい自民党を有権者が支持していただいたと思っている」という単純なものであったのか、ここは冷静に投票率と得票結果を検証する必要がありそうです。
補選ですから投票率が下がるのは当然だとしても、今回の投票率と得票結果を冷静に検証してみると、実はこれだけの好条件の中の補選にしては、この結果は自民党にとって素直には喜べないシビアで憂鬱な現実が浮き彫りになった選挙結果でもあると思えるのです。
●神奈川16区・大阪9区の過去5回の選挙結果を徹底検証
今回の補選の両選挙区の投票率は、神奈川16区が47・16%、大阪9区が52・15%。ともに昨年の衆院選(神奈川16区は64・77%、大阪9区は67・56%)を大幅に下回りました。
それぞれの小選挙区の今回の補選を含めて過去5回の選挙結果を参考にしつつ、今回の選挙結果を検証してみましょう。
神奈川16区を例に徹底検証してみましょう。
神奈川16区 (相模原市(第14区に属しない区域),厚木市,伊勢原市,愛甲郡,津久井郡)
■2006年補欠選挙得票1 亀井善太郎 自由民主党 新 109,464 当選
2 後藤祐一 民主党 新 80,450
3 笠木隆 日本共産党 新 9,862■2005年選挙得票
1 亀井善之 自由民主党 前 159,268 当選
2 長田英知 民主党 新 87,991
3 檜山千里 日本共産党 新 21,504■2003年選挙得票
1 亀井善之 自由民主党 前 125,067 当選
2 長田英知 民主党 新 82,967
3 桧山千里 日本共産党 新 17,877■2000年選挙得票
1 亀井善之 自由民主党 前 99,966 当選
2 山条隆史 民主党 新 53,262
3 酒井邦男 日本共産党 新 21,562
4 小泉晨一 自由連合 元 16,911■1996年選挙得票
1 亀井善之 自由民主党 前 88325 当選
2 小泉晨一 自由連合 前 26799
3 青井功 日本共産党 新 21264
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1251/kanagawa.html
まず神奈川16区ですがごらんの通り、過去5回の選挙ではいずれも自民党候補が圧勝してきた実は神奈川でも有数の自民党地盤の強い選挙区であります。
小泉旋風が巻き起こった昨年の総選挙の得票と比較すると、自民候補は159,268票から109,464票に−50000票、対して民主党候補は87,991票から80,450票に−7500票、票を落としています。
今回の選挙結果で気になるのは、自民候補と民主候補の差が2万9千票あまりにまでせまった点であります。
前回の小泉ブームで自民候補に投票した選挙民の多くが投票率の下がった今回は投票にいかなかったことが窺える数値ではありますが、それだけではなくこの結果が意味することは自民党にとり深刻なものです。
冷静に分析すればどんなに有利な選挙でもこの小選挙区において自民党は公明党の協力抜きには単独では当選を勝ち得ないだろうという結果なのだからであります。
選管の発表によれば、神奈川16区は10月9日現在の有権者数は42万7997人であります。
また過去の比例代表区の投票動向からこの地区の現在の潜在的公明党支持者は4万〜4万5千票と推測できます。
今回の公明党支持者の投票率が何%であるのか数字は出ていませんが、仮に投票率どおり47%前後の投票を推薦候補の自民候補者に投票したと仮定すると、自民候補者の得票総数109,464票のうち約2万〜2万2500票が公明党支持者によるものと推測できます。
実は投票率が低くなると組織活動力の高い公明党票の割合が高くなるのが普通なのですが、少なく見積もっても上記のように、2万票以上の公明党支持者の票が自民党候補者に動いたとみてよいでしょう。
得票差と公明支持者票を考えれば、もし公明党の選挙協力がなく公明党が自主投票になっていた場合、選挙結果は全く余談の許さないものになっていたでしょう。
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ちなみに、神奈川16区よりも自民党の選挙基盤が弱い大阪9区(ちなみに9日現在の有権者数は42万9319人であり、公明党支持者はやはり4万〜4万5千票と推測できます)では、公明党の協力なしには民主党候補には勝てないことがよりはっきり数値として確認できます。
大阪9区の今回の得票差は神奈川16区の2万9千票よりも少ない1万9千票なのであります。
大阪9区 (池田市,茨木市,箕面市,豊能郡)
■2006年補欠選挙得票1 原田憲治 自由民主党 新 111,226 当選
2 大谷信盛 民主党 元 92,424
3 藤木邦顕 日本共産党 新 17,774■2005年選挙得票
1 西田猛 自由民主党 前 142,243 当選
2 大谷信盛 民主党 前 111,809
3 榎並憲治 日本共産党 新 27,347■2003年選挙得票
1 大谷信盛 民主党 前 97,572 当選
2 西田猛 自由民主党 元 93,662 比例区当選
3 藤木邦顕 日本共産党 新 21,491
4 永田義和 無所属 新 10,678
5 中北龍太郎 社会民主党 新 9,705■2000年選挙得票
1 大谷信盛 民主党 新 82,563 当選
2 西田猛 保守党 前 65,469
3 藤木邦顕 日本共産党 新 38,262
4 木本保平 無所属 新 23,071
5 松下陽一 無所属 新 8,619
6 和田敏 自由連合 新 8,039■1996年選挙得票
1 西田猛 新進党 新 72267 当選
2 原田憲 自由民主党 前 59817
3 小林ひとみ 日本共産党 新 43316
4 大谷信盛 民主党 新 34177
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1251/osaka.html
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●衆院補選結果は本当に自民「完勝」を意味するのか?〜あらためて我々国民に見せつけた小選挙区候補者の当落の命運を握るのは公明党支持層である事実
検証したとおりメディア各紙は「「北の核」安倍自民の追い風に」(【毎日社説】)として、今回の補選の結果が「安倍政権の信任」(【産経社説】)と評価しております。
しかしながら冷静に得票結果を検証してみると、楽勝ムードの中で一部自民党支持層の投票回避行動はありながらも、今回の自民候補と民主候補の得票差と各小選挙区の公明支持基礎票を冷静に比較・検討して浮かび上がるのは、各小選挙区の公明支持票がなければ実は自民党支持層単独では当選におぼつかないだろう構図であります。
安倍新政権にとり、曲がりなりにも高支持率に支えられ、外交姿勢も高く評価され、発足直後のご祝儀相場、北の核実験という、これだけの「追い風」が吹きながら、この構図が浮き彫りになったことは、長期低落傾向にはどめが掛かっていない、自民党支持層の液状化が深化していると考えたとき、これは深刻な事態なのかもしれません。
このように考えると今回の自民2候補の当選を受けての安倍首相の談話が意味深長なのであります。
安倍首相は22日夜、自民2候補の当選を受けて自民党の中川幹事長に電話し、「自公連立政権に国民から大きな力を与えていただいた。国民に公約した政策の実現に全力を尽くす」と伝えた。(上述の読売記事より)
確かに「自公連立政権に国民から大きな力を与えていただいた」のでありましょう。
より正確には「(もはや自民党政権は単独では成立せず)自公連立政権に(主に公明党支持者を中心とする)国民から大きな力を与えていただいた」のでありましょう。
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今回の選挙結果は、小選挙区自民党候補者の当落の命運を分けるのは公明党であることをあらためて我々国民に見せつけたのであります。
現在の自民党はもはや公明党抜きに選挙は戦えないのでしょうか?
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今回の補選で本当に「完勝」したのは実は自民党ではないのかも知れません。
(木走まさみず)