木走日記

場末の時事評論

「参院小沢劇場」「第一幕」が始まった〜はたして聴衆(国民)に支持されるのか?

 今日の日経記事(31日)から。

米、首相の指導力低下懸念・自民と民主の調整注視

 ブッシュ米政権は参院選での自民党大敗を受け、安倍晋三首相の政権運営を注意深く見守る方針だ。インド洋で海上自衛隊が米艦船などに給油支援する根拠となるテロ対策特別措置法が11月1日で期限切れとなるため、国会情勢を慎重に見極める構えだ。

 米政府は、集団的自衛権行使やミサイル防衛強化に積極的な首相の姿勢を好意的に受け止めてきた。それだけに選挙結果が政策決定に与える影響には関心を払わざるを得ない。とりわけ民主党自衛隊撤退を掲げるイラク問題で、自民、民主両党の調整の行方を注視する。(07:02)

http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070731AT3S3000R30072007.html

 「ブッシュ米政権は参院選での自民党大敗を受け、安倍晋三首相の政権運営を注意深く見守る方針」だそうであります。

 まずは、「テロ対策特別措置法が11月1日で期限切れとなるため、国会情勢を慎重に見極める」構えであります。

 民主党が支配した参議院で、はたして民主党は国政の混乱を避け「大人の政治」を行うのか、それともあくまでも解散総選挙を目指し、与党案をことごとく反対に回るのか、注目の集まるところなのであります。

 その意味でこの参院での小沢民主党の振る舞いを「参院小沢劇場」と喩えれば、この秋の臨時国会の「第一幕」は、時間切れでせっぱ詰まっている「テロ特措法」の延長問題であります。

 この「テロ特措法」の延長問題で、小沢民主が従来どおり反対で押し通すのか、参院第一党として与党と協議・協力する姿勢を打ち出すのか、この「第一幕」の出来で、これから始まる一連の「参院小沢劇場」が国民に取り「悲劇」か「喜劇」か、はたまた「サスペンス」か「ホラー」(苦笑)か、「名作」なのか「B級」なのか、占うことができることでしょう。

 早速ですが、本日(31日)付けの読売社説は小沢民主を強く牽制しています。

衆参ねじれ 必要な政策の推進が大事だ(7月31日付・読売社説)

 (前略)

 ◆試金石はテロ特措法◆

 安倍首相は、「民主党とよく話し、耳を傾ける点は耳を傾けねばならない」としている。参院第1党として参院運営の主導権を握ることになる民主党鳩山幹事長は、「参院で何でも反対という態度を取るべきではない。大人の政治を行うべきだ」と言う。

 いずれも、責任政党として、当然の姿勢である。

 だが、民主党の場合、そうした態度を貫けるのかどうか、懸念もある。

 試金石は、11月1日に期限が切れるテロ対策特別措置法の延長問題だ。秋の臨時国会の最大の焦点になる。

 アフガニスタンで対テロ作戦に当たる米英軍などへの支援の一環として、インド洋で燃料補給などの活動をしている海上自衛隊艦船の派遣継続は、悪化している現地情勢を見ても、今、打ち切ることは出来ない。

 派遣を中止すれば、テロに対する国際協力活動から脱落したと見なされ、国際社会の信頼を失う恐れがある。

 だが、民主党はテロ特措法の過去3度の延長に、ことごとく反対してきた。これまでは、参院で与党多数の下で、延長の改正テロ特措法が成立したが、今度はそうはいかない。

 参院で否決しても、衆院で3分の2以上の多数で再可決すれば成立するが、成立までに時間を要する。日本国内での延長手続きが混乱すれば、それ自体が、国際社会に誤解を与えかねない。それでも「反対」の態度を取るのかどうか。

 民主党は、政権交代の実現へ、安倍政権を追い詰め、衆院解散・総選挙に追い込むとしている。そのためには、単独で参院過半数議席がない民主党としては、政府提出法案の処理などで、共産党社民党などとの共闘が不可欠だ。

 民主党は、共産党社民党の立場、主張に配慮せざるを得まい。そうなれば野党共闘が足かせとなって、「何でも反対」ではない「大人の政治」をするのが難しくなるのではないか。

 (後略)

(2007年7月31日10時50分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070731ig93.htm

 海上自衛隊艦船の派遣継続は、悪化している現地情勢を見ても、今、打ち切ることは出来ない」とし、「日本国内での延長手続きが混乱すれば、それ自体が、国際社会に誤解を与えかねない」と読売社説は強調いたします。

 民主党の場合、そうした態度を貫けるのか」小沢民主の出方を強く牽制し、「大人の政治」を求める読売社説なのであります。

 ・・・



小沢一郎民主党代表VS小池百合子防衛相〜「(これまで)反対したのに今度賛成というわけがない」「責任ある政党としての結論ではないのではないか」

 小池百合子防衛相がまずテロ特措法延長で民主に協力要請いたします。

 昨日(30日)の産経記事から。

防衛相、テロ特措法延長で民主に協力要請

 小池百合子防衛相は30日、参院選で自民、公明両党が過半数割れしたことを受け、11月1日で期限が切れるテロ対策特別措置法の延長に民主党の協力を求めていく考えを示した。防衛省内で記者団に語った。

 谷内正太郎外務事務次官も会見で「安倍政権の下で進めてきた政策を大きく転換しなければならないとは思っていない。基本的な路線は続けていく」と述べ、引き続き延長に向け努力する考えを強調した。

 テロ特措法はインド洋での米艦船などに対する海上自衛隊の給油活動の根拠法だが、民主、共産、社民各党は反対の構え。小池氏は「参院でマジョリティーを占めるようになった民主党テロとの戦いから抜けるという判断をするとは思わない」とけん制した。

 一方、谷内氏は対北朝鮮外交について「対話と圧力の姿勢で冷静に対応しつつ核、ミサイル、拉致問題の解決に真剣に取り組む」と強調した。

(2007/07/30 19:53)
http://www.sankei.co.jp/seiji/seikyoku/070730/skk070730003.htm

 小池氏は参院でマジョリティーを占めるようになった民主党テロとの戦いから抜けるという判断をするとは思わない」と牽制いたします。

 これに対し本日午前、民主党小沢一郎代表は立場を記者団に明言いたします。

 本日(31日)の日経電子版速報記事から。

民主・小沢代表、テロ特措法の延長に反対

 民主党小沢一郎代表は31日午前、参院選後初の常任幹事会であいさつし「第1段階の目標は達成したが、本当の勝負はこれからだ」と早期の衆院解散を目指し、政権交代に向けて結束を呼びかけた。終了後、政府が重要課題とするテロ対策特別措置法の延長について「(これまで)反対したのに今度賛成というわけがない」と反対の立場を記者団に明言した。

 小沢氏は選挙結果について「安倍内閣への不信任の表明だ。国政選挙で過半数を失って内閣がそのままとどまるというのは常識では考えられない。常識に反した行動がいつまでも続けられると思わない」と述べ、安倍内閣の退陣を強く求めた。

 テロ特措法は2001年9月の米同時テロを受け、テロ掃討作戦に当たる米軍などを支援するために制定、11月1日に期限を迎える。民主党は過去三度の延長にも反対してきた。(13:42)
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070731AT3S3100Q31072007.html

 「(これまで)反対したのに今度賛成というわけがない」と強気な態度で与党からの協力要請を突っぱねます。

 小池百合子防衛相は即座に小沢民主のこの反応を批判します。

 時事通信速報記事から。

2007/07/31-12:57 民主のテロ特措法反対を批判=防衛相

 小池百合子防衛相は31日午前の閣議後の記者会見で、民主党がテロ対策特別措置法の期限延長に反対する方針であることについて「テロとの戦いからわが国が引き下がることは、責任ある政党としての結論ではないのではないか」と批判した。

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2007073100488

 テロとの戦いからわが国が引き下がることは、責任ある政党としての結論ではないのではないか」

 ・・・

 うーん、早くも「参院小沢劇場」の「第一幕」が始まったようであります。



●はたして聴衆(国民)には支持されるのか?

 過去の「テロ特措法」に対する民主党の公式見解を確認しておきましょう。

 昨年6月の松本剛明民主党政策調査会長の公式談話より。

テロ特措法の一部改正案の衆議院通過について(談話)

2006年10月19日

民主党政策調査会長
松本 剛明

 本日、テロ特措法の一部改正案が、民主党の指摘した数々の問題点を残したまま、昨年に引き続き衆議院を通過した。

 国際社会が一致団結してテロ撲滅に取り組むことの重要性は十分認識しているが、その実績・成果に対する評価が不可欠であったにもかかわらず、今回もまた、政府からは、活動状況や具体的成果についての詳細な説明がなかったことは極めて問題である。

 テロ根絶とアフガニスタンの安定と復興のためには、武力による取り組みだけでなく、元兵士の武装解除、教育・職業訓練、麻薬撲滅対策、対テロ情報収集への協力、司法協力、金融制度支援などの広範な対策が重要である。現在のアフガニスタン情勢を見ても、タリバンは、部族間対立の激化に乗じて軍事的な巻き返しを図っている状態である。この5年間の海上阻止活動が、アフガニスタン復興にどのように寄与し、テロの根絶にどの程度貢献したかについての詳細な総括もないまま、ただ漫然と法律を延長する政府に対して、不信の念を抱かざるを得ない。

 北朝鮮弾道ミサイル発射に続き、地下核実験宣言に対し、国連安保理決議が採択され、わが国をとり巻く安全保障環境が大きく変化しているなかで、海上自衛隊の艦艇をこのままインド洋に派遣したままでいいのかの検証も必要である。

 民主党は改めて、この活動の「出口戦略」も含め自衛隊の海外活動にかかるシビリアン・コントロールの徹底、武器使用基準の問題、国際貢献のあり方など、原則を定め、本質的な議論を政府に求めるものである。

以 上
http://www.dpj.or.jp/news/dpjnews.cgi?indication=dp&num=9108

 この談話でも強調されていますが、実は民主党は「テロ特措法」に全面的な完全な反対を主張しているわけでは有りません。

 「国際社会が一致団結してテロ撲滅に取り組むことの重要性は十分認識している」が、政府案では「その実績・成果に対する評価が不可欠であったにもかかわらず、今回もまた、政府からは、活動状況や具体的成果についての詳細な説明がなかった」ことが「極めて問題」であるとしているのです。

 この歯切れの悪い談話ですが、実は、安全保障政策で自民に近い前原前代表ら民主党内右派が「テロ特措法」延長に原則賛成であること、しかし党内左派は社民・共産と同様、問答無用で延長絶対反対であること、この党内の二分されている意見の双方の顔を立てた折衷案なのであります。

 ・・・

 さて、「参院小沢劇場」の「第一幕」、この「テロ特措法」の延長問題でありますが、これは見物なのであります。

 本日の記者会見で小沢さんは、「(これまで)反対したのに今度賛成というわけがない」と大見得を切っていますが、ことはそう単純ではありません。

 ただただ今までどおり反対を押し切ろうとすれば、前原前代表をはじめとする党内右派が納まりません。

 今までは少数野党(実際、法案は与党多数で採決されてきた)の反対意見として上記のような折衷案でも安心して妥協してきた党内右派ですが、今度は民主が反対したら廃案になってしまい現実に自衛隊を戻すことになってしまうわけですから、今までのような妥協はできないからです。

 では、上記民主案に与党が擦り寄り「実績・成果に対する評価」制度を設け国会の場でその報告と検証の場を設けることで民主案に同調した場合、小沢民主は「テロ特措法」の延長問題で「おとなの政治」として延長に協力するのでしょうか。

 この場合は党内左派と野党協力相手の社民・共産がおさまらないのであります。

 参議院第一党と言っても民主単独で過半数には至りません、今後の参議院を野党優位に運営していくためには、社民・共産との協力関係は必須であります。

 つまり、小沢民主にとっても「参院小沢劇場」の「第一幕」からいきなり内紛がらみの「修羅場」が展開してしまう可能性を有しているわけであります。

 ・・・

 党内右派の意思を無視するか、党内左派・社民・共産を切り捨てるのか。

 「おとなの政治」として与党に強調するのか、あくまで「解散総選挙」を目指し与党案をつぶしに掛かるのか?

 この「テロ特措法」の延長問題で、小沢民主が従来どおり反対で押し通すのか、参院第一党として与党と協議・協力する姿勢を打ち出すのか、この「第一幕」の出来で、これから始まる一連の「参院小沢劇場」が国民に取り「悲劇」か「喜劇」か、はたまた「サスペンス」か「ホラー」(苦笑)か、「名作」なのか「B級」なのか、占うことができることでしょう。

 はたして聴衆(国民)には支持されるのか?



(木走まさみず)