木走日記

場末の時事評論

「大きな政府」実現への歴史的なパラダイム変化の足を引っ張る「小さな政府」の赤字失策

●「大きな政府」に回帰をはかる歴史的なパラダイム変化が起きる

 日経電子版記事から。

米国株、急落 ダウ443ドル安、景気不安で9000ドル割れ

【NQNニューヨーク=横内理恵】6日の米株式相場は連日の急落。ダウ工業株30種平均は前日比443ドル48セント安の8695ドル79セントと、約1週間ぶりに9000ドルを割り込んだ。ハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数は同72.94ポイント安の1608.70で終えた。米景気不安からの売りが続いた。前日夕にシスコシステムズが発表した慎重な見通しを嫌気した売りもあった。

http://www.nikkei.co.jp/news/market/20081107c8ASB7IAA05071108.html

 オバマ大統領勝利に市場が冷や水を浴びせる図式となったということでしょうか、景気先行き不安からの売りが続き約1週間ぶりに9000ドルを割り込んでしまいました。

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 前回のエントリーでも指摘しましたが、オバマ氏の勝利により、アメリカの経済政策として幅を利かせてきたネオリベラリズム、「小さな政府」による新自由主義的市場開放政策が終焉を迎えることは間違いありません。

 ネオリベラリズムから、ルーズベルト政権を源流に戦後主流となった「大きな政府」に回帰をはかる歴史的なパラダイム変化が起きることでしょう。

 かつてニューディール政策を掲げ当選した民主党ルーズベルト大統領は、大型公共投資など政府の積極介入によって米国を回復させたわけですが、オバマ氏の選挙綱領にも、1500億ドルの代替エネルギー開発投資や、600億ドルのインフラ投資による雇用創出などニューディールを意識した公約が並んでいます。

 またオバマ氏は公共投資以外にも、中・低所得者向け減税や国民皆保険の実現など弱者に手厚い政策を掲げ、ウォール街の金融規制の強化も主張しています。

 彼の政策は全て「大きな政府」を目指していると言っても過言ありません。

 世界恐慌を阻止しアメリカ経済を復活させることが彼にできるのでしょうか。

 そもそも彼は公共事業や減税などの選挙公約を実現できるのでしょうか。

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●「小さな政府」がもたらした結果が、「大きな政府」実現の足をひっぱる。

 彼の前に立ちはだかるのはアメリカが抱え込んでいる財政、貿易収支、家計、三つ子の巨大赤字であります。

 加えてブッシュ政権の経済失策による負の遺産が彼の政策実現の手足を縛りかねないのです。

 2009年のアメリカの財政赤字は単年度としては史上初めて1兆ドル(約100兆円)を超える見込みであり、財政赤字アメリカの国内総生産(GDP)の7%と、過去最悪になります。

 これでは連邦政府の累積財政赤字も10兆ドル(1000兆円)にとどかんとすることが予測されています。

 巨額の財政赤字に苦しむ日本もよその国のことを偉そうに語る資格はありませんが、しかし今のアメリカの財政赤字は常軌を逸している深刻な数字になっています。

 さらに今後、金融機関への公的資金注入に加え、自動車産業の救済や、追加景気対策で大盤振る舞いを続ければ、予測を超えて財政赤字はさらに膨張する可能性だって高いでしょう。

 現時点でも毎月160億ドル(約1兆6,000億円)という巨費が消えているイラクアフガニスタン駐留費用も含めてこれらの赤字はブッシュ政権の失策のツケも含まれているわけでありますが、それにしてもこのような厳しい財政事情で弱者救済政策にどこまで予算を割くことが可能なのか、はなはだ心許ないです。

 皮肉なことに「小さな政府」を目指していたブッシュ政権のもたらした財政赤字が、「大きな政府」実現の足かせになっているのです。

 このような危機的な財政事情のもとで、オバマ氏の公約を実現するためにさらなる財政赤字を膨らませれば、金利上昇などドルの脆弱性の懸念も高まることでしょう。

 弱ったアメリカ経済を回復させるためにも強いドルのためにもそのような金利上昇などのリスクは避けなければなりませんが、強いドルを維持すべき肝心の貿易収支がやはり巨額の赤字で常態化しているのも、オバマ氏に取りやっかいな問題であります。

 ネオリベラリズムの元で押し進められた企業のグローバル化は、結果としてアメリカの貿易収支の体質改善にはつながらなかったのです。

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 さらにアメリカの一般家庭の赤字体質も深刻です。

 アメリカの7〜9月期のGDPは全体の7割を占める個人消費マイナスに転じました。
 もともと家計貯蓄率が低く借金が多いのに、今や新たなローンも組めない、消費する現金もない状態です、個人消費を立て直すのは並大抵のことではありません。

 これも、サブプライムローン問題に代表される金融自由化の名の下に金融商品化に何ら規制せずに放置してきたネオリベラリズム的政策が借金体質に拍車を掛けたことは否定できません。

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 オバマ氏の勝利により、アメリカの経済政策として幅を利かせてきたネオリベラリズム、「小さな政府」による新自由主義的市場開放政策が終焉を迎えることは間違いありません。

 ネオリベラリズムから、ルーズベルト政権を源流に戦後主流となった「大きな政府」に回帰をはかる歴史的なパラダイム変化が起きることでしょう。

 しかし、公共事業や雇用政策などの「大きな政府」実現を目指すオバマ氏の前に立ちはだかるのは、アメリカが抱え込んでいるその一部は「小さな政府」が育ての親ともいえる三つ子の巨大赤字であります。

 財政、貿易収支、家計、どれをとっても今のアメリカには新たな政策を打ち出せるような金がないのです。

 オバマ氏が「大きな政府」を目指すためには、さらなる借金を覚悟しなければなりません。

 結果、さらなる金利上昇などドルの脆弱性の懸念が高まることでしょう。

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 こと経済政策に関しては、就任早々大きな試練が待ち受けています。

 オバマ氏の手腕がためされましょう。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
■[国際]米大統領オバマ氏勝利〜真の敗北者は金融危機を招いたネオリベラリズム
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20081105
■[国際]小浜市には悪いがオバマ大統領だと日本には経済的には悪影響がでる可能性があるというある共和党支持者の意見
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20080305



<参考記事・サイト>
アメリカの借金約3000兆円!? - るいネット
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=101718
イラク戦争:数字で見る最新情勢
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2008/03/post_545b.html
【「変革」のアメリカ】(中)オバマノミクスと「パラダイム変化」
http://sankei.jp.msn.com/world/america/081106/amr0811062001032-n1.htm