木走日記

場末の時事評論

国籍法改正問題:DNA鑑定による父子関係の科学的確認を義務化すべきではないか

●日本の国籍法の問題点

 世界人権宣言15条では、以下のように規定されています。

第十五条
1  すべて人は、国籍をもつ権利を有する。
2  何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_002.html

 現在の日本の国籍法は、イスラエル、スイスなどとともに血統主義をとっております。
 父または母のいずれかがその国の市民権(国籍)を得ていることが、子供がその国の国籍を取得できるかどうかの要件とされるわけです。

 一方、世界的にはアメリカやフランスが採用している出生地主義が主流であり、これは領土内で生まれた子供は国籍を得るとする考え方であります。

国籍法
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

国籍法(こくせきほう、Nationality law)とは、その国の国籍および市民権に関して、その付与、取得、喪失を定義している法。制定法、慣習、判例などの形で存在する。国籍法は移民受入れが国の基礎となった米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのような国々での移民法、また難民法、亡命法との関連でもしばしば議論され、研究されている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E7%B1%8D%E6%B3%95

 血統主義をとる現在の国籍法では、日本人の母と外国人の父から生まれた子どもは無条件で日本国籍を取得できます。

 一方、日本人の父と外国人の母から生まれた子どもは、両親が結婚していれば日本国籍を取得できます。しかし、結婚していない場合は、生まれる前に認知しなければ、日本国籍が取得できません。

 この差は、日本人の母親から産まれる子が医学的に母親の血統であることが自明なのに対し、外国人の母親から産まれる子が医学的に一概に日本人の父親の血統であると証明することが難しい、という理由から生まれたようです。

 ただ、この縛りは、結婚をしてはいないが生後日本人の父親が認知したケースにおいて、子供が日本国籍を取得できないというケースを生みました。

 日本における国籍法は戦後まもない昭和25年に公布・施行でありますから、DNA鑑定技術もない時代背景を考慮すると仕方なかったようです。

 また当時外国人との間に産まれる子の問題は、進駐軍と日本人女性の問題が大半であったことも、今日まであまりこの問題が表出しなかったことに影響あるのかもしれません。

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●国籍法改正案が衆院通過 最高裁判決うけ全会一致〜「しんぶん赤旗」記事

 国籍法改正案衆院通過を肯定的にとらえた19日付け「しんぶん赤旗」記事から。

2008年11月19日(水)「しんぶん赤旗

国籍法改正案が衆院通過
最高裁判決うけ全会一致

 国籍法改正案が十八日の衆院本会議で、全会一致で可決、参院に送付されました。

 同改正案は、外国人の母から生まれた後に日本人の父に認知された子どもが、両親が結婚していなくても日本国籍を取得できるようにするもので、日本共産党も賛成しました。

 現在の国籍法では、日本人の母と外国人の父から生まれた子どもは無条件で日本国籍を取得できます。

 日本人の父と外国人の母から生まれた子どもは、両親が結婚していれば日本国籍を取得できます。しかし、結婚していない場合は、生まれる前に認知しなければ、日本国籍が取得できません。

 日本人の父の子どもでありながら、日本国籍を取得できない子どもたちが、戸籍や住民票、健康保険などもなく、就学もできない事態が起きています。

 このような状況のなか、フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれた子どもたち十人が日本国籍を求めた裁判で、最高裁は六月四日、両親の結婚を国籍取得の要件とした国籍法の規定は「法の下の平等」を定めた憲法に違反するとし、原告全員に日本国籍を認めました。

 この違憲判決を受け、同法改正案は、結婚を国籍取得の要件とする規定を撤廃し、父親が認知すれば日本国籍が取得できるようにします。改正案は部分的ですが、一歩前進の内容となっています。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-11-19/2008111902_04_0.html

 最高裁違憲判決を受け、結婚を国籍取得の要件とする規定を撤廃し、父親が認知すれば日本国籍が取得できるようになったわけです。

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●国籍法改正 不正排除へもっと議論を〜産経社説

 この問題ですが、興味深いことに主要紙で社説に取り上げているのは産経一紙のみであり、朝日・読売・毎日・日経は衆院通過の事実報道以外は意見記事を起こさず、現在まで無視を決め込んでます。

 20日付け産経新聞社説から。

【主張】国籍法改正 不正排除へもっと議論を
2008.11.20 03:03

 最高裁が国籍取得に関する「父母の結婚」の要件は違憲だと判断したことを受けた国籍法改正案が、18日に衆院を通過した。未婚の日本人の父と外国人の母の間に生まれ、出生後に認知された子の国籍取得要件から「婚姻」を外す内容だ。

 国籍は就職など社会生活上の重要な意味を持つだけでなく、選挙権など国民の基本的な権利にもかかわる。

 しかし、改正案には不正な国籍取得を排除できるのかといった懸念が残っており、適切な歯止めを求める動きが党派を超えてみられる。違憲判断に行政府や立法府が対応するのは当然としても、問題点を生煮えにしたまま成立を急いでは禍根を残しかねない。参院でさらに問題点を議論すべきだ。

 現行法は、未婚の日本人男性と外国人女性の間に生まれた子が出生前に認知されなかった場合、国籍取得には出生後の認知と父母の婚姻を要件としている。6月の最高裁判決でこの婚姻要件が違憲と判断されたことから、改正案は両親が結婚していなくても出生後に父親が認知すれば、届け出により国籍が取れるようにした。

 衆院法務委員会の審議では、子に日本国籍を取得させ、自分も合法的滞在の権利を得たい外国人女性を対象に、不正認知の斡旋(あっせん)ビジネスが横行しないかといった懸念が示された。超党派議員連盟も作られ、「改正案は偽装認知による国籍売買を招くおそれがある」と、慎重審議を求めていた。

 自民、民主両党は今国会成立で合意し、衆院通過は全会一致とされたにもかかわらず、本会議の採決時に抗議の意思を示す議員が出たのはこのためだろう。

 不正認知にはブローカーや犯罪組織の関与も指摘され、虚偽届け出には「1年以下の懲役または20万円以下の罰金」という罰則が新設されたものの、議連などは抑止力が不十分だと主張している。

 衆院法務委の採決では、DNA鑑定を念頭に父子関係の科学的確認方法導入の検討や、虚偽届け出への制裁の実効性を高めることを求める付帯決議が行われた。父親による扶養や同居などの実態を考慮すべきだとの指摘もある。

 日本国籍が取れないため、不合理な差別的扱いを受けている人の救済は急務だ。不正排除の仕組みが彼らに過大な負担となってもいけない。さらなる論議で望ましいルールを見いだすべきだ。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/081120/plc0811200323003-n1.htm

 産経社説は「不正排除へもっと議論を」と訴えています。

 社説が指摘している「子に日本国籍を取得させ、自分も合法的滞在の権利を得たい外国人女性を対象に、不正認知の斡旋(あっせん)ビジネスが横行しないかといった懸念」ですが、斡旋ビジネスの横行はこれは十分に検討すべき事項だと私も思います。

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血統主義に基づくならば、DNA鑑定等の父子関係の科学的確認方法導入をすべき

 私は8年前に中国人オーバーステイの問題で東京の上野・御徒町界隈を取材した経験がありますが、当時すでに、中国から日本に来て夜のネオン街で働く中国人女性の多くが、高額のお金を中国人ブローカーに払い、日本人不労者などと偽装結婚手続きをして来日、実際は同居もせず、せっせと夜働いて中国にいる(本当の)家族へ仕送りしていました。

 彼女たちの中には、来日後、ブローカーと揉めて、偽装結婚相手との婚姻関係を破棄(離婚)されてしまい、結婚ビザが無効になってしまうケースも少なくありませんでした。
 そのような場合、不法滞在者としてオーバーステイするか、あらたに日本人を見つけて再婚するか、彼女たちの選択肢は限られていました。

 その中で、日本人の子供をはらみ父親として認知させる方法もありましたが、上野当たりで飲み歩く客の大半は妻帯者であり、中には離婚して中国人と再婚する者もいましたが、家庭を守るために認知すら拒むものが大半でありましたので、この方法は当時の彼女たちにもリスクをともなうものでした。

 しかし、結婚という縛りが解ければ、これは間違いなく、不正斡旋ビジネスが起こることになりましょう。

 客の子供を作り日本人不労者などから金で認知してもらえれば簡単に日本国籍取得できてしまうわけです。

 ブローカーに戸籍まで金で売る男達が、何も戸籍を汚さない他人の子供の認知をお金目的ですることは、十分にあり得ます。

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 産経新聞の結語。

 日本国籍が取れないため、不合理な差別的扱いを受けている人の救済は急務だ。不正排除の仕組みが彼らに過大な負担となってもいけない。さらなる論議で望ましいルールを見いだすべきだ。

 たしかに赤旗記事の10人のこども達も含め、「日本国籍が取れないため、不合理な差別的扱いを受けている人の救済は急務」であります。

 赤旗記事にある「フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれた子どもたち十人」も、報道のとおり、私が取材した中国人女性達と同様その母親達の多くは夜の店で働いていました、そして客として来店していた既婚の日本人男性との間で生まれたのがこのこども達であります。

 しかしながら、ただ単純に結婚という縛りを解いてしまうと、この子達は救われますが、不正斡旋ビジネスの横行などの悪しき副作用を招くのは必定であります、日本の国籍法の血統主義は守れない事態を招きかねません。

 ならばどうすればいいのでしょうか。

 私は、この問題の解決には、イデオロギーではなく、あくまでも科学的方法を確立すべきだと考えます。

 血統主義に基づくならば、DNA鑑定等の父子関係の科学的確認方法導入をせめてすべきだと思います。

 現在のDNA鑑定の100%に近い鑑定精度を考えれば、これで多くの「日本国籍が取れないため、不合理な差別的扱いを受けている」こども達が救われることでしょう。

 さらに、不正斡旋ビジネスの横行に対し強力な抑止効果を発揮すると思われます。

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 もちろん、法的整備をする前に、国民的議論の中で、望ましいルールを見いだすべきなのは当然であります、今の国会で性急に議決してしまうことは、不正排除などもっと議論されるべき問題点が多く積み残されていて危険だと思います。

 不幸な無国籍のこども達を救済するために国籍法改正を急ぐならば、不正排除のためにもDNA鑑定による父子関係の科学的確認を義務化すべきではないでしょうか。



(木走まさみず)