木走日記

場末の時事評論

普天間問題で強力なステークホルダーを召還してしまった鳩山魔術政策

 29日付け朝日新聞電子版記事から。

普天間移設、外相「複数案で対米交渉」 首相と食い違い

2010年3月29日11時38分

 【ワシントン=鶴岡正寛】訪米した岡田克也外相は28日午後(日本時間29日午前)、米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)移設問題で、鳩山由紀夫首相が政府案を3月中にまとめるとしていることについて、「閣僚間では(3月中とは)話していない」と述べた。ワシントン市内で記者団に語った。

 岡田氏は米国との調整を踏まえたうえでまとめるのが政府案とし、決着期限の5月末までに決めるとの考えを示した。

 首相は26日の記者会見で、「政府案を一つにまとめなければ、交渉というものはやるわけにはいかない」と発言したが、岡田氏は対米交渉前に政府案を一つに絞ることについても「あり得ないことだ」と食い違いを見せた。岡田氏は「早く一つに絞ると、米国、地元(沖縄)との関係がうまくいかなくなった段階で(案は)なくなってしまう」と語った。

 また、米側が「最善」としている同県名護市辺野古に移す現行計画が選択肢として残っているのかどうかについては「ゼロベースだ。すべての可能性はある」と述べ、排除はしなかった。

 岡田氏は29日にゲーツ国防長官、クリントン国務長官と会談する予定。普天間移設問題も取り上げられると見られているが、実務者レベルで意見交換する必要があることから、岡田氏は「(閣僚間では)中身にわたって議論することにはならない。検討状況を話すだけで、それ以上にはならない」との見通しも示した。

http://www.asahi.com/seikenkotai2009/TKY201003290128.html

 3月末だというのに、いまだ政府方針すら固まらず首相と関連閣僚間で齟齬があるとは、いったいこの普天間問題における鳩山政権の問題解決能力はどうなっているのでしょうか。

 ここへ来て政府は、県内移設を軸に、一部基地機能の県外移転を組み合わせた案を検討しているようです。

 具体的には、米軍キャンプ・シュワブ陸上部(同県名護市)や米軍ホワイトビーチ(同県うるま市)沖合への移設に加え、訓練などを徳之島(鹿児島県)をはじめとする沖縄県外に移転する案とされています。

 米軍との同意案を修正しなおかつ県民との「県外移設」の約束を半分守ろうとした姑息なアイディアですが、そんな魔術的政策がとんでもないモノを召還してしまったようです。

 結果的にはまったく真逆の効果しかありません、すなわち基地が残りしかも分散するだけの沖縄県民にとっても、運用上基地の分散だけは強い難色を示してきた米軍にとってもとてものめる案ではなく、これはまったくの愚案であります。

 しかも県外移転候補地がよりによってあの選挙の度に島をあげて大騒ぎしてきた「熱き島民性」を有する徳之島とは、これはもう火に油と言うよりガソリンを蒔くような「眠れる獅子を起こす」行為であります。

 完全に「虎の尾を踏む」行為であります。

 案の定、29日付け南日本新聞電子版記事から。

普天間移設 徳之島で反対集会、「基地いらない」4200人気勢
(2010 03/29 06:30)

 米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の移設先の一つとして、米側に示された政府案に盛り込まれた徳之島で28日、移設反対の郡民大会があった。会場の天城町総合運動公園野球場には、島内外から4200人(主催者発表)が集まり、「基地はいらない」「断固反対」と気勢を上げた。
 島内3町(徳之島、伊仙、天城)の町長と議会、観光協会自然保護団体など55団体でつくる実行委員会の主催。正式な政府案発表前に、住民の意思を示そうと開いた。
 JAや商工会、子育てサークルの代表ら6人が「安心して暮らせない島になる」「子どもたちのためにも美しい島を残さなければならない」などと、次々に移設反対を訴えた。
 来賓の小池百合子衆院議員(自民)は「基地をそっくり徳之島に移すという案も出ていると聞く。一緒に移設に反対していく」と激励。金子万寿夫県議会議長は「県議会も全会一致で反対の決議や意見書を可決、意思を明確にした。県民とともにこの問題に対処していきたい」と呼びかけた。
 「米軍基地、訓練基地の徳之島への移設を断固として反対する」とする決議文と大会スローガンを採択、大久保明伊仙町長を先頭に「がんばろう」と、こぶしを突き上げた。

http://www.373news.com/modules/pickup/index.php?storyid=22997

 選挙のたびに「町長を先頭に「がんばろう」と、こぶしを突き上げ」ることに慣れている徳之島の熱き島民性を民主党政権はリサーチしていなかったのでしょうか、地元選出の徳田先生もブログでお怒りモード全快であります。

2010-03-22 08:01:04
徳之島の島民性

おはようございます。

今日は朝から相当頭に来ています。

普天間基地移設問題について、毎日の様に情報が入ってくるが、

政府内では、公約である「県外移設」を守るために、

鳩山総理周辺の複数の議員が徳之島案を主張している模様。

 (中略)

私たちが振興策などと引き換えに島を売り渡すことは絶対にありえない。
もし、政府が強引に徳之島への移設を決めたとしても、

徳之島の島民性から成田闘争よりも激しい抵抗に遭い、10年、20年経っても基地は出来ないだろう。

徳之島をご存じの方はよくお分かりだと思うが、

闘牛や選挙でも有名な島で、気性が荒く、シマンチュであることに誇りを持ち、

自分の信念を貫き通すためには命懸けで戦い抜くのが徳之島の人たちだ。

ましてや故郷と子どもたちの未来を守るためには、相手が政府であろうが、徹底した抵抗をするに違いない。

 (後略)

衆議院議員 徳田たけし オフィシャルブログ より抜粋
http://ameblo.jp/tokuda-takeshi/entry-10487524626.html

 もし政権が徳之島のこの熱き島民性・政治風土を理解していたならば、よりによってわざわざ移設候補地など選択するなどあり得ないことです、徳之島住民は徳田議員指摘の通り、10年でも20年でも何年でも反対運動を続けることでしょう。

 ・・・

 米軍基地は日本の安全保障上の大局観で捉えれば日米同盟基軸を評価する国民が過半数でありますが、地域住民にとりやっかいな「迷惑施設」の側面があることを考えれば、まして今このタイミングで地域住民の理解が最大の障害となり現出している状況を分析するば、ここで米軍基地を分散させ反対するステークホルダーを増やしてしまうなどのリスクは絶対に回避しなければならないのに、よりによって沖縄県内にも分散させ、挙げ句の果て県外移設候補地には「徳之島」というありえない強力なステークホルダーをご登場願うとは、問題を収束するどころか広げてしまっているわけです。

 いま厳しく問われているのは鳩山首相の問題解決能力です。

 22日付けエントリーで私は問題解決能力を4つに細分化して説明した上で、この普天間問題では「4つの問題解決能力のすべてで鳩山さんは落第点」ではないかと批判しました。

 (前略)

 さて普天間問題に戻りますが、我らが鳩山首相に今日のリーダーに必須であるべき問題解決能力はあるのでしょうか。

 私は実は4つの問題解決能力のすべてで鳩山さんは落第点なのではないかと考えています。

 1.この問題の重大度を正しく認識していない(問題発見能力の欠如)

 2.この問題を正しく分析できていない(問題分析能力の欠如)
 
 3.この問題を正しく解決できていない(問題解決能力の欠如)

 4.それらを迅速に行うリーダーシップが全く示されていない(決断力の欠如)

 (後略)

2010-03-22 普天間問題を手遅れにした鳩山首相の問題解決能力の欠如 より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20100322/1269237364

 ・・・

 マスメディアの社説も鳩山首相の責任と能力をまさに批判しています。

 当該部分を抜粋してご紹介。

【日経社説(26日)】結局は普天間存続なら深刻な失政だ
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE2E6E4E4EBE2E7E2E0E4E2E1E0E2E3E28297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D

 革新系の大田昌秀知事の時代は、移設した基地の固定化を嫌って、浮体工法が検討された。保守系の稲嶺恵一知事は地元への経済効果を考えて埋め立て案をとり、移設した基地に15年の使用期限を設けたいと考えた。現在の仲井真知事の時代に現行の案で日米が合意し、仲井真氏も当時の名護市長も条件付きで、受け入れた。

 しかし昨年9月に鳩山政権が発足し、半年間の迷走の結果、名護市で革新系の基地反対の市長が当選、仲井真知事も県内移設反対に転じた。いずれの案にせよ、地元の反対を押し切って工事を強行する判断は鳩山政権には難しい。

 問題をこじらせた責任者をひとりあげるとすれば、鳩山首相である。首相発言は迷走を続ける。複雑な方程式の解を見つけるのは難しい。見つからなかった場合の責任を首相はどう考えるのだろう。

【毎日社説(27日)】社説:「普天間」検討案 展望見えない県内移設
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100327ddm005070041000c.html

 沖縄県民の県外移設への期待を膨らませたのは、首相自身だ。米政府と移設先地元の合意を前提にした「5月末決着」を繰り返し明言してきたのも首相である。普天間問題の行方は鳩山政権の帰趨(きすう)を決める。問題解決能力、指導力など鳩山氏の首相としての資質が問われている。

【朝日社説(29日)】普天間移設案―負担軽減の実を見せよ
http://www.asahi.com/paper/editorial.html

 いま直ちに県外に移設先を見つけるのが難しいのは、その通りだ。場合によっては、暫定的に一部の負担を県内で引き続き担ってもらうことも、万やむを得ないシナリオとしてはありうるだろう。ただ、それには、負担軽減の具体策に基づく首相自身のよほど誠実で丁寧な説得が要る。

 この問題は、首相のあまりに拙劣な手法や外交感覚の乏しさもあってこじれきってしまった。しかし、安保の負担を沖縄だけでなく国民全体で分かち合おうという提起は間違っていない。

【読売社説(28日)】普天間政府案 鳩山首相に成算はあるのか
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100327-OYT1T00954.htm

自民党政権が米国と合意した案なので、民主党のメンツが立たないという理由で沿岸案を排除した結果、普天間飛行場が現状のまま長期間、固定化されるとしたら、沖縄にとって極めて不幸だ。

 現在の厳しい状況は、昨年の段階から十分予想されていた。まともな戦略も、司令塔もないまま、沖縄県民の県外移設の期待をあおり、問題解決を困難にした責任はひとえに鳩山首相にある。

【産経社説(27日)】普天間移設 辻褄合わせは国益を失う
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100327/plc1003270418001-n1.htm

 何よりも疑問でならないのは、「現行計画はゼロに近くなった」(北沢俊美防衛相)としながら、鳩山首相も主要閣僚も、現行計画を選択しない理由について一度も国民や国会に明確な説明をしていないことだ。
 普天間返還は1996年に日本政府が要望した。地元の声も取り入れながら、10年の歳月をかけてまとまったのが現行計画だ。地元の名護市や沖縄県、米政府の足並みもそろっていた。それにもかかわらず、鳩山首相自らが「県外、国外」に自らこだわって迷走を重ね、決着を先延ばしにしてきた責任は重い。

 ・・・

 まさに「この問題は、首相のあまりに拙劣な手法や外交感覚の乏しさもあってこじれきってしまった」(朝日社説)わけで、「まともな戦略も、司令塔もないまま、沖縄県民の県外移設の期待をあおり、問題解決を困難にした責任はひとえに鳩山首相にある」(読売社説)のであり、「問題解決能力、指導力など鳩山氏の首相としての資質が問われている」(毎日社説)わけであります。

 それなのに鳩山政権は、まさに迷走に継ぐ迷走を繰り返し、基地分散案といういたずらに問題を拡散するだけの愚案にもこだわり、「徳之島」島民という強力なステークホルダーの降臨を招いてしまっているのであります。

 普天間問題で強力なステークホルダーを召還してしまった鳩山魔術政策なのであります。

 「命懸けで戦い抜くのが徳之島の人たち」(徳田議員)なのに、火にガソリンまいてる民主党政権なのであります。

 しかしトラブルシューティングとは真逆なことばかり繰り返すのはこっけいですらあります。



(木走まさみず)