木走日記

場末の時事評論

教科書に載せたい朝日新聞世論調査の見事な誘導テクニック〜「このような憲法に戻ってはならないと思いますか。戻ってよいと思いますか。」


 5月2日付け朝日新聞紙面ですが、憲法改正に関する朝日新聞世論調査の結果が、1面トップ記事となっています。

96条改定し改憲手続き緩和、反対54%賛成38% 朝日新聞社世論調査

 憲法記念日を前に朝日新聞社は全国郵送世論調査を行い、憲法に関する有権者の意識を探った。それによると、憲法96条を変え、改憲の提案に必要な衆参各院の議員の賛成を3分の2以上から過半数に緩める自民党の主張について、反対の54%が賛成の38%を上回った。9条についても「変えない方がよい」が52%で、「…

(後略)

http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201305010673.html

 うーむ、朝日新聞紙面では、1面、3面、16・17面、33面と関連記事で埋め尽くされているわけですが、ようは自民党が主張する96条改定に関し、朝日新聞世論調査によれば反対54%賛成38%と国民の過半数が反対、なおかつ憲法9条改定も反対52%と過半数超えていますよ、とのことであります。

 さてこの朝日新聞世論調査なのですが、メディアリテラシーの教科書に載せれるようなたいへん興味深い事例が含まれていましたので、今回はこれを取り上げたいと思います。

 大新聞の世論調査は問題があると最近批判されることが多いのですが、その要因の一つが、経費節減のために、電話によるRDD方式(乱数番号法、Random Digit Dialing)が多く採用されていることがあります。

 RDD方式は、コンピュータで乱数計算を基に電話番号を発生させて電話をかけ、応答した相手に質問を行う方式で、従来の固定電話を対象として行なわれます。

 当然ながら個別面接調査などと異なり、アルバイトが電話の前でリストから機械的に電話をして、そしてマニュアル通りの質問を繰り返し、集計を取るだけですから、専門の調査員を派遣する面接調査方法よりも、時間と人件費、つまり調査費用が圧倒的に節約できるのですね。

 しかし、RDD方式では固定電話を持っている家庭に限られますので、最近の若年者層中心であろう移動電話番号のみで固定電話を所有していない人達が完全に調査対象から抜け落ちるという重大な問題がかねてより指摘されていますし、また調査期間と時間帯によっては、例えば平日昼間時間で固定電話に応対できる人は専業主婦などかなりの偏りが発生してしまう欠点を抱えています。

 で、今回の朝日新聞世論調査ですが、悪名高い「朝日RDD方式」ではなく「全国の有権者から3千人を選び、郵送法で実施」したとのことです。

■調査方法

 全国の有権者から3千人を選び、郵送法で実施した。
 対象者の選び方は、層化無作為2段抽出法。全国の縮図になるように341人の選挙区を選び、各選挙区の選挙人名簿から平均9人を選んだ。3月20日に調査票を発送し、4月23日までに届いた返送総数は2283。無記入の多いものや対象者以外の人が回答したと明記されたものを除いた有効回答は2194で、回収率は73%。
 有効回答の男女比は男46%、女53%、無記入1%、年代別では、20代9%、30代15%、40代17%、50代17%、60代19%、70代14%、80歳以上8%、無記入1%。

5月2日付け朝日新聞紙面17頁より

 うむ、全部で50の質問(枝分かれ質問を除く)が並んでいますが、質問内容の詳細は朝日新聞紙面並びに下記会員記事にて参照できます。

朝日新聞社郵送世論調査 質問と回答
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201305010606.html?ref=reca

 ・・・

 さて、上記の通り今回の調査方法は悪名高い「朝日RDD方式」ではないのですが、これで安心してはいけません、結論から述べると、この朝日新聞世論調査結果はしっかりと精査して分析しなければなりません、迂闊に結果を信じることは朝日新聞の世論誘導に載せられる危険が大です。

 アンケートによる回答への誘導ですが、色々な手法があります、有名なところをいくつかご紹介しておきましょう。

 まずは、典型的な誘導質問事例。

 最近行った有識者への調査で、約8割が「資源の無い日本ではエネルギー安全保障上原子力発電は必要である」との回答を得ました。あなたは、現在停止中の原発は、十分な安全が確認できたならば、再稼動すべきだと思いますか?

 調査者は、しばしば回答者に自分の求める解答をして貰いたいことがあります、そんな時に使われる手法が、このような誘導質問です。

 また、同様の質問で、もう一つ「固定概念(ステレオタイプ)」を呼び起こす質問もあります。

 地震の巣と呼ばれる日本列島では地震の活動期に入ったといわれています、大地震原子力発電所の近傍で発生することを多く国民は危惧していますが、あなたは、地震国日本で原発は安全に稼動できると考えますか?

 この手の質問は、作りようによっていくらでも誘導が可能となるのです、読者の中には、この手の単純(?)な誘導質問に自分は騙されないとお思いかも知れませんが、いやいやメディアはもっと高度なテクニックを絡めてきますのでご用心なのであります。

 そのテクとは質問の分割と順番です。

 今の内閣の経済政策を批判したい場合、「最近行った調査で、国民の約7割が「生活が最近苦しくなった」との回答していますが、あなたは、現在の内閣の経済政策を支持しますか?」と誘導質問する場合、次のように質問を並べて分割するのです。

 あなたの経済状態は最近厳しいですか?

 あなたは今の内閣を支持しますか?

 生活が厳しいかどうかの問いで多くの回答者は現実を見つめるはずです、よほど羽振りの良いお金持ち以外は普通の人たちは厳しい現実を省みます、でその直後「今の内閣を支持します?」と聞かれたら、多くの人が「うーーん」と唸ってしまう寸法です。

 下のように先に内閣支持を聞く順番よりも辛口の支持率に誘導できるわけです。

 あなたは今の内閣を支持しますか?

 あなたの経済状態は最近厳しいですか?

 さて全部で50問の朝日新聞世論調査の質問なのですが、複数回答設問を除きますが、なんと結果を見ると2つの設問だけですが85%以上という圧倒的偏りのある回答があります。

 この2つの設問は意図的に並べて質問されています。

 メディアリテラシーの教科書に掲載できるような、綺麗な複数のテクニックを駆使した「誘導質問」の具体例となっています。

 まず36番目の質問です。

◆戦前の憲法は、日本を天皇が統治する国と定め、個人の権利も制限していました。このような憲法に戻ってはならないと思いますか。戻ってよいと思いますか。

 戻ってはならない      91
 戻ってよい          4

 うむ、この質問の回答は今回の朝日新聞世論調査全50の質問の中で唯一90%を越える圧倒的回答の偏りを示しています。

 「戦前の憲法は、日本を天皇が統治する国と定め、個人の権利も制限していました。このような憲法に戻ってはならないと思いますか」って、「個人の権利も制限して」いる「戦前の憲法」に普通の人はみんな「戻ってはならないと思」いますよね、この質問は単独では意図が見えにくいですが次の37番目の質問と組み合わせることにより、朝日新聞の誘導意図が現出いたします。

天皇制について、あなたの考えに近いのは次のうちどれですか。

 天皇を元首と定める      3
 天皇はいまと同じ象徴でよい 86
 天皇制を廃止する       9

 36番目の質問で「戦前の憲法は、日本を天皇が統治する国と定め、個人の権利も制限」されていたことを、そんな時代に戻ってはならない(91%)と答えた矢先に、戦前のように「天皇を元首と定める」の選択は普通しづらいでしょう。

 この2つの質問は、ほぼ教科書どおり、見事に結果が朝日新聞の意図通りに誘導されていると見てよいでしょう。

 別に朝日新聞に限ったことではないでしょうが、ときに大新聞の世論調査は、かくも意図的な誘導質問がまぎれているということです。

 興味深いことです。

 今回は、教科書に載せたいぐらいの朝日新聞世論調査の見事な誘導テクニックについて取り上げてみました。



(木走まさみず)