木走日記

場末の時事評論

集団的自衛権論争〜護憲派リベラルの浮世離れした教条的憲法擁護論は単なる大衆蔑視の自己陶酔

 7日付け毎日新聞記事から。

集団的自衛権:米国防長官、容認を支持 防衛相会談で明言
毎日新聞 2014年04月06日 21時08分(最終更新 04月07日 00時25分)

 小野寺五典防衛相は6日、来日中のヘーゲル米国防長官と防衛省で約50分間会談した。ヘーゲル氏は、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈変更や新たな防衛装備移転三原則の決定など安倍政権が進める安全保障政策について「米国は支持している」と明言。「歓迎」などにとどめてきた従来の発言より踏み込んだ。北朝鮮のミサイル発射をにらみ、2017年までに弾道ミサイル防衛(BMD)機能を備えたイージス艦2隻を日本に追加配備し、計7隻態勢にする計画を表明。沖縄県尖閣諸島周辺で中国が領海侵入を繰り返していることを踏まえ、両氏は「力を背景とした現状変更の試みには反対する」との見解で一致した。

(後略)
http://mainichi.jp/select/news/20140407k0000m010037000c.html

 うむ、ヘーゲル米国防長官が安倍政権の目指している集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈変更を「米国は支持している」と明言、「歓迎」などにとどめてきた従来の発言より明らかに方針を変更した模様です。

 オバマ米政権が、東アジアの安全保障をめぐって方針転換したのは、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合を受け、中国の軍事拡張主義を牽制するという狙いがあるのかもしれません。

 さて安倍政権の目指している「集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈変更」ですが、国内の意見は大きく3つに割れています。

 ひとつは憲法9条に照らして日本の集団的自衛権の行使は絶対認められないという意見です。

 一方、集団的自衛権の行使を認めるべきとする意見は、ここへ来て自民党公明党を取り込むために言及し始めた「必要最小限の自衛権の範囲には必要最小限の集団的自衛権も含まれる」という「必要最小限の集団的自衛権」論と、そのような制約を付けずに本来、包括的に行使を認め、政府に判断の余地を与えておく「制約無き集団的自衛権」論です。

 主要紙5紙の主張も割れています。

【朝日社説】集団的自衛権 砂川判決のご都合解釈
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11070230.html

【読売社説】集団的自衛権 限定容認論で合意形成を図れ
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20140404-OYT1T50013.html

【毎日社説】集団的自衛権憲法 問題だらけの解釈変更
http://mainichi.jp/opinion/news/20140314k0000m070129000c.html

【産経社説】集団的自衛権 危うさはらむ限定容認論
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140406/plc14040603060002-n1.htm

【日経社説】安倍政権は丁寧な意思決定を心がけよ
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO68688990S4A320C1PE8000/

 【朝日社説】と【毎日社説】は、集団的自衛権の行使は絶対認められないという意見です。

 一方【読売社説】と【日経社説】は限定容認論で合意形成を目指せという意見です。

 【産経社説】だけは、限定容認論では危ういとし、「制約無き集団的自衛権」論を展開しています。

 ・・・

 国民与論はどの意見を支持しているのでしょうか?

 興味深いことに世論調査の結果がメディアごとに極端にバラついています。

 憲法解釈変更に対し両極に対峙している朝日新聞産経新聞世論調査結果を取り上げてみます。
 朝日新聞の調査では、集団的自衛権について「行使できない立場を維持する」が63%、「行使できるようにする」の29%を大きく上回っています。

集団的自衛権、行使容認反対63%に増 朝日新聞調査
http://digital.asahi.com/articles/ASG3L72L6G3LUZPS007.html

 一方産経新聞の調査では、行使容認への賛成が42・4%と反対の41・5%をわずかながら上回っています。

集団的自衛権で自民が議論スタートも行使容認派は5ポイント減
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140401/stt14040114380004-n1.htm

 限定容認論への質問がないことに不満もありますが、両紙の調査結果がここまで乖離していることは興味深いですね。

 参考までに時事通信世論調査では賛成57.6%、反対27.0%、毎日新聞世論調査では、賛成30%、反対64%と、やはりバラバラな結果を示しています。

集団自衛権行使57%が賛成=積極平和主義6割知らず−時事世論調査
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201312/2013121300640

集団的自衛権:憲法解釈変更「反対」64% 毎日世論調査
http://mainichi.jp/select/news/20140331k0000m010105000c.html

 時期や質問内容、抽出対象に偏りがあるのかもしれませんが、マスメディアの世論調査はしばしばメディアによってそのメディアの主張よりの結果に偏りを示すことがあるわけでありますが、その典型例と言えるでしょうか、どのメディアの数値が信用できるのか、正直現時点では判断付きかねます。

 ・・・

 まとめます。

 この議論のポイントのひとつは、ときの政権が憲法解釈を自由に変更できるのかどうかという点にあります。

 解釈変更に反対する【毎日社説】は、「憲法は国家権力を縛る最高法規だという立憲主義の否定につながる」としています。 

 首相は「(政府の)最高の責任者は私だ。政府の答弁に私が責任を持って、その上で選挙で国民から審判を受ける」と述べた。

 首相の発言に野党だけでなく自民党の一部からも批判が起きた。選挙で勝ちさえすれば、その時々の政権が憲法解釈を自由に変更できると受け取られたからだ。

 首相がそう考えているのなら、憲法は国家権力を縛る最高法規だという立憲主義の否定につながる。誤解を招いても仕方ない発言だった。

 一方、限定容認論に傾く【日経社説】は、「過去に政府が解釈を改めた事例はあり、時代の変化に即した見直しは欠かせない」としています。

 自民党は3月中に集団的自衛権論議する総裁直属の機関を設立し、党所属の全議員が参加できるようにする。公明党はすでに勉強会を立ち上げた。自公は並行して与党同士の意見交換も進める方針であり、話し合いの土俵が整う。

 中国の海洋進出や北朝鮮の挑発姿勢など東アジアの不安定な安保環境を考えれば、日米同盟の連携強化を急がねばならない。

 日本は集団的自衛権を保持するが、その行使はできないという従来の憲法解釈では対応できない事態が起きることも予想される。過去に政府が解釈を改めた事例はあり、時代の変化に即した見直しは欠かせない。

 毎日の主張は護憲派リベラルの典型的なものであり、日経の主張は現実派保守の典型であるとカテゴライズできましょう。

 現実に東アジア情勢は緊迫し、北朝鮮の状況も混迷しています。

 この状況下で、防衛、外交方針を具体的に打ち出す保守派に対して、リベラル勢力は数十年前から更新されない言葉で教条的かつ精神論的な憲法9条擁護論を繰り返すだけで、現実に存在する国民の不安に対応しようとしません。

 多くのリベラルな憲法学者たちは「憲法とは何かを分かっていない」と自民党案をバカにしていますが、こうした指摘自体が一歩譲って仮に妥当だったとしても、リベラル勢力はこうして相手をバカにするだけで自分たちは具体的な、現実的な処方箋を出せていません。

 これで国民の支持を得れるはずがありません。

 リベラル派は国家に軍事力が必要であることも、近隣諸国の反日ナショナリズムの問題も一通り認めなければなりません、その上で、保守派の掲げる論以外の現実的な選択肢を提示することこそすべきなのです。

 保守派の主張以外の手段を講じた方が、国防に結びつくというアピールがまったくないのです。

 もっとも問題なのは、リベラル勢力のある種の大衆蔑視ともいえる自己陶酔です。

 保守派は現実に起こっている変化に何とか対応しようと具体的に政策を打ち出しますが、リベラルは教条的憲法擁護論に拘泥し、自らの主張に酔い反対意見を机上で論破することのみに執着し、現実の日本を取り巻く状況に対して何ら具体的政策を国民に訴えることを放棄して、そこで自己満足しているのです。

 現実に社民や共産などの護憲政党の長期凋落傾向を持ち出すまでもなく、護憲派リベラルの浮世離れした教条的憲法擁護論だけでは、すでに国民の支持を失っていることを自覚すべきでしょう。



(木走まさみず)