木走日記

場末の時事評論

新彊ウイグル地区の中国当局の暴力的政策について徹底検証〜中国政府がウィグル族への弾圧を暴走せざるを得ない理由

 まず中国における新彊ウィグル自治区の位置と中国の言語分布図を確認しておきましょう。

 地図画像をパブリックドメインとして使用フリーで公開しているウィキペディアから引用してご紹介。


新疆ウイグル自治区
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E7%96%86%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%AB%E8%87%AA%E6%B2%BB%E5%8C%BA

中国の言語分布図
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%B0%91%E6%95%B0%E6%B0%91%E6%97%8F

 二つの地図を比較すれば明らかですが、中国の国土の半分近くを占める3つの自治区、ウィグル、チベット内モンゴルは中国標準語の通用するエリアではありませんでした、言語的にも文化的にももちろん民族的にも、歴史上長らく漢民族の配下にはない地域でありました。

 中でも中国の国土の六分の一を占める新彊ウイグル自治区は、モンゴル、ロシア、カザフスタンキルギスタジキスタンアフガニスタンパキスタン、インドの8カ国と接していて中国で最も長い国境を有している、中国国防の要衝の地でもあり、石炭や石油の埋蔵量が中国国内一位の貴重な資源産出地でもあります。

 今回は当ブログとしてこの地における中国当局の暴力的政策について、その実態とその動機について徹底的に検証してみたいと思います。

 長文のエントリーとなりますこと、あらかじめご了承ください。

 お時間の許す範囲でお付き合いください。

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アムネスティ・レポートで確認するウィグル族に対する人権侵害

ウイグル族は悠久なる歴史と輝かしい文化をもつ民族です、「ウイグル」とは“連合・団結”という意味のウイグル語でウイグル族の自称であります。

 ウイグル族母語であるウイグル語はアルタイ諸語に属するチュルク諸語の一つで、ウイグル自治区を中心に使用されてきました。ウイグル文字を用いるウイグル語は32の字母をもち、八つの母音の字母、24の子音の字母があって、右から左へ横書きにします、32の字母は実際には126種類の書き方を有しているそうです。

 民族音楽、伝統的手工芸は豊富多彩で、歌と舞踊が得意で、明朗、情熱的であり、おもに中国の西北部に分布しているほか、カザフスタンウズベキスタン、トルコなどにも少数居住しています、人口は1000万強。ウイグル語を話し、伝統的にはオアシスに定住して農耕や商業に従事します。

 イスラームを信仰する民族であり、ウイグル族は長い歴史の発展の中で食生活、服飾、祭り、礼儀作法などの方面で独特な風俗・習慣を形成したのであります。

 ウイグル族漢民族と違って、宗教上の理由もあり、豚肉・犬・ろばなどの肉、生肉、動物の血のついたものなどを食べません、牛・羊の肉類や乳製品を食べ、小麦粉で作った食物を主とし、主食の種類は数十種類あります、最もよく食べるのはナン、ポロ(羊肉入りにんじんピラフ)、まんじゅうなどです。

(参考文献)
中国の少数民族ウイグル族と私
https://www.teikokushoin.co.jp/journals/geography/pdf/200903g/4.pdf

 世界の人権問題を扱う国際団体であるアムネスティ・インターナショナルのサイトでは、この中国におけるウィグル族への人権弾圧について、多くのページを割いて訴えています。

アムネスティジャパン
ウィグル人
http://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/minority/world/minority_uyghur.html

 アムネスティの調査によれば、「中国政府による攻撃的なキャンペーンの結果、自らの権利を平和的に行使しただけで数千人のウイグル人が、「『テロリズム』、分離主義、宗教的過激主義」容疑で逮捕または恣意的に拘禁されて」いるといいます。

ウイグル人

中国・西北部に新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)という最大の自治区があります。ウイグル人はテュルク系の言語を使用し、大部分が中央アジアを中心に長い歴史を持つ、スンニ派イスラム教徒です。

ウイグル人アイデンティティは中国政府の民族政策によって脅かされています。ウイグル語の使用制限、宗教の自由への厳しい制限、そして継続的な新彊ウイグル自治区への漢民族流入など、中国政府の政策は、民族の習慣を破壊し、雇用差別とあいまって、不満や民族間の緊張を増幅しています。中国政府による攻撃的なキャンペーンの結果、自らの権利を平和的に行使しただけで数千人のウイグル人が、「『テロリズム』、分離主義、宗教的過激主義」容疑で逮捕または恣意的に拘禁されています。

 新彊ウイグル自治区の学校組織では、中国当局により実際は中国語を唯一の教育言語とした言語政策を進められ、悠久なる歴史と輝かしい文化の象徴でもある「ウイグル語」の使用が公教育の現場にて「禁止」されています。

ウイグル語での教育を制限

中国当局は、新彊ウイグル自治区の学校組織を「バイリンガル」にすると主張していますが、実際は中国語を唯一の教育言語とした言語政策を進めています。この政策は、1990年代に大学レベルの教育において、ウイグル語を排除することから始まりました。現在、新彊大学ではウイグル詩のコースのみがウイグル語で教えられています。2006年、当局は、就学前レベルで使用する主たる教育言語を中国語とする、政策措置を開始しました。

新彊ウイグル自治区南域の都市部出身の子どもや教師たちは、「学校構内で、ウイグル語を一言でも話せば、罰せられるだろう」と報告しています。これでは真の「バイリンガル二重言語主義)」と矛盾しています。

国連子どもの権利委員会は、「初等・中等教育レベルで使用する全ての教育・学習教材が、少数民族の言語を使用し、かつ文化的配慮がなされているものを使用できるよう保証すべきである」と、中国当局に要請しました。

 さらに敬虔なイスラーム信者であるウィグル人たちの宗教活動は著しく制限をされています、例えば「18歳以下の子どもはモスクへ入ることや宗教教育を受ける」と「学校から追放されてしまう」のです。

制限された宗教活動

中国当局は、地方のイスラム教指導者任命に干渉したり、モスク内外に警察を配備し、宗教活動、モスクそして宗教指導者すべてを厳重な管理下に置いています。新彊ウイグル自治区の政府職員(教師・警官・国営企業労働者・公務員を含む)は、宗教活動を行なうと職を失う危険があります。また、ウイグル人のメッカ巡礼を、中国当局は繰り返し妨害しています。全てのイスラム教徒にとってメッカ巡礼は必要不可欠なものです。

18歳以下の子どもはモスクへ入ることや宗教教育を受けることが許されません。親も自分の子どもに宗教について教えることが許されません。モスクに入ったり、家でお祈りをしているところが見つかると、学校から追放されてしまうと、子どもたちは恐れています。

 中国当局によるウィグル族への人権弾圧政策の中でも、アムネスティ・インターナショナルが最も強く避難しているのはウイグル人女性と少女への人権侵害です。

 「農村地域に住む少数民族コミュニティ出身の多くの女性・少女が拉致され、「妻」として、または、性産業に売買され」ており、「中国当局が労働力不足への対応と称して、新疆ウイグル自治区漢民族を大量に移住させる方針をとっている」一方で、「20万人以上とも言われるほど膨大な数の若いウイグル人女性・少女が、中国当局に強制されて送り出さ」ている実態が、アムネスティ・レポート(2008)でも指摘されています。

ウイグル人女性と少女への人権侵害

■国家による人口抑制政策に従わされる少数民族

中国では、一人っ子政策という厳しい人口抑制政策が実施されてきました。このことによって、女性の「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)」や子どもを何人持つか夫婦や家族を主体として計画的に考え決める権利が、中国では尊重されず、国家による「計画出産」が実施されてきました。

人口比率からすると、チベット人ウイグル人などの少数民族は、中国の全人口の9パーセントにも満たないと言われていますが、中国の国家統合という点から、イスラム系民族としてのウイグル人女性たちに対しても、国家による人口政策は押し付けられ、適用されてきました。

ヒューマンライツウォッチのワールドレポート(2005)によると、中国では、文化的に男の子を欲しがる傾向と国の人口抑制政策があいまって、内地の農村地域では女性・少女が少なくなり、人身売買業者にとっては儲かる市場が創出されています。特に農村地域に住む少数民族コミュニティ出身の多くの女性・少女が拉致され、「妻」として、または、性産業に売買されるのです。

強制移住させられるウイグル人女性

ウイグル人の元「良心の囚人」であるラビヤ・カーディルさんは、2007年11月に米下院人権連盟(Congressional Human Rights Caucus)で、かなり多くのウイグル人女性・少女が、安価な労働力や性的搾取を目的に強制移住させられ、その事実が、ウイグル人の人口減少に繋がっていると指摘しました。

アムネスティ・レポート(2008)でも、中国当局が労働力不足への対応と称して、新疆ウイグル自治区漢民族を大量に移住させる方針をとっていることが指摘されています。一方で、20万人以上とも言われるほど膨大な数の若いウイグル人女性・少女が、中国当局に強制されて送り出され、過酷な労働条件と低賃金で働かされています。

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漢民族大量移住計画が招いた深刻な民族対立

 中国当局新疆ウイグル自治区への漢民族大量移住計画の実行により、新疆ウイグル自治区の人口における民族構成は大きく変質、もはや最大の民族は漢民族で人口の50%を占めると推測されています。

 特に移住してきた漢民族は都市部などに集中しています、そこに高層マンションなどを立てて大挙して居住しています。

 自治区の最大都市であるウルムチは、ウイグル語で「美しい牧場」を意味し、もともとウイグル族が住む街でしたが、現在では、当局が進める移民政策で漢族の数が急増、市内の総人口の8割を占めるようになり、ウイグル族は完全に少数派となったのです。

 ウルムチなどの都市部でウイグル族による爆発事件が頻発していますが、ウイグル族が自分たちの住む新疆ウイグル自治区で爆発事件を起こしているのは外部から見ると自民族を傷つける矛盾する行為に思えますが、主要都市部の大部分が漢民族に「支配」されてしまった実態があり、そこで無差別「テロ」事件を起こしても、場所を選べば不幸な犠牲者のほとんどが漢民族で占められてしまう冷徹な計算があるからだと言われています。

(参考記事)
強まる民族対立 爆発事件に収入格差で不信増幅 ウルムチルポ
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140524/chn14052422550010-n1.htm

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 中国政府は2月、住宅や雇用の改善を改善するため、新疆ウイグル自治区に616億6000万人民元を追加投入すると発表。繊維産業の労働者80万人を新たに雇用する計画もあります。

 中国当局は「ウイグル族が不当に取り残されていることはないと強調」しますが、実態は広域的には漢民族大量移住およびウィグルの言語や宗教や文化への徹底的な弾圧による「民族同化政策」であり、しかしながら経済的には漢民族のみが潤いウィグル族は徹底的に取り残される「民族隔離政策」がとられているといいます。

 ロイター記事によれば、ウルムチ北部の頭屯河区は、都市計画構想の象徴的な場所になっており、高層マンションや大規模な政府庁舎、オフィスパークが並んでいるのですが、ここの住人はほぼすべて漢民族です。

 建設作業員のZhao Fupingさん(20)は、「実際、ウイグル族はここには来ない。理由は分からないが来ない」と話し、出稼ぎに来た理由については「単純だ。賃金がいいからだ」と言い切っています。

 甘粛省出身で中学校卒のZhaoさんは、最大で日給200人民元を受け取っているそうです。

 一方、配達で同地区を訪れた男性は、「ここはウイグル族のための場所ではない。われわれはここが好きではない。単に商品を配達しているだけだ」と語り、足早にバスに乗り込んだそうです。

 中国政府は、ウイグル族が不当に取り残されていることはないと強調していますが、ウイグル族が多く住む新疆南部などでは、まだまったく開発が進んでおらず、仕事も不足しています。

(参考記事)
ロイター記事
焦点:暴力事件相次ぐ新疆ウイグル、民族対立の火種に「経済格差」
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0DN08X20140507?sp=true

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 そして現地では民族対立が当然激化します。

(参考論説)
中国民族問題のジレンマ 政府は漢族の騒乱をより警戒
星野 昌裕/南山大学教授(中国の民族政策)
http://www.asahi.com/shimbun/aan/column/20131004.html

 2009年7月のウイグル騒乱事件の際、胡錦濤(フーチンタオ)国家主席(当時)の講話では、「新疆ウイグル自治区全域を発展させる目標を掲げることはできても、その発展によって得られた富をウイグル族に優先的に分配する方針を示すことはできなかった」そうです。

 ウイグル族の騒乱発生後、社会の安定を図るため、新疆ウイグル自治区には中央政府からだけでなく省や直轄市からも、一層多くの支援がなされることになった。この政策を後押しするため、2010年5月に第1回新疆工作座談会が開かれた。しかし初日の胡錦濤(フーチンタオ)国家主席(当時)の講話では、ウイグル族という言葉はほとんど用いられなかった。新疆ウイグル自治区全域を発展させる目標を掲げることはできても、その発展によって得られた富をウイグル族に優先的に分配する方針を示すことはできなかったのである。この理由を理解するためには、新疆ウイグル自治区の人口構成と、騒乱を発端とする一連の政治展開を理解しておく必要がある。

 その理由は「漢族が自治区に大量に流入」したことにより漢族対ウイグル族という「民族対立の構図が極めて鮮明だった」からだとしています。

漢族が自治区に大量に流入

 新疆ウイグル自治区には中国全土のウイグル族の99%が住んでいる。しかし自治区総人口に占めるウイグル族比率は1950年代の76%から2010年の46%へと低下している。これに対して漢族の人口は7%から40%へと増加した。ウイグル族の人口比率低下は、漢族の自治区への大量流入によってもたらされたのである。この傾向は都市部で一層際立っており、首府ウルムチや石油の町カラマイでは漢族人口が約8割、ウイグル族は1割程度にすぎず、ウイグル問題はチベット問題以上に漢族との根深い対立関係がある。

 2009年の騒乱は、7月5日のウイグル族の騒乱が、7日になって漢族による反ウイグル族デモを誘発しており、民族対立の構図が極めて鮮明だった。

 「新疆ウイグル自治区全体の地域情勢を安定させようとすれば、都市部でマジョリティ集団となった漢族の不満を抑制することが何よりも重要な政治課題」だと指摘します。

 では中国政府にとって、ウイグル族の騒乱と漢族の騒乱のいずれがより政治的な脅威なのだろうか。実は騒乱から2か月後の9月3日、ウルムチでは再び数万人規模の漢族による騒乱が発生し、当局はウルムチ市党委員会書記を解任することで事態を鎮静化させている。漢族の騒乱によって市のトップが解任される事態に至った事実を踏まえると、中国政府は漢族の騒乱に一層高い警戒心を持っていると考えられる。

 つまり新疆ウイグル自治区全体の地域情勢を安定させようとすれば、都市部でマジョリティ集団となった漢族の不満を抑制することが何よりも重要な政治課題なのだ。言いかえれば、少数民族が政治的、経済的、文化的な不満をいくら訴えたとしても、中国政府は少数民族の優遇策を拡大することで、こうした不満に対処するのは難しくなっている。

 もし少数民族への優遇策をとりすぎれば、漢族による政治体制への反発が強まる可能性が高いからである。

 このジレンマの克服が容易なことではないことを考えると、やや過激なかたちで公的異議申し立てがなされるウイグルの民族問題は、今後も中国の重要な政治課題であり続けざるを得ないであろう。

 うむ、中国当局は、自身が勧めた漢民族大量移住計画により、自治区内の民族対立の激化を招いてしまったわけです、そして都市部でマジョリティ集団となった漢民族の不満を抑えることに政策の優先順位を真っ先に与えざるを得ないジレンマに陥ったのです。

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●「ゼロ容認政策」すなわち「ウイグルを力でねじ伏せる政策」に暴走する中国当局

 中国当局はここにきて「ウイグルを力でねじ伏せる」強硬方針を決定いたします。

 2014年5月23日、新疆ウイグル自治区の政府系サイト「天山網」によると、ウルムチで22日に発生したテロ事件を受け、同自治区政府は15年6月までの1年間に及ぶテロ撲滅作戦を開始いたしました。

 1年間のテロ撲滅作戦では、全住民の力を結集し、極めて強硬な措置や特殊な手段を採用してでもテロ活動を徹底的にたたき潰し、テロリストやテロ組織を壊滅し、テロリストの傲慢(ごうまん)さを壊滅していく方針だとしています。

 具体的には見せしめ裁判を強行します、 ウルムチでの先月22日に130人以上が死傷した爆発テロ事件を受け、自治区イリ・カザフ自治州では27日、当局が「暴力テロ犯罪分子」と認定するウイグル族とみられる被告らに、公開の場で判決を下す「公開裁判」が開かれています。

 自治州の州都グルジャ市の大型スタジアムで開かれた。各民族の幹部や民衆ら約7000人が見守る中、死刑判決を受けた被告3人を含め、6件の事件で故意殺人罪や国家分裂罪、テロ組織に加わった罪などに問われた計55人に判決が下されました。

 中国メディアは、首を押さえつけられてトラックの荷台に乗せられたウイグル族とみられる多数の被告らの写真を掲載しており、この前時代的公開裁判は見せしめの側面が強いのです。

(参考記事)
中国「ウイグルを力で」方針決定
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140530/k10014841321000.html

(参考記事)
爆発事件多発の新疆ウイグル自治区、1年にわたる「テロ撲滅作戦」を開始―中国
Record China 5月24日(土)18時4分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140524-00000020-rcdc-cn

(参考記事)
ウルムチ爆発:「ウイグル族」被告らを公開裁判
毎日新聞 2014年05月28日 18時27分(最終更新 05月28日 23時49分)
http://mainichi.jp/select/news/20140529k0000m030025000c.html

 また「標準化」の名のもとにウイグル族固有文化への弾圧策も一気に強化し、伝統的民族衣装まで「規制」することを当局は決定しています。

(参考記事)
中国、「対テロ」で衣装規制 新疆の少数民族
2014.5.13 20:42 [テロ]
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140513/chn14051320420005-n1.htm

 このような国家権力による服装までもの弾圧は、宗教行為の制限や中国語教育の強要に対して反発を強めているウイグル族をさらに刺激することとなります。

 6月23日付け朝日新聞記事は「中国ウイグル自治区で警官5人殺害 検問所を襲撃」と報じています。

中国ウイグル自治区で警官5人殺害 検問所を襲撃
広州=小山謙太郎2014年6月23日10時56分

 米政府系放送局のラジオ・フリー・アジア(RFA)は22日、中国新疆ウイグル自治区のホータン地区モーユー県で20日早朝、何者かが警察の検問所を襲い、警官5人が死亡したと報じた。

 地元当局者の話としてRFAが伝えたところによると、犯人は複数とみられ、検問所の外で警備していた警官2人を刺殺した後、建物に放火した。部屋の外からカギをかけ、暖炉の煙突からガソリンを注いで火をつけたらしい。部屋で寝ていた警官3人が焼死体で見つかったという。

 警察は事件の2日前、スカーフで頭を覆った女性やあごひげを生やした男性を呼び止めて尋問するなどしており、ウイグル族の住民との間で緊張が高まっていたという。

http://www.asahi.com/articles/ASG6R3F8YG6RUHBI00D.html

 襲撃の原因は、「警察は事件の2日前、スカーフで頭を覆った女性やあごひげを生やした男性を呼び止めて尋問するなどしており、ウイグル族の住民との間で緊張が高まっていた」ことによるものです。

 中国当局による「ウイグルを力でねじ伏せる方針」は、かえって大きな反発を招いているのが実情であります。

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 中国習指導部はテロ勢力に対しては「ゼロ容認」つまりゼロ・トレランス方式、一切の寛容を示さない無慈悲政策を掲げています。

ゼロ・トレランス方式

ゼロ・トレランス方式(ゼロ・トレランスほうしき、英語: zero-tolerance policing)とは、割れ窓理論に依拠して1990年代にアメリカで始まった教育方針の一つ。「zero」「tolerance(寛容)」の文字通り、不寛容を是とし細部まで罰則を定めそれに違反した場合は厳密に処分を行う方式。日本語では「不寛容」「無寛容」「非寛容」等と表現され、転じて「毅然たる対応方式」などと意訳される。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E6%96%B9%E5%BC%8F

 5月23日付けの人民日報では、賈秀東中国国際問題研究所特別招聘研究員が中国政府の強硬方針を掲載しています。

テロ勢力に対してはゼロ容認しかありえない
人民網日本語版 2014年05月23日13:49
http://j.people.com.cn/n/2014/0523/c94474-8731725.html

 ウルムチ市内の爆発事件を「テロ事件」と「定義」し、「基本的人権を無視し、人類の道義を踏みにじり、人類社会共通の秩序と人類文明共通の最後の一線に挑戦する」のが「テロ勢力の凶悪残忍な本質」であると指摘します。

 ウルムチ市内で22日、暴徒の運転する車が朝市の人混みに突っ込んだうえ、爆発物を起爆し、民衆多数が死傷した。今年3月1日に昆明駅で起きたテロ事件、4月30日にウルムチ南駅で起きたテロ事件に続く、人間性を喪失した、人々を激怒させる血腥い犯罪行為だ。22日のテロ事件でテロリストは極めて卑劣かつ残忍な手段によって、罪のない人々を無闇に殺害した。基本的人権を無視し、人類の道義を踏みにじり、人類社会共通の秩序と人類文明共通の最後の一線に挑戦するテロ勢力の凶悪残忍な本質が再び暴露された。

 「習近平国家主席李克強総理は、速やかに事件を解決してテロリストを逮捕し、厳重に処罰するよう重要な指示を出すとともに、テロ活動とテロリストに対して警戒を続け、力強く打って出て、厳しく叩く高圧的姿勢を維持し続け、社会の安定を全力で維持する方針を強調した」とします。

 ちょうどアジア信頼醸成措置会議(CICA)首脳会議が対テロで一致した声を発して閉幕し、新疆維吾爾(ウイグル自治区でテロ音声動画犯罪事件16件に判決が言い渡された際に、テロリストはテロ事件を引き起こした。その野心は明らかだ。これは中国社会と国際社会の対テロの決意に対する公然たる挑発だ。このところ相次ぐテロ事件によって、中国のテロ対策が厳しい状況にあることが浮き彫りになり、テロ対策は一刻たりとも油断ならないことが改めて示された。テロ事件発生後、習近平国家主席李克強総理は、速やかに事件を解決してテロリストを逮捕し、厳重に処罰するよう重要な指示を出すとともに、テロ活動とテロリストに対して警戒を続け、力強く打って出て、厳しく叩く高圧的姿勢を維持し続け、社会の安定を全力で維持する方針を強調した。

 その上で習主席は「テロリスト、分離独立派、宗教過激派の「3つの勢力」に対してはゼロ容認の姿勢で臨まなければならない」と演説したことに触れています。

 習主席はCICA首脳会議の基調演説で、テロリスト、分離独立派、宗教過激派の「3つの勢力」に対してはゼロ容認の姿勢で臨まなければならないと指摘した。少し前の新疆自治区幹部座談会では、テロ勢力に「壊滅的打撃」を与える方針を示し、テロ活動は早期に叩き、小さなものも叩き、芽のうちに叩き、電光石火の勢いで壊滅的打撃を与えなければならないと強調した。

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●まとめ

 一言で言えば、中国政府はウィグル族への弾圧をもはや今となっては止めたくても止めることはできないのだと思います。

 彼らの乱暴な民族同化政策の一環である漢民族大量移住計画が新彊ウイグル地区において、漢民族を都市部でマジョリティ集団と押し上げてしまったジレンマが、漢族対ウイグル族という民族対立の構図も相まって、妥協を許さない「ゼロ容認政策」すなわち「ウイグルを力でねじ伏せる方針」を新彊ウイグル自治区で強行させているのです。

 中国当局にとって真に恐ろしいのは人口の9割を越える漢民族の反抗にこそあります。

 彼ら漢民族の不満が爆発しないために、中国当局はウィグル族に対し一切の妥協を許さない暴力的政策に転じざるをえなかったのだと思われます。

 なぜ中国当局ウイグル族の強い反発を招く危険を冒してまで、「ゼロ容認政策」すなわち「ウイグルを力でねじ伏せる方針」を強行しようとするのか、今回は当ブログとしてこの地における中国当局の暴力的政策について、その実態とその動機について徹底的に検証してまいりました。

 このエントリーが読者のこの問題に対する知的考察の一助となれば幸いです。



(木走まさみず)