木走日記

場末の時事評論

「慰安婦は天皇からのプレゼント」〜産経新聞が批判するアメリカ教科書の慰安婦記述トンデモ部分を検証

 18日付け産経新聞記事から。

「日本軍は14〜20歳の女性20万人を強制的に徴用した」…史実と異なると外務省が米の高校教科書の是正を出版社に要請

 米カリフォルニア州ロサンゼルス市や同市近郊の公立高校で使用されている世界史の教科書に、旧日本軍が慰安婦を「強制連行」したとする史実と異なる記述がされている問題で、外務省が同教科書の使用実態の調査に着手し、出版社に記述内容の是正を要請したことが17日、分かった。執筆者にも修正を申し入れる方針だ。

 問題の教科書は、米大手教育出版社「マグロウヒル」(本社・ニューヨーク)が出版した「伝統と交流」。先の大戦を扱った章で「日本軍は14〜20歳の約20万人の女性を慰安所で働かせるために強制的に募集、徴用した」「逃げようとして殺害された慰安婦もいた」などと、強制連行があったかのように記述されている。「日本軍は慰安婦天皇からの贈り物として軍隊にささげた」と明白な虚偽内容も含まれている。

 また、日本の江戸時代を考察する項目で用いられている地図に「日本海(東海)」と韓国側の呼称も併記されている。慰安婦日本海呼称の箇所は、同じ執筆者が記述したという。

 産経新聞が11月3日付で報じたことを受けて外務省は同日、在米の大使館、全総領事館を通じて米国の公立高での同教科書の使用実態について調査に入った。

 ただ、外務省は「一部高校に設置された専門課程で使用が認められている2冊のうちの1冊で、具体的な使用実態の把握は困難な状況だ」としている。

 さらに外務省は7日、在米公館を介し、マグロウヒル社に「慰安婦日本海呼称問題で重大な事実誤認や日本政府の立場と相いれない記述がある」として記述内容の是正を申し入れた。

 これに対し出版社サイドは「日本政府の問題意識は共有した」として、責任者が17日以降に協議したいと回答してきた。執筆者とは同日現在、面会の調整を続けている段階だという。

http://www.sankei.com/politics/news/141118/plt1411180004-n1.html

 うむ、「日本軍は慰安婦天皇からの贈り物として軍隊にささげた」とはひどい内容です。

 問題の教科書は、米大手教育出版社「マグロウヒル」(本社・ニューヨーク)が出版した「伝統と交流」。先の大戦を扱った章で「日本軍は14〜20歳の約20万人の女性を慰安所で働かせるために強制的に募集、徴用した」「逃げようとして殺害された慰安婦もいた」などと、強制連行があったかのように記述されている。「日本軍は慰安婦天皇からの贈り物として軍隊にささげた」と明白な虚偽内容も含まれている。

 この問題、ようやく日本の外務省が7日、在米公館を介し、マグロウヒル社に「慰安婦日本海呼称問題で重大な事実誤認や日本政府の立場と相いれない記述がある」として記述内容の是正を申し入れたとのことです。

 本問題は大手メディアでは取り上げているのは産経新聞だけですが、産経は24日付け社説でも取り上げる力の入れようです。

2014.11.24 05:02
【主張】
慰安婦問題 繰り返し「事実」主張せよ
http://www.sankei.com/column/news/141124/clm1411240002-n1.html

 社説の結び。

 慰安婦問題をめぐり、日本政府は反論はかえって反発を招くとして躊躇(ちゅうちょ)していたが、客観的事実に基づく対外発信強化を始めた。

 慰安婦を「性奴隷」とした国連人権委員会の「クマラスワミ報告書」に対しても、朝日新聞吉田清治氏の証言に関する記事を誤報と認め取り消したのを機会に、一部撤回を要請している。

 国際社会で何も言わなくては認めたことになる。放置していては問題は動かない。誤解を正すには今回のように事実を言い続け、地道な反論を重ねていくことが肝要だ。事実を突きつければ動く。

 根拠なく、事実の発信を縛っている河野洋平官房長官談話の見直しも欠かせない。

 うむ、「国際社会で何も言わなくては認めたことになる。放置していては問題は動かない」との指摘は正論でしょう。「誤解を正すには今回のように事実を言い続け、地道な反論を重ねていく」ことが重要です。

 さて、問題の教科書、米大手教育出版社「マグロウヒル」(本社・ニューヨーク)が出版した「伝統と交流」について、事実検証しておきましょう。

 「伝統と交流」("Traditions and Encounters")はアマゾンでも購入できるようです。

Traditions & Encounters: A Global Perspective on the Past

Traditions & Encounters: A Global Perspective on the Past

 うむ、この教科書の当該部分の目次は以下のサイトで確認できます。

Traditions and Encounters Book Cover
Traditions and Encounters, 2/e
Jerry H. Bentley, University of Hawai'i
Herbert F. Ziegler, University of Hawai'i
NEW CONFLAGRATIONS: WORLD WAR II

Table of Contents
http://novellaqalive2.mheducation.com/sites/0072424354/student_view0/chapter37/table_of_contents.html

 問題の従軍慰安婦箇所は「戦時の生活」("Life during wartime")の「C:女性と戦争」("C.Women and the war")という個所にある「従軍慰安婦」("3.Comfort women")という節にあります。

 目次より。

Life during wartime
C.Women and the war

3."Comfort women"
a.Japanese armies forcibly recruited three hundred thousand women to serve in military brothels
b.80 percent of comfort women came from Korea
c.A comfort woman had to service between twenty and thirty men each day
d.Many were massacred by Japanese soldiers; survivors experienced deep shame

戦時の生活
C:女性と戦争

3:”従軍慰安婦
a.日本軍は30万人の女性を軍の売春施設で強制的に奉仕させた。
b.慰安婦の80%は朝鮮出身者だった。
c.一人の慰安婦で毎日20〜30人の男の相手を強いられた。
d.多くは日本兵によって虐殺され、生存者は凌辱(りょうじょく)を経験した。

 「戦時の生活」部分の教科書の本文は以下のサイトで確認できます。

LIFE DURING WARTIME
http://dev6.mhhe.com/textflowdev/genhtml/0073385646/36.3.htm

Comfort Women

Women's experiences in war were not always ennobling or empowering. The Japanese army forcibly recruited, conscripted, and dragooned as many as two hundred thousand women age fourteen to twenty to serve in military brothels, called “comfort houses” or “consolation centers.” The army presented the women to the troops as a gift from the emperor, and the women came from Japanese colonies such as Korea, Taiwan, and Manchuria and from occupied territories in the Philippines and elsewhere in southeast Asia. The majority of the women came from Korea and China.

Once forced into this imperial prostitution service, the “comfort women” catered to between twenty and thirty men each day. Stationed in war zones, the women often confronted the same risks as soldiers, and many became casualties of war. Others were killed by Japanese soldiers, especially if they tried to escape or contracted venereal diseases. At the end of the war, soldiers massacred large numbers of comfort women to cover up the operation. The impetus behind the establishment of comfort houses for Japanese soldiers came from the horrors of Nanjing, where the mass rape of Chinese women had taken place. In trying to avoid such atrocities, the Japanese army created another horror of war. Comfort women who survived the war experienced deep shame and hid their past or faced shunning by their families. They found little comfort or peace after the war.

 藤岡信勝氏がfacebookにて当該箇所を訳されていますので、失礼して翻訳個所を引用ご紹介。

C)上記の日本語訳

慰安婦 女性の戦時体験のなかには、女性の社会的地位の向上や権利の拡張につながらないものもあった。日本軍は14歳から20歳までの20万人もの女性を、強制的に連行し、徴用し、「慰安所」「娯楽センター」などとよばれた軍用売春施設で働かせた。日本軍は慰安婦たちを天皇の贈り物と言いながら兵士に提供した。女性たちは、朝鮮、台湾、満州などの日本の植民地や、フィリピンの日本軍占領地など東南アジアの地域から連れて来られた。女性の多数は朝鮮と中国の出身者だった。
 ひとたび軍用売春施設に入れられると、「慰安婦」は、毎日20人から30人の男性の相手をさせられた。戦闘地域に所在していたので、女性たちはしばしば兵士が直面するのと同じ危険に遭遇し、多数の戦死傷者を出した。他の女性は、特に逃げようとしたり性病にかかったりした者は、日本兵に殺された。戦争が終わるころには、慰安所でやっていたことを隠すために、多数の慰安婦を虐殺した。日本の兵士のために慰安所を設置する動機となったのは、南京の惨事で、そこでは中国人女性への大規模な強姦事件が発生した。そうした暴虐行為の発生を避けようとして、日本軍は別の戦争の惨事をつくりだしてしまったのだった。戦争を生き延びた慰安婦の女性たちは、恥辱のどん底を体験し、自分の過去を隠すか、そうでなければ家族から遠ざけられたりした。戦争が終わっても、彼女たちにはいささかの慰安も平安も訪れなかった。
 <解説>冒頭に女性の社会的地位の向上などのことが書かれているのは、この教材が、「女性と戦争」と題するくくりの記事のなかの二つの教材の一つであり、その一つ目には、米英などで女性の戦時動員によって女性の地位の向上などがもたらされたことの記述があり、それを受けて書かれているからです。対比して、日本軍は悪いことしか残さなかったというわけです。このデタラメ極まりない教科書の文章を逐一批判し、出版社に出典の根拠を要求し、抗議して下さる方々が現れるのを期待いたします。

https://www.facebook.com/nobukatsu.fujioka/posts/730173300401780

 ・・・

 20万、30万という根拠のない慰安婦の数や「慰安婦の80%は朝鮮出身者」、「戦争が終わるころには、慰安所でやっていたことを隠すために、多数の慰安婦を虐殺」など事実無根の虚偽の記載が満載なのですが、日本人として一番印象的なトンデモ描写はやはりここでしょう。

The army presented the women to the troops as a gift from the emperor.
「日本軍は慰安婦天皇からの贈り物として軍隊にささげた」(産経訳)

 これは「悪意ある中傷」ともいえる描写でしょう。

 このような根拠なきトンデモ文章が同盟国アメリカの高校の教科書に掲載されていること自体、日本政府は強く抗議し訂正を求めるべきです。



(木走まさみず)