木走日記

場末の時事評論

「中国主導のAIIB参加で日米孤立」(朝日新聞)に反論する〜日本は焦ってAIIBに参加すべきではない!日米参加を切望しているのは中国のほうである理由

 中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)の創設メンバー国が50を越えた模様です。

(参考記事)

NHKニュース
AIIB参加申請 51の国と地域に
4月2日 7時38分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150402/k10010035921000.html

 一方、日本とアメリカは、銀行の運営に不透明な点が残るなどとして参加の申請をしていません。

 この流れを受けて朝日新聞など一部メディアは「日米が国際的に孤立」との論調を強めています。

(参考記事)

アジア投資銀に48カ国・地域 日米抜き、戦略欠き孤立
http://www.asahi.com/articles/ASH3062H5H30ULFA02G.html

 記事では、「『一枚岩で対応しよう』と主要国を引っ張る姿勢が米国にみえなかった。AIIBという機関車に主要国が一緒に立ち向かうはずが、日米以外が直前に逃げ出した」(アジア開発銀行(ADB)関係者)、「米国のオウンゴールだ」(米民主党のベテラン議会スタッフ)などの発言が並んでいます。

 朝日新聞は1日付け社説においても「中国への関与は、希薄であってはならない」と主張します。

(参考記事)

(社説)AIIB 関与は十分だったのか
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11681087.html

 社説はいつまでも日本は対米追従でいいのか、と疑問を投げかけて結ばれています。

 戦後の国際金融は米欧を中心に動いてきた。日本は長年、米国とともに歩むことで一定の地位を保ってきてはいる。しかし、中国の台頭で、その秩序は大きく変わろうとしている。今後、日本はどういう立ち位置をとるのか。AIIBはそんな問題を日本に投げかけている。

 例によってこのような朝日新聞などの一部論調は、すぐに韓国メディアが同調します。

 朝鮮日報は2日付けで「米国の顔色ばかりうかがう日本、「誤算」で苦境」との見出し記事を掲載しています。

AIIB:米国の顔色ばかりうかがう日本、「誤算」で苦境
中国の売り込み大成果、米日困惑
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/04/02/2015040200882.html

 上記朝鮮日報記事には朝日新聞記事が発言内容も含めてそのまま一部引用されています。

 朝日新聞は1日、「米国は戦略もなく自ら孤立を招き、日本は顔色ばかりうかがっている。日本政府内部からは、米国が突然参加すれば、日本だけがはしごから落ちないという保障はない」と分析した。

 米国は一貫してAIIBの運営方式と融資基準に問題があるとの立場を崩していない。しかし、先月12日に米国に近い英国がAIIBへの参加を表明して意向、世界の主要国が相次いで参加し始めた。米国が考えていた構図は崩壊した格好だ。米国・日本が主導するアジア開発銀行(ADB)の関係者は、朝日新聞記者に対し、「中国が運転するAIIBという機関車が走ってきたところ、米日を除く全ての主要国が(ひかれる前に)逃げた」と表現した。米議会関係者は「米国のオウンゴール」という表現まで使った。

 ・・・

 ふう。

 さて、今回は朝日新聞などによる、少々あおり気味の「AIIB創設をめぐり日米が孤立」論に関して、取り上げたいと思います。

 中国の楼継偉財政相は、「申請期限を過ぎても、日本と米国の参加を待ち続ける」と表明しています。

日米の参加待つ=中国

 【北京時事】中国の楼継偉財政相は20日、同国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関して談話を発表し、今月末の申請期限を過ぎても、日本と米国の参加を待ち続けると表明した。(2015/03/20-23:32) 

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201503/2015032001017

 この発言は当の中国が日米のAIIBへの参加を切望していることを示しています。

 なぜでしょうか?

 66年日米主導で創設されたADB(アジア開発銀行)について触れておく必要があります。

 フィリピンマニラに本部を置くADB(アジア開発銀行)は、約五〇年に渡り、経済成長を続けるアジアの新興国の資金需要に応えてきた実績のある機関であり、歴代総裁は九人すべて日本人であり、3000人の熟練スタッフを擁している国際的にも高い信頼を得ている開発銀行であります。

 日米で15.65%づつ合わせて31.3%出資しており、以下、中国、インド、オーストラリアなどが出資しております。 

 過去のADB(アジア開発銀行)による融資の最大の受益国は中国であり、14年9月現在でADB貸付残高538億ドルの中で中国が26.8%を占めています。

 ADB(アジア開発銀行)については、融資対象の事業が環境破壊や人権侵害を招かないかなどを審査が厳格であることが知られております。

 日米が主導してきたADB(アジア開発銀行)は、近年、融資案件における環境影響評価に力を入れています。

 大規模な経済開発は、アジア開発銀行のような先進国援助機関による融資などの協力を受けて事業化される案件が多く、途上国で行われている環境影響評価とこれらの援助機関の環境影響評価に関するガイドライン強化がなされています、一言でいえば大気汚染や土壌汚染などの環境破壊を伴う可能性が大きい経済開発には、計画を変更しない限り、融資はなかなか許可されないわけです。

(参考資料)

国際協力における環境アセスメント
https://www.env.go.jp/earth/coop/coop/document/09-eiaj/09-eiaj.pdf

 このような厳しい審査は、国際的には高い信頼を勝ち取ってきており、ADBの格付けは最高位のトリプルAのため、低い利回りで資金を集められるメリットを生んでいます。

(参考資料)

アジア開発銀行
【据置】
長期発行体格付 AAA
格付の見通し 安定的

http://www.jcr.co.jp/release/pdf/14i00964AD.pdf?PHPSESSID=3559a1e7800a7a00f2f9d70adc440230

 さてしかし、この厳しい審査基準は、大規模な経済開発の需要が旺盛な途上国には、ADBの審査は厳しすぎる、先進国主導だといった批判を生んでいるのも事実です。

 中国の楼継偉財政相は、アジア開発銀行(ADB)の運営が「官僚主義で煩雑で、最良とは言えない」と批判していますが、その意味するところは「審査が厳しすぎる、時間がかかる、提出書類が多すぎる」点にあります。

中国、アジア開銀を批判 「官僚主義で煩雑」
http://www.47news.jp/CN/201503/CN2015032201001470.html

 そこに中国主導の新たなAIIBが今年から設立され、旺盛なアジア諸国の開発需要にこたえるべく1000億ドル(設立当初は500億ドル)の巨額の運用資金を中国が50%近く用意することで、中国の主導で投入されるというわけです。

 中国によるAIIBの設立動機のひとつが、途上国のニーズに応える「迅速」な融資にあるのは明白です。

 「迅速」な融資すなわち審査基準を緩めるとしたならば、これは不良案件に融資し資金が焦げ付くリスクを高め、あるいは環境破壊や人権侵害を招きかねない乱暴な開発案件の乱発を招く危険性もあります。

 ・・・

 ADBとAIIBの事業規模にも触れておきましょう。

 アジアの旺盛な資金需要に応えるために09年にADBは授権資本を550億ドルから1,650億ドルに引き上げる第 5次一般増資をADB理事会にて採択、5年かけて本年(15年)増資は完了いたします。

 対して中国主導のAIIBですが、最終的には1,000億ドルですが当初資本は500億ドルからスタートします。

 従って15年に限れば、AIIBはADBの三分の一以下の融資規模ということになります。

 ・・・

 まとめます。

 中国は日米のAIIB参加を切望しているのは明白であり、したがって朝日新聞の「日米が孤立」という扇情的な見立ては誤りだと思われます。

 今検証した通り、日米主導で先行するADB(アジア開発銀行)は、厳しい審査で焦げ付き融資は皆無であり、従って格付けは最高位のトリプルAのため、低い利回りで資金を集められるメリットを生んでいます。

 対して後発の中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、審査を緩め、おそらくADBでは審査が通らないだろうリスクのある開発案件をすくって、それらを中心に融資を進めていくだろうと推測されます。

 ここに日米が参加せずリスク案件に手を出すとするならば、中国主導のAIIBが格付け最高位のトリプルAと評価されることは極めて難しい、となると資金を高い利回りで集めなければならずデメリットが発生します。

 中国の財政相が、「申請期限を過ぎても、日本と米国の参加を待ち続ける」とラブコールを続けているのは、当然と言えましょう。

 日本は50年近くADB(アジア開発銀行)をアメリカとともに、主導的に運用しアジア諸国から高い評価を得てきました。

 日本の立場からは、中国主導のAIIBの創設メンバーに参加しなかったことは、正しく評価されてよいと思います。

 日本は約50年の歴史を有するADBにアメリカとともに責任を有しており、余剰資金があるのならば、ADBに投資する方が筋ですし、国際的信用も高めることになりましょう。

 国際的にも評価の高いADB(アジア開発銀行)の活動をしっかりサポートしていくべきです。

 アメリカの動向関係なく、日本は焦って今このタイミングでAIIBに参加すべきではありません。

 もちろん将来にわたってAIIBには絶対参加しないなどと硬直した態度は不要です。

 しかし、バスに乗り遅れるなのような論に同調すべきではありません。

 「中国主導のAIIB参加で日米孤立」(朝日新聞)などの短絡的論説にまどわされてはいけません。

 日米参加を切望しているのは中国のほうだと思われます。



(木走まさみず)