木走日記

場末の時事評論

韓国最高裁が『日韓基本条約』協定違反の異常で非常識な判決〜日本政府は韓国政府に強く抗議すると共にあらゆる対抗手段を検討すべき

 まず53年前の『日韓基本条約』を振り返りましょう、全てはここからなのです。

 1965年(昭和40年)6月22日に日本と大韓民国との間で『日韓基本条約』が結ばれました。

日韓基本条約』では、日韓国交樹立、日本の韓国に対する約11億ドルの経済協力、両国間の請求権の完全かつ最終的な解決、それらに基づく関係正常化などが取り決められました。

 日韓両政府は、日本が韓国に経済支援として5億ドルを支払う一方、徴用工を含む請求権の問題は、完全かつ最終的に解決したことを確認しています。

 実は『日韓基本条約』締結交渉において請求権問題は会談当初から最大の障害要因でした。

 韓国は、政府樹立直後から、講和条約に連合国の一員として参加する事を目標に、対日賠償及び補償要求のための準備作業を進めていました。

 1949年に作成された「対日賠償要求調書」で、これは韓国が戦勝国の一員になれる事を前提に、総額約310億円(終戦直後の為替率一ドルあたり15円で換算すると、約20億ドルに相当)を要求しています。

 1951年のサンフランシスコ講和条約への戦勝国としての韓国参入は、米など連合国から韓国は当時敵国(日本)であった単純な史実から拒否され、韓国は挫折します、これで戦勝国としての対日の「賠償」や「補償」請求はできなくなり、財産の請求権要求に縮小せざるを得なくなりました。

 韓国が『日韓基本条約』締結交渉の第一次会談で提出した8項目に及ぶ対日請求権要求は、総額は示さず、サンフランシスコ講和条約4条にのっとったものでありました。

 これに対し、日本は請求権委員会の第5次会議で「請求権の処理に関する協定基本要綱」を提出し、終戦当時残してきた私有財産を推計したら、日本が韓国財産の85パーセントを請求できると主張します。

 国際法上占領軍に許されない処分までを講和条約が保障しているわけではないという見方から、1907年ハーグで調印された陸戦に関する法規の中の「敵地私有財産不可侵の原則」を援用したのであります。

「逆請求権」は岸首相によって却下され、第5次会談で実質的な討議に入ったのですが、請求権の核をなしている「一般請求権」で、両国は「地銀・地金の返還」をめぐって対立します。

 もう一つの争点は、「韓国法人、自然人の日本国及び日本国民に対する日本国債・公債・日本銀行券・被徴用韓国人への支払等の要求」でありましたが、これは実質上個人の被害に対する補償を請求権の形で韓国政府が要求したものであります。

 日本は「証拠」を提示するように韓国側に求め、交渉は難航しました。

(参考資料)

日韓国交正常化交渉過程における韓国政府の対日政策決定に関する一考察
http://www.j.u-tokyo.ac.jp/jjweb/research/MAR2002/lee_sang_yeol.pdf

 請求権問題は結局、日韓事務レベルでは収拾の見通しがなかなかつかなかったのですが、ベトナム戦争勃発で日韓の交渉の長期化を嫌うアメリカの圧力も入り、当時の韓国の国家予算3.5億ドルの3倍強の巨額援助で締結されます。

3億ドル相当の生産物及び役務 無償(1965年)(当時1ドル=約360円)
2億ドル 円有償金(1965年)
3億ドル以上 民間借款(1965年)
計約11億ドル

 なお、当時の日本の外貨準備額は18億ドル程度でしかなく、日本はこの対韓国援助を、10年の割賦で行うことを余儀なくされます。

 「日韓請求権並びに経済協力協定」の内容を抜粋すると次の通りであります。

 第一条で対韓国経済援助の金額と方法が具体的に明記されています。

第一条 日本国が大韓民国に経済協力(無償供与及び低利貸付け)する
日本国は、大韓民国に対し、(a)現在において千八十億円(108,000,000,000円)に換算される三億合衆国ドル(300,000,000ドル)に等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、この協定の効力発生の日から十年の期間にわたつて無償で供与するものとする。各年における生産物及び役務の供与は、現在において百八億円(10,800,000,000円)に換算される三千万合衆国ドル(30,000,000ドル)に等しい円の額を限度とし、各年における供与がこの額に達しなかつたときは、その残額は、次年以降の供与額に加算されるものとする。ただし、各年の供与の限度額は、両締約国政府の合意により増額されることができる。(b)現在において七百二十億円(72,000,000,000円)に換算される二億合衆国ドル(200,000,000ドル)に等しい円の額に達するまでの長期低利の貸付けで、大韓民国政府が要請し、かつ、3の規定に基づいて締結される取極に従つて決定される事業の実施に必要な日本国の生産物及び日本人の役務の大韓民国による調達に充てられるものをこの協定の効力発生の日から十年の期間にわたつて行なうものとする。(以下省略)
データベース「世界と日本」(代表:田中明彦) より
http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/JPKR/19650622.T9J.html

 第二条では、これにおいて「両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める」と明記されています。

第二条 両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める
両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。(以下省略)
データベース「世界と日本」(代表:田中明彦) より
http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/JPKR/19650622.T9J.html

 この第二条は極めて重要です。

 これにより韓国人徴用工などへの補償は韓国政府が行うことになったのです。

 これは2005年にも当時の盧武鉉ノ・ムヒョン)政権が、日本が当時支払った無償3億ドルの経済協力に請求権問題を解決する資金が含まれている、徴用工問題は韓国政府が担当すべきである、との見解を示しています。

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 さて速報が入りました、30日付け産経新聞電子版記事から。

元徴用工へ賠償命令 韓国最高裁新日鉄住金
2018.10.30 14:18

 【ソウル=桜井紀雄】日本による朝鮮半島統治時代に「強制労働させられた」として、元徴用工の韓国人4人が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を求めた訴訟の差し戻し上告審で、韓国最高裁は30日、同社に原告1人当たり1億ウォン(約1千万円)の賠償支払いを命じる確定判決を言い渡した。

 日本政府は請求権問題が1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で、同社も同様の主張をしたが、これを退けた。今後、同様の判決が相次ぐ恐れがあり、日韓の外交・経済関係への多大な影響は避けられない。

https://www.sankei.com/world/news/181030/wor1810300025-n1.html

 戦後の日韓関係の土台を成してきた『日韓基本条約』に対する明確な条約違反の判決が韓国最高裁で出されました。

 韓国政府も認めてきた『日韓基本条約』で「両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決」をみたことを、事実上覆して韓国最高裁は、新日鉄住金(旧新日本製鉄)に一人当たり1000万円の損害賠償を命じたのです。

 53年前に日本政府は国家対国家として韓国政府に巨額なお金を援助し、それをもって「請求権問題の完全かつ最終的な解決」をしています。

 請求権問題で、徴用工に個別対応する責任は韓国政府にこそあります。

 有り得ない判決です。

 現在、徴用工裁判は韓国で15件原告約1000人が多額の賠償支払いを求めています。

 さらには、徴用工約22万人が1000万円の賠償支払いを起こしたら、最悪2兆円超の金額になります。

 日本政府は今回の国際法規を無視した韓国最高裁判決に対して、1965年『日韓基本条約』付帯協定の経済協力協定違反で国際司法裁判所(ICJ)に提訴すべきです。

 ICJ提訴の場合、日本とは違って韓国は「自国を当事者とする紛争が生じる場合、裁判に無条件に応じる」というICJの強制管轄権関連の選択議定書に加入していません。

 なのでICJに提訴しても韓国側の同意がない限り裁判権が自動的に発動するのは難しいです。

 それでも提訴し、韓国最高裁の明白な国際条約違反判決の異常さを世界にアピールしていくべきです。

 またそれとは別に韓国政府に強く抗議し、経済面も含めた必要な対抗処置を準備すべきです。

 なぜなら敗訴する日本企業にとって、これは深刻な経済問題だからです。

 敗訴した日本企業が支払いに応じてしまったら、この異常な判決を認めたことになります。

 あるいは敗訴した日本企業が支払いに応じなく韓国国内の日本企業の財産没収が強行された場合、海外邦人の財産を日本政府は指をくわえて守れなかったとの批判が起こることでしょう。

 日本政府は韓国政府に強く抗議すると共にあらゆる対抗手段を検討すべきです。

 韓国のすることとは関わらない、無視が一番との意見もあります。

 残念ながら、韓国に対して安易に妥協したり無視したりすると、多くの事態は日本にとって最悪の展開を見てきました。 

 日本はこの異常で非常識な韓国最高裁判決に対し、安直に妥協したり無視したりすべきでありません。

 強く抗議し必要な対抗措置を速やかに準備・実施すべきです。
 


(木走まさみず)