木走日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-10-17 希望の党「ユリノミクス」のデタラメ・インチキ度を徹底検証

[]希望の党「ユリノミクス」のデタラメ・インチキ度を徹底検証 15:24



 希望の党の政策がダメな理由のひとつに経済政策がデタラメであることにあります。

 その公約の1丁目1番地が『消費税増税凍結』であります。

 公式サイトより。

【希望の党 選挙公約】

f:id:kibashiri:20171017134711p:image

https://kibounotou.jp/policy/

 いや増税凍結自体はまだよろしいのです。問題なのは、消費税増税に替わる財源確保の手法です。

 ここですね。

f:id:kibashiri:20171017135029p:image

 再び公式サイトより。

2.経済に希望を 〜ユリノミクスにより、経済成長と財政再建の両立を目指す〜

金融緩和と財政出動に過度に依存せず、民間の活力を引き出す「ユリノミクス」を断行する。

?消費税凍結と内部留保の社会還元

 消費税増税を凍結し消費の冷え込みを回避する一方、300 兆円もの大企業の内部留保に課税することにより、配当機会を通じた株式市場の活性化、雇用創出、設備投資増加をもたらす。

https://kibounotou.jp/policy/

 「300 兆円もの大企業の内部留保に課税」とは、申し訳ありませんがこれは出鱈目な政策です。

 例えれば500円玉で260円のビールを購入した消費者に対し、そのお釣り240円に課税しよう、という愚策です。

 そもそも260円のビールにはたっぷりと税金(酒税)が掛かっているのに、そのお釣りに税金を掛けるなど出鱈目な二重課税もいいところなのですが、希望の党の主張ではお釣りにも課税されるなら「つり銭がなくなるように残りの240円も何か買ってしまおう」つまり消費拡大につながると言うのです。

 当ブログは25年間零細IT企業を経営してまいりました、別に日本の大企業の味方をしようとも思わないし、申し訳ないですが「アベノミクス」信者でもありません、正直息切れ気味ですもの、デフレ脱却もできていませんし。

 しかしこの「ユリノミクス」の「300 兆円もの大企業の内部留保に課税」という出鱈目ぶりはいただけません、まったくのインチキで違法なのだもの。

 今回はこの「ユリノミクス」の「300 兆円もの大企業の内部留保に課税」問題、徹底的に検証したいと思います。

 ・・・

 まず基本的な数字を訂正しておきます。

 今年の9月1日に財務省が公表した『年次別法人企業統計調査−平成28年度−』によれば、昨年の企業の内部留保金は「300兆円」ではなく400兆円を優に越えていますので、希望の党は1番目の公約の最初の数値から誤りであることがわかります。

 財務省が公表した『年次別法人企業統計調査−平成28年度−』はネットでも以下のPDFファイルで公開されています。

年次別法人企業統計調査 概要

−平成28年度−

(金融業、保険業を除く)

Financial Statements Statistics of Corporations by Industry, Annually

The fiscal year 2016

平成29年9月1日

http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/h28.pdf

 その5ページにある『第5表利益剰余金の推移』が過去五年間の企業の利益剰余金すなわち内部留保金の推移になります。

第5表利益剰余金の推移

f:id:kibashiri:20171017140036p:image

http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/h28.pdf

 見づらいので数値が読み取れるように作図しました。

f:id:kibashiri:20171017141209p:image

※財務省『年次別法人企業統計調査−平成28年度−』の数値より『木走日記』が作成。

 ね、第二次安倍政権ができてから5年間で、内部留保金は300兆円から400兆円に100兆円も増えているわけです、希望の党のパンフレットの数値よりも、実はもっとひどいことになっているわけ(苦笑)です。

 希望の党は曲がりなりにも公党なのですから、公約の1番目に上げている説明の数値ぐらい、直近の資料で確認しなくてはいけません。

 さて、この企業の利益剰余金すなわち内部留保金って何なのでしょう。

 もちろん内部留保という言葉や項目は会計上存在しません。

 しかしこの言葉には「儲けた企業が金庫の中にたっぷりおカネを貯め込んでいる」というイメージがあり、今確認したとおり実際に企業の内部留保といわれているものは、2016年度で約406兆円にも上るわけです。

 「ガッポリ貯め込んでいる大企業はもっと社員に給料を払え、国内設備投資をしろ、それをしないなら税金を取るぞ!」というのは、希望の党のいうようにいかにも社会正義であるかのように誤解を与えます。

 しかしながら、これは出鱈目な話です。

 なぜなら、企業は既に法人税や消費税など法律に従いしっかりと納税しており、その上で余剰したお金が内部留保金だからです。

 だから内部留保金に課税をするというのは、最初に例示しましたように、例えれば500円玉で260円のビールを購入した消費者に対し、そのお釣り240円にさらに課税しよう、という愚策なのです。

 よろしいでしょうか。

 第二次安倍政権のこの5年間で企業の内部留保金が100兆円も増え続けているのは、確かに異常です。

 これは二つの要因によるものだと当ブログは考えます。

 まず基本的には『アベノミクス』の成功により、ある程度の円安株高が成功し、私たち庶民の実感は乏しいですが、長期好調経済が維持されているという事実です。

 多くの企業が最高益を更新しています、でなければ利益余剰金が統計上このように膨らむことは不可能です。

 そして第二の要因はデフレ脱却に『アベノミクス』が失敗していることが大きいのです。

 ・・・

 少し長いですが、400兆もの黒字大企業の内部留保金を社員の給与に還元したり国内設備投資に向かわせ、経済波及させるにはどうしたらよいのか、説明いたします。

 それは、徹底的にお金を貯めこむという企業のデフレマインドを破壊しなければなりません。

 それにはデフレ脱却しかありません。

 ここが肝心なのです。

 デフレのもとでは、輸出依存型の成長ではそれが仮にGDP成長にいくら寄与したとしても、国民には還元されないことは前回のいざなぎ越え景気(2002年から5年9ヶ月続いたとされる好景気)の間に、大企業は過去最高益を挙げたにもかかわらず労働者平均所得は下がり続けたことからも統計的に証明されています、今回もまた長期景気でありますが、庶民の実感は全く乏しいのです。

 貿易で得られた利益はすべて多国籍大企業にプールされ、そこではこれまた空前の内部留保金が膨らんでいるのです、国内にはいまだ還元されていません。

 デフレ下で交易を活性化しても大企業に受益が集中するだけです。

 まずデフレを止め、日本経済を内需型経済成長路線にしなければなりません。

 私は中小企業や零細企業のITコンサル業をしていますが、経営者達の現場の苦悩を、いったい経済学者や政治家やマスメディアの何人が理解しているでしょうか。

 日本経済は中小零細企業が支えているのです、この国の労働者の8割の雇用を支えているのが中小零細業です、ここを活性化しないで日本経済の復興はないのです。

 デフレがいかに深刻な経済的病(やまい)なのか。

 中小零細企業を守る立場からデフレの説明を試みます。

 ・・・ 

 デフレ、デフレーションはズバリ「モノの価値が下がり続けること」であります。

 したがってデフレが続く世の中では消費が冷え込みます。

 簡単な話、現在10000円で購入できるモノが、来月になれば1割引きの9000円で購入できるならば多くの消費者は購入を手控えるでしょう。

 せっかくモノを買ってもその商品価値が値下がり続けるならば、多くの人・企業は必要以上のモノを購入することは手控えるはずです。

 つまりデフレが続くとモノを購入したり投資したりするよりも何もしないでお金を持っているほうが賢いのです。

 これを「経済合理性」といいます。

 「モノの価値が下がり続けること」、これを言い換えれば「カネの価値が上がり続けること」と同値です。

 したがって、あなたがカネをいっぱい所有しているお金持ちであるならばデフレは天国です。

 ただ持っているだけであなたの購買力はどんどん増えて行きます。

 もしあなたがカネを持っていない、逆に借金しかない貧乏人か零細企業ならばデフレは地獄です。

 あなたはカネは持ってませんが借金(マイナスのカネ)を持っていますから、ほっておくとその重みは年々増え続けます。

 デフレですからあなたの所得は伸びません、へたすると減少を続けます、でも月々の返済は待ってくれません。

 これが庶民からみたデフレの正体です。

 デフレは多くの庶民や中小零細企業にとって地獄なのです。

 デフレの真の恐ろしさは、借金をしている庶民や零細企業に対してその牙を向けるところです。

 これはこのデフレ不況の中、収入が不安定なのに住宅ローンを抱えているたくさんの善良な庶民にとっても同様なことがいえましょう。

 収入は減るのに毎月の元利払いは変わらず、重くのしかかってくるのです。

 ・・・

 今、アベノミクスにより円安になりつつありますが、今のデフレが続くことに「心地よい」人たちが日本のエスタブリッシュメントすなわち政策決定層にたくさんいますので、彼ら、経団連や財務省官僚やそれにマスメディア、そして悲しいかな少なからずの政治家たちも、デフレ対策よりも、消費税増税に熱心なわけです。

 今、経団連などの大企業は史上空前の内部留保金をセッセと溜め込んでいます。

 デフレですからそのカネを国内に投資などしないで持っているほうが「経済合理性」があるからです。

 ですからどんなに貿易量が増え経団連などの大企業が利益を得て日本のGDPが上昇しても、デフレである限り、そのカネは国内に還元されることはないのです。

 私が大企業の経営者でも、デフレ下ならば無駄なお金は何も使わずせっせと溜め込みます。

 それが企業を守る正しいやり方だからです。

 デフレ下で給与アップや投資などの「無駄なお金使い」は馬鹿な経営者です。

 ・・・

 いっぽうインフレになれば「モノの価値が上がり続けること」になりますから、「カネの価値が下がり続けること」と同値ですから、お金をいっぱい持っているお金持ちや大企業にはインフレは困りモノです。

 カネをただもっているだけではどんどんその価値が下がってしまうからです。

 インフレになると大企業やお金持ちはモノに投資するようになります。

 モノの価値が上がり続けるのですから、下がり続けるカネを上がり続けるモノに早めに変えたほうが得なわけです。

 これも「経済合理性」といいます。

 インフレになれば同じ理由で大企業も内部留保金を減らして人やモノに投資するようになります。

 そうしなければ企業の大切な利益を守れないからです。

 インフレが始まれば、つまりカネの価値が下がり始めれば、お金持ちや大企業は投資に熱心になります。

 ただカネを持っているだけではドンドン損をしてしまうからです。

 こうしてインフレが適度に進めば、内需が拡大していきます。

 うまく軌道に乗れば、内部留保は減少しカネが回り始めるのです。

 ・・・

 以上、徹底的に検証してきましたように 「ユリノミクス」の「300 兆円もの大企業の内部留保に課税」は出鱈目な政策であり、二重課税の不条理そのものであります。

 企業の内部留保拡大を止め、内需拡大するには、経済原理に則りなんとかインフレーションを実現するような経済政策が求められるのです。

 その点では残念ながらアベノミクスも失敗し続けています。

 しかし「ユリノミクス」の「300 兆円もの大企業の内部留保に課税」はインチキ過ぎます。

 だから小池百合子氏の経済政策「ユリノミクス」はないに等しい、ダメダメなのです。



(木走まさみず)

三毛猫三毛猫 2017/10/18 04:17 大変興味深く拝読しました。消費税8%になった時、便乗値上げで、一気に13%上がりました。イオンに買い物に行くと4店舗の婦人服店が、無くなっていました。金融緩和の為でしょう。洋服の品質も下がりましたし、肉等の生鮮食品も値上がりしました。三度の食事を二度に減らしました。庶民感覚とかけ離れた政治を見ていると、将来とても厳しくなる事は目に見えているから貯金は、崩したくありません。私が、大企業主だったとしても、何時、外資から喰われるか分かりませんから、人件費を抑えるでしょう。最低賃金737円、給与から色々引かれると、実質時給560円程度です。低い最低賃金を求めて、東京から小さな下請け工場が、来ますが、働いているのは、殆ど中国人女性です。地元民に残されているのは、常識に欠ける職場か、資格を必要とする職場です。パート主婦の採用は、口コミで決まります。店で商品を確認して、ネットで、最安値を探して買います。食品も半額になる時間帯に行きます。毎年家族旅行していたのは、何時だったか、思い出せません。安心の未来を思い描けないこの閉塞感、いつまで続くのかと思います。

2015-10-08 TPPは産業構造が硬直化している日本に何をもたらすのか

[]TPPは産業構造が硬直化している日本に何をもたらすのか〜理論として「比較優位」原理は正しい、しかし現実はどうか? 16:56



 今回はTPPに関して、国際貿易のあり方について考えます。

 TPPは一言で言えば、域内で関税を限りなく取り払い出来うる限りの平等な自由貿易を行おうという経済連携であります。

 TPPを理解するために、まずはそもそも自由貿易は私たちにどのような利益をもたらすのか、経済学的に考えていきます。

 TPP推進派や自由貿易主義者達のバイブルのような経済原理があります。

 「比較優位」原理です。

 イギリスの経済学者デヴィッド・リカードが発見した、貿易の大原理であり、それ以来、国際貿易というのは世界の常識になりました。

 リカードはアダム・スミスの『国富論』に影響を受け、自由貿易を唱えました。2国間で貿易をすると、実は両方の国にとって非常にいいことがある、ということを発見したのです。

 以下、具体的な例示で「比較優位」の説明を試みますが、お時間のない読者は後段の「●まとめ」まで読み飛ばしてくださいませ。

 ・・・

 まず、A国とB国がそれぞれ労働者200人で、農作物と工業品を生産するとします。

 まず工業品について、A国は労働者100人で生産量が1500個、一方B国は、同じ労働者100人で生産量は600個です。

 全体の工業品の生産量は、合計2100個です。

 次に農作物ですが、A国は労働者100人で生産量が1000個、B国は労働者100人で生産量が900個です。

 全体の農作物の生産量は、合計1900個です。

 A国は、工業品も農作物もB国より絶対的に生産効率がよいですよね、これを「絶対優位」と言います。

 上記のように、生産力は工業品も農作物もA国のほうがB国よりも絶対的に優位ですが、相対的に見るとどうでしょうか。

 工業品はA国が1500個、B国が600個なので、B国はA国の4割の生産しかありません。一方、農作物はA国が1000個、B国が900個ですから、B国はA国の9割の生産を確保しています。

 このように相対的に見れば、B国はA国に対し、農作物生産のほうが優位だということがわかります。

 そこで、A国とB国がそれぞれ得意分野に専念して、それ以外のものは相手国から輸入しようと考えたとします。


 A国は200人の労働者のうち、生産性の高い工業品に180人、農作物に20人注ぎ込み、工業品2700個、農作物200個を生産できるようになりました。

 一方、B国は相対的に優位な農作物の生産に特化し、労働者200人全部を農作物の生産に注ぎ込み、農作物1800個を生産できるようになりました。A国とB国の生産量を合計は工業品2700個、農作物2000個となり、先ほどよりも工業品、農作物ともに全体の生産量が増えました。

 2カ国の計で、工業品は2100個から2700個と+600、農作物は1900個から2000個と+100増えたわけです。

 A国はどちらの生産量も絶対的に多いのだから、工業品も農作物も自国で生産して賄えばいいと一見すると思いますが、B国が相対的に優位なものの生産を行って、A国、B国それぞれが自国の得意とするものの生産に特化し、他は貿易によって賄うことで、より多くのものを得ることができる、全体の利益が高まるわけです。

 これが、自由貿易は双方にとって利益があるという経済理論、「比較優位」原理なのです。

 ・・・

 上記の例を図表を使ってもう少していねいにトレースしてみましょう。

 なお、A国、B国の工業品、農作物の国内需要はそれぞれすべて900個、生産余剰はすべて輸出に、生産不足はすべて輸入に頼るものとし、また工業品1個の価値=農作物1個の価値であると単純化しておきます。

 まず経済連携する前のA国です。

 工業品生産は100人で1500個、その国内需要は900個、農作物生産は100人で1000個、その国内需要は900個ですから図表で示せば以下のとおりです。

■図1:経済連携前のA国の状態

f:id:kibashiri:20151008130815p:image

 生産性に優れたA国は、単独でも工業品・農作物ともに生産余剰が有り合わせて700個輸出可能です。

 つまりA国の貿易収支は+700個と黒字が常態化しています。

 一方、経済連携する前のB国です。

 工業品生産は100人で600個、その国内需要は900個、農作物生産は100人で900個、その国内需要は900個ですから図表で示せば以下のとおりです。

■図2:経済連携前のB国の状態

f:id:kibashiri:20151008134353p:image

 生産性に劣るB国は、農作物ではなんとか国内需要ぎりぎりですが、工業品では国内需要に300個不足しています、工業品は輸入に頼らなければならない状態です。

 つまりB国の貿易収支は−300個と赤字が常態化しています。

 仮に経済連携前のA国とB国をひとつの経済共同体として合算するとこのようになります。

■図3:経済連携前のA国+B国の状態

f:id:kibashiri:20151008134410p:image

 さて、今A国とB国が経済連携をし、A国、B国それぞれが自国の得意とするものの生産に特化し、他は貿易によって賄うことで、より多くのものを得る体制にシフト致します。

 経済連携した後のA国です。

 工業品生産は180人で2700個、その国内需要は900個、農作物生産は20人で200個、その国内需要は900個ですから図表で示せば以下のとおりです。

■図4:経済連携後のA国の状態

f:id:kibashiri:20151008140040p:image

 工業品は+1700個の余剰、農作物は−700個の不足で、差し引けば1100個の輸出能力を持ちます。

 提携前の700個から400個も貿易収支の黒字が増えます。

 次に経済連携した後のB国です。

 工業品生産は0人で0個、その国内需要は900個、農作物生産は200人で1800個、その国内需要は900個ですから図表で示せば以下のとおりです。

■図5:経済連携後のB国の状態

f:id:kibashiri:20151008141821p:image

 工業品は−900個の不足、農作物は+900個の余剰で、差し引けばプラマイゼロとなります。

 提携前の−300個の貿易赤字の常態化から改善されたことが見て取れます。

 経済連携後のA国とB国をひとつの経済共同体として合算するとこのようになります。

■図6:経済連携後のA国+B国の状態

f:id:kibashiri:20151008141837p:image

 経済共同体としての輸出能力は、経済連携前の400個から1100個と飛躍的に伸びていることがわかります。

 ・・・

●まとめ

 さて、このイギリスの経済学者デヴィッド・リカードが発見した「比較優位」原理ですが、上記のように2国(A国とB国)2財(工業品と農作物)のケースだけでなく、多国多財でも成り立つことが知られています、また、国家間だけでなく、地方公共団体及び企業や個人などのあらゆる経済主体においても同様なことが成り立つことが知られています。

 この理論は、上記A国のように多くの面で絶対優位にある国に限定されるわけではなく、あらゆる面で劣位にあるB国のような途上国にとっても同じことです。

 自由貿易のもとで、自国内でより得意なもの(比較優位)に特化すれば、最終的な富は増えることになります。

 理屈はそうなんです。

 が、しかしです。

 さて現実のTPPでは何が起こりましょうか。

 例えば、経済学者の伊藤修氏は、リカードの比較生産費説は「原理として不滅の真理」とした上で、この原理が成り立つにはいくつかの前提条件が必要であり、どれかが欠けると「みんなの利益」にならなくなるとしています。

 伊藤氏はその留保条件として、以下を列挙しています。

・為替レートが適切な範囲内であること

・完全雇用の状態であること

・将来の優位産業を潰さないこと

・産業調整のコストがゼロであること

・外部効果(外部不経済)がないこと

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E8%BC%83%E5%84%AA%E4%BD%8D

 「産業調整のコストがゼロであること」、つまり一概には言えないでしょうが、雇用の流動性が高く、柔軟に産業構造を転換できる国が有利に振る舞うことができます。

 日本は国際競争力の高い産業を多く有しているのでTPPによりメリットが大きい側に入るのは間違いないでしょう。

 しかし日本は産業調整のコストが極めて高い、すなわち産業構造が硬直化しており、雇用の流動性が低いわけです。

 だとすると、農業などの一次産業従事者や国際競争力のない比較劣位な産業従事者にとっては、TPPによる劇的環境変化は何をもたらすのでしょうか。

 日本の場合、理論どおりに比較劣位産業従事者が比較優位産業に転職できるとは考えづらいのです。

 TPPなどの自由貿易は、比較優位な産業には財を増やす機会になりましょうが、国際競争力を失った比較劣位な産業にとっては、財が蒸発しかねない、そのままでは生き残りをかけたサバイバル、産業そのものの存亡がゆらぐ地獄絵となるやもしれないわけです。

 TPP参加のメリットを認めた上でですが、政府はそのデメリットもしっかり見据えて可能な限りの対策を講じるべきでしょう。

 ただしその対策は、今までのような比較劣位な産業を単に保護をするだけの、金のバラマキ政策であってはなりません。

 比較劣位産業の国際競争力の向上をはかり、なおかつ産業調整のコストを限りなくゼロに近づけること、すなわち比較劣位産業従事者の行き場をしっかり確保すること、この点に関して、安倍政権には骨太の政策を示してほしいと考えます。



(木走まさみず)

2015-04-28 「フィッチ日本国債を1段階格下げシングルA」について徹底検証

[]「フィッチ日本国債を1段階格下げシングルA」について徹底検証〜米英の格付け会社に投資判断を全面的にゆだねるべきではない 13:35



 大手格付け会社フィッチ・レーティングスは27日、日本国債の格付けを「シングルAプラス」から1つ引き下げ、上から6番目の「シングルA」にしたと発表しました。

 政府が2015年10月に予定していた消費増税を先送りし、それを穴埋めするだけの財政健全化策を打ち出せていないことが理由だとしています。

(参考記事)

フィッチ、日本国債を1段階格下げ 「シングルA」に

2015/4/27 20:30

http://www.nikkei.com/markets/features/12.aspx?g=DGXLASDF27H1E_27042015EE8000

 これで日本の格付けは中国(シングルA+)より低い評価となり、フィッチは二週間前に米国債格付けを最高ランクの「トリプルA」で据え置きしていただけに、日本に対してだけに特に大変厳しい評価と言っていいでしょう。

(参考記事)

フィッチ、米国債格付け「トリプルA」で据え置き 見通し「安定的」

2015/4/14 6:44

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL14H0N_U5A410C1000000/

 フィッチが日本国債を1段階格下げ 「シングルA」にした根拠は、記事にもある通り、日本政府の債務残高が1200兆円規模と最悪で、対GDP比で国際比較しても債務残高は231.9%と最悪であることにあります。

 財務省サイトよりグラフ化しておきます。

f:id:kibashiri:20150428120609p:image:w640

債務残高の国際比較(対GDP比)- 財務省

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/007.htm

 さて今回のフィッチの日本国債格下げですが、日本国民に財政健全化の必要性を迫る効果はありますでしょう、消費税増税をしたくて仕方ない財務省にとってはないて喜ぶような「朗報」ではあります。

 さっそく、ネットでもこのニュースを受けて敏感に反応する評論も出てきています。

木村正人

2015年04月28日 03:49

アベノミクスも財政健全化に本腰を入れないと日本は危ない

http://blogos.com/article/111013/

 今回はこのフィッチの日本国債1段階格下げについて、取り上げましょう。

 そもそも論ですが、S&Pやムーディーズやフィッチ・レーティングスといった英米の大手格付け会社の「国債格付け」ですが、ひとつの意見に過ぎず、投資判断をそれに全面的にゆだねるべきではありません。

 読者のみなさん、思い出して下さい、8年前のリーマンショック、サブプライムローン問題です。

 あのとき、サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)に対して、フィッチ・レーティングスもS&Pもムーディーズも問題発生する時点まで、信用最高評価「トリプルA」を付けていたわけです。

 トリプルAこれすなわちリスクゼロ評価です。

 それがあの破綻が起こってしまったら、世間からの大批判に、各格付け会社は「俺らを信用するからいけない」とこう開き直ったわけです。

 格付けというものは合衆国憲法が保護している「表現の自由」に基づく意見の表明であり、投資判断を全面的に委ねるべきものではない。

(参考記事)

サブプライム、責任転嫁合戦

自分の責任は棚に上げ非難の応酬、訴訟も勃発

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070816/132283/?P=1

 ・・・

 さて、米英大手格付け会社の各国国債に対する信用評価ですが、その国の政府の財政中でも負債残高に過剰に比重を置いているきらいが否めません。

 その国の信用度を評価するうえで、政府負債残高も大切な指標(インデックス)であることは認めるものの、そのウエイトを大きくし過ぎると、今回のフィッチ・レーティングスのように日本国債の評価(シングルA)が中国(シングルA+)よりも「高いリスク判定」になってしまう、違和感たっぷりのおかしな評価になってしまうわけです。

 それは日本国の特異性が評価に反映されていないからです。

 国の本来の信用度を評価するには、「政府・企業・家計すべての金融資産の合計」と「政府・企業・家計すべての金融債務の合計」を比べないと意味がありません。

 まず、外国とのお金の貸し借りを除いて、日本国内に限って見れば、「政府・企業・家計すべての資産」と「政府・企業・家計すべての負債」との金額はピッタリ一致するはずです。

 誰かの「負債」は誰かの「資産」だからです。

 例えば、政府に金を貸しているのは94%が国内の金融機関等ですから、つまり、政府の借金1000兆円は、金融機関から見れば約1000兆円の資産となります、日本国全体で見ればプラスマイナスゼロとなります。

 従って肝心なのは海外とのお金の貸し借りです。

 さて、昨年財務省が発表した日本の対外資産残高は前年末比20.4%増の797兆770億円、対外負債残高は前年末比29.1%増の472兆700億円、したがって対外純資産は、797兆770億円−472兆700億円で325兆70億円、過去最大を更新 23年連続で「世界一の債権国」なのであります。

(参考記事)

日本の対外純資産が過去最大を更新 23年連続で「世界一の債権国」

http://www.sankei.com/economy/news/140527/ecn1405270024-n1.html

 2位の中国が207兆6101億円ですから、日本は中国の1.5倍以上の断トツブッチギリの「世界一の債権国」なのであります。

 財務省の発表資料を確認しておきましょう。

f:id:kibashiri:20150428103453p:image:w640

為替相場の推移 主要国の対外純資産 - 財務省

https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/2013_g4.pdf

 グラフ化してみます。

f:id:kibashiri:20150428102732p:image:w640

 ・・・

 まとめます。

 日本政府が発行する国債はほぼ全て「円建て」です。

 例えばギリシャなどはユーロ建てですから、返済期日にユーロがないと破たんしますが、日本政府の借金は「円」ですので、そういったことが起きません。

 いざとなれば円を印刷すればいいわけです、日本はギリシャのような破たんはあり得ません。

 そうはいっても国債の信用が落ちれば利率が上がってしまいますが、世界一の対外純債権国であることから、世界一金融資産に余裕があります。

 結果、日本の毎月の経常収支は、貿易収支は赤字でも所得収支が大きく黒字なために、大きく赤字になることはありません。

(参考記事)

2月の経常収支、1兆4401億円の黒字 黒字は8カ月連続

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL06HIJ_W5A400C1000000/

 米英の格付け会社は、どうも日本の国債の評価を政府債務残高のグロス額だけに注目しているきらいがあります。

 結果、「世界一の債権国」である日本の信用が「シングルA」と中国よりも低評価になってしまうのであります。

 英米の大手格付け会社の「国債格付け」ですが、彼ら自身がリーマンショック時に認めたように、ひとつの意見に過ぎず、投資判断をそれに全面的にゆだねるべきではありません。



(木走まさみず)

2015-03-16 中国主導のAIIBの隠された深刻な問題

[]中国主導のAIIBの隠された深刻な問題〜中国基準の乱開発が大気汚染や土壌汚染をアジア全体に拡散する危惧 17:09




 中国財政省は12日、中国が主導して設立する国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に英国が参加を申請したと発表しました。

 先進7カ国(G7)で参加申請したのは英国が初めてです。

 中国の影響力拡大を懸念する日本や米国はAIIBと距離を置いていますが、今後は西側諸国からの参加が増える可能性があります。

 中国財政省は「英国の決定を歓迎する」との声明を出しました。

 AIIBには、これまでに27カ国が参加を決めています、東南アジア諸国連合(ASEAN)の全10カ国や中東、中央アジアの国などが中心で、西側ではインドやニュージーランドが加わります。

 中国が最大の出資国として主導権を握り、年内に設立する予定。

 一方日本政府ですが、麻生太郎財務相は13日の閣議後の記者会見で、中国が主導して設立する国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)による融資の審査や組織運営に不安があることを理由に、日本の参加が「難しい」との認識を示しています。

 岸田文雄外相も記者会見でAIIBに関し「公正なガバナンス(統治)を確立できるかを慎重に検討している。参加には慎重な立場だ」と強調しました。

 英国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)参加の背景には、同国の徹底した現実志向があるようです。

 英政府は対露制裁の長期化などで欧州経済の悪化が避けられない中、中国との関係強化を図り投資を呼び込むことで経済の活性化をもくろんでいるとの見立てです。

 この動きに対してアメリカは不信感を隠しません。

 英紙フィナンシャル・タイムズは「米ホワイトハウスは同盟国・英国に対し批判することがほとんどなかったが、英国のAIIB参加については『英国は中国を絶えず助けている』と異例の批判した」と報じています。

 日米の慎重な態度とは対照的に英国の参加表明は他のG7諸国に刺激を与えたようです。

 国際金融筋によると、ドイツが水面下で中国と参加交渉を急いでいるとの情報もあります。

 また訪日中のローラン・ファビウス仏外相は14日、東京での記者会見で、AIIBに加入するかどうかについて質問されると、「どのような形式で(AIIBに)参加するか検討している」「AIIBは(性格的に似ている)アジア開発銀行(ADB)に影響を与えないと思う」と答えます。

 ファビウス外相のこうした発言は、AIIBが米国と日本が共に最大の出資をしているADBの活動を妨げることはないだろうと見ているとの意味で、日米よりも中国に友好的な発言をしたものと受け止められています。

 同じ日にジョー・ホッケー豪財務相も「これまで(中国に)要求してきたAIIB支配構造の問題がはっきりと改善された」と前向きな見解を表明、トニー・アボット豪首相は「数週間以内にAIIBに参加するかどうかを決める」と語ります。

 つまり、英国がAIIB参加を正式に表明してから1日でフランスとオーストラリアがAIIBに参加する意思があることを明らかにしたものであります。

 ・・・

 1966年以来50年近くADB(アジア開発銀行)を米国とともに主導してきた日本としては、中国主導のAIIBとどう向き合っていくべきか、判断が迫られる難しい状況となりつつあります。

 この問題、いろいろな角度から検討すべきなのでしょうが、非常に重要なポイントとして、インフラ投資と環境アセスメント、環境をいかに守りながら開発していくのか、という視点です。

 日米が主導してきたADB(アジア開発銀行)は、近年、融資案件における環境影響評価に力を入れています。

 大規模な経済開発は、アジア開発銀行のような先進国援助機関による融資などの協力を受けて事業化される案件が多く、途上国で行われている環境影響評価とこれらの援助機関の環境影響評価に関するガイドライン強化がなされています、一言でいえば大気汚染や土壌汚染などの環境破壊を伴う可能性が大きい経済開発には、計画を変更しない限り、融資はなかなか許可されないわけです。

(参考資料)

国際協力における環境アセスメント

https://www.env.go.jp/earth/coop/coop/document/09-eiaj/09-eiaj.pdf

 これが大規模な経済開発の需要が旺盛な途上国には、ADBの審査は厳しすぎる、先進国主導だといった批判を生んでいるわけです。

 そこに中国主導の新たなAIIBが今年から設立され、旺盛なアジア諸国の開発需要にこたえるべく1000億ドル(設立当初は500億ドル)の巨額の運用資金を中国が50%用意することで、中国の主導で投入されるというわけです。

 仮に中国主導のAIIBがADB(アジア開発銀行)などの既存国際機関の高水準の環境影響評価を取らず、審査基準を緩和した場合、現中国大陸で問題視されているような、大気汚染や土壌汚染などの乱開発・環境破壊が、アジア全体に広がる恐れが危惧されるわけです。

 これは杞憂ではありません、中国によるAIIBの設立動機のひとつが、途上国のニーズに応える「迅速」な融資にあるわけです。

 日本はAIIBに参加して内側からその運用を厳しく監視するべきか、それともAIIBには参加せず外側からその運用を監視するべきか、判断が迫られています。

(参考記事)

中国主導のアジアインフラ銀「英国が参加申請」

http://www.sankei.com/economy/news/150313/ecn1503130011-n1.html

中国主導の国際銀行AIIBへの日本の参加「難しい」 麻生財務相

http://www.sankei.com/economy/news/150313/ecn1503130037-n1.html

英、露骨な現実志向 中国投資に期待

http://www.sankei.com/world/news/150314/wor1503140007-n2.html

米高官、英政府を批判 「相談なかった…」

http://www.sankei.com/world/news/150314/wor1503140004-n2.html

英の中国接近で米英同盟に隙間風

http://www.sankei.com/world/news/150314/wor1503140060-n1.html

中国がG7に「風穴」 英独は参加へ 日米は慎重 3月末に駆け込み申請も…

http://www.sankei.com/economy/news/150314/ecn1503140004-n2.html

「英国は厳しい基準のため、圧力を」 米国務省報道官、参加に注文 

http://www.sankei.com/world/news/150314/wor1503140027-n1.html

英加入のAIIB、仏豪も「参加検討」

米「英は中国助けている」と批判

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/03/16/2015031600521.html

中国主導インフラ銀への参加 今月中に結論=韓国

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/03/15/2015031500526.html


(木走まさみず) 

2015-01-06 アベノミクスは成功するのか

[]アベノミクスは成功するのか〜大企業を「守銭奴」から国内「投資家」に変えられるかがカギ 16:02


 6日付け読売新聞記事から。

内部留保は「守銭奴」…麻生氏、賀詞交歓会で

2015年01月06日 07時43分

 麻生副総理・財務相は5日、東京都内で開かれた信託協会の賀詞交歓会であいさつし、企業が手元にためる内部留保(利益剰余金)が増えていることについて、「まだお金をためたいなんて、単なる守銭奴に過ぎない」と述べた。


 麻生氏はこれまでも、黒字企業が積極的に設備投資や賃上げをしていないと批判してきたが、「守銭奴発言」で波紋が広がりそうだ。

 麻生氏は「内部留保は昨年9月までの1年で304兆円から328兆円に増えた。毎月2兆円ずつたまった計算だ」と指摘。「その金を使って、何をするかを考えるのが当たり前だ。今の日本企業は間違いなくおかしい」と強調した。

(後略)

http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150105-OYT1T50170.html

 うむ、麻生さんが都内で開かれた賀詞交歓会で、史上空前の規模で膨れ続けている大企業が手元にためこんでいる内部留保(利益剰余金)について、「まだお金をためたいなんて、単なる守銭奴に過ぎない」、「今の日本企業は間違いなくおかしい」と痛罵(つうば)したとのことであります。

 麻生さん、よく言ってくれました。

 今回はこの史上空前の規模で膨れ続けている大企業が手元にためこんでいる内部留保金の問題について、読者のみなさんとともに考えたいと思います。

 ・・・

 当ブログでは2年前の1月、まさにこの問題を取り上げ、アベノミクスを支持しつつ、アベノミクスが単純なGDP成長だけを目指すなら失敗に終わることに警鐘を鳴らしました。

2013-01-14■予言しましょう、ここを守れなければ自民党政権は必ず崩壊する〜アベノミクスの目指すべきはGDP成長だけではダメな理由を統計データで徹底検証してみる

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130114

 このエントリーはネットで少なからずの議論をいただきましたが少し内容を抜粋して再掲しましょう。

 さて、日本の戦後最長の好景気は、2002年2月から景気回復期に入って、2007年10月まで、実に69カ月間も好景気が続いたと後に認定され、それまでの過去最長だった「いざなぎ景気」の57カ月を、丸1年も上回る新記録だった「いざなぎ越え景気」でありました。

 自民党の政権でいいますと、小泉政権(5年)、安倍前政権(1年)あたりの時代と重なっています。

■図1:企業経常利益総計の推移(1996−2010)

f:id:kibashiri:20130114145241p:image:w640

 見やすいようにグラフ上で「いざなぎ越え景気」の期間を紫色で示しました(以下のグラフにても同じ)が、ご覧いただいたとおり、この期間で企業経常利益総計は、2002年の31.0兆から2007 年の53.5兆にほぼ右肩上がりに伸びていたことが見て取れます。

 ピークは2006年の54.4兆で日本の企業収益は戦後最高値を記録します。

 確かに統計データからはこの期間で日本経済が好景気であったことを示しています。

■図2:日本の実質GDPの推移(1996−2010)

f:id:kibashiri:20130114145242p:image:w640

 ご覧の通り日本の実質GDPも、2002年の477.9兆から2007年の523.7兆へと一本調子で拡大しています。

 図1と図2のふたつのグラフを重ねてみれば企業経常利益の増減と実質GDPの増減がほぼ連動していることがわかります。

■図3:企業経常利益総計とGDPの推移(1996−2010)

f:id:kibashiri:20130114145244p:image:w640

 さて、この小泉政権と安倍前政権時代の戦後最長と言われた「いざなぎ越え景気」でありますが、多くの国民に取りまったく実感がない「好景気」として印象が薄いのです。

 この期間、実は一部大企業にその益はとどまり、それ以外の中小企業や一般庶民には「好景気」の果実がまったく還元されなかったのです。

 それどころかこの期間「好景気」にもかかわらず民間会社の平均給与は下がり続けています。

■図4:民間(1996−2010平均給与の推移)

f:id:kibashiri:20130114145243p:image:w640

 ご覧のとおり、この国の民間平均給与はほぼ一貫して下がり続けています、「好景気」の期間でも2002年の447.8万から2007年には437.2万とほぼ右肩下がりで給与は落ちています。

 2006年の54.4兆で日本の企業収益は過去最高益を記録していたにもかかわらず同時期民間平均給与は上がるどころかむしろ下がっているのです。

 2つのグラフを重ねればそのコントラストが明らかです。

■図5:企業経常利益総計と民間平均給与の推移(1996−2010)

f:id:kibashiri:20130114145245p:image:w640

 企業収益は過去最高益であるにもかかわらず平均給与は下がり続けました、多くの国民に取りまったく実感がない「好景気」だったことが統計データで裏付けられました。

 財務省の公開データより2002年−2007年の資本金規模別の平均給与の推移表を見てみましょう。

■表4:企業規模別平均給与の推移(2002−2007)

千万以上2千万以上5千万以上1億以上10億以上
2002339.5362.7376.9413.1544.9
2003313.1356.4356.8412.3532.8
2004330.4353.9357.4409.7536.9
2005337.3329.8358.5409.2542.9
2006308.1347.1350.0404.5546.0
2007309.0347.2351.6406.6545.7

 2002年と2007年の数値に注目してみてください、例えば資本金千万以上の零細企業では339.5万から309.0万と年収で30万以上減じていますように中小零細企業ではすべての階層で給与が減っていますが、10億以上の大企業従業員の給与だけはわずかですが上回っています。

■図6:企業規模別平均給与の増減(2002−2007)

f:id:kibashiri:20130114155432p:image:w640

 当時のエントリーはこうまとめています。

 まとめです。

 企業収益の中に占める賃金の比率すなわち労働分配率を日本の企業は低めてきました。

 政府統計を分析すると、02年以降の景気回復は、就労人口で全体のわずか7.5%に過ぎない大企業によって牽引されていたことがわかります。

 そして、この7・5%の人たちに限れば、実は平均給与の減少の動きはにぶいのです。

 しかしこの輸出企業を中心とした大企業は利益をこの国の市場に還元することなく内部留保してしまいます、その額は現在300兆に届かんとしています。

 一方、92.5%の労働者が働く中小零細企業では、もはや以前のような高い労働分配率は維持できなくなっています、現代社会の「所得の二極化」「格差社会化」が「好景気」でかえって進む背景がここにあります。

 アベノミクスがGDP経済成長重視でデフレ脱却を目指すこと自体は私は支持します。

 しかし前回の「好景気」のようにその成長による配分が一部大企業のみに集中し、多くの国民に還元されず、アベノミクスがこの国の「所得の二極化」に拍車を掛けるだけだとすれば、国民の支持を急速に失うことでしょう。

 デフレ脱却できても国民の所得が増えなければそれはただの悪政インフレになりかねません。

 国民の所得アップ、ここを守れなければ自民党政権は必ず崩壊すると予言しておきます。

 ・・・

 さて、330兆もの黒字大企業の内部留保金を社員の給与に還元したり国内設備投資に向かわせ、経済波及させるにはどうしたらよいのでしょうか。

 徹底的にお金を貯めこむという企業のデフレマインドを破壊しなければなりません。

 それにはデフレ脱却しかありません。

 デフレのもとでは、輸出依存型の成長ではそれが仮にGDP成長にいくら寄与したとしても、国民には還元されないことは前回のいざなぎ越え景気(2002年から5年9ヶ月続いたとされる好景気)の間に、大企業は過去最高益を挙げたにもかかわらず労働者平均所得は下がり続けたことからも統計的に証明されています。

 貿易で得られた利益はすべて多国籍大企業にプールされ、そこではこれまた空前の内部留保金が膨らんでいるのです、国内には還元されていません。

 デフレ下で交易を活性化しても多国籍大企業に受益が集中するだけです。

 まずデフレを止め、日本経済を内需型経済成長路線にしなければなりません。

 私は中小企業や零細企業のITコンサル業をしていますが、経営者達の現場の苦悩を、いったい経済学者や政治家やマスメディアの何人が理解しているでしょうか。

 日本経済は中小零細企業が支えているのです、この国の労働者の8割の雇用を支えているのが中小零細業です、ここを活性化しないで日本経済の復興はないのです。

 デフレがいかに深刻な経済的病(やまい)なのか。

 中小零細企業を守る立場からデフレの説明を試みます。

 ・・・ 

 デフレ、デフレーションはズバリ「モノの価値が下がり続けること」であります。

 したがってデフレが続く世の中では消費が冷え込みます。

 簡単な話、現在10000円で購入できるモノが、来月になれば1割引きの9000円で購入できるならば多くの消費者は購入を手控えるでしょう。

 せっかくモノを買ってもその商品価値が値下がり続けるならば、多くの人・企業は必要以上のモノを購入することは手控えるはずです。

 つまりデフレが続くとモノを購入したり投資したりするよりも何もしないでお金を持っているほうが賢いのです。

 これを「経済合理性」といいます。

 「モノの価値が下がり続けること」、これを言い換えれば「カネの価値が上がり続けること」と同値です。

 したがって、あなたがカネをいっぱい所有しているお金持ちであるならばデフレは天国です。

 ただ持っているだけであなたの購買力はどんどん増えて行きます。

 もしあなたがカネを持っていない、逆に借金しかない貧乏人か零細企業ならばデフレは地獄です。

 あなたはカネは持ってませんが借金(マイナスのカネ)を持っていますから、ほっておくとその重みは年々増え続けます。

 デフレですからあなたの所得は伸びません、へたすると減少を続けます、でも月々の返済は待ってくれません。

 これが庶民からみたデフレの正体です。

 デフレは多くの庶民や中小零細企業にとって地獄なのです。

 デフレの真の恐ろしさは、借金をしている庶民や零細企業に対してその牙を向けるところです。

 これはこのデフレ不況の中、収入が不安定なのに住宅ローンを抱えているたくさんの善良な庶民にとっても同様なことがいえましょう。

 収入は減るのに毎月の元利払いは変わらず、重くのしかかってくるのです。

 ・・・

 今、アベノミクスにより円安になりつつありますが、今のデフレが続くことに「心地よい」人たちが日本のエスタブリッシュメントすなわち政策決定層にたくさんいますので、彼ら、経団連や財務省官僚やそれにマスメディア、そして悲しいかな少なからずの政治家たちも、デフレ対策よりも、消費税増税に熱心なわけです。

 今、経団連などの大企業は史上空前の内部留保金をセッセと溜め込んでいます。

 デフレですからそのカネを国内に投資などしないで持っているほうが「経済合理性」があるからです。

 ですからどんなに貿易量が増え経団連などの大企業が利益を得て日本のGDPが上昇しても、デフレである限り、そのカネは国内に還元されることはないのです。

 論より証拠、2002年から5年9ヶ月続いた「いざなぎ越え景気」のとき、大企業は空前の利益を得ましたが、デフレ下のこの好景気、我々庶民にはまったく還元されませんでした、その期間も日本の労働者の平均所得は下がり続けたのです。

 ・・・

 いっぽうインフレになれば「モノの価値が上がり続けること」になりますから、「カネの価値が下がり続けること」と同値ですから、お金をいっぱい持っているお金持ちや大企業にはインフレは困りモノです。

 カネをただもっているだけではどんどんその価値が下がってしまうからです。

 インフレになると大企業やお金持ちはモノに投資するようになります。

 モノの価値が上がり続けるのですから、下がり続けるカネを上がり続けるモノに早めに変えたほうが得なわけです。

 これも「経済合理性」といいます。

 インフレになれば同じ理由で大企業も内部留保金を減らして人やモノに投資するようになります。

 ・・・

 デフレ対策と円高対策は同根です。

 一般論としてある通貨(カネ)の価値を下げるのは簡単で、お札をバンバン刷って市場にばら撒けばいいのです。

 事実、自国通貨を下げたいアメリカもヨーロッパもバンバンお札を刷っていました。

 これを金融緩和といいます。

 と同時に輸出産業主導ではなく内需主導の経済成長戦略をとれば、国内に多くのカネが流通するようになります。

 日銀黒田バズーカがまさに実行しているようにバンバン長期国債を発行し借金して、必要ならばその長期国債を日本銀行がドンドン買い取ればいいのです。

 円の価値は下がりますので「円高」も止まり、そしてデフレが終わりゆるやかにインフレがはじまればよいのです。

 インフレが始まれば、つまりカネの価値が下がり始めれば、お金持ちや大企業は投資に熱心になります。

 ただカネを持っているだけではドンドン損をしてしまうからです。

 こうして内需拡大がうまく軌道に乗れば、カネが回り始めるはずです。

 ・・・

 まとめます。

 当ブログはアベノミクス政策を支持していますが、今年はアベノミクスが成功するか、それとも失敗して国民の支持を失うのか正念場であります。

 その成否は大企業に集中してせき止まっている余剰金を循環させ、地方経済や中小零細企業の活性化を実現し、国民所得の向上にまで繋げることができるかどうかにかかっています。

 当ブログの主張はいわゆる「リフレ派」に近いものです。

 リフレ政策をしっかりしていただくことです。

 物価上昇はインフレといいますが、リフレは英語では「リフレーション」といって「通貨再膨張」を意味します。そのための金融緩和は、銀行などが持つ金融資産を日銀が買い上げて、銀行にお金を供給し、銀行がそれにより貸し出しを増やして市中の流通量が増えれば物価上昇が期待できるという論法です。

 しかも緩やかで安定的なインフレを目指し、年率換算で数%のインフレ率を想定しています。金融緩和で中央銀行による国債の買い上げを積極化しますが、インフレ目標に達したなら、いったんそこで緩和の手を緩めて、インフレ目標の維持を基本にするわけです。

 だからリフレ派の人たちは、「人々は物価が上がる前にモノを買おうとするので、消費が増え、企業の売り上げや儲けが増える」と考えます。お金の価値が下がると予想すれば、預金をおろし不動産や株式などを買おうという行動に出ます。投資が活発化するというわけです。

 アベノミクスで、金融緩和が本流となったことで円安となり、日本の輸出企業が業績好転し、株式市場が好調になったのもこの考え方が効を奏しているわけです。

 繰り返しますが、アベノミクスその成否は大企業に集中してせき止まっている余剰金を循環させ、地方経済や中小零細企業の活性化を実現し、国民所得の向上にまで繋げることができるかどうか、この一点にかかっています。

 一部経済学者はアベノミクスは出鱈目だと批判しています。

 その批判が正しいかどうか、アベノミクスの真価が問われる一年です。



(木走まさみず)

通りすがり通りすがり 2015/01/06 17:07 木走さん、もう少し賢くなりましょうよ

黒曜黒曜 2015/01/06 19:16 通貨には相対的な価値しかないはずなんでリフレ政策はもっと簡単に物価に影響してインフレ傾向がでてよいんですけどね。何らかの硬直性が働いているようにもおもわれます。
オカルトですが、200円硬貨を発行するとか、50%デノミを行うとかすると効果がでやすいかもしれません。

fnoithunderfnoithunder 2015/01/07 02:59 企業の業績、給与などは「名目値」であるのに対し、GDPだけ「実質値」を利用されていらっしゃるようです。GDPも名目で比較すべきではないでしょうか。

sakimisakimi 2015/01/08 01:11 そもそも、根本的なおQ思想の連中を何とかする方法考えましょうよ
内部保留反対用には使えますけども

戦後の大企業に育った会社ってのは、従業員を雇い給料を出して税金を払い国を支える事こそが重要って会社がほとんどですよ

この辺は、松下幸之助や本田総一郎もそんな言葉を残しています

「恥」と言う物をもう少し考えるべき時代なんだろうな