レオナルドは『絵画論』の中で、暗い部屋で灯火に照らされた人物を
どのように描くべきか説明しているが、夜景画を描いた形跡はない。
彼は、光を強調せずに闇を描いた画家であった。
それは、暗さを目的としたものではなく、微妙な光によって立体感や
空間の奥行きを表し、精神的な深みを現出することをねらったものである。
彼はあえて強烈な光や明暗の対比を避け、靄でかすむような風景や
闇の中に、人物を溶かし込むようなスフマートを確立したが、
それがもっとも効果的に現れるのが、
背景が闇で覆われたときであったのである。
(宮下規久朗『フェルメールの光とラ・トゥールの焔 ―「闇」の西洋絵画史』より抜粋)