怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

キュンチョメ「ここではないどこか」展

朝から世界堂へ出かける。お客さんはあまり見かけないのだが、それでも暇そうでもなく、声はかけ辛かったがなんとか女性店員さんに頼んで額をみつくろってもらった。写真を見せた時、「わ、素敵!」と頬のそばで手を組んだのがすごく新鮮な反応で、正直かなりうれしかった。思った通りごちゃごちゃした重いものよりシンプルな方が合うが、多少は飾り気のあった方が引き立つとのアドバイスもあり、僕自身の感性と近かったこともあってか、割とすんなり決定。額入れなどをここでするのかと思ったがそんなことはなく、普通に商品を渡された。なんか作業してるのは、あれは画廊から託された奴とかそういうのかな。
まあでも一つ肩の荷が下りた気分。
妻が神宮球場に出かけたので、お昼はどうしようと思ったが、ここは素直にぺヤングの和風焼き蕎麦。なるほど、蕎麦を汁なしにしたような味わいで、これは結構いける。まあ常食することはないが、うまく考えたものだなと思った。
午後から高円寺へ。
まず目的地である素人の乱12号店・ナオナカムラへ。古いビルの奥にある使いように困るタイプの部屋でキュンチョメ個展「ここではないどこか」が行われていた。最初に芳名帳に記入を求められて不思議だったが、これは後からわかる仕掛け。
入口を入ると敷き詰められた赤い米を踏みしめてその突きあたりに中指を立てた大きなぬいぐるみがある。「ぬいぐるみを着て中指を立てているような気がする」。この言葉の力。自分より大きなぬいぐるみだが、中の人はたぶん同じくらいのはずだ。でもぬいぐるみを着ているから見下ろされているような気になる。中の人が誰だかわからないが、相手には自分が見えている。そんな気分を形にした作品。というと陳腐に聞こえるかもしれないが、陳腐なようでいて実に鮮烈だ。その微妙な線を綱渡りしているのがキュンチョメの面目躍如ではないか。
奥の部屋には映像作品が3点でうち1点は「DO NOT ENTER」。3点のほかに作品とは言えないが前フリのようなものもあり、これがまた面白い。ケラケラ笑いながら被災地に踏みこんでいく様子がキュンチョメらしい。写真作品も3つと、あとはインスタレーション的なものもある。
「人という字」は、車などの廃物にスプレーで「人」を書いていく作品だ。廃物とはいえ他人のもの。それに落書きすることに、戸惑いを覚えないわけではない。だけど、その戸惑いこそが作品の本質だと感じた。車が大破していようがそれは所有者のものだという感覚は、一方でその所有者の不在を際立たせる。落書きをする行為は、所有者の不在を示す行為であり、戸惑いを覚えることで僕はその不在に心を動かされる。
「遠い世界を呼んでいるようだ」も同じ感覚で成り立っている。迷惑行為と紙一重であるその遠吠えは、呼ばれる相手を絶妙の繊細さで眼前に浮き上がらせる。濃くもなく、薄くもなく。そのニュアンスの素晴らしさがキュンチョメの作品をアートにしていると思う。
会場の一番奥には3部のテキストが置かれていた。ふだんは作品解説はあまり見ず、自分の感性で考えたい自分だがふと手に取った。そして全部をじっくり読んだ。作品制作にあたっての文章だった。(のちに、それがキュンチョメさんの日記だと知った)。キュンチョメさんが東北に入るにあたって、実際に何を感じ体験しながら作品に昇華させていったのか。それが全部ここにあった。凡百の解説を軽々と越える、作品の本質がここにあった。生々しく、ごく普通にふざけながら、真摯に、ちゃんぽんを楽しみにし、死んだ燕を悼む。とても普通で、だからこそ普通の僕に響いてくる。これを読まずに会場を後にした人もたくさんいると思うけど、それはもったいない。来たなら必ず読むべきテキストだった。キュンチョメの作品は言葉の力がすごく大きい。この日記はキュンチョメの言葉がズバズバ胸をえぐる理由を示していると思った。
会場の最後には自分あての手紙。キュンチョメは最後まで言葉の人だ。どこまで自覚的なのかわからないけど、言葉の力をうまく使った時、キュンチョメは最高にエモーショナルだ。
会場の外にはプライスリスト。悩んだ。悩んだ末に、決めかね、会場を後にしかけて舞い戻って小さな作品集だけを買った。この決めかねたことが二日後に悔悟の種を残すことになるんだが。
駅北の古本屋を数軒まわり、南にまわってとよんちのたまごで王卵とプリン。アニマル洋子太宰治佐内正史のコラボ本「女生徒」を100円で。どうしようかなと思いつつ帯を眺めたら素晴らしい推薦文が書かれてて、じゃあ買うかと思って最後まで読んだら、書いたのはエレカシの宮本氏。いい文章だ。この推薦文だけでも価値がある。いい買い物をした。
ブックオフが500円以下のCD半額セールをやっており、そうなれば当然じっくり棚を漁ることになり、結局5枚購入。Tommy Guerrero「SOUL FOOD TAQUERIA」、Garage A Trois「Always Be Happy, But Stay Evil」、tronikasketch show」、Golden Silvers「True Romance」各250円、Primal Scream「Beautiful Future」125円。しかも50円引き券までくれたので合計1075円でした。帰って聴いてみたらどれも好盤で、たいへんありがたいことです。
夕食は小松菜の辛し和え、生湯葉、赤魚の西京漬け。まあそんなに悪くないっていうか、失敗するようなものじゃないから当然か。
食後にプリンとコーヒー。プリンは卵のうまみが濃厚でおいしかったが、値段もそこそこするので今回限りかな。そもそも買える機会があんまりないし。