こんにちは、木村耕一です。
「一炊の夢」「愚公山を移す」「蛍雪の功」など、中国の故事成語のエピソードを、これまで『こころの道』や『こころの朝』などに書いてきました。
故事成語といっても、その数は、数千もあります。
小学生向けの参考書でさえ、数百も載っています。
故事成語には、一つ一つに、その言葉が生まれた背景があります。
苦労して成功したり、調子にのって失敗したりした教訓が、短い言葉になって表されたのが「故事成語」です。
数千年前からの、人間の経験、知恵、知性の集積といってもいいと思います。
その中には、現代の私達にもプラスになる言葉が、たくさんあります。
たとえば、「鉄杵(てっしょ)を磨く」の由来は、次の通りです。
中国の唐の時代に、李白という青年がいた。
ある山で、詩や文章の勉学に励んでいたが、途中でイヤになって投げ出してしまった。
帰ろうとして、小川を渡った時、鉄製の大きな棒を、一心不乱に磨いている女性に出会った。臼(うす)で穀物をつく時に使う杵(きね)の一部らしい。
不審に思った李白が尋ねた。
「なぜ、そんな鉄の棒を磨いているのですか」
「どんどん小さくして、一本の針を作ろうと思っているのです」
驚くより、あきれてしまった李白。
「そんな太い鉄の棒を、いくら磨いても細くはならないでしょう。まして、布を縫う時に使う針など、作れるはずがない!」
しかし、彼女は、静かに答えた。
「やってもいないのに、どうして分かるのですか。この世には、一生懸命にやって、できないことは、一つもないと思います」この言葉に感動した李白は、再び、山への道を引き返し、勉学に励む決意をしたという。
以後、幾多の困難に直面したが、「鉄の棒を磨いて針を作る苦労に比べれば、これくらいは苦労とはいえない」と奮起し、努力を続けたのであった。
李白は、詩人として大成する。
自由奔放でスケールの大きい作品は、高く評価された。後世の人々から「詩仙」と呼ばれて、杜甫、白居易と並んで、絶賛を受けるまでになったのである。
この李白の逸話から、「鉄杵(てっしょ)を磨く」という故事成語が生まれた。
どんなに難しいことであっても、努力を続ければ、必ず成し遂げられるのだ。
(木村耕一著 新装版『こころの道』より)
このように、生きる力になったり、生きるヒントを与えてくれる故事成語を集め、その由来と教訓をまとめて、新しい本を作りたいと思います。