生物多様性という名の革命・その2

前日のつづき。

生物多様性という名の革命

生物多様性という名の革命

生命多様性は知的資源。金になるよ。

ブッシュマスター(南米産の毒ヘビ)の毒の作用機序の発見が、アナロジーを通じて高血圧治療薬カポーテンの開発へとつながり、製薬会社に年間十三億ドルもの純益をもたらしている。また、米科学財団の調査団は、いまでは西部のある温泉地帯だけに生息して絶滅に瀕しているデザートパブフィッシュは、熱への耐性を研究するための素材となるので保護すべきだ、と述べている。

観光がビジネスになる。コスタリカでは1993年までに観光業がバナナやコーヒー栽培を抜いて最大の税収入源に。

コスタリカはまた、ウェストヴァージニア州ほどの面積の小さな国でありながら、その印象的な地形が、生息場所の壮観な多様性をもたらしている。この芥子粒のような生態景観のなかに、おそらく地球上の種の5%が生息しているのである。生物学者やジャーナリストたちはコスタリカ生物多様性の”約束の地”だと絶賛し、この土地を大切にしている人々を高く評価する。部分的にはこの賞賛のおかげで、ここでは生態学的な奇跡がしばしばおきている。いまから数十年前、生物学者たちがコスタリカ生態学者のユートピアとして絶賛しはじめ、そして現金が流れこみはじめた。生物学者が口をあけさえすれば、自然保全関係の財団がお金をほうり込んでくれるようになった。そしてエコ・ツーリストたちが、それに続いた。止まる気配のない循環がはじまった---カネが生態学の夢を実現させ、そして生態的な楽園がさらなるカネを誘いだす。
(略)
しかし、楽園にも厄介な問題がある。じつはコスタリカの大半の土地は、生態学的には悲惨な状態にある。公的な保護区が国のおよそ四分の一をしめているが、そのかなりの部分は自然度が低く、また保護区以外の土地の多くは、生物多様性という見地からは荒涼とした荒れ地なのである。1990年代のはじめには、コスタリカ森林伐採率は世界でも最高だった。

私企業が自然を収奪してるという批判には

INBioは一民間団体であり、コスタリカの遺産をきわめて安価な値段で、しかも密室でかわされた契約書にもとづいて売り払っていて、地域共同体や土地固有の知識の持ち主たちにほとんど利益をもたらしていない。
私はガメスおよびINBioの生物多様性探査責任者であるアナ・シッテンフェルドにインタビューしたときにも、これらの批判について話をむけてみた。二人の答えはいずれも、INBioは民間団体ではあるが、政府の特別委員会によって創設され、その決定によって現在のかたちになったのだというものだった。しかも、公共の利益のために働くという命令を受けた民間団体であり、その命令を実行しているのだと。ガメスは多数の民間組織、たとえば漁業会社、コーヒー栽培者、エコツーリズムの団体、木材伐採業者が、コスタリカ生物多様性を営利化していることを指摘する。「木材会社が木材という生物多様性の産物を森から得ているならば、どうして残りの森林を破壊できるでしょう」。

自然のために売られるもの

自然の審美的な豊かさの全体性を保存するために、その化学物質の抽出物や遺伝子の断片を売っている。(略)
彼らは生物多様性を愛している。生物多様性は彼らの生命を維持する血液なのである。しかし、この愛を持続するには、その愛情の対象を売り払わねばならず、そして堕落する。このようなまったく矛盾したことを、並行して進めることができるのだろうか? 野生の豊かさを保全する唯一の道がそれを八つ裂きにし、もっとも高値をつけた国際的な入礼者に競売することだなんて、私たちの世界は本当にそんなものなのだろうか?(略)
生物多様性に捧げられたこの研究所では(略)自然が変容させられている。罠で捕らえ、押しつぶし、自然の破片をどろどろの化学物質に変え、それからバーコードをつけ、ジップロックのビニール袋に注入し、国際的企業に発送することによって、INBioは自然の大きな固まりを汚れのないままに保存し、生態学的なプロセスと進化的なプロセスが衰退せずに持続することを保証しようとしている。

自然に触れるとスピリチュアルな体験するけど

その日の午後は激しい雨でした。夕方の六時半ごろ、私はずっと遠くにヌーがいる気配を聞き取り、彼らがこちらに向かっていることを知りました。ヌーの群れはその夜にやってきました。草原はたっぷりと水を含んでいました。その写真を撮られたとき、私は朝食をつくっていたんです。朝食を済ませたあと、草原に腰を下ろしました。まわりにはヌーの大群、地面は湿り気を帯びています。そのとき私は、自分のまわりに何か大きなものがあり、力を働かせているという感じを抱いたのです。……大地のなかに、雨のおかげで精気を吹き込まれた生命の脈動を感じ、あらゆるヌーたちの存在や、草が成長していくのを感じ取ることができたのです。それが、私にとってのスピリチュアルな体験です。数値化することはできませんが、非常にリアルな体験なんです。

ディープ・エコロジーと一緒にしないでと

このような生命を中心に置くスピリチュアルな考え方は、ディープ・エコロジー運動と強い類似を示す。(略)ディープ・エコロジストたちは、みすがらの信仰を実践し、聖なる存在と見なすものを守るために、思い切った行動に出ることがある。環境保護団体「アース・ファースト!」による樹本の占拠や妨害工作といった過激な戦術は、ディープ・エコロジー哲学の影響を受けている。
おそらく、そうした戦術はみっともないと考えているからか、「エコロジー」という言葉がすでにイデオロギー的な運動と結びついているからか、あるいは、自分たちが規定もできなければ先導もできないスピリチュアルな運動に協力したくないためか、私がインタビューした生物学者の大部分は、ディープ・エコロジーにかかわることを強く拒絶している。