『愛のメモリー』 OBSESSION
監督/ブライアン・デ・パルマ
脚本/ポール・シュレイダー
撮影/ヴィルモス・ジグモンド
音楽/バーナード・ハーマン
出演/クリフ・ロバートソン、ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド、ジョン・リスゴウ
(1976年・98分・アメリカ)
という訳で、デ・パルマ。『ファントム・オブ・パラダイス』や『ミッドナイトクロス』は何度も何度も見直してるので、学生時代に一度見たきりの『愛のメモリー』(1976年)を再見してみた。以下、ネタバレ注意です。
実業家のマイケル(クリフ・ロバートソン)は、誘拐事件で妻と幼い娘を失った。それから16年後、商用でイタリアを訪れたマイケルは、亡き妻と瓜二つの女性サンドラ(ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド)と出会うのだが・・・。
亡き妻にそっくりな女性に執着する男のお話で、言うなればデ・パルマ版の『めまい』。デ・パルマがヒッチコックのフォロワーだとレッテルを貼られるきっかけとなった作品だ。お話は勿論、音楽にヒッチコック作品常連のバーナード・ハーマンを起用するなど、あまりにストレートなオマージュの捧げっぷりには、そのレッテルも止むを得まいと思わされる。ただし、後年の『殺しのドレス』や『ボディ・ダブル』等に比べると、デ・パルマのトレードマークである残酷シーンやエロシーンは皆無で、映画の雰囲気は妙に格調高い。
脚本は『タクシードライバー』『レイジング・ブル』等、マーティン・スコセッシ監督との名コンビで知られるポール・シュレイダー。過去のトラウマに悩まされる主人公の造形はシュレイダーの得意分野であろう。撮影は近作『ブラック・ダリア』でもデ・パルマと組んだ名手ヴィルモス・ジグモンド。ソフト・フォーカスのかかったような不思議な画調で全編を統一している。
主演はフラーの『殺人地帯USA』や、カウフマンの『ミネソタ大強盗団』、最近では『スパイダーマン』のベン・パーカー役で健在ぶりを示すクリフ・ロバートソン。ヒロインは『まぼろしの市街戦』が忘れられないジュヌヴィエーヴ・ビジョルド。年齢不詳のルックスは正にハマリ役だ。脇にはデ・パルマ作品常連のジョン・リスゴウ。
実のところ『愛のメモリー』は、サスペンス・ミステリーとしてはいささか破綻をきたしている。随分手の込んだ事をする割には、犯人の動機が曖昧で、16年間も何やってたんだと思わず突っ込まれそうだ。主人公の行動はあまりに性急すぎて、これでは『めまい』ごっこをやりたかったのかと悪口言われても仕方ないところ。が、しかし。
久しぶりに見直してみて、改めて『愛のメモリー』は良い映画だと思った。確かに犯人探しのサスペンス・ミステリーとしては出来損ないかもしれない。が、これでいいのだ。決して報われぬ愛を求めて異国の街を徘徊する主人公にそっと寄り添い、その暗い情熱を共有するデ・パルマ演出には、映画でしか成し得ない陶酔感がある。クライマックスを迎え、主人公たちを祝福するかのごとくバーナード・ハーマンの甘美な音楽が高鳴り、抱き合う二人の周囲をカメラが何度も何度も回転する。このほとばしるエモーションを見よ! ゆったりした演出のテンポも好ましい。好き嫌いがはっきりと分かれそうな映画であるけれど、個人的には好きな映画です。
それにしても、本作におけるハーマンの音楽は素晴らしかった。サントラ欲しいなあ。