Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ランディ・ニューマン・ソングブック Vol.2』


 アメリカの生んだ偉大なるシンガー・ソングライターランディ・ニューマン。彼はノスタルジックかつロマンティックなメロディーと、時に皮肉で残酷な歌詞で「アメリカ」という国、そこに住む人々の暮らしぶりや人生を鮮やかに切り取って見せる。高い音楽性と、キャラクターになりきって歌う物語性の高い歌詞で独自の世界を築いている。


 ニューマンは、かつては「アメリカをテーマに歌う曲者ミュージシャン」という感じで比較的マイナーな印象であったが、今やすっかり映画音楽の大家である。『トイ・ストーリー』以降ピクサー・アニメの音楽を手掛けているので、彼の音楽と歌声は以前では想像出来ないくらい幅広く認知されている。ピクサー・アニメのDVDなど見ると、映像特典にひょっこりもじゃもじゃ頭の本人が顔を出してたりして。ライオネル・ニューマンアルフレッド・ニューマンら映画音楽の巨匠を伯父に持つという血筋もあるのだろうか、彼の音楽性と映画音楽というジャンルはとても相性が良い。ちなみに彼の曲は、映画音楽を担当した作品以外にも『メジャーリーグ』『アイ・ガット・メール』『ボルケーノ』『エスケープ・フロム・LA』(「I Love in L.A.」!)等様々なアメリカ映画で使われている。 


 そのランディ・ニューマンの新譜ランディ・ニューマン・ソングブックVol.2』が発売されたので早速聴いてみた。過去のソロ・アルバムから選りすぐった名曲をピアノで弾き語るセルフ・カヴァー・アルバムの第2弾である。彼のシンガー・ソングライターとしての魅力を堪能出来る好盤に仕上がっている。プロデュースはミッチェル・フルーム、レニー・ワロンカー。


 収録された曲は、


 M1. ディキシー・フライヤー Dixie Flyer
 M2. イエロー・マン Yellow Man
 M3. スザンヌ Suzanne  
 M4. 我が生涯の少女達 The Girls in My Life -Part 1
 M5. キングフィッシュ Kingfish
 M6. ルージング・ユー Losing You
 M7. サンドマンズ・カミング Sandman's Coming
 M8. 我が人生はうるわし My Life Is Good
 M9. なつかしのバーミンガム Birmingham
 M10. 昨夜の夢 Last Night I Had a Dream
 M11. セイム・ガール Same Girl
 M12. ボルチモア Baltimore
 M13. ラフ・アンド・ビー・ハッピー Laugh and Be Happy
 M14. ルシンダ  Lucinda
 M15. デイトン、オハイオ-1903 Dayton, Ohio - 1903
 M16. カウボーイ Cowboy
 


 知名度の高い曲は『ソングブックVol.1』に納められているので、それに比べると地味な感じもするけれど、ファンならば間違いなく楽しめるだろうと思う。ピアノだけのシンプルなアレンジになったことで、馴染みの曲が全く表情を変えていたり、オリジナルよりも歌詞がストレートに伝わるようになっていたり、逆にアレンジで補完していた意味が削ぎ取られて一層謎めいた曲になっていたり・・・。ファーストアルバム(1968年)から近作『Harps And Angels』(2008年)まで満遍なく選曲されているので、初めてランディ・ニューマンを聴くという人にはベスト・アルバムとしてもお薦め出来ると思う。


 個人的なベストトラックは、M1『ディキシー・フライヤー』、M10『昨夜の夢』、M12『ボルチモア』かな。M1のオリジナルが収録された『ランド・オブ・ドリームス』(1988年)は思い入れの深いアルバムなので、イントロ聴いただけで泣きそうになってしまった。さりげない言葉が忘れられない傷を残すM10、荒んでゆく故郷への思いを歌うM12のピアノ演奏は、オリジナルよりさらに力強い印象だ。


 ランディ・ニューマンのアルバムはどれもクオリティが高く外れが無い。中でもお薦めは、最高傑作の呼び声も高い『セイル・アウェイ』 Sail Away (1972年)であろうか。リイシューが繰り返され、今でもちゃんとCDショップに並んでいる名盤中の名盤。ピクサー・アニメの音楽などで興味を持った方は、是非手に取っていただきたい。



セイル・アウェイ

セイル・アウェイ