Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『やがて哀しき外国語』(村上春樹)

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)


 ロバート・アルトマンについて書かれた文章が載っていたなあと思い出し、村上春樹のエッセイ集『やがて哀しき外国語』(1994年)を再読。『やがて哀しき外国語』は、氏が1990年代前半にニュージャージー州プリンストンに暮らしていた時期の事を綴った「アメリカ滞在記」です。アメリカ文学アメリカン・ポップス、JAZZの憧れの地で暮らす喜びと、異国で暮らす違和感とが率直に描かれています。そもそもプリンストンを訪れたきっかけというのが「F・スコット・フィッツジェラルドの母校を見ておきたかったから」というのがいかにも!です。


 特に印象に残るのは音楽について書かれた文章でした。中古レコード店巡りの話なんて、音楽好きというのは著名な作家だろうとその辺のヲタ(私のことです)だろうと皆同じようなことするんだなあと親近感を覚えます。『雑文集』もそうでしたが、音楽について書く時の文章は本当に生き生きしているなあと思います。他には、プリンストン大学の日本文学の授業をきっかけに、英訳された日本の短編小説をさらに和訳して原文と比較してみるというエピソードが面白かった。


 アルトマンについて書かれた文章は、『ショート・カッツ』(1994年)の内輪の上映会に出席したエピソードでした。『ショート・カッツ』はレイモンド・カーヴァーの短編小説を映画化したもので、アルトマンお得意のマルチ・プロットを駆使した群像劇。カーヴァーの複数の短編をモザイクのように組み合わせて構成されているので、いくつの短編が使用されているのか数えながら見たなんて話が描かれています。カーヴァーを積極的に紹介してきた(全集まで編集してしまった)翻訳家としては、映画の出来にはそれなりに満足していたようです。アルトマンがオリジナルのエピソードとして付け加えた最後の地震(マルチ・プロットを収束する事件、『ナッシュビル』における大統領候補の狙撃事件のような)には違和感があったようですが。俳優陣の好演、特にトム・ウェイツとリリー・トムリンのカップルの掛け合いと、ティム・ロビンスのマッチョな警官の役作りを褒めてました。「見事にあっけらかんとした思わせぶりのないオフ・ビートな映画感覚」というのはアルトマンの映画を上手く言い表していると思います。


 アメリカとJAZZといえば、アルトマンには『カンザス・シティ』(1996年)とそこから派生した『ロバート・アルトマンのジャズ』という作品があります。村上春樹の感想が知りたいところ。どこかのエッセイか何かに感想が書かれてるかもしれないな。さておき、カーヴァーつながりで村上春樹ロバート・アルトマンがパーティーで同席してる絵面はなかなか面白いなあと思います。


ショート・カッツ [DVD]

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