Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身』(ジョン・フランケンハイマー)

セコンド アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身 [DVD]

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 ジョン・フランケンハイマー監督の異色サスペンス『セコンド』(1966年)鑑賞。『セコンド』は、以前信頼できる友人が面白いとプッシュしていて、TSUTAYAの発掘良品コーナーに並んでいるのも知ってたけど、何か悪い電波を発しているような不吉な感じがして見るのを躊躇っていたのであった。何がそんなに引っかかるのか自分でもわからないのだが。フランケンハイマーの骨太な映画が見たくなり、意を決して見ることにした。


 平凡な日常に倦んだ中年男アーサー・ハミルトンが、ある秘密結社によって整形手術を施され、画家のトニー・ウィルソンという別人に生まれ変わるが・・・というお話。お話としては「ミステリー・ゾーン」の1エピソードみたいなネタだなあと。もしくは藤子不二雄Aの『笑ゥせぇるすまん』的というか。しかし、過剰な演出が次から次へと繰り出されて、とても単なる教訓話としては収まりきらない異様な映画であった。


 ジェリー・ゴールドスミスの音楽が珍しく前衛的な響きを聴かせるタイトルバック(タイトルデザインはソウル・バスからして、神経を逆撫でされるような嫌あな感じ。タイトルが終わると、いきなり歪み切った異様なキャメラアングル(撮影は名手ジェームズ・ウォン・ハウ)で駅の雑踏に突っ込む主人公の視線が見るものを不安に陥れる。主人公の元に旧友を名乗る男から執拗に電話が掛かってくるあたりで、「ああやっぱり見るんじゃなかった」と思った。


 顔を変え、第二の人生を始めて調子に乗って浮かれた主人公が、やがて知る驚愕の真相。「世の中のからくりを自分だけが知らなかった」ということに気がついた時、主人公(と観客)は恐怖のどん底に叩き込まれる。後半の展開は、「もしやこれが高橋洋の言うところのパラノイア感覚か」と大いに納得した。冷め切った夫婦の描写も異様にリアル。何の救いも無いラストの寂寥感が凄まじい。


(『セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身』 SECONDS 監督/ジョン・フランケンハイマー 脚本/ルイス・ジョン・カリーノ 撮影/ジェームズ・ウォン・ハウ 音楽/ジェリー・ゴールドスミス タイトルデザイン/ソウル・バス 出演/ロック・ハドソンサロメ・ジェンズ、ジョン・ランドルフ、ウィル・ギア、マーレイ・ハミルトン 1966年 117分 アメリカ)