Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『マンハント』(ジョン・ウー)  


 ジョン・ウー監督『マンハント』鑑賞。『男たちの挽歌』シリーズで知られるジョン・ウー監督が、フリッツ・ラングの『マンハント』(1941年)をリメイクした・・・というのは冗談(まさかね)。西村寿行原作、高倉健主演の日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)のリメイクだ。無実の罪を着せられ逃亡した弁護士(チャン・ハンユー)と、彼を追う刑事(福山雅治)の攻防を描くアクション映画。


 オリジナルの佐藤純彌監督『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)は、中国でも公開され大ヒットとなったという。『憤怒』は20年くらい前に池袋文芸座で見た。物凄おおく大雑把な映画という印象で、ラスボスの老人に高倉健原田芳雄のコワモテ2人が銃を突きつけるクライマックスなど、爽快感よりも何だか間抜けさを感じたものだった。それでも市街地を馬で駆け抜ける場面とか面白いところも多々あり、鑑賞後はいい酒の肴になったっけ。


 ジョン・ウー監督といえば、登場人物の高まる感情をスローモーションを駆使した激烈なアクションで表現し、熱狂的なファン(とたくさんのフォロワー)を生み出した。一時期アクション映画の銃撃戦になるとスローモーションで横飛びに二挺拳銃を乱射する輩がスクリーンに溢れたのは記憶に新しいところ。今回の『マンハント』でもトレードマークの白い鳩が舞い、アクロバティックなアクションが展開するお約束はあれど、本作におけるジョン・ウーの演出タッチはいつになく軽やかだ。登場人物のいい表情でストップモーションになり、次のカットにオーバーラップする画面転換もなかなか良い。香港時代の熱い映画群、ハリウッドに渡り火薬増量した大アクションも良いが、本作の軽やかさもまた悪くないと思う。かつての作品では物語の背景に追いやられていた(場合によってはほとんど蚊帳の外だった)女性たちのドラマが、重要な役割を果たすのも目新しい。手錠で繋がれて不自由な戦いを強いられる主人公たちの代わりに、女性たちが走り、殴りあい、撃ち合い、バイクや車で疾走するのだ。『マンハント』はジョン・ウーの最良の映画ではないかもしれないが(そしてあれこれ突っ込みどころも満載されているけれど)、個人的には充分に楽しめた。


 『マンハント』の大きな見所のひとつは、レジェンド倉田保昭のゲスト出演だ。老けメイクでワンポイント出演かと思いき、やさにあらず。倉田保昭が出演する場面に充満する(物語の要請を遥かに超えた)熱量は、やはりジョン・ウー作品だなあと感動した。


 そういえば、ジョン・ウー監督、ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の『ハード・ターゲット』(1993年)が文字通りの「マンハント」ものだったなあと。


(『マンハント』 追捕 MANHUNT 監督/ジョン・ウー 脚本/ニップ・ワンフン、ゴードン・チャン、ジェームズ・ユエン 撮影/石坂拓郎 音楽/岩代太郎 原作/西村寿行 出演/チャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン國村隼桜庭ななみアンジェスル・ウー、池内博之倉田保昭 2017年 110分 中国)


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