伝家の宝刀

みたいなものを抜いたみたいなことになったのではないか。両親にはしばらく前から孫がなん人かいて、それらはわたしのきょうだいたちの子です。
母は自分の娘のことを自分自身か自分の分身か自身の部分のようにあつかったりふるまったりすることがしばしばあり、祖母もそうであるということは母やその姉妹の会話からわかる。祖母はわたしには「おかあさんを助けて/支えて」とねんごろに願うばかりで具体的な求めはとくになく。祖母と母が一緒にいるときに父がどうにかなるということが何度かあったがその日はどうだったかおぼえていない。
両親と完全別居してからしばらくになるけど、両親のすまいにはヒンパン(頻繁)に出入りしており。その日。玄関のドアを開けたらもう異臭がして、開ける前からしてたかもしれない。両親宅のトイレにはドアがなくて異臭の原因はそこに父がいたことです。そこそこ自分の排便まみれになっている父をトイレから脱出させて全裸にして浴室で丸洗いし、とりあえずのとりあえず。ベッドにころがして羽毛布団にくるみ毛布をかぶせて、なるはやで身軽になってくるからそのまま待機するように告げた。「気の毒や」と父はくり返していた。
なにから手をつければよいのか考えていたところに母が帰宅したので全裸の父問題を一任し、わたしはトイレ・浴室・自分・移動の道中についた汚物の除去にとりかかり順番に、父に水分提供した母もそれに合流した。みなで問題解決をしているという実感があって有意義な時間だと思っていたのだけど「気の毒や」とくり返す父と同じように母が「ごめんな」「かんにんな」と言うのをやめない。わたしもなにか同じことばをくり返していたと思う。念のため、痰を吸引するマシーンとグッズを消毒する。洗濯機が止まるのを待っていると母が自分の子や自分の孫が乳幼児のときのはなしをはじめ、子の排泄の世話や処理でてんてこまいした苦労話と、孫の排泄の世話や処理でてんてこまいする子らををねぎらうはなしはやむ気配がなく。これはおそらくあと14分続くだろうし、洗濯機が終了音を鳴らしたあとももしかしたら続く。
ふと。思ったのでたずねた。母は親の排泄の世話をしたことがあるのか。
ほんとうに一瞬で鼻のあたまに血液があつまったようすで色が変わった。母の鼻の?顔の?銀河鉄道999の少年が泣いたときみたいにジュワワとした。母の目が。きょうだいらは子のシリふいて、わたしは親のシリふいて、似たできごとだけどたぶんぜんぜんちがうことだとのべると、ジュワワジュワワとなってジュワワワワワになって、母の MP が減ったのかもしれない。