フランシスコ・デ・ゴヤ「ラ・ソラーナ女侯爵 カルピオ伯爵夫人」

 この絵のモデルの女性は、当時二十八歳ということだが、しばらく見ているとだんだん少女のように見えてくる。実生活でも、立派な成人女性から、かつて少女だった表情が垣間見える刹那があるが、それと似た心地がする。

この作品は全身像であり、モデルには「なるべくきれいで華やかな姿に描いてもらいたい」という気持ちがあることが、精一杯着飾った姿からわかる。しかし、そのような願いに画家が頓着するはずもなく、対象の本質を情け容赦なく描き出している。「彫り出している」といってもいいぐらいの深さと精密さで。

モデルの女性は不治の病に侵されていて、遺されるひとり娘のために自分の姿を残そうとして、ゴヤ肖像画を依頼した、といういきさつがあるらしいが、作品にあるそういう背景を知らずとも、これをみる人は、寂しさともつかない、愛しさともつかない、かなしんでいるような、ほほえんでいるような、深く複雑な感情が画面からにじみ出ているのを、感じとることができるだろう。

この絵を描くにあたり、もしゴヤに制作意図のようなものがあったとすれば、いずれこの絵の持ち主になる彼女の娘のために、母親がいつでも語りかけてくるような表情に仕上げたい、という気見合いのものだったであろう。

そういった名状しがたいエモーショナルな感じが出れば、と思いながら模写をしてみたが、やはり力及ばずという結果になった。