『白夜行』東野圭吾

白夜行 (集英社文庫)

そもそもの始まりは1973年に起こった一件の殺人事件だった。大阪の廃墟ビルで質屋が刺殺されていたその現場は、奇妙なことに密室状況とも取れる状況だった。事件を担当した刑事、笹垣は調査の中で暗い目をした質屋の息子、桐原亮司と有力容疑者の娘であり、やたらと大人びた少女、西本雪穂に出会う。事件は犯人と目された男が事故死したため、有耶無耶のまま収束する。しかしそれは、ある一つの物語の始まりにすぎなかった。

この本は再読だけど、評価が結構難しかったりする。良いと思うところと悪いと思うところを順に。すぐにわかることなので言ってしまうと、まずこの本は桐原と雪穂の二人の物語となっている。しかしにも関わらず、この作品では彼らの視点からの描写は一切存在しない。彼らは常に各パートの他の登場人物を通して描かれ、つまり彼らは内面を描かれず、その行動だけが描かれる。このことは文庫版の解説で言われていることでもあるけれど、さらに付け加えるなら各パートで視点は主に一人の人物に固定されるので、行動描写にもかなりの制限が加えられている。しかし結末に近づくにつれ、彼らの存在は大きくなり、さらに内面までもが立ち現れてくる(ように感じる)。これは作者の文章力と構成力に因るものだと思う。桐原と雪穂の出てくるパートを交互に置き、それぞれを読者に匂わせる程度にリンクさせていくという方法を重ねることで、結果、強い関係性を想定させている。こうした構成部分や作者が試みたこと、そしてそのことに成功している点は素晴らしい作品だと思う。
しかし、ある一点がどうしても気になってしまう。それは物語の始まりでもある事件の動機。少し伏せ字にするけど、この部分はトラウマという実に安易なものを持ってきてしまっている。さらにもう一つ父殺し(エディ・プス)という側面もある。これらの点がどういう役割を果たしているかというと結局、二人に対して読者が感情移入する(できる)ための道具になってしまっている。そうしたものを使うなとは言わないけれど、やはり不用意に使ってしまうのはどうかなと。大きく気になったのはその点くらいだけど、この点は結末に至るまで重要な核となっているので簡単に見過ごすわけにはいかないはず。例え、作者にその意図がなくてもその存在を持ってくることが結局は、トラウマに解消されるという構図を強化してしまっているのでいただけない。
最後に。おそらく物語を読み終えた人には桐原と雪穂の二人の存在がくっきりと浮かび上がって見えていることと思う。でもあくまでそれは他人の視点から作り上げられたものであることにも注意しておくべき。

読了本

更新が鈍っておりますが。その間に『平面いぬ。』乙一、『ガラス張りの誘拐』歌野、『僕の殺人』太田忠司、『ヴァンパイヤー戦争 1〜3』笠井、『鏡姉妹の飛ぶ教室佐藤友哉、『獄門島』『本陣殺人事件』横溝、をとりあえず読了しております。随時、感想を書いていけたらと思うのですが・・・。