連れこみは有罪でアオ姦は無罪?

児ポ法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)の運用で、こんな事件が発生しています。

ホテル代支払いで買春立件 警視庁、会社員を逮捕
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20031217-00000013-kyodo-soci

 警視庁渋谷署は16日までに、児童買春禁止法違反の疑いで横浜市■■■■■■、会社員■■■■容疑者(■■)を逮捕した。
 調べでは、■■容疑者は8月28日午後10時ごろ、東京都豊島区東池袋1丁目のホテルで、インターネットの出会い系サイトで知り合った名古屋市の中学3年の少女(14)にみだらな行為をし、その代わりにホテル代を支払った疑い。
 ■■容疑者は少女に現金を渡していなかったが、ホテル代を払ったことが少女の利益になったと判断し立件した。
 ■■容疑者は容疑を認め「小学生と性行為をしても処罰されないと思っていた」と供述しているという。
 少女は8月13日に家出し、20日に上京したが所持金がなく、豊島区内の漫画喫茶のパソコンを使い「14歳で家出中。泊まる場所を探しています」と出会い系サイトに書き込んでいた。少女は9月に補導され事件が発覚した。(共同通信

この報道を読んで、今話題の東京都青少年健全育成条例の改正問題とリンクしていると感じた人は、モノゴトの本質を理解していらっしゃる方なんだろうなと思います。

この事件。ちょっとよく考えるとわかることですが、ホテルに連れ込んで泊まりでセックスすると罰せられるということはですよ、「ご休憩」だったりアオカンだったりカーセックスして家出少女をヤり逃げすれば罰せられないっていうことになるのではないでしょうか。
一体、なにをしたくて児ポ法というも制度が存在いるのか、ますますわけがわからなくなってきているように感じるのは、私だけでは無いでしょう。

ところで、報道によると「14歳で家出中。泊まる場所を探しています」と書いていたそうですが、この書き込みが事実なのかは裁判で証拠を確認しないと何とも言えませんが、家出少女に泊まる場所を提供する「だけ」なら、明かに児童買春ポルノ処罰法には抵触しません。
あるいは、家出少女に泊まる場所を提供せずに両者合意のもとでセックスする「だけ」なら制度には抵触しません。もちろん、14歳の男女とのセックスは刑法上強制わいせつではありませんので、社会から咎められるよう違法行為ではなく合法行為です。

刑法(明治四十年四月二十四日法律第四十五号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html

第百七十六条  十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上七年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

問題は、今回の事件が果たして「児童買春」なのかどうかという点。
論点は二つ。

論点1 「供与の約束」の事実があったのかどうか。
論点2 ホテル代を払うことが「対償の供与」とまで言えるのかどうか。

報道を読む限りでは、論点1の立証は、容疑者の「自白」に依存しているようです。
「小学生と性行為をしても処罰されないと思っていた」と供述がほんとうに事実なのか、供述調書に容疑者の署名があるのを確認したわけではないのでなんとも言えませんし、報道でも「調べでは」と書いている通り警察側の主張の伝聞でしかないので事実関係ははっきりしていません。
14歳の人と性交することは、刑法上合法であり、社会に何ら恥じるべき犯罪ではありません。児ポ法で犯罪になるケースは、「対償の供与としての性交」がある場合に限られます。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html

第二条
2  この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。

犯罪報道では第一報で容疑者の供述が容疑者に意図されない形でリークされ、「ほら新聞ではお前が犯罪を犯したことになっている。もう逃げられないぞ。この自白調書に署名しろ。そうすればお前の罪を減じてやる」という具合に、警察当局が容疑者に自白を強要することは日常的に発生していることですので、仮に自白の供述が事実ではないと仮定すると、約束は無かったと推測することもできますので、以下のような児童ポルノ法についての議論も可能だと思います。

1 容疑者は、性交の対償としてホテル代を払ったのではなく、家出をして困っていた少女に同情してホテル代を払うつもりだった。この時点では性交の約束はしていなかった。
2 ホテルで容疑者が家出をした少女に家出の理由を聞いているうちに、少女の中に容疑者に対する恋愛感情が芽生えた。

3 容疑者に対し恋愛感情を持った少女に、容疑者も恋愛感情を持った。

4 少女と容疑者の恋愛感情の結果として、双方同意の上で性交した。

以上の事柄は「道徳的な世間感情」に照らするあり得ない(と思いたい)ことかもしれませんが、「自白」が崩れて弁護側の反証によって客観的事実であると立証された場合は、児童ポルノ法上の「みだらな行為の対償の供与」を構成しないと私は考えます。

だからこそ、構成要件に関わるひとつひとつの事実を確認する必要で、裁判での事実検証の報道が重要なのですが、昨今の事件報道は逮捕情報の早さを競争するセンセーショナリズムに満ちたスクープ報道がメインで警察リークをたれ流すだけで法律上・裁判上の争点についての事実確認をしない傾向にありますから、裁判で有罪が確定するまでの間は被告人は無実であるということを、私たちは自覚しながら今回のような事件報道を読む必要があると思います。
念の為に書いておきますが、「供与の約束」の事実が警察側の証拠により裁判で立証される場合は、被告人は有罪だと思います。(ただし、どのような判決であれ、司法関係者の「あるべき行政」の判断と立法者の「あるべき法」の判断は当然同一ではあり得ませんし、憲法制度上も裁判所の判断は行政を拘束するだけで立法判断を拘束しません。)

さて、論点2についてですが、法律上「対償」と「プレゼント」は区別され、「対償」は罰せられますが「プレゼント」は罰せられません。
児ポ法上2条2の「対償」の該当性についての議論は、平成11年05月12日の衆議院法務委員会における枝野幸男委員の質疑に対する円より子参議院議員(法案提出者)、小林奉文警察庁生活安全局長、松尾邦弘法務省刑事局長の各答弁が、政府寄りの判断としてのひとつの判断基準になります。
以下、長くなりますが抜粋して引用します。

145-衆-法務委員会-11号 平成11年05月12日(抜粋)
○枝野委員 
 まず、二条の二項のところに、児童買春の定義として、「対償を供与し、」あるいは「その供与の約束をして、」ということが要件として入っております。この対償の供与に関しましてお伺いをさせていただきたいというふうに思っておるんです。
 一般的に対償というものがどれぐらいの範囲をいうものであるのか。もちろん、要するにお金を渡して、いわゆるまさに一般的に言われるような売買春のような形態がこれに当たる。これは間違いないことだというふうに思っておりますし、当然こうしたことは、児童を相手にした場合に絶対に許されるものではないということはいいんだろうと思いますが、例えば男女の関係の間の中で、たまたま一方が相手に対して食事をごちそうしたりするというようなことは、大人同士の関係だったら、当然一般的によくあり得ることである。それは男性が女性に食事をごちそうすることもあれば、女性が男性に食事をごちそうすることもあるでしょうし、そういったことはあり得るわけです。それが、例えば十七歳の高校生同士で、マクドナルドかなんかに行って、きょうはおれがごちそうするわなんということはここで言う対償ということには入らないだろうなと思うんですけれども、大体そんな理解でよろしいでしょうか。
○円参議院議員 児童に食事をごちそうして、その後当該児童と性交に至った場合、それが買春になるのかどうかというお尋ねのように思いますけれども、まず、児童買春とは、先生ももちろん御承知のとおり、児童等に対償を供与し、または供与の約束をして児童と性交等をすることとしておりまして、ここに言う対償とは、児童に対して、性交等をすることに対する反対給付としての経済的利益を言っております。
 児童買春に当たるかどうかは、性交等をすることに対する反対給付と言えるかという点と、供与されたものが社会通念上経済的利益と言えるかという点の二点を満たす必要がございます。
 御質問のような例が児童買春に当たるかどうかについては、食事をごちそうされたことによって児童が性交等をすることを決定したか否か、また食事が経済的に見てどれぐらいの価値があるかなどを総合的に勘案いたしまして、対償であると認められる場合に限り児童買春に当たると考えておりますので、先生がイメージされているようなものは当たらないのではないかと思います。
○枝野委員
 きょうは、実際にこの法律ができ上がったら運用をしていただく警察当局と法務当局にもおいでいただいております。こちらもまた答弁が大変だろうというのはよくわかっておりますけれども、今のような提案者の意図、そしてこの文言の一般的な意味から考えて、大体今のようなことで運用もされていくという理解をしてよろしいかどうか、お答えいただければ、警察と法務、それぞれお願いいたします。
○松尾政府委員 今なされました御答弁で結構だと思います。
○小林(奉)政府委員 警察といたしましても、ただいまの発議者の答弁の趣旨に従いまして、適切な運用に努めてまいりたいと考えております。
○枝野委員 
 食事と同じような例で、要するに対価性を持たないような普通の男女関係の中でも、たまたまきょうは誕生日だから誕生日のプレゼントをした、その後たまたまホテルに行ったとかというようなケースというのは一般論としてはたくさんある。大人同士ではあり得るし、それがいい悪いは別として、十七歳同士でも今の社会では十分あり得る話です。普通の対等におつき合いをしている男女関係で、たまたま片方は十七歳、例えば十七歳同士でもいいでしょう、それで誕生日のプレゼントを渡した、その直後にホテルに行きました、では、これは対償ですなんということにはならないだろうなというような議論をしてきましたが、そんな理解でよろしいですね。
○円参議院議員 十八歳以下の児童同士ではなくて、大人が児童にプレゼントをした場合の話ですか。(枝野委員「いやいや、まさに誕生日のプレゼントだから、一般的な普通におつき合いをしている、たまたまきょうプレゼントを渡し、その直後にホテルに行きましたなんという話は」と呼ぶ)もう既に恋愛関係にあるような同士が、真摯にお互いを思い合っていて、そしてプレゼントをして、その後性交等に至った場合は、私は、一般的には児童買春にはならないと存じます。
 ただ、プレゼントを渡されたことによって児童が性交等をすることを決定したか否か、また、プレゼントが経済的に見てどれぐらいの価値があるかなどを総合的に勘案して、それが対償であると認められる場合に限り、やはり児童買春に当たるとは思います。
○枝野委員 難しいところをうまく答えていただいたというふうに思うので、ありがとうございます。
 これについても念のためお尋ねしますが、法務当局、警察当局、こういった理解でよろしいですね。
○松尾政府委員 お答えいたします。
 先ほどは大変端的にお答えさせていただきましたけれども、多少申し上げますと、既存の法律を運用しておる立場からいいますと、法案の文言というものの解釈が、既存のものと今御議論いただいているものとで同じ文言であれば、同じような解釈というのが自然な発想でございますが、例えば売春防止法の二条で、「「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、」「性交することをいう。」こういうことを言っています。それで、今までの判例の積み重ねでは、売春をすることに対する反対給付というのが一つの条件、それから経済的利益、これが二つ目の条件ということでございます。ですから、具体的事案に適用されるかどうかは、それらを総合的に、その二点、主に中心点が二点ですが、それに当たるかどうかの判断ということになろうかと思います。
 そういった意味で、今発議者の方の御答弁をお聞きしていますと、法務当局としても、御答弁の内容そのものに対しましては、従来のそういう積み重ねからいいましても格別問題はございませんし、また、その御発言の趣旨を我々としても十分に尊重して運用してまいる、慎重に対処してまいるということだろうと思います。
○小林(奉)政府委員 御質問につきましては、先ほどの二点、性交等をすることに対する反対給付という観点、それからもう一点は社会通念上経済的利益と言えるかどうかという、この二点を判断して私どもは適用してまいりたいと思います。
 その場合には、社会通念上、やはり常識に従った判断というものが極めて重要だと思っておりますので、そういった線に基づきまして適切な運用をしてまいりたいと思います。

わたしなりに大雑把にまとめると、以下の二条件を両者とも満たしているか否かによって、「対償」があるか「プレゼント」かが判断されることになります。

1 性交等をすることに対する反対給付としてなれていること
2 供与されたものが社会通念上経済的利益と言えること

この判断基準それ自体は、売防法の司法判断基準を踏襲しているだけですので、この判断基準が妥当なのかという点については、疑問・異論は当然あると思います。

1については、前述の通り、家出をして困っていた少女に同情してホテル代を払うつもりだったと仮定すれば前提が崩れますので、「対償としてホテル代を払った」という客観的な事実を裏付ける証拠が容疑者の「自白」しか提出されていないところをみると、「容疑者の自白に真実性の有無」によって判決の結果が変る可能性があります。

2については児童買春の「対償の供与」は、社会通念としては「お金」でしょう。しかし、被告人は「お金」は少女に与えていません。ただしホテル代は支払っているようです。
男女平等社会とかで女の子が払ったりワリカンしたりする場合も結構あるとおもうのですが、男性がホテル代を払うケースは多いでしょう。とすれば、男性がホテル代を支払うことは、社会通念的に考えてごく自然なことだと思います。

しかし、今回の事件では、警察はあえてホテル代を支払ったことをもって「対償の供与」と判断しました。
あくまでも勝手な想像ですけれど、警察は、少女がネットで「14歳で家出中。泊まる場所を探しています」と書いたことを理由に、プレゼントではなく「対償の供与」があったと判断したのかもしれません。

はたして少女が本当に家出していて困っていたのか、警察はそう主張しているようですが、事実は定かではありません。単に同情を誘うために「14歳家出少女」という架空の人格を装っているだけの可能性もあると思います。
出会い系サイトでは実際の人格とは異なる仮想人格を装うことは日常茶飯のことですから、本当は18歳の裕福な女性だけど父親が門限とか決めててストレスがたまっているので一発ヤってすっきりしたいので「14歳家出少女」という人格を装って手っ取り早くセックスの相手を探していた可能性は低くは無いとは思います。

では、警察リーク通り「14歳家出少女」であることが事実と仮定しましょう。あくまでも仮定の議論です。
14歳家出少女だとしたら、たしかに供与されたホテル代が少女にとっての経済的利益と言えるかもしれません。


しかし、ここで新たな問題が発生します。14歳家出少女にとっての最善の利益とは何かという問題が。

家出少女をホテルに連れ込むことが有罪だとしたら、ホテルに連れ込まずにアオカンしたりカーセックスして置き去りをすれば、「対償の供与」は存在しないわけですから無罪、ということになります。
そうなると、14歳家出少女はヤられただけで、泊まる場所は得られなくなるわけですから、結果的に路頭に迷うことになります。
深夜まで路頭に迷っていれば、それだけ犯罪に遭う可能性は高くなりますし、仮に犯罪に遭わなかったとしても14歳家出少女は「自分は誰からも相手にされない無価値な存在なのだ」ということを確認するだけの家出の結果になることでしょう。

はたしてそれは14歳家出少女にとっての最善の利益でしょうか?

いろんな出版物でも指摘されていますが、14歳家出少女にとって、家庭は地獄です。居場所も救いも無い地獄だから家出をするわけです。
そういう子どもの心の叫びを聞いてくれる大人が、いったいどこにいますか?
そういうことがわからない、無理解なバカな大人たちたちが、家出少女を買ったり、逆に泊まる場所を提供したり相手をすることを有害視して法制度で処罰したり、条例で家出環境を排除しようとしているわけです。

結局、子どもを買ったり、買わせなかったりしている大人たちは、子どもの最善ではなく大人にとっての最善を優先しているわけでしょう。
買春を広く解釈して法制度で規制したり、深夜外出を条例で規制しようとしている大人は、「家庭の中で家族の愛によって子どもは健全に育成される」というような理想社会だけが唯一の理想社会であるべきだと考えている大人にとっての最善を優先しているわけです。
もちろん、ホテルにとめてセックスの相手をすることが子どもにとっての最善であるとも言いきれませんが、それは結局のところ、子どもとって何が一番大事なことなのかという価値観の選択の問題でしかありません。

大事なことは、自分のことは自分で決めるという自己決定と自己責任を、どれだけ大人たちが実質的に尊重しているか、です。

今の社会では、14歳以上の子どもには刑事罰も可能な「責任能力」を認めています。それだけの「責任能力」を社会が認めるのであれば、14歳以上の子どもには性的自己決定の自由も当然に認められなければなりません。

14歳以上の子どもには刑事罰も可能な「責任能力」に伴って承認される性的自己決定の自由権において、「経済的利益で代替可能なセックスによって認められる自分」を本人が本人の価値観として選択するならば、そういう性的自己決定を社会は承認すべきですし、「経済的に代替できないセックス、あるいは"純潔"によって認められる自分」を本人が本人の価値観として選択するならば、そういう性的自己決定を社会は承認すべきです。
どちらか一方だけが正しいとか、純潔だけが唯一の理想であるいうことはありません。

経済的利益とセックスとの関係について、自分の性的価値観を子どもに強要するというその意味で、子どもを買春しているエロオヤジと家出環境を厳しく処罰するバカオヤジ(児ポ法で過剰に性的自己決定を規制したりする人や、条例で門限を強要する大人)には共通点があります。