選挙メモ(2)山口二郎:総選挙で問われること

山口二郎先生の選挙の論点に注目。
 

山口二郎オフィシャルホームページ
総選挙で問われること
http://yamaguchijiro.com/archives/000245.html

自民党粛清に対する小泉首相の強いこだわりが、今のところ国民の支持を集めている。造反派を公認せず、それらの候補者に対して賛成派の候補をぶつけるという小泉首相の手法は、政党政治の論理にかなっている。従来の自民党政治の意思決定過程は、よく言えば合意重視で協調的、悪く言えば責任の所在が不明確で不透明であった。また、自民党の中に異なる政策を追求する政治家が雑居していたために、選挙で自民党の候補を選ぶことが、明確な政策の選択につながっていなかった。小泉は、国民に自らの重点政策を約束し、その約束の実現に向けて与党を統制するという民主政治におけるきわめてオーソドックスなリーダーシップを発揮したに過ぎない。この点を捉えて、従来の自民党政治家は独裁的とか、非民主主義的というが、それはいささか的はずれな批判ではないかと思える。
郵政民営化が今の日本にとって最重要課題とは思えない。しかし、リーダーシップの発揮の仕方は今後の教訓となる。これから地方分権財政再建など不可避の重要課題に取り組むに当たって、国民との約束を武器に反対を乗り越えるという手法を取る必要が生じることは、しばしばあるに違いない。
小泉首相が起こしている変化は、民主主義のモデルチェンジである。今までの民主政治は、多様な意見、利害を政策形成過程に反映させ、政治家や官僚の妥協によって調整するという妥協型民主主義であった。これに対して、国民に重要政策を具体的に示し、その実現に向けて自党を統制、統率するという契約型民主主義が始まろうとしている。
(略)
しかし、小泉首相は民主的なリーダーシップを確立したわけではない。むしろ、国民の拍手喝采のうちに独裁に陥る危険性をはらんでいる。自民党執行部は今回の総選挙を郵政民営化に対する国民投票と位置づけている。しかし、郵政についてだけ具体的な政策があり、その他の課題についてはすべて白紙委任というのでは、国民はたまったものではない。単一争点で総選挙を戦うならば、政権党の指導者としてこれほど無責任な行動はない。また、あえて他の政策課題について白紙委任を取り付けようとするのは、独裁者のやり口である。過去4年間の小泉構造改革に対する総括的評価こそが、この選挙の最大の争点となるべきである。実際、各種の世論調査は、国民が望む政策課題が社会保障や景気・雇用問題であることを示している。

毎日新聞 8月24日夕刊
「今の状況では、自民党が勝つと小泉首相の独裁につながる危険性が非常に大きいと思う。郵政民営化だけを争点に掲げたのに、国民に支持されたのだからすべてを白紙委任されたと思い込み、独善的な権力をふるいかねない」(北大教授の山口二郎氏)

 
“党内”に対しひとつの見解や政策に合意をとりまとめることは独裁ではない。だから造反組から出る小泉独裁論はいささか問題。
しかし党の外にいる“国民”に対し小泉のもとでひとつの見解に合意せよ、白紙委任せよと求めることは独裁。だから国民から出る小泉首相は独善的(ジコチュー)との批判は道理がある。
山口先生の主張はそういうことなのではないかと思いましたです。
たしかにブログをいろいろまわっていると、党内合意と国内合意を混同して区別できないで議論している人が目につきますね。
党決定の透明性確保の必要性、投票は政権に対する白紙委任ではないという点では同感です。
 
代議制と二院制のふたつの憲法統治機構を逸脱し、代議制民主主義を逸脱しているという意味でも「独裁」と指摘することも可能だと思います。
日本は大統領制ではなく、代議制。政権に主権を信託しているのではなく、議員に主権を信託している。議会から独立した権限や法律に対する拒否権を持つ「大統領」が行政をコントロールするのではなく、法律を作る議会が行政をコントロールする統治システム、そそれが代議制民主主義制度。
第二次世界大戦後、ヨーロッパで大統領制権限を抑制し、日本の戦後民主改革において大統領制ではなく代議制民主主義が採用されたのは、ナチスなどファシズムが国民の多数の支持で合法的に政権を奪取した歴史事実の体験から、独裁を生じやすい大統領制度に対する強い不信感が広がったから。
戦後60年という長期間、日本で独裁か生まれなかったのは、アメリカ合衆国大統領という裏の統治者がいるだけではなく、代議制と二院制という憲法の“歯止め”が機能していたから。それが今回の選挙で崩れるとすれば、いよいよ憲法の良い部分を擁護し実現する公権力がいなくなり、超憲法的国会体制が樹立されることになるでしょう。
改憲が先か政権が先かという議論がありますが、改憲よりも政権が超憲法的体制を作るのではないかと、私の予想しています。
自民党民主党は、今回の選挙で改憲の議論を進めるとの公約を掲げています。
 
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