衆議院議員総選挙総括(2)

  • 与党で327議席。三分の二以上の議席を与党で占有したことにより、参議院の審議結果がどうであれ、与党提案の全法案が、ほぼ自動的に衆議院の議決のみですべて成立することになる。つまり、参議院は無力化し、憲法が想定する二院制は事実上消滅。
  • 与党提案の全法案が衆議院の議決のみですべて成立するという状況は、事実上、野党の消滅を意味する。つまり、憲法が想定する議会制民主主義も事実上消滅したことになる。
  • その結果、郵政法案だけではなく、共謀罪創設法案、人権擁護法案憲法改正国民投票案などの人権抑制法案はすべて無修正で成立し、全盲・両手喪失者などの障害者にも福祉負担を求めて生活費を切り捨てる稀代の福祉悪法「障害者自立支援法案」も、無修正で成立の見込み。健常者がもし事故や病気で障害者になったら死を覚悟せねばならなくなるだろう。
  • 唯一の歯止めは、法案提出権限のある内閣を総理する、内閣総理大臣の良心だけ。それ以外の歯止めは、少なくとも2009年の次の衆議院選挙までは存在しない。
  • 自民党議席は、民主・公明・新党日本保守系無所属で減った分が全部自民党に移動して吸収した計算になる。
  • 与党全体では議席は増えているが、公明党議席を3議席減らした。公明党比例区公明党が思ったよりも議席が伸びなかった。自民党員が公明党比例区に票を入れるというキチガイじみた政治取引は、与党の中でも理解されなかった。
  • 自民党は、今回の選挙で農村型リベラルを駆逐し、農村型保守を抑えて都市型保守へと路線転換を果たした。農村型リベラルの象徴である野中広務自民党幹事長の後継で郵政民営化法案に反対票を投じた京都4区の田中候補の落選は、自民党における農村型リベラルの敗北を象徴している。
  • 今後はさらに農村型リベラルは駆逐され、都市型保守、ネオリベ路線傾向は強まるだろう。当面は小泉内閣のもとでは、農村型保守と都市型保守との路線対立はあまり表明化しないだろうが、ポスト小泉の動き次第では農村型保守と都市型保守との路線対立が表面化することになるだろう。
  • 公明党の政治力は、自民圧勝・公明議席減により、相対的に低下した。与党における公明党の発言力は低下するかもしれない。公明の自民合同は、不透明だが当面は無いだろう。
  • 野田聖子など首班指名で小泉に投票する保守系無所属の多くは、郵政法案採決の後、自民党に復党または会派入りし、自民党はさらに議席を増やすことになるだろう。ゼネコン汚職事件で衆院議員を失職した無所属の中村喜四郎自民党入りすれば、自民党のイメージは悪化することになるかもしれない。ただし、一部の保守系無所属は、農村型リベラルの出自を持っているため、新党大地などに野党入りする可能性もある。
  • 鈴木宗男新党大地は、田中角栄に匹敵する農村型リベラル政党として出発した。地域への利益誘導を主張しつつも、アイヌ民族の地位向上、若者の労働環境や福祉政策の強化、ロシア産業との交流の拡大など、弱者を重視した多様で寛容的な農村型リベラルを掲げた新党大地は、今後若者を中心に支持者が拡大する可能性がある。札幌では安倍晋三の演説よりも鈴木宗男の演説の方が人気があり、特に20-30代の若年層の人気が圧倒的に高かったことは注目に値する。
  • 自民党内で孤立した農村型リベラルの議員が新党大地と合流すれば、政界で存在感を示す場面もあるだろう。しかし、そうした合流が無い場合は、新党大地自民党に吸収されることになるかもしれない。
  • 社民は微増、共産と国民新党議席維持。「国会の質問王」保坂展人氏の当選は民主リベラルの希望の一つだろう。棚ボタ議席と揶揄する声もあるが、保坂氏が比例区で獲得した得票数は30万票である。胸を張って国会で質問を続けていただきたいものである。
  • 社民は世代交代が進んだが、共産は都議戦同様、世代交代に失敗した。共産は世代交代と党内改革を進める必要がある。
  • 社民は支援者層も世代交代が進んだ。社民は今後、都市型リベラルの道を歩み、民主党よりも先行して都市リベラルの将来像をリードする可能性がある。新執行部の党内改革と地方都市組織や支持組織の再編をいかにすすめるかが、党勢拡大の鍵となるだろう。
  • 社民と共産の合同を求める人もいるが、共産との合同放棄を盛り込んだ社会公明協定は破棄されておらず、共産も社民批判を続けていることから、当分は合同はあり得ないだろう。
  • 民主党は都市部では惨敗したが、北海道では民主党議席を確保し。自民党議席を減らしている。自民党幹事長のお膝元の北海道では、民主党は第一党を維持し、得票数も増やした。北海道の小選挙区は、自民4議席に対し民主党は7議席。北海道10区では刺客候補が「郵便局のネットワークシステムは守られます。小泉首相が確約しております」との弁明を繰り返したが、作戦は失敗し保守は共倒れとなった。
  • 北海道は景気が最悪の状態となり企業数も道民数も減り、自然死と人口流出により人口が激減する中で、有権者は目先のイメージや幻想から目と心が醒めていた。同様に沖縄でも目が覚めている有権者が多数あり、社民が議席を確保した。
  • 有権者の目が醒めたことにより、北海道では民主党の、沖縄では社民の支持組織が拡大し、自民党の支持組織は衰退している。支持基盤を広げたことが、北海道民主党の“風に影響されない選挙組織”を作ってきたといえよう。
  • 今後、関東以外の日本は、与党の増長のもとで経済は破綻し、北海道的な経済破綻地域が増える可能性が高い。経済破綻が誰の目にも明らかになれば、目が醒めた地方の有権者が増え、自民党離れが加速する可能性がある。東京と非東京、あるいは大都市と非大都市との世論の格差は、今回の選挙で顕著となったが、今後その格差は続くことになるかもしれない。
  • 民主党は、全体的におごりがあった。特に、関東・東京・神奈川の都市型保守の民主党議員と民主党執行部には、おごりと勘違いがあったように思われる。そのおごりが、都市型保守の有権者を自民支持に変えた。都市有権者に媚びて政権交替を主張していれば風が吹いて議席が増えるとの民主党保守系議員の思惑は完全に誤りだった。勘違いした都市型保守の民主党議員へのダメージはまったく好ましいものであり、そういう意味では自民圧勝の今回の選挙は良い結果をもたらしたと言えよう。
  • 民主党は、今後、都市型保守と都市型リベラルとの路線対立が表面化し、政治闘争が広がる可能性がある。都市型保守派の議員は、都市型保守の自民・公明との合同を求めて分裂し、民主党はさらに議席を減らす可能性があるが、そうなった方が民主党は都市型リベラル・第三の道へと歩みやすくなり、政権交替に近づくだろう。
  • もし民主党の路線対立が半端な議論で収束し、都市型保守が再び主導権を握った場合、民主党は都市型保守の自民・公明との違いを有権者にアピールできなくなり、第二の自民党化する可能性が強くなる。そうなれば、民主党には都市型リベラルの路線による再起のチャンスはなくなり、民主党は永久野党へ道に向うことになり、議会は自民党一党支配へと向う可能性もあるだろう。民主党の都市型リベラルの議員が民主党の主導権を握れるよう、都市型リベラルの議員に対して様々な方向から支援し、党内議論を促す必要性は高まっている。
  • 民主党小選挙区では大きく議席を減らしたが、比例区では得票数で減った選挙区は少ない。自民党比例区の得票率は全国合計でわずか38% 自民党の圧勝は、小選挙区による圧勝にすぎない。つまり、投票率が上昇した分、その得票は自民党に流れ、小選挙区での当選者を増やした。投票率が下がれば自民党議席は大きく下がるし、支持率が下がっても自民党議席は大きく下がる。自民党はますます難しい政権運営を迫られることになるだろう。
  • 投票率は全国平均67.51%。現行制度下では最高の投票率となったが、それでもまだ低い。3人に1人は選挙権を使わなかった。依然として棄権党は最大政党である。
  • 投票日前には80%近いの人が「必ず投票に行く」と世論調査で回答したが、「必ず投票に行く」と回答した人の5人に1人が実際には投票に行かなかった計算になる。天候不順や“翼賛選挙”への嫌気も影響したかもしれないが、郵政問題以外の争点が表面化しなかったことやマスメディアのアナウンス効果も、棄権者を出した一因かもしれない。
  • 投票率が上昇したことで自民大勝が実現した。が、それは必ずしも悪いことではなく、やはり投票率の上昇は歓迎すべきことである。何も考えず一票を小泉自民党に投じた報いを受けるのは若い世代だろう。そうやって(運が悪ければ死ぬことになるかもしれないが)失敗を経験してこそ、投票の重みを有権者は学ぶことができる。失敗を経験せず学べないままでいるよりは良い結果を出すだろう。転んだことのある奴よりも転んだことの無い奴の方が大怪我をするものである。自民大勝であっても、私は投票率の上昇を歓迎する。
  • 失敗を学んだ有権者に、小泉がいなくなった自民党がどう改革を示しつづけることができるのか、自民党は大きな負担を背負ったことになる。小泉以外にその大きな負担を背負うスターはまだ自民党に登場していない。ナンバー2が出なければ、自民党は自壊する。任期延長論は自壊への恐怖の裏返しだろう。
  • 自民党は自壊への恐怖ゆえに、今後、小泉への求心力はさらに強まり、独裁化していくだろう。そしてその結果、小泉への幻想は剥がれ落ち、民衆との乖離は決定的なものとなる可能性がある。しかし、新たな「改革」、たとえば北朝鮮征伐戦争への参加といった大きな課題で郵政翼賛選挙のように民衆の支持をかき集める可能性もあるだろう。その場合は、日本は破滅への道を加速することになるかもしれない。
  • 今回の選挙で、無党派層と呼ばれている人たちにも二種類いることが判明した。ひとつは感情的に投票するムード型の無党派層。もうひとつは理性的に投票するマニフェスト型の無党派層
  • 投票率を底上げし自民党に流れた多くの無党派層は、ムード型の無党派層だった。マニフェスト型の無党派層の多くは民主党に投票するか棄権した。今回の選挙では、棄権した有権者は、常に棄権している無関心派とマニフェスト型の無党派層にわかれている。
  • 常に棄権している無関心派になにを訴えても票にはならない。今後、野党が無党派層の支持をとりつけられるかどうかは、マニフェスト型の無党派層の注目を集める論争を示し、組織し、自党の基盤とできるかが課題となるだろう。

 

【党派別当選者の内訳】
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│         │小選挙区比例区 │選挙前勢力│解散時勢力│
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│自    民    296│  219│    77│    212│    249│
│民    主    113│    52│    61│    177│    175│
│公    明      31│      8│    23│      34│      34│
│共    産        9│      0│      9│        9│        9│
│社    民        7│      1│      6│        5│        6│
│国民新党        4│      2│      2│        4│        −│
│新党日本        1│      0│      1│        3│        −│
│諸    派        1│      0│      1│        1│        1│
│無 所 属      18│    18│      0│      32│        3│
│(内郵政反対13)│        │        │  (30)│        −│
├─────────┼────┼────┼─────┼─────┤
│   計       480│  300│  180│    477│    477│
│                  │        │        │          │(欠員3)│
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