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2006-05-08

[]取引先の選別とCSRの理念,その法的リスク

先日は,アイフルの提携見直し問題について書いたのですが,今回は,契約締結時に取引先を法令遵守体制の有無などで予め選別することが法律上許されるのか,またその選別に限界や法的リスクはないのかということについて少し考えてみようと思います。

インターネット検索で少し調べてみると,「調達のための基本方針」や「調達基準」などの名前で,法令遵守体制の確立,営業秘密の管理,環境保全,労働基準の遵守,知的財産権保護,内部通報制度構築,独禁法の遵守,廃棄物処理法の遵守など,取引先に様々な条件がつけられている例が多く見られます。

これらの取引先選別の理論的根拠としては,一般的にCSRが挙げられるようです(ちなみに,CSR(Corporate Social Responsibility)というのは,企業が社会的責任を果たすことによって,企業自身の持続的な発展を目指そうという取り組みのことです。こちらの説明が分かりやすいかもしれません)。また,最近話題のサプライチェーン・マネジメントという考え方も,もともと経営の効率性を高める概念だったものが,取引先も含めてCSRの理念を実現しようという取り組みの意味で使われているようです。

CSRは法令遵守を超える企業倫理的なものとされることから,法的なリスクが意識されることはあまりないようですが,行き過ぎた取引先の選別には法的リスクも当然あるはずですので,これら調達基準の中身を分解して考えてみます。

まず,取引先に一定の製品品質を求めること,これは「何を買うか」「どんなサービスを受けるか」という契約の基本を定めるものなので,言うまでもなく適法でしょう。また,取引を通じて損害を被らないようにする条件,例えば,営業秘密を守ること,第三者の知的財産権を侵害しないことなども,CSR云々という以前に適法といえるでしょう。

問題は,環境保全,内部者通報制度の整備,労働基準法その他法令の遵守など,契約の目的を定めるわけでもなく損害を回避するわけでもない,付随的な条件を付ける場合です。

結論的に言えば,CSRの理念という観点からすると,これらの条件を取引先に課すことは社会全体の利益にもつながるでしょうし,法律的にも,契約自由の原則というものがありますので,「原則適法」となるとは思います。

ただ,必要以上の条件を課す場合には,独禁法違反,特に優越的地位の濫用については注意が必要です。

その取引先にとって,取引を打ち切られることが経営上重大な影響があるため,不利益な条件でも受け入れざるを得ないという場合に,それによって公正な競争が阻害されるおそれがあるとされれば独禁法上違法となります。具体的には,取引依存度や市場における地位,取引先の変更可能性や商品の需給関係などが総合的に考慮されるので,圧倒的に強い買い手,売り手については,CSRの要求にも一定の制限があるといわざるを得ません。

また,取引先の選別によって値段の高い商品を買うことになった場合,取締役の意思決定が善管注意義務に反しないかが(具体的には株主代表訴訟において)問われる可能性もあると思います。この場合,判断基準は「合理性」ということになりますが,合理性は原則として価格を基準に判断されるのではないか,CSRの理念はどこまで合理性の判断に影響を与えるのかという点は,難しい問題です。少なくとも,価格に合理性がない取引先の選別は株主に対して説明しにくいでしょう。

さらに,かなり積極的に取引先の法令遵守体制に関与していく方針の会社もあるようですが,他社の法令遵守体制の構築に「責任を持って」取り組んだ結果,その取引先に法令遵守違反が発生した場合に,連帯して責任を追求されることにはならないか,少し心配に思う例もあります。もちろん,取引先と一体となった取り組みに水を差すつもりはないのですが,例えば次の場合はどうでしょう。

規準遵守のための具体的な取組みとして,全国の取引先に対してCSR調達規準の説明会を開催します。また,規準の遵守状況を定期的に調査し,これにより取引先のCSR体制を把握し,取引先と連携して規準遵守に取り組んでいきます。

この「規準」には法令遵守や化学物質の適正管理,競争ルールの遵守が含まれています。このように,調査によって取引先のCSR体制を把握したうえで,取引先と連携して法令遵守をするとか化学物質を適正に管理するとまで書かれると,何か起こったときに,責任を問われるきっかけになってしまうのではないかと心配になります。

日本ではなかなかこれで訴訟を起こされるという事案は想像しにくいかもしれませんが,アメリカだと,大会社が規準遵守を支援していると聞いたから取引先を信用したとか,調査が不十分だった,体制の把握が不十分だった,連携してと書いてあるのに何もしていなかったなどといわれるリスクはあるといわざるを得ないでしょう。特に,取引先に資産がない場合には,被告として訴訟に巻き込まれるリスクは高まりそうです。訴訟に巻き込まれること自体がかなりの損害となるアメリカでは,上の例は回避すべき(あえて保有する理由がない)リスクの部類に入ると思われます。

そもそもCSRの概念自体が曖昧で,法的な位置づけが定まっていないため,法的リスクを判断することは困難なのですが,CSRに熱心になるあまりに行き過ぎた選別を行うと,それなりに法的リスクが高まるということは言えそうです。その法的リスクを踏まえたうえで,取引先との良好な関係を探っていくことが大切なのでしょうね。

29ch29ch 2006/05/14 12:04 はじめまして。
いつも楽しく拝見させていただいてます。
企業法務部員のぺーぺーです。

当社もことあるごとにCSRと連呼しています。
まだ問題になるような事例は発生していませんが、先生の記事にある考え方を意識しながら業務に当たっていきたいと思います。

僭越ながらTBさせていただきます。

kitiomukitiomu 2006/05/16 23:03 29chさん,コメントありがとうございます。
CSRという概念には様々な種類の権利義務が絡んでくるので,ひとまとめにして議論するのは難しいところですね。
29chさんのページにも訪問させていただきました。ブックレビューに取り上げられている本がどれも面白そうだったので,今後の読書の参考にさせていただきますね。
今後ともよろしくお願いいたします。

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