三木聡監督『転々』を観た

時効警察』『亀は意外と速く泳ぐ』の三木聡監督の新作『転々』。去年から観たいと思いつつ果たせなかったが、今日ようやく時間がとれ、渋谷・アミューズCQNで観ることができた。
冴えない大学8年生・竹村文哉(オダギリジョー)が、借金取り・福原愛一郎(三浦友和)の一見珍妙な提案に乗り、2人でひたすら東京の風景の中を淡々と散歩する…。
ストーリーが地味というだけでなく、映画としても相当に地味。もちろん小ネタはぎっしりだし、三木作品でおなじみの岩松了ふせえりほか個性的な役者が多数登場し、それぞれ芸達者なところを見せれくれるのだが…。狙いなのか、狙いが外れているのか、ほとんどクスっとくるところがない。『時効警察』『亀〜』の笑いを期待していると、ガッカリする確率も高そうだ。
では「残念な作品」かというと、それは違うと思う。まず、役者の演技がいい。オダリギ、三浦のコンビは言うに及ばず、小泉今日子の凛とした佇まいを感じる演技は相変わらずすばらしく、若手の吉高由里子もマヨネーズに執着するマヨラー娘を独特の存在感で演じていた(吉高には今後注目したい)。
そして、映画の雰囲気がいい。ストーリーに切ない要素があるせいか、東京の何気ない街並みがとても愛おしいものに見える。ラスト近くでは、このまま続いてほしい、失われてほしくない…という惜別の思いが強くなった。素っ気ないラストも、うまく余韻を残してくれたと思う。
この映画を深く味わうには、私、たぶん人生修養が全然追いついていないのだろう。観る人を相当シビアに選ぶ映画だが(封切後の日数が経っているせいもあるけれど、観客は10人くらい…)、観る人が観れば、深い滋味を堪能できる作品ではないだろうか。10年後にまた見直してみたい…と思った。