2012年02月13日のツイート

広瀬正『ツィス』『エロス』(集英社文庫)

『ツィス』。神奈川県で謎のツィス音(二点嬰ハ音)が人々を苦しめ始めた。特集するテレビ番組とツィス音教授が活動するなか、デザイナーで耳の聞こえない榊英秀と彼女のオイネは…。ツィス音の「レベル1」から始まって「レベル0」で終わる構成は綺麗。だが、ツィス音が単調増加するので、展開もやや単調に終わったきらいが…。でも、とても良い作品。

広瀬正・小説全集・2 ツィス (集英社文庫)

広瀬正・小説全集・2 ツィス (集英社文庫)

『エロス』は、圧倒的に素晴らしい傑作。昭和8年、岩手から出てきた赤井みつ子(橘百合子)が、駒込曙町の叔父の家に寄宿する。曙町から市電が出発して、本郷の帝大、日比谷の映画館へと、虫の目で街の様子、生活のディテイルが語られる。素晴らしい。2・26事件が起きた日の東京の様子が、これほど心に染み込んで想像可能であるとは、ちょっと信じられない気がする。

  • 箕田胸喜、三井甲之の影響を受けた右翼帝大生が、ジャズかぶれでアメリカ帰りの慎一と、恋愛のもつれで一悶着を起こし…
  • 関東大震災後、交通が発達して、市電の経営が行き詰まり、ストが起こって…
  • 舗装されていない東京の道路事情のせいで、みつ子が泥だらけになり、折からの室戸台風の影響で帰れなくなったため…
  • ベルリンオリンピックに対抗して東京オリンピックでテレビジョン技術を誇示しようとしたがオリンピックが中止になって…
  • テレビが売り出されたとき、すでに総天然色映画に慣れていた東京の人たちは非常に冷淡…

など、いろいろ面白い社会史的事実が目白押し。ただ『マイナス・ゼロ』でも出てきた白木屋のデパート火災での「ズロース事件」は、広瀬氏お気に入りのエピソードらしいが、基本的にガセネタらしい。
とにかく、これはたしかに『マイナス・ゼロ』を読んだあとでは、必読といえる作品かもしれない。

広瀬正・小説全集・3 エロス (集英社文庫)

広瀬正・小説全集・3 エロス (集英社文庫)

デビッド・フィンチャー『ドラゴン・タトゥーの女』(2012)

The Girl with the Dragon Tattoo 出演:ダニエル・クレイグルーニー・マーラクリストファー・プラマー

ぜんぶ知ってるし。しかも、オリジナル映画版よりも、終わり方が中途半端すぎるし。オリジナル映画版の面白さが凄まじかったので、見にいったのだが、わざわざフィンチャー版で見る必然性が感じられなかった。映画開始と同時に大事な電話がかかってきて、集中できなかったのもマズかった。