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No Hedge!

2007-12-17

「不安」は金が勿体無いからやめろという話。

監視カメラ付けて子供にGPS携帯持たせてるような「不安」な人々には、「金が勿体無いからやめろ」で良いんじゃないかという話。(12/18 文章下段に追記)


以前実家に帰ったときに母親と話していたら、件の「少年犯罪神話」―少年犯罪は近年増加していて、凶悪化しているという神話―及び「外国人犯罪神話」に見事に染まっていて愕然とした覚えがある。

しかしそれらが「神話」だという言説は、ちょっと社会科学系の言説に触れていれば耳にしそうなものなんだけれど、逆に触れない人間にとっては全く知らない話なんだなということを痛感した。多分これはうちの母親に限った話ではなく、世間の大多数の認識なんだろう。

そうした「神話」に基づいた認識から、やれ監視カメラだやれ子供にGPS携帯だやれ厳罰化だという「現実」が生産されるのはちょっとおかしいんじゃないか。そう思って「神話」の解除をしようと、統計を精査したり確率論的展開をしている人は、数は多くないけれど存在する。けれどどうも彼らの声は届いていない気がする。たとえ届いたとしても、「だって不安なんだもの」と居直る人が数多くいる気がする。

もちろん、言説はその「不安」の不当性を指摘して、つまり事実はどうなっているのかということを話して「神話」を解除しようとしているのだけれど、彼らの不安はそもそも事実に依拠していない。知り合いや親戚が凶悪犯罪に巻き込まれた人間というのは数としてはそこまで多くない。成城の監視カメラ群の中で暮らす人々のうち、実際にそうした犯罪の関係者になった人間はそういないはずだ。彼らの多くはメディアを通して形成されたカギカッコ付きの「事実」に依拠して「神話」を作り上げている。

けれど、だから「マスコミが悪い」という話にしたいのではない。そういう人たちにどう対処すべきかという方法論において、単に事実を啓蒙するというやり方だけでは効かない、また別の手段が必要なんじゃないか、という話。

そうなると、もう彼らへの処方箋は端的に「金が勿体無いからやめろ」が分かりやすくて良いと思う。子供にGPS携帯持たせても死体の発見が早くなるだけですよ、とか、お金持ちのお宅だけ監視カメラつけても犯罪は周囲に移動するだけで周りの一般人が迷惑しますよ、とか。厳罰ばっかりで犯罪者バシバシ社会から排除してるとこんなになっちゃいますよ、刑務所にかかる費用が増えますよ、とか⇒「福祉施設化」進む刑務所 龍谷大・浜井教授に聞く|女子リベ 安原宏美--編集者のブログ

あと同じ安原宏美さんのブログからもうひとつ引用させてもらうと

2006年に「子どもの安全」に不安が集まって、予算化した金のほんの一部が以下です。

文部科学省 

      • 子ども安心プロジェクト 2億円
      • 地域ぐるみの学校安全体制整備 14億円
      • 子ども待機スペース交流活動推進事業 7億円
      • 地域で子どもを見守る全国ネットワークの構築 1億円

警察庁 

      • 地域安全安心ステーションモデル事業 1億3000万円
      • 子供緊急通報装置 2000万円
      • 街頭緊急通報システム(スーパー防犯灯) 2億2000万円

 福島県---学校周辺のパトロールを警備会社に 2300万円

 栃木県---警察官OBスクールサポーター 4700万円

 東京都---公立小学校へ防犯カメラ 10億5600万円 ( ̄□ ̄;)!!

せっかくなんで取り調べ室にスライドしたらどうなのでしょうか?

 大阪府---ネットで電子地図提供 3100万円

 山口県---商店街で防犯教室 街頭緊急連絡装置 3400万円

「不安も事実である」とか言い出す人たち|女子リベ 安原宏美--編集者のブログ

これだけ引っ張ってくると、東京とそれ以外の地域で子供の命の値段に圧倒的な格差が出てくることになるけど、いいんでしょうか。*1凶悪犯罪増加神話は別にどこの地域が特に増えたとかいう地域性を帯びてないし。*2

住んでる場所によって「命の値段」が違うってのは別に子供の安全に限らず医療とか福祉とかでも言えそうだ。個人のお金にしろ、行政の金にしろ、「無駄ですよ」ということを言えたらもちょいスマートに社会の「不安」を解除できそうな気がする。

……ちなみに冒頭に母親の話を出したけど、父親は「あー、あれって警備会社の陰謀でしょ?」と当たらずとも遠からずな陰謀論で看破しなさった。僕は陰謀論嫌いなんだけど、この場合はそういうことにしておいた方が良いと思った。

・追記 12/18

引用先のエントリに対するリンクが抜けてたので張りました。

あとコメント欄でいくつか指摘を受けたので追記。

僕がセキュリティにお金を費やす今の風潮を「勿体無い」と考える理由は以下。

  1. 監視カメラは、「抑止」を想定する場合、同時に犯罪が行われる物理的な移動の可能性を発生させる。コンビニATMなど狭い空間内では複数のカメラの設置によって抑止効果は高まるが、住宅街という広大な空間においては、ある一軒、ある一区画といった箇所に限定してカメラを設置することは、抑止と同時に周囲の住宅への犯罪の移動の可能性をもたらす。カメラを付けた家のリスクは低減するかもしれないが、地域全体のリスクは低減されてない。自分の家にカメラを設置したが故に隣の家が襲われたとなっては、「不安」は解消されないのではないか。
    1. 上記の理由で、税金を一部地域に投入することはより勿体無い。税金は全体の利益になることに費やすべきである。

あとブックマークのコメントで

地方に住んでいて学生で守る家族がないとこういうことが気楽に言えるらしい。

とのご指摘を受けましたが、それはその通りかもしれません。僕がもし家族を持つ都市部の一般的サラリーマンとかだったりしたら、多分子供にGPS携帯持たせて(金があるかどうかにもよりますが)セコムとかうっかり入ってるかもしれない。

これは次のような問題に繋がるのでしょう。社会科学的な言説は、「統計的には別に少年犯罪増えてないよ」「カメラ付けても犯罪が移動するだけ」「GPS携帯持たせても死体が早く見つかるだけ」という問いに応えてから「不安」を訴えよ、というでしょう。しかし「不安」を訴える人は、私たちの実存的不安に応えてからそうした指摘をしろ、と言うでしょう。どっちが先なのか、立場によって優先順位は変わってしまうので、この二項対立では問題が先に進まない。だから僕は「勿体無い」という言葉を使ったというのもあります。「勿体無い」という言葉を使ったのは、「不安」の存在を仕方の無いものとして引き受けた上で、人々がその不安の解消法に使っている現在の手段が不毛であり、別のやり方を模索すべきだという提言をしたかったがためでもあります。「不安」の存在そのものを否定はしない、というか実質的に否定は無理ですので。

*1:例えば東京都の小学生の数が約60万人、福島県が約12万人。単純に比較しても許される差は5倍まで。

*2:そのことも問題だと思うんだが

sakstylesakstyle 2007/12/17 18:14 すごくよく分かるんですが、
当の人たちは、不安だからお金をかけているんですよね?
そうなると、不安に駆られている人にとっては、無駄なお金とは思われないんじゃないでしょうか。
「これが税金の正しい使い道なんだ」って言い返される気がするのですが……

リョウイチリョウイチ 2007/12/17 18:32 >>子供にGPS携帯持たせても死体の発見が早くなるだけですよ

 目からうろこが落ちました。確かに、GPS携帯を持つことがどのように抑止に繋がるんでしょうね。お金の無駄といえば無駄ですよね。

>>お金持ちのお宅だけ監視カメラつけても犯罪は周囲に移動するだけで周りの一般人が迷惑しますよ

 こちらについてはどうもよくわかりませんでした。設置する方にすれば周りに犯罪が移動しようがしまいが、犯罪に巻き込まれることはなくなるわけです。お金の無駄にはならないんじゃないでしょうか?それについてどうこう言うのは道徳とか常識とかの範囲の話のはずです。電車で化粧をする女性の容認のような、合理性や経済性の追求という原則に立つ場合は、周りの迷惑なんて屁でもないので、説得力に欠けるのではないかなと思いました。

 ところで監視カメラの役割って、犯罪発生前の抑止の面と発生後の捜査の面という二つの面があると思ってましたけど、この理解でいいんでしょうかねぇ。

klovklov 2007/12/17 19:31 >sakstyle
彼らがかけたお金にどういう意味を見出してると仮定するかに拠るんじゃないでしょうか。
僕は、「知らない少年に殺されないために」「自分の子供が殺されないために」「知らない外国人に殺されないために」お金を掛けていると仮定していました。僕は、彼らのお金の掛け方ではそういった目的を達成できるものではない、と思っていて、だから「無駄だよ」と言いたかったのです。説明不足で申し訳ないです。
もしお金をかけることそのものに意味を見出しているなら、確かにsakさんの言うとおり説得力はないかもしれません。

>リョウイチさん
周りに迷惑がかかろうが知ったこっちゃ無い、といわれてしまうと確かに説得力ないかもしれませんね。
ただ僕は監視カメラをバンバカ付けたがる人たちが、それをつけておけば犯罪が消えてなくなるかのようなイメージを持っているんじゃないかと危惧していまして。
「抑止」と言ってもあるレベルの犯罪はその箇所でのみでの抑止であって、本来は犯罪の物理的「移動」と言って差し支えないと思います。監視カメラのそうした側面も理解した上で「金の無い奴が言い残れば良い、一般人は死んどけ」というのでしたら、おっしゃる通りまたこちらも言い方を変えざるを得ないでしょう。

リョウイチリョウイチ 2007/12/18 08:30  レスありがとうございます。

 「その覚悟があって監視カメラをつけると言ってるのですか?」ということを仰りたいのですね。もっと言えば、「お前らもっと監視カメラについて勉強しろ」と。確かに、仰りたいことはよく分かります。ただ、タイトルからにもあるとおり、あなたの提示する処方箋は、合理性や経済性の追及という原則に立つものです。合理的に考えて不安のもとを「根絶」できないから、お金がもったいないからやめろとか、施設の建設費用がかさむから経済的ではないとか。その点で適さない例であったということは否めないでしょう。

 ところで、犯罪の物理的「移動」というのはどのようにして観測されるのでしょうか。ぜひ次の記事ではその部分について書いていただきたいです。

aiai 2007/12/22 04:46 うーん。合理性とか効率性を優先させると、命の値段の不均衡はいつも問題視できるとは限らなくなると思うんですが、klovさん的にはいいんでしょうか。



お子さんにGPS携帯を持たせる親御さんっていうのは、いわば掛け捨て保険として携帯を考えているんだと思います。間一髪のところで助かる可能性がちょっとでも増えるなら御の字、という。コストパフォーマンスは恐ろしく低いですが、命に関わることを考えれば、それでも合理的な判断と呼べるのではないでしょうか。

で、監視カメラについては、設置する主体によって問題が変わってくると思うんですよ。

まず、個人が私的に設置する場合、もしおっしゃるとおり犯罪の周辺移動が起こるのであれば、じょじょに需要が増えてスケールメリットも働き、最終的には監視カメラを設置する人のほうが主流になる可能性は十分あります。その時、なにが起こるのかはわかりませんし、最終的に「外側」にいるのはどういう人たちなのか、といったことも問題になってくると思います。

つぎに、監視カメラをはじめとする省庁や地方公共団体の安全関連予算ですが、個人が使うならまだしも、たとえば数千億とか数兆円あるうちの十数億円というのは無駄と非難するには些少な金額かと思います。問題にするとしたら、その事業を委託する企業を決める際に透明性が保てるかどうかや(一般競争入札・指名競争入札・随意契約のいずれなのか)、この件に限らない命の値段の地域格差そのものでしょう。いずれにせよ、「安全」とか「合理性」というフレームで語っては問題がわかりづらくなるのではないでしょうか。

今回のエントリでは、GPS携帯と私的・公的な監視カメラにまつわるさまざまな問題を「安全」というフレームで同列に並べ、「合理性」でもって解決をつけるのに失敗して、かえって論点がぼやけてしまったように思います。問題にしたいのは、体感不安を煽ること自体や、煽るために「少年」や「外国人」をやり玉にあげる手法なのか。それとも、命の値段の不均衡や死角のない街の行く末など、結果として生じている・起こりうる事態にまつわる諸問題なのか。あるいは単に、無自覚に煽られてしまう人たちに注意をうながしたいのか。一読しただけでは判断できませんでした。それぞれの問題について、個別にもっと掘り下げて考えてみてはいかがでしょうか。

klovklov 2007/12/22 18:51 >aiさん
コメントありがとうございます。まず最初に本エントリの論点をはっきりさせておくと、主として問題にしたいのは体感不安の煽りやその手法ではないです。いやもちろんこれらは問題なんですが、いくらデータと資料持ち出して「実際は違うんだ!」と叫んでも、「でも不安なんです!」と返されると終わってしまいますので。
なので、エントリの目的としてはその「不安」の解消方法に焦点を当て、その中で従来のやり方は経済的な合理性から考えて不毛じゃないか、と提言したつもりです。

その上でaiさんのご指摘に答えさせていただくと、GPS携帯の話については、僕は未だ合理的と呼べるとは考えていません。あるのかないのかすら分からないようなコストパフォーマンスの携帯を持たせるよりは、護身術でも教えたほうが良いんじゃない?とか考えてしまいます。あくまで比較の問題を僕は論じているので、微塵でもプラスになれば良い、というアブソリュートな立場はあまり考慮していません。というかaiさんのように掛け捨て保険的に考えてるならまだおまじない程度の覚悟なんでしょうが、本気でそれが子供を守れていると思ってしまうのが一番良くないかと。(今気づいたんですが僕は昨今のセキュリティの論理に通底する技術決定論的な側面が嫌いなのかもしれません。)

次に監視カメラの話ですが、「そのうちスケールメリットが働くんじゃないか」という話はまさにおっしゃるとおりです。そしてそのスケールメリットが働いた結果、出来上がるのはゲーティッド・コミュニティじゃない?というのもまた事実ではないかと考えています。ゲーティッド・コミュニティで何故悪いのかというのは、多分このブログにいくつか書いてあると思いますのでご参照ください。

あと公的な機関が主体となる場合ですが、僕は全体の予算から見た相対的なコストパフォーマンスに言及しているわけではありません。監視カメラが今のところ犯罪の移動という、全体で見ればプラスマイナスゼロになるような効果しかもたらさないとすれば、それは全体の利益になるとは言い難い。そして全体の利益にならないような物に税金を突っ込むのは、一千万だろうが一円だろうが無駄というか税金の趣旨に反するので止めたほうが良いのでは、という話です。

natsumenatsume 2008/01/13 09:06 エントリの主旨とはまた関係ないところにつっかかって申し訳ないけど、全体の利益にならないようなものに税金突っ込むなというところだけは違うと思うので反対です。それは、たとえば「子供のための予算は子供がいない人にとっては無駄だから児童館とか公園に金かけるな」「障害者は全体の中の少数だからそういう何人いるかわかんない人のために金かけるな」「母子家庭や父子家庭は好きでやってるんだから補助するな自己責任」みたいな話につながると思うので。「自分は本なんか読まないから図書館に予算かけるな」とか言い出す人だって出てきそうな昨今でしょ。

で、GPSつき携帯を実際に持たせている親が身近にいるような親の一人として言うと、あれは持たせている人たちにしてみると護身術のひとつとして持たせている意識なんだと思う。つまり、警察不信とかが根底にはあって、仮に日本で拳銃所持が合法だったらたぶん拳銃持つだろうという人たちが、子供にGPSつき携帯を持たせている気がするのです。警察や他人は守ってくれない、だから離れているときにも自分がなんとかするために持たせる、っていう意識な感じです。私はGPSの精度とか信用してないし世界戦争はじまったらすぐに通信切れちゃうしなぁと思うから持たせるつもりはないけど…ただ忘れ物探査のために子供の傘にGPSつけたいとは思う(笑)。

都市部のセキュリティ政策の間が抜けているという点については賛成。というか、実際の凶悪な事件はむしろ地方都市で発生しているのではないかしら。東京は予算があるから、保護者に文句言われないように、マスコミのニュースに取り上げてもらえるように、見えやすいカネのかけかたしてるだけな感じがします。わが子の学校に限って言えば、防犯カメラなんて全然役に立ってないよ。柵とか乗り越え放題だもん。親は行事があればほぼ顔パスでスルーだし、どっかのきちがい親がナイフでも振り回したらそれまで。そんな飾りみたいな防犯カメラより学校や児童館の壊れたトイレとか遊具をなんとかしてやってよ、と思います。そっちにはスズメの涙みたいな予算しかつかないのよ。

klovklov 2008/01/14 20:48 コメントどうもです!

>全体の利益に〜
後だしじゃんけんのようで大変申し訳ないのですが、僕の意図としては、「全体の利益にならない」というのは、メリットデメリット足すとプラスマイナスゼロになってしまうという観点から無駄じゃないか、というのが趣旨です。なので児童館や公園にお金をかけることは、メリットデメリットを相殺するような構造ではない(と思う)ので、一応そうした議論は呼び出さないと考えている次第です。

>GPS
やっぱりそんな感じなんですかね。僕はどう考えても護身なんかになりえないと思っているんですが…たとえば5km先でGPSの反応が消えても、親が何か出来るかと言うと難しいですし、物理的に子供を守るわけじゃない。それで守ってくれてると勘違いするのは良くないと思うし、携帯会社もそれで守ってると思わせるのはえげつないなぁと思うのです。

>都市と地方のセキュリティ
本来学校って、顔パスでスルーで柵も超え放題な形であるべきだ、っていう話ではなかったのでしたっけ。いじめ問題をきっかけに「開かれた学校」を目指した経緯はどこに吹っ飛んだんでしょうか。
正直な話、人を殺そうという強い信念とそれに基づく殺害行動を本当に止めようと思ったらチェーンでぐるぐる巻きにした建物に一生一人で閉じ込めておくしかありません。それよりトイレ直せっていうのは、僕も現実的かつ誠実な要請だと思います。

「安全安心な暮らし」と狂信的に喚く人を見てると、じゃ刑務所行けばと思います。一番「安全」だと思いますよ。24時間監視が付いて、外部からのセキュリティもばっちり!良いこと尽くめです。

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