2011-04-27
年功序列という1つの時代の終焉
ご存知のとおり年功序列は崩壊したと言われています。
1990年代後半まで当たり前のように運用されてきた年功型の人事制度(厳密には職能資格制)。
様々な問題を抱えていましたが、決定的だったのは給料(基本給)を下げられなかったということでしょうか。
職能資格制において評価の対象となる「職務遂行能力」は本人の保有能力であるため、そもそも下がるという考え方がありません。
さらに法的な観点からも、給料の引き下げは容易ではありませんでした。
多くの企業において、給与規程に以下のような文言が記載されていたはずです。
「第○条(昇給) 昇給は毎年4月に、基本給について行うものとする。」
この条文には「降給」の文字がありません。
まさかと思われるかもしれませんが、この規定では会社は一方的に給料を下げることはできません。
そして、バブル崩壊後、経済は停滞し、組織の成長はストップ。
若年層が少なくなる一方で、高齢者層が急増し、全体の労働量が落ちているのに、企業が支払う人件費総額は増加するという頭の痛い状況。
企業は膨れ上がる人件費を何とか抑制したい、何かいい案はないかと考え、
「業績に応じて給料を上げ下げできる成果主義という制度がアメリカにあるらしい。早速導入してみよう。」
となりました。
結果はうまくいかない企業が多数でした。
理由も様々言われています。
しかしながら、年功序列からの脱却は時代の要請です。
成果主義がうまくいかなかったから、やはり元のやり方に戻そうというわけにはいきません。
はっきりしていることは、
- 大規模企業において、日本的システムである職能資格制を維持することは困難だった
- 成果主義シフトの潮流は今後もなお変わらない
- 中小企業については、必ずしも上記の前提があてはまるとは限らない。より柔軟な対応が必要である
ということであり、
これからの時代に勝ち残るための人事制度の模索は続いていくでしょう。
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2011-04-25
人事労務コンサルタントは必要か
「企業の経営資源、ヒト・モノ・カネの3要素。
その中で最も重要なヒトの管理」
私の業界でよく使われるフレーズです。
一般的に経営者はカネの管理に熱心だといえます。
設備投資を行ったり在庫を抱えたりする企業にとって、資金繰りのプレッシャーは常につきまといますし、
業績が上がれば税務対策、赤字になれば銀行対策、経営判断には原価管理やキャッシュフローの管理も重要です。
さらに株式公開すれば会計監査、金商法に基づいた財務諸表の作成が必要になります。
そもそもカネの管理をおろそかにする企業に未来はないでしょう。
一方で、ヒトの管理はどうでしょうか。
(ヒトの管理=人事管理・要員管理・雇用管理・就業管理・賃金管理等=人事労務管理とします)
実際のところ、一部の企業を除いた多くの企業は人事労務管理の改革に消極的であり、
近年急増している労働問題についても企業側の意識は低すぎると言わざるをえません。
加えて人事労務コンサルティングのマーケットは、他コンサルに比較して規模が小さいのではと実感します。
理由としては様々なものが考えられます。
- コンサルの価値が企業にとって分かりづらい
- 人事上の課題が明確になっていない、あるいは過去に問題が顕在化していない(潜在的な課題・問題は山積みかと思いますが)
- そもそも経営層に人事労務管理を検討する前提知識が薄い
- 顧客のニーズにかなったサービスの提供ができていない
これらは由々しき問題であり、コンサル側と企業経営側がそれぞれ今後真剣に取り組んでいかなければならない問題です。
企業の目的は言うまでもなく売上・利益の最大化です。
そして企業にとって最も大切な要素は間違いなくヒトです。
人事労務に求められる役割とは、企業の経営目的達成のために、ヒトの面からどう貢献ができるかということに尽きます。
人事労務の本質と重要性を正しく認識し、従業員の能力を最大限引き出すことこそが、今後の競争で生き残るために欠かせない条件の1つであると確信します。
2011-04-21
4月から6月の残業と社会保険料
企業を悩ます多額の社会保険料。
現在、人件費の約15%が企業の負担する法定福利費として発生すると言われています。
早い話、正社員1人を年収400万円で雇用すると、
その人に支払う給料・賞与以外に年間約60万円の経費がかかってくるということです。
年収500万の正社員20人の会社の場合、月あたりに換算すると、毎月約125万の出費です。
(業種や年齢等によって多少異なりますが)
社会保険料の中でも特に高いと言われる健康保険と厚生年金ですが、
これらの保険料は毎年4月から6月の給与額の平均に基づいて決まります。
つまり、4月に昇給した場合や、
4月から6月の間で通常時よりも残業がたくさん発生してしまった場合は、
1年間の保険料が高止まりするという、いまいち納得のいかない結果につながります。
「だから4月から6月の残業は抑えましょう」
と言うのは簡単ですが、
企業にもそれぞれ業務の都合というものがあります。
そんな中、厚生労働省より新しい通達がでているのでご紹介します。
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T110411S0030.pdf
4月〜6月給与の平均により算定した標準報酬月額が著しく不当である場合、
「保険者算定」という措置がとられますが、
今回の通達で、新たに以下の要件が追加されました。
4月〜6月の平均額から算出した標準報酬月額と、
前年7月〜当年6月の平均額から算出した標準報酬月額との間に
2等級以上の差が生じた場合であって、
その差が業務の性質上、毎年発生することが見込まれる場合
保険者算定は、会社が日本年金機構に対し、申立書を提出することで行われます。
この制度の利用により、4月から6月にかけて業務が繁忙だった会社は、
結果的に社会保険料が引き下がることになるものと考えられるでしょう。
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2011-04-19
震災による整理解雇
震災の影響で解雇や雇い止めが急増しています。
地震や津波の直接的被害をうけ、事業所閉鎖あるいは無期休業に追い込まれているようなケースでは、整理解雇もやむを得ないと考えられるでしょう。
実際に私の関与先でも事業所のいくつかが壊滅し、人員調整の決断を迫られている企業があります。
一方で、震災を口実にした便乗解雇も増えていると聞きます。
そして先日、震災の影響を理由に従業員40人を解雇した宮城県の運送会社が、震災後初めて不当解雇で提訴されました。
no title
判断が難しいのは震災の被害を直接受けたわけでなく、取引先の業績悪化による影響だったり、
一部の事業所閉鎖、一部従業員の削減を行う場合などです。
当然ながら日本では解雇は簡単には許されず、相応の理由が求められます。
そして、整理解雇の場合はさらに厳格な要件が判例によって形成されています(そもそも従業員側に責任がない為です)。
人事に携わったことのある方なら一度は聞いたことのある「整理解雇の4要件」です。
会社が流されたなどの壊滅的被害をうけた会社であれば実際こんなことは言ってられないでしょう。
しかし、被災地以外の会社で、部品・原材料の不足、顧客や売上の減少、計画停電等の影響、休業や一部事業所閉鎖などにより整理解雇を行う場合であれば、上記4要件は厳格に考慮したうえで手続きを踏むべきであると考えます。
(そうしなければ不当解雇と判断される恐れが十分にあります。)
また、全国の労働局や労働基準監督署には、解雇に係る相談で人が殺到していると聞きますが、こちらにも疑問符がつきます。
会社としては解雇を行うための免罪符が欲しいところでしょうが、労働局・労基署は民事不介入が原則です。解雇について有効・無効の判断はできません。
加えて労働局・労基署は、会社に労働基準法を守らせ、労働者を保護するという本来の役割があります。解雇の相談は周りの専門家にするのが確実です。
ちなみに震災による整理解雇であっても、労基署に申請して認定を受けない限り、
30日前の解雇予告 or 30日分の解雇予告手当の支払いは必要になるのでご注意ください。
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2011-04-16
未払い残業代を「不当利得」で返還請求
最近何かと話題になる未払い残業代問題。
特に退職した従業員から訴訟を起こされる案件が増えています。
「ちなみに未払いの残業代って、昔の分まで請求できるの?」
という疑問も沸いてきますが、残業代を含めた賃金の請求権は、2年間行われない場合は時効で消滅します(労働基準法第115条)。
そのため未払い残業代の請求は過去2年分について行われるのが通常でしたが、
最近ちょっと変わったケースを見つけました。
某飲食チェーンの元社員が、5年以上前の残業代を、
民法第703条の不当利得による返還請求によって支払うよう訴訟を提起したのです。
以下参照
http://kishadan.com/lounge/table.cgi?id=201001291904215
不当利得に基づく請求権の消滅時効は10年です。
もしこの訴えが認められるような事になれば、
全国の中小企業にとって少なからず影響があると考えられるでしょう。
残業代の不払いが不当利得の要件を満たすかどうか等様々な問題はあるものの、
今後、労働者の関心のさらなる高まりや
未払い残業代紛争の広がりにつながっていく1つのきっかけになるのではないかと思われます。
労働者の意識に反して、
企業側の関心がいまいち低いこの問題ですが、
早急な対策が必要なことは間違いありません。
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