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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2011-06-28

社会保険に加入しないリスク


厚生労働省非正規労働者厚生年金の加入要件緩和を検討している件を1ヵ月前に書きました。

※以前の記事
厚生年金の加入要件緩和の是非 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点

社会保険の加入義務があるにもかかわらず、その負担の大きさを理由に、従業員を加入させない中小零細企業も少なくないのが実情です。

法律では社会保険未加入の会社について一応罰則が定められているのですが(6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金)、現実に適用される例は稀なようです。



では、実際のところ、企業が社会保険に加入しないことによる現実的なリスクとは何でしょうか。


私は以下の3つだと考えます。

  1. 従業員が病気などにより休業した際の傷病手当金が支給されない。
  2. 従業員が死亡した際の遺族厚生年金が支給されない。
  3. 行政の調査が入った際に、過去2年間遡って保険料を支払わされる。


1. 傷病手当金は、私的な病気やケガで仕事に就けなくなった時に、1年半にわたって概ね給料の3分の2が支給される制度です。実際に休業した労働者にとっては非常にありがたい制度です。

ところがこの傷病手当金国民健康保険の加入者は受給できません。要するに、社会保険未加入の会社の従業員は受給できないのです。

この場合、社会保険に加入させなかったのは当然会社の責任ですから、会社は従業員が受け取れるはずであった傷病手当金に相当する金額を自腹で補償する必要があるものと考えられます。でなければ従業員に損害賠償を請求されてもおかしくありません。


次に 2. 遺族厚生年金も考え方は同じであり、従業員が死亡した際にその奥さんなどの一定の遺族に対し年金が支給されるのですが、厚生年金なので当然、社会保険に加入していない会社の従業員の遺族は受給できません。

こちらも会社の賠償責任の話がでてきそうですが、年金である分だけ、傷病手当金よりも場合によっては重い金額になりそうです。



そして最も現実的に起こりうるリスク 3. 行政の調査です。

年金事務所は社会保険に関する事務が適正に行われているか確認する為、定期的に企業に調査を行います。ここで未加入が判明すれば、該当者全員分、2年間遡って保険料の支払いを命じられます。

本来、保険料の半額は従業員が負担すべきものですが、この場合、「今回2年分の保険料の支払い命令を受けたから半額を徴収するよ。」 と従業員に言うのはなかなか無理があるのではないでしょうか。

結果的には全額会社負担になるのかと思われます。




社会保険は公的保険であり、要件を満たしている会社は加入する義務があります。とはいえ、法律通りに社会保険に加入すれば経営が立ち行かないと考え、加入を見送る会社があるのが現実です。

保険は将来起こるかもしれないリスクに対し、一定の資金を出しあって危険を回避する制度ですから、資金を出さない選択肢をとるのであれば、それなりのリスクがあるということを忘れてはいけません。そして、そのリスクは決して小さくないと思います。




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2011-06-23

巷で人気の労働法解説メルマガ


最近、労働法をQ&A形式で分かりりやすく解説する「365日働くルール」というメルマガが人気らしいです。発行しているのは関西の労働組合ネットワークの青年部で、昼食中に30秒で読めるメルマガが毎日配信されます。

以下、ブログ参照
http://seinenunion.blog33.fc2.com/


私も数週間前から購読を始めましたが、弁護士が監修しているということで内容はしっかりしていますし、何しろ分かりやすくて取っつきやすく書かれており、本当に30秒で読み終わるので億劫になることなく読めてしまいます。労働基準監督官や社労士も多数愛読しているのだとか。



労働法の難しい点の1つに、結論を白黒に一刀両断できないことが挙げられます。

労働基準法のような強行法規に違反すればもちろん行政指導・送検を経て罰則を適用されることになっていますが、実際に行政が重視するものもあれば、あまり重視されないものもあります。

一方、雇用契約の契約内容や解雇などに関する問題は当事者間の権利義務に係る民事の側面が大きいので、違法とはいえないようなケースでも十分に注意しなければいけない点があったりもしますし、話し合いや交渉を行って解決しなければ調停や訴訟に発展し、その後結論がはっきりでないまま和解になることも少なくありません。

労働法関連の行政取締法についても多数ありますが(男女雇用機会均等法パート労働法など)、それぞれ行政指導や制裁の程度も異なりますので、会社として現実にどう対応すべきかというスタンスも違ってきます。

いずれにしても、法律の条文を杓子定規にそのまま当てはめて考えることはできません。



そういう意味では今回のメルマガも30秒で読めるボリュームに全てを凝縮するには限界があり、あくまでも原則論という認識をもって気をつけて読むのがいいと思われます。

とはいえ、多くの会社員や経営者の方が労働法に関心をもつきっかけとして、また法令を正しく理解するツールとして、大きな意義をもつメルマガであると思います。

2011-06-16

精神障害による労災の増加 企業を悩ます「心の病」


14日、厚労省から2010年度の脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況について発表がありました。発表によると、業務上のストレス等でうつ病などの精神疾患精神障害を発症し、労災認定を受けた件数は308件で過去最多、さらに精神障害による労災請求件数は1,181件で2年連続過去最高の数字となったようです。

以下、厚労省の資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001f1k7.html


これは注目すべき数字です。


念のためですが、この精神障害による労災は、10年前には認定件数が現在の10分の1(請求件数は5分の1)、さらに20年前にはほぼゼロでした。

まあ考えてみれば、当時は経済も今ほど悪くない、携帯電話も今ほど普及していない、成果主義もない世の中でした。

働く環境は一変し、労働者の体と心に過重負荷がかかり、最近は本当にうつ病を発症して休職する方が多いと感じるようになりました。



ではポイントをいくつか


従来、「心の病」は私傷病として扱われることがほとんどで、療養のための休業は休職制度を利用し、生活費は健康保険から傷病手当金を受給し、就業規則で定めた期間を満了すれば休職期間満了で退職、ということになったと思われます。

しかしながら、労災認定されれば休業期間中は解雇はできません。さらに前回も書きましたが、労災は会社の責任が明確になるため、労災と別途で慰謝料を請求される可能性が高いでしょう。


また、労災の認定率が若干上がっています。行政は明らかに多くの職場において業務上の心理的負荷が精神障害を引き起こす具体的な危険が内在するという認識のもとに、精神障害に係る労災認定の判断を慎重に行っているものと思われます。


そして、「心の病」を引き起こす最も大きな理由はやはり人間関係です。前回の記事でセクハラ労災に関して触れましたが、今後企業のスタンスが最も問われてくる重要な問題は間違いなくパワハラだと考えられます。パワハラの対策は難しく、まだ多くの企業において進んでいないのが実情ではないでしょうか。


今回の発表で請求件数、支給決定件数ともに過去最高ということでしたが、今後さらに増加していくことが予想されます。休職規定の内容を再度見直すことも当然必要かと思われます。「心の病」対策はリスク管理の側面だけでなく、人材戦略の観点からも企業にとって非常に重要なものとなるでしょう。



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2011-06-13

セクハラの労災認定


「労働トラブルで最近特に問題になっているものは何か」

と聞かれれば、今ならセクハラパワハラと答えるかもしれません。


先ほどTBSのニュースでセクハラ労災認定についての特集を見ましたので、前回に引き続きセクハラについて書こうと思います。


以下参照
TBS NEWS - TBSの動画ニュースサイト



最近、各地の労働局においてもセクハラの相談が倍増していると聞きます。
行政の企業に対するセクハラの是正指導も確実に増えています。

厚労省の指針に則った対策を講じなければ使用者責任債務不履行責任を問われることになると前回お伝えしましたが、さきほどのニュースの内容はさらに一歩踏み込みます。


セクハラを原因とする精神疾患精神障害労災認定されるのか、という問題です。


詳しくはいずれ別の記事で書きますが、精神障害に係る労災認定「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」という行政通達に基づき、「心理的負荷評価表」という表を使って、労災になるのかどうかを行政が判断します。

そして、心理的負荷評価表によれば、セクハラの心理的負荷の強度は中程度に分類されています。つまり、セクハラは滅多なことでは労災として認められません。

実際私も以前にセクハラ労災申請に関わった経験があるのですが、その際労基署の職員に「多分無理ですよ」とはっきり言われました。

前記のニュースに登場する被害者の女性も労災の申請は認められず、行政の判断を不服として国を提訴したところ、裁判の途中で国が突然労災を認めたとのことです。現時点では、セクハラ労災認定を勝ち取ろうと思うなら、裁判まで覚悟する必要があるということです。


しかしながら、今の流れからいけば、厚労省はいずれ基準を見直すのではないでしょうか。


そして最も重要なのは、労災」とはそもそも災害を発生させた会社の労働者に対する補償責任を国の保険で代わりに支払う制度であり、セクハラ労災が認定されれば、会社の使用者としての責任がより明確に問われるということです。早い話、通常のセクハラトラブルよりも損害賠償額がでかくなるということです。仮に精神障害自殺に発展したら取り返しがつきません。

セクハラを放置する危険性、そしてセクハラ問題において企業が問われる責任を正しくご理解ください。



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2011-06-08

時代の変化に気付かない人々


先日セクハラに関する以下のニュースを見つけました。

岐阜新聞Web


ある自治体に勤務していた女性職員が懇親会でセクハラ行為をうけたとして、自治体損害賠償を求め訴訟を起こしたのですが、その裁判自治体側が提出した証拠が原本と違っていることが発覚したのです。



証拠の書類は懇親会における役割分担表。

f:id:kmayama:20110608123222j:image
上が原本
下は自治体裁判所に提出したもの。
「接待」の項目が抜けている。
自治体原本と違っていることを認めており、
現在内部調査を進めている。



これはもう、何というか、相当に駄目ではないでしょうか。

職員をコンパニオン扱いしたうえに証拠改ざんとは。
彼らの頭の中はバブル景気あたりで止まっているのかもしれません。



私の実感ですが、セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)を重要視しない企業は現在でも少なくないと思います。ですがそれに反して、セクハラが問題化したときの企業の責任はかなり重いものになってきています。

セクハラの定義は現在法律によって明確化されており、セクハラ対策として会社が講じなければならない指針を厚生労働大臣が定めています(通称セクハラ指針」)。
指針の内容は簡単にいうと以下です。

  1. セクハラに関する会社の方針を明確にしたうえ、従業員に周知・啓発
  2. セクハラに関する苦情・相談の窓口や担当者等、必要な体制を整備
  3. セクハラが実際に生じた際の調査、処分、配転などの適切な対応


当然これらの内容はセクハラ防止規程として規定化しておく必要があると思われます。


法令で義務付けられているとはいえ、はたしてそこまでする必要があるのか」

とお考えの方もいらっしゃると思います。


ちなみにセクハラ指針に則った対策をとらずに実際にセクハラが起きた場合、会社は民法715条不法行為使用者責任あるいは職場環境配慮義務に係る債務不履行により被害者から損害賠償を求められる可能性があります。


セクハラ対策の先送りは会社にとって確実にリスクです。
時代の変化に気付けない人々はいずれ退場を命じられる日がくるでしょう。



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2011-06-02

名ばかり管理職を甘く見てはいけない

つい最近ですが、知り合いの同業者の関与先で従業員から残業代を請求されるトラブルがありました。

未払い残業代を請求されるにもパターンは色々ありますが、今回のケースは、会社が管理職にしていた社員が実態は管理職じゃないとして支払われていなかった残業代を請求してくる、いわゆる名ばかり管理職問題です。



名ばかり管理職マクドナルドの店長が訴えた訴訟が有名なので、知らない人はほとんどいないものと思われます。マクドナルド事件は高裁で和解が成立しており、会社側の敗訴的和解と言われてはいますが、この問題で最高裁の判断はでていません。

しかしながら、全国のサービス業チェーンは気が気じゃないことでしょう。それまでは管理職が当たり前だった店長を管理職からはずすことを検討する企業も多かったと聞きます。



そして2日前、以下の2つのニュースを見つけました。


コンビニの店長が管理監督者の実態がなかったとして東京地裁が時間外手当支払いを命令
http://www.asahi.com/national/update/0531/TKY201105310500.html

某大手ミシンメーカー支店長3人が管理監督者にあたらないとして残業代の支払いを求めて提訴
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_date2&k=2011053100388



名ばかり管理職祭りでしょうか。




一応ですが、労働基準法残業代を支払わなくてよいといっているのは、管理職ではなく、管理監督者です。(もっと正確にいえば「監督若しくは管理の地位にある者」労基法第41条)


会社の定める管理職が法律上の管理監督者に該当するのかどうかの基準はザックリ言うと以下の3点です。

  1. 職務内容・権限と責任(労務管理について経営者と一体的立場)
  2. 出退勤について厳格に管理されていない
  3. 地位にふさわしい待遇(基本給や手当、賞与など)


要するに、従業員を採用・人事評価・昇格・降格・解雇などができて、何時に出勤して何時に帰って何日に休むとか自分である程度決められて、かつ残業しまくっている非管理職よりも給料が高いということです。

この基準どおりに判定すると、法律管理監督者として認められるのはいいとこ部長以上でしょう。現実的に企業にとって厳しい基準です。

それもあってか、名ばかり管理職問題は実際のところ甘く考えている企業が多いという実感です。

よくあるのは、管理監督者としてのマネージャー業務よりプレーヤー業務のほうが多いとか(プレーヤー業務は3割以内に抑えるべき)、従業員全体に占める管理職の割合が多すぎるとか(25%を超えると多いという印象)。あと、給料の逆転現象は避けるべきなのは言うまでもありません。



はっきり申し上げて、名ばかり管理職問題は勃発すれば会社はかなりの確率でキツイ状況に追い込まれます。何しろ労働基準監督署長時間労働や未払い残業代と並んでこの問題を重視しています。裁判にでもなろうものなら相当に厳格な基準で管理監督者性を判断されることになります。加えて主張立証責任は会社側にあります。


思い当たる方は1日も早い行動をお勧めします。




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