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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2011-10-25

雇入れ時の健康診断費用は誰が負担するべきか


こんな質問を受けることがあります。


”従業員が入社する際に健康診断書の提出を求めたら、「健康診断を受診させる義務は会社にあるのだから費用は会社が出すべきじゃないのか。」と従業員に聞かれた。会社が費用を負担しなければならないのか?”



雇入時および毎年一回医師による健康診断を実施しなければならないことはよく知られていることと思いますが、費用負担については意外と知られていないのかもしれません。



順番にいくと、
まず労働安全衛生法第66条、および労働安全衛生規則第43条によって、会社は労働者を雇入れたときに健康診断を実施することが義務付けられています。

次に「昭和47年9月18日基発第602号」という通達で、健康診断の費用は当然会社が負担すべきものであるとされています。

しがたって法令によれば、雇入時健康診断の費用を従業員に負担させることは違法ということになります。



しかしながら、私の知る限り多くの会社が雇入れ時の健康診断労働者に自己負担で受けさせ、入社書類として診断書を提出させているのが現状ではないでしょうか。



法令では以下のような例外規定があります。

「ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。」

この規定を逆手にとり、採用時の提出書類として健康診断書を求めることによって、会社側は雇入れ時の健康診断の費用負担を実質免れていると考えられます。

(※ちなみに、雇入時の健康診断の条文を根拠にして採用選考のために採用内定前の応募者に一律に健康診断を実施できるわけではありません。当然ながら健康診断の結果を理由に採否を決定することもできません。これは平成5年5月10日付け労働省事務連絡で通達されています。)


一般的にですが、入社書類として健康診断書を提出させることによるトラブルや問題というのはあまり生じていないのが現状です。というのも採用直後の労働者の立場の弱さから診断書の提出を拒否するというのはなかなか難しいものです。私も過去に転職した際に自己負担で健康診断を受けたことがあります。受診料は1万円程度でした。




実際に健康診断書を従業員に提出させている企業が注意すべきことは次の点だと思います。


従業員が診断書の提出を拒否した状態で健康診断の実施がなければ、労働基準監督署が介入した際には安衛法違反で是正勧告を受ける可能性が十分に考えられます。
(※「雇入時」とは具体的にいつまでなのか法令では明確になっていないため、各自適切に判断する必要がありますが、さすがに入社後何ヵ月も経ってから受けさせるのは遅いと思われます。)


また、健康診断を受診させなければならないのは「常時使用する労働者」と定められています。これは簡単に言えば、労働時間が週30時間以上でかつ1年以上の雇用見込みのある労働者です。パートタイマー契約社員も条件を満たせば対象になります。

長期勤続を前提とする正社員であれば文句を言わずに自己負担で診断書を提出する場面であっても、一般的に正社員よりもロイヤルティが低く収入の少ない非正規従業員の場合には、健康診断にかかる費用も軽いものではなく、法令を引き合いにだして診断書の提出を拒否する可能性は十分に考えられます。

非正規従業員の比率が多い企業は注意が必要です。



最後に、就業規則において採用時の書類を提出しない従業員に対する懲戒・採用取り消しや解雇などを規定している場合についてですが、従業員に診断書の提出を求められるのはあくまでも従業員が診断書を持っていた場合に限られます。健康診断の受診自体を命ずることはできません。(命令の根拠となる法律がないからです)

解雇懲戒の妥当性を断定するようなことは言えませんが、従業員が健康診断を受けたくないと言って提出を拒否した場合に懲戒解雇を行うのは現実的には無理があるのではないかと思われます。従業員に協力を求める姿勢で提出を促すのが無難であると考えられます。



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2011-10-16

退職勧奨のリスク


サイバーエージェントが10月から導入した新しい人事制度が波紋をよんでいるようです。

ミスマッチ制度」といわれるもので、下位5%にあたるD評価を2回受けた従業員は部署異動または退職勧奨のいずれかの選択を迫られるというものです。


※以下参照
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111014-00000005-jct-bus_all


同社は斬新な社内制度を次々に打ち出すことで以前から有名です。今回についても明確な数字を決めて退職勧奨を制度に組み込むのは珍しいケースだといえますが、もちろん制度がもたらす効果については賛否両論あると思われます。


個人的に気になったのは、「退職勧奨」の一般的な認識についてです。



法律的な言い方をすれば、退職勧奨とは、使用者が労働者に対して行う労働契約の合意解約の申込(あるいは申込の誘引)のことをいいます。分かりやすく言えば、会社が従業員に「退職しませんか?」と誘うことです。

もちろん退職勧奨に応じるかどうかは労働者が自分の意思で決めればいいことであって、法的には応じる義務は全くありません。

また会社は、いつでも、どんな理由でも、誰に対しても退職勧奨を自由に行うことができます。単なる合意退職の申込なので当然といえば当然です。

ただし、退職勧奨を明確に断った従業員に対して、その後も執拗に退職勧奨を続けるのは公序良俗に反し違法性がでてくると考えられます。

退職勧奨の方法についても、威圧感を与えたり、従業員の自由意思を阻害するようなやり方は不法行為を構成し、後で損害賠償の請求を受けたり、退職を無効とされる可能性があるため会社側は注意が必要です。

例えば、面談で退職勧奨を行う場合には、時間は短めに30分程度、回数も多くて3回までに留めるべきですし、場所は狭い密室ではなくできれば開放された所で、会社側は2名以上の複数で臨むべきでしょう。大きい声で威嚇したり、解雇を仄めかして脅すなどは論外です。



つまり退職勧奨はやり方次第では退職強要(実質解雇)とみなされ、逆に適法に行われる限りは本来従業員にとって不利益はないということです。
(退職を勧められたことによる精神的・心理的ショックは別として)

そして、勤務成績や能力不足を理由に労働者解雇する場合には、会社は明確な目標を示して再度十分な改善指導・教育を行ったり、配置転換を行うなどの解雇回避努力が求められます。

結局どのような人事制度をつくったとしても、それによって会社が従業員の退職を容易ならしめることはできません。



なお、単なる退職の誘いではなく、低評価者に対して会社を続けることが困難な雰囲気を匂わすことにより、従業員に緊張感を与えることを意図して退職勧奨を制度に組み込むという考え方も当然あり得るわけですが、法的問題やリスクをクリアするのが前提であり、安易な考えでそのような制度を導入することはお勧めしません。




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2011-10-09

定年制復活は何を意味するのか


マクドナルドの定年制復活の記事は目を奪われた方も多かったのではないでしょうか。

マクドナルドが当初定年制を廃止したのは、実力主義の意識を高めることが目的でした。

年功序列を廃止し、その一環として定年制を廃止することによって、会社が実力本位であることを社員に明確に示すことになり、若手のモチベーションを高めることができると考えたようですが、実際は思惑通りにはいかず、ベテラン社員が自身の成果を優先してしまい、結局は若手をうまく育成できなくなってしまったとのことです。



ここから先は一般論として話をしたいと思います。

高齢者雇用安定法の改正にともなって定年制を廃止した企業は2.8%といわれていますが、日本で定年制を廃止して業績を向上させていくことは絶望的に難しいと思います。



定年制をなくすということは年齢差別をなくすことにほかなりません。賃金の決定や採用・退職に関して年齢的要素を一切排除するということです。年功序列は当然に廃止です。

そして前提となるのが、定年制が廃止されれば何歳になっても働ける反面、定年までの雇用が保証されないということです。

何歳になっても働けるというのは、年齢に関係なく実力があれば60代・70代になっても退職する必要がないということであり、裏を返せば実力のない者は20代でも30代でも退場を余儀なくされるということです。

これらの事項が担保されなければ、会社が実力本位であることを社員に示し、実力主義の意識を高めるという結果にはつながらないと考えられます。


しかしながら、日本においては判例の積み重ねで確立された解雇権濫用法理によって解雇が厳しく制限されており、労働者の能力や成果を理由とする解雇のハードルは相当に高いというのが実情です。一方で日本の雇用慣行は現在でもまだまだ新卒一括採用、終身雇用年功序列を基本としている部分が多く、労働市場流動性は極めて乏しいといえます。

前述の実力主義の意識を高めるための定年制の廃止という考え方は、日本の雇用システムにおいては相容れないものであり、結果的には全社員の雇用契約がエンドレスで続いていくことになり、採用活動を通常通り行えば毎年恐るべき額の人件費が加算されていくのは火を見るより明らかです。定年制廃止のハードルは極めて高いものといえます。



なお、いったん廃止した定年制を復活させることは労働条件の不利益変更にあたると考えられますので、定年制の廃止を検討する場合はこの点についても注意が必要です。



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