有期雇用 上限5年の法改正を批判する

いま法改正が議論されている有期雇用5年の上限規制。具体的には有期労働契約の通算期間が更新によって5年を超えた労働者から申し出があった場合、無期雇用(つまり正社員)に転換しなければならないというもの。

早ければ来年の施行を目指すようですが、この件は気になるので書きます。


はっきり言いますが実際のところこの法改正によって

「そうか。契約社員は5年更新したら正社員にしなければならないという法律ができたのか。仕方ない。うちの会社も契約が5年過ぎたら正社員にするか。」

とはなりません。企業では使える人件費総額というものが大枠決まってますから。法律変わったら使える人件費枠が自動的に増えるとでも?

法律作る皆さん、もうちょっと頭使ってください。


おそらくこうなります。

1.正社員にこだわらず、これまで同様に契約社員として働いていきたいと思っている人
例え本人が正社員(無期雇用)にこだわっていなくても、とりあえず通算5年になったらいったん終了。本人が本当にどう考えているかは会社にはわからないし、最初は有期雇用のままでよくても後で気が変わるかもしれません。本人が申し出た時点で契約形態が変わるリスクを抱えるのでは人件費管理がうまくいきません。

2.仕方なく契約社員で働いているが、チャンスがあれば正社員になりたいと思っている人
5年以内に正社員(無期雇用)登用がなければ5年経った時点で終了。会社に認められなければ正社員になれないのは今まで通りだが、それに5年という実質的な期限がつくことになるでしょう。


結局この法改正がもたらすのは、「有期雇用は通算5年を超える前にきちんと雇止めしなければ」と企業に意識させて、今までなら生じなかった意味のない雇止めを増加させ、現状よりもさらに非正規労働者の雇用を不安定にさせるものだと考えられます。



「いや、企業が必要と思う人材であれば、5年経って本人から申し出があれば正社員に転換するのでは?」

いえいえ、本当にずっと働いて欲しい、よそに行って欲しくない人材ならそんな規制なくても正社員にしてますから。企業は必要と判断した優秀な人材は多少無理してでも確保するものです。



そもそも近年の雇い止めトラブルに係る裁判例は、有期契約の通算期間だけで判断されることはなく、

・業務内容の恒常性・臨時性
・更新手続きの厳格性
・更新を期待させる言動
・他の労働者の更新状況

などの様々な要素を総合的にみて、実質期間の定めがない契約といえるか、あるいは労働者に継続雇用を期待させるような状況になっていなかったかを判断して、最終的に解雇権濫用法理を適用するかどうかを決めていたわけです。契約の通算期間だけをみて期間の定めのない契約に転換させるのは明らかに矛盾した考えです。

本当に雇用の安定化を図るのであれば、現在使われている雇止めの法理を法令として明確化、具体化することの方が重要ではないんですかね。


派遣法の「上限3年に抵触したら3ヵ月のクーリング期間だけ非正規の直雇用にして再度派遣に戻せ」みたいな抜け穴使う企業がでてくるんでしょう。実際有期雇用の上限規制でもクーリング期間は設定されると思います。

ただし、労働者派遣法は公法であるため、派遣年数の上限に違反しても行政の指導や制裁を受けるにとどまり、労働者が派遣先企業に対して直接雇用を請求する権利は生じない(みなし雇用は認められない)ですが、今回の法改正は私法上の権利義務を定める労働契約法の改正になるので、上限をオーバーすれば労働者は直接権利の実現を訴えでることができると考えられる点に注意すべきです。




関連記事