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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2012-08-30

高年齢者雇用安定法 改正ポイントまとめ


さて、昨日とうとう改正高齢法が参院で可決・成立しました。施行は来年の平成25年4月からの予定です。ポイントは概ね次のようになります。


1.継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止

つまり希望者は全員定年後再雇用し、65歳まで雇用しなければならなくなるということです。これまでのように労使協定で勤務評価や出勤率などの基準を定めておいて再雇用したい人を選ぶということが今後はできなくなります。

ただし、基準の廃止にあたっては経過措置があります。労使協定によって継続雇用の対象となる基準を定めている場合には、以下の範囲において段階的にその基準が適用されることになります。

平成25年4月1日〜28年3月31日 61歳以上
平成28年4月1日〜31年3月31日 62歳以上
平成31年4月1日〜34年3月31日 63歳以上
平成34年4月1日〜37年3月31日 64歳以上

実質的には65歳までの全員雇用完全義務化されるのは平成37年4月以降ということになります。

また、以前の記事でも触れたように、継続雇用の例外(心身の健康状態の不調など)については今後指針が定められることになっています。



2.継続雇用制度の対象者が雇用される企業の範囲の拡大

現行では継続雇用として雇用される会社は定年を迎えた会社および子会社となっていましたが、今後は企業の負担を考慮し、グループ企業まで範囲が拡大されることになります。

(※グループ企業は「特殊関係事業主」といいます。「当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主」のことです。例えば親会社の別の子会社など)



3.義務違反の企業に対する公表規定の導入

基本的に高年齢者雇用確保措置の違反企業について罰則というものはなく、これまでは違反企業に対しては助言・指導・勧告止まりでした。ですからはっきりいえば現実には違反企業だらけ、適法に制度を運用した会社ほどバカを見たという状況が少なからずありました。

今後は勧告に従わない場合には、制度上は企業名公表もあり得ることになります(罰則という位置付けではありませんが)。現実にはどの程度の運用になるのか不明ですが、おそらく余ほどの悪質な違反行為やひどい対応がなければなかなか公表までいく事はないように思います。



4.「高年齢者等職業安定対策基本方針」の見直し

雇用機会の増大の目標の対象となる高年齢者を65歳以上にまで拡大します。



来年の4月法施行にむけて各企業の人件費負担増に係る対応や、就業規則の改定、賃金体系・人事制度の整備等が急がれるところです。




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2012-08-27

労働基準監督官による刑事立件のハードルの高さ


九州鹿児島管轄の労働基準監督署が、原発作業員7人が死傷した事故について労働安全衛生法違反容疑での立件を断念したというニュースです。

ページが見つかりません - SankeiBiz(サンケイビズ):総合経済情報サイト

労働局によると、現場監督が死亡し十分な裏付け捜査ができないためで、昨年3月に捜査を打ち切った。ただ危険な手順書に基づいて作業をさせたなどとして、九電と関連会社には同法に基づく是正勧告をした。



労働基準監督官は普段は行政官として労基法・労安衛法などに基づいて企業の行政指導にあたっていますが、法違反が悪質であったり、正式な告訴手続きがとられたりしたときは、特別司法警察員として刑事訴訟法に基づき刑事手続きを進め、最終的に検察官へ送致(送検)することになります。

行政官司法警察職員は職責も権限も全く異なります。監督機関による「調査」から、捜査機関による「捜査」に切り替わります。労基署は捜査機関ではないので捜査はできません。

ですから労働者労基法違反を申告する場合は通常は労基署あてに行いますが、告訴状を提出して処罰を求めるのであれば労基署あてではなく司法警察員あてに行うことになります。監督官に行政権限の発動を求めるのか、それとも刑事訴追を求めるのかによって異なるのです。


今回の事件では、裏付けの証拠が不十分であるため労安衛法違反による送検は行わずに捜査を打ち切り行政指導(是正勧告)に終わっています(※業務上過失致死傷容疑では県警から送検される予定。)

通常の民事による労働トラブルとは違って、刑事裁判では証拠が乏しい場合は法違反が特定できず無罪と判断される可能性が非常に高く、そのため労働基準監督官は立件・立証が可能かどうか非常に厳しい視点で検討します。刑事立件が難しく、かつ企業が是正勧告にも従わない状況であれば、労働者労働審判などの民事手続きをとっていかざるを得ないでしょう。「疑わしきは被告人の利益に」の刑事裁判の原則とそのハードルの高さを認識させられる事件だと思います。




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2012-08-23

「キラキラネームは就職に不利」は本当か


当て字や変わった読み方の子供の名前は最近「キラキラネーム」といわれたりしますが、親がよかれと思って特別な思いをこめて付けた奇抜な名前が就職活動の場面で不利になるという話があります。

大手企業役員 「正直キラキラネームの学生の採用ためらう」│NEWSポストセブン
一部抜粋

人事ではエントリーシートや面接の際に、キラキラネームの人にはどうしても厳しくなってしまう。試験結果が同程度なら、やはり一般的な名前を優先して採用する。前例があるのに人事は何を考えてんだ、と責められる可能性があるからです

採用試験の際にキラキラネームを気にするようになった企業は少なくない。ある大手メーカー役員は、「いいにくいことだが」と前置きし、「そういう名前を付ける親御さんの“常識”はどうしても本人に影響してしまうからね」と語った。



解雇規制の厳しい日本では企業がいったん労働者を雇ったら辞めさせるのは本当に容易ではありません。これほど人を雇うことがリスクとなる国はなかなかないでしょう。出口が規制されている以上、入口である採用時点において企業は想定し得るあらゆるマイナス要素を判断材料にするのは当然です。

名前がその人の資質・能力・養育環境に関係するのかどうかはどれだけ議論してみても仮定の話でしかありません。どんなに奇抜な名前を付けられても有能な人材はいくらでもいると思われますし、その逆もまた然りです。

ですが従業員の採用というものは、特に大手の新卒採用においては費用対効果のバランスになってきます。時間とコストをかけて全ての応募者を様々な視点からじっくり選考できれば、学歴転職歴などに惑わされずに採用の精度を上げることも可能ですがそれは現実的ではありません。

企業が効率的に採用活動を行う上で、名前が明確な採用基準とはならずとも検討材料の1つとされたり参考にされていたとしても、それが合理性がない行為だとは思えません。

企業には原則として採用基準等に関する採用の自由が広く認められており、誰をどのような基準で採用するかは一定の法律に抵触しない限り制限を受けないのです(例外として性別、年齢、障害者、思想・信条、労組加入など)。名前で解雇はできないのだから名前で採用可否を決するという企業が実際にあったとしても不思議ではありません。


なお補足として、実務面から考えると、単純に名前を「読めない」ことによる具体的な不都合は少なからずあると思われます。人事管理面からも健康保険などの手続き上からも不便であることは間違いありません。




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2012-08-21

有期雇用契約なのに試用期間を設ける矛盾とリスク


「試用期間はまだ本採用ではないのだから会社の裁量で簡単に労働者を辞めさせることができる」と考える経営者は意外と少なくありません。ですが現実は逆です。採用後の数ヵ月を「試用期間」としてしまった以上、余程のことがない限り解雇は許されないことになります。

試用期間は法律上、「解約権留保付き労働契約」といわれます。その名の通り解約権が留保されているので、試用期間中に社員としての適格性を評価・判断し、適性がないと判断されたときには企業は留保された解約権を行使することになります。

労働者は当然本採用を希望しますから、会社は一方的な意思によって労働契約を解約することになります。試用期間中または試用期間終了後の本採用拒否とはつまり解雇なのだということを会社は認識しなければなりません。

では、この場合の留保解約権(解雇権)はどの程度の事由であれば正当に行使できるのかがポイントになります。理屈上は通常の解雇に比べ広い範囲の解雇権が認められると言われていますが、しかし、近年の裁判例によれば現実には必ずしも解雇が広範に認められるような流れにはなっていません。

つまり、企業は実際問題として、試用期間中であろうがなかろうが通常の解雇と同じくらいの重大な事由でない限り解雇は控えるべきであるということになります。試用期間中の解雇のハードルは世間で考えられているよりもはるかに高いのです。



そして最も注意したい点は、試用期間を定めておきながら、同時に最初の数ヵ月間を有期契約にして、問題がなければその後は無期雇用にするというケースです。

仕事がきちんとできるかを見極めたいから最初の数ヵ月間を有期雇用にするという方法は現実的には確かに有効ですが、それを「試用期間」と呼んでしまった時点で簡単に契約期間満了を主張することが難しくなります。

神戸弘陵学園事件という裁判例では以下のように示されています。

使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。


たとえ有期契約を結んでいたとしても、それが試用目的であることが明らかな場合、それは実質有期契約ではないと判断され、解雇するほどの事由がない限り契約は継続してしまうということです。

そもそも試用期間とは長期雇用を前提とした制度であり、臨時的・一時的雇用を前提とする有期雇用契約において試用期間を設けること自体が本質的に矛盾しているのであり、その分だけ期間の定めのない無期雇用とみなされるリスクが高まるという点に注意する必要があります。




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2012-08-17

労基署の残業上限時間の容認っぷりが凄まじい


東京新聞が企業の労使協定の実態を調査したところ、残業時間の上限があまりにも法令の趣旨とかけ離れており、労災過労死認定基準をはるかに凌ぐ上限を設定している企業が少なからず存在していることがわかりました。

以下、東京新聞記事より引用します。

二〇〇〇年以降に労働基準監督署裁判所が社員の過労死過労自殺を認定した 企業のうち、本紙が把握できた百十一社について残業時間の上限を調べたところ、約半数の五十四社で依然として月八十時間(いわゆる過労死ライン)以上の残業を 認めていることが分かった。社員の働き過ぎを抑制する動きは鈍い。

本紙は百十一社の過労死があった本社もしくは支店について、労使が結んだ最新の「時間外労働休日労働に関する協定(三六協定)届」を情報公開するよう労基署の上部機関である労働局に請求。

開示資料によると、月当たりの残業の上限が長いのは、NTT東日本の二百五十八時間や大日本印刷市谷事業部の二百時間、プラント保守大手「新興プランテック」の百八十時間、ニコン、JA下関、東芝電機サービスの各百五十時間など。これらを含め百時間以上は二十七社あった。

労働組合のある五十八社の月平均は約九十三時間。労組のない五十三社は約六十四時間で、労組のある企業の方が長時間労働を容認する傾向が浮かぶ。

本紙は百十一社に労務管理のアンケートも行い、二十六社から回答を得た。

現行制度は、企業が労基署に届け出る三六協定の残業時間について「月四十五時間、年三百六十時間」までという制限があるが、特別な事情があれば、半年間はいくらでも
延長できる。

こうした制度の見直しについて二十六社からは「企業ごとの状況や立場が異なるので一律的な見直しは困難」(製造業)「企業モラルの問題」(外食産業)などの回答があった。

労働問題に詳しい森岡孝二・関西大教授(企業社会論)は「過労死があった後も、長時間の三六協定労基署に受理させている厚生労働省の考え方と、それを許している法制度に問題がある」と指摘する。



まず、残業時間についての法規制を簡単にまとめますと、


1.労使協定を締結していない会社は1分でも残業させたら労基法違反

2.労使協定で定められる残業時間の上限は月あたりだと45時間(協定した時間を超えたら労基法違反)

3.労使協定に特別条項を入れれば、月45時間を超える協定も締結できる。この場合の上限は特に設定されていない。

4.ただし、過労死労災認定基準(月80時間等)が存在する為、その基準を超える協定は法の趣旨から好ましくない


ということになります。
労災認定基準の詳細は過去記事をご覧ください。
<過労死・過労自殺> 残業時間の上限を考える - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



つまるところ、法令上は労使協定の手続きをきちんとしていれば、何時間で協定しようが違法にはならないわけですが、労基署が月150時間、200時間の残業を許す協定をやすやすと受理する事実には正直唖然とします。

仮に上限いっぱいまで残業させた場合、休日出勤を毎週1回したとしても、毎日7〜9時間残業することになると思われます。

このような労使協定を締結し、過労死ラインを超える労働をした労働者が亡くなれば、企業が遺族から責任を追及されることになります。「労基署が協定書を受理したんだから企業に責任はない」と言ってみても行政は責任をとってくれません。ですから企業としては今回のような記事を見て「何だ、100時間、200時間を上限に協定しても問題ないのか。」と安易に考えたりせず、労基署が受け取る・受け取らないに関わらず労災認定基準を考慮して残業時間を協定すべきです。

それにしてもこうした協定が原因で過労死が発生すれば、適切な是正・指導を行わなかった監督行政の責任は大きいと思います。監督責任を問う訴訟を起こされて然るべきだと思います。


もう1点気になるのは、労働組合のある企業の方が労働組合のない企業に比べ、協定の上限時間の平均が約30時間長く、過労死ラインを超える93時間であったという点です。近年、集団的な労使交渉がいかに形骸化しているかを再認識させられる記事でした。




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2012-08-09

「我が社にタイムカードは不要」はアリなのか


某婦人下着メーカーでは、社員の出退勤を管理するタイムカードがないという記事です。

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一部引用

『遅刻早退私用外出のすべてを社員の自由精神に委ね、これを給料とも、人事考課とも結びつけない』

 それからである。職場の雰囲気が一変し、皆一生懸命に働くようになったという。

以来、今日に至るまでタイムカードがない。約50年前にできた「相互信頼の経営」は、いまも脈々と流れている。

 新入社員の中には、タイムカードがないことに驚く社員もいるが、それだけに、かえって自ら時間管理しなければという気持ちになるそうだ。やはり、自主的な“やる気”を引き出すのは、「性悪説」より「性善説」のほうが効果が大きいようだ。

 「タイムカードがないのは、経営者と従業員、上司と部下、同僚同士が互いに信用しようとする思いを持っていることの証。こうした信頼が、従業員の仕事へのモチベーションの維持にもつながっている」(広報部)と話している。




従業員を信じてタイムカードをつけないという姿勢は素晴らしいことですが、いちおう誤解があるといけないので書いておきます。



まず大前提として、タイムカードをつけるかどうかはともかく、事業主には労働時間を必ず把握する義務があります。

これは出退勤時刻や遅刻・早退・私用外出などを労働者に委ねるかどうかにかかわらず、また、時間外・深夜割増賃金労働者の申告通り全て支払うかどうかにかかわらずです。

労働時間を把握・算定する目的は、給料を計算する為だけではないからです。



根拠となる法令は以下です。


労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」

この通達では、労働時間数が何時間かというだけでなく、始業時刻、終業時刻がそれぞれ何時なのかまで会社が把握する義務があることが明確に定められています。

また、労働時間の記録の方法については、管理者が現認して直接記録するか、タイムカードICカードなどの客観的な記録(勤怠管理システムを含む)によるのが原則であり、自己申告による記録は例外です。仮に前述の会社が労働者の自己申告によって記録しているのであれば、実際の労働時間と合致しているのかを必要に応じて実態調査する義務があります。

また、この通達によれば、労基法上の「管理監督者」と「みなし労働時間制」の対象者に関しては労働時間把握義務はありませんが、健康確保の目的から適正な労働時間管理を行う義務があるとされており、また、裁量労働制の対象者については、労働省告示第149号」によって、どの時間帯に何時間くらい在社していたか出退勤時刻あるいは入退室時刻の記録によって把握すべきとされています。

ですから労働時間把握算定義務のない管理監督者・みなし労働時間制の対象者についても、結局はタイムカードなど一般の労働者と同じ方法によって記録をとることが現実的なのです。



さらに

労働基準法第108条においては、すべての労働者について賃金台帳を作成する義務が規定されており、その中の項目として労働時間数、時間外・休日・深夜労働時間数がありますから、この条文からも会社に労働時間把握義務があることは明白です。



なぜこのように会社が労働者労働時間を把握・管理する必要があるのかといえば、会社は労働者の生命、身体の安全、そして健康を確保するという公法上・私法上の義務を負っているからです。労働者の申告を信じるかどうか、時間管理を労働者に全て委ねるかどうかということは全く別の問題です。

もちろん前述の会社も、タイムカード以外の何らかの方法によって労働時間を管理しているはずだと思いますし、残業時間については残業申請書・記録簿などによって別途管理することが可能です。

仮に労働時間を把握せずに問題が生じた場合、例えば労働者が虚偽の申告をしていた場合(長時間残業をして全く申告しないなど)、発覚すれば会社の責任が問われます。未払い残業代を請求される事案や、長時間労働による過労死について会社の管理責任が争われる事案では、会社がいかに適正な労働時間管理を行っていたかが重要になります。

くれぐれも冒頭の記事を読んで、「労働者に全て任せれば労働時間を把握する必要はない」などと考えないようご注意ください。



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2012-08-06

5年を超える前に雇止めすれば問題ないという勘違い<改正労働契約法>


先週、改正労働契約法がとうとう可決、成立しました。有期雇用契約の労働者契約社員)が同じ会社で5年を超えて反復更新された場合には、本人の希望により無期雇用(つまり正社員)への転換を企業に義務付けるという例の話題の法改正です。施行は来年の4月です。

この法改正による世間の反応はというと

「そんな規制したら、会社は5年経つ前に更新打ち切るに決まっているでしょ。」

「これまで長年更新されてきた人がみな5年以内で契約打ち切られて失業者が増える。」

という声が大多数のようです。今回の法改正が「5年以内の雇止めの促進」につながるというわけです。確かに企業は概ねそのように動くと思います。ただし、本当のところはそんなに単純な話ではありません。



今回の労働契約法の改正は、多くの企業や労働者大きな誤解を与えかねない法改正だと思っています。

というのも、現実として今まで企業は有期雇用契約を何年も実質上限なく更新してきました。そして今回の改正で、上限の5年を超えた場合には無期雇用に転換しろといわれています。裏を返せば、「通算5年経過時点までに更新を止めさえすれば、有期雇用を何回更新してどう取り扱おうが基本的に企業の自由だ」という間違った認識を企業と労働者に与えかねないのであり、少なくとも多くの労働者はそう考えている状況です。

しかしながら、有期労働契約は本来、臨時的・一時的な業務を行わせるための雇用形態であり、そもそも常用的な労働者を雇い入れることを前提としていません。にもかかわらず現実には多くの企業が恒常的業務のために有期労働者を雇って反復更新を重ね、そして都合のいいときに契約を打ち切るという法の趣旨に反した運用を続けているのであり、裁判では実質「期間の定めのない雇用」と同じだと判断され解雇法理が適用されて雇止め無効とされるケースが少なくありません。例え上限5年に達していなくとも、「無期雇用と判断される可能性」も「雇止めを無効とされる可能性」も十分にあるのであり、5年を超えたら「可能性」どころでなく問答無用で無期転換を強制されるということなのです。

しかも今回の改正では、合理的な理由がなければ雇い止めはできないとする「雇止め法理」が明文化されています。これまで裁判で示されていた雇止め法理が法律に明文化されることによって、これまで以上に雇止め時の正当な理由が重要になると考えられます。

したがって、有期雇用契約が5年を超える前に雇止めをすれば何も問題ないなどという考えは大きな間違いであり、むしろこれを機会に自社の有期雇用の運用の適正化について真剣に検討すべきであることがお分かりいただけると思います。

当然ですが、無期転換を回避するための5年雇止めは合理的な理由とはいえません。厚生労働省告示に基づき労働者が雇止め理由証明書の交付を会社に請求した場合には、まさか雇止めの理由を「無期転換回避の為」とは書けませんので、きちんと合理的な理由を明示することが求められます。



さらに注意したい点は、今回の改正は通算期間の長さを基準にして無期転換の義務を課しており、ともすれば通算期間が長いほど(更新回数が多いほど)無期雇用に近づき、逆に通算期間が短ければ(更新回数が少なければ)有期雇用として認められやすいとの誤解が生じかねないということです。

過去の判例では、まだ1度も更新していない有期契約を1年終了時点で最初に更新拒否した場合であっても、継続雇用への合理的な期待があったとして雇止めが無効とされたケースがあります。必ずしも通算期間や更新回数だけで雇止めの有効性が判断されるわけではなく、雇用の実態を総合的に考慮して判断されるという事を忘れてはいけません。



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2012-08-02

<65歳まで全員雇用>改正高齢者雇用安定法の問題点


昨日、60歳定年後の希望者全員を65歳まで雇用することを企業に義務付ける「改正高齢者雇用安定法」が衆議院厚生労働委員会で可決されました。来年4月からの施行という事で成立する見通しです。

ページが見つかりません - SankeiBiz(サンケイビズ):総合経済情報サイト


この法改正が若年層の昇給抑制、新規採用の抑制につながるであろうと考えられることは以前の記事で書いた通りです。

65歳までの再雇用義務付けは間違いなく日本の経済を後退させる - 人事労務コンサルタントmayamaの視点

65歳までの再雇用義務付けを考慮した企業の賃下げが始まった - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



さて、気になるのはニュース記事のこの部分です。

 ただ、健康状態や勤務態度が極端に悪く就労に支障をきたすなど、就業規則解雇事由に該当する労働者は継続雇用の対象から外せることを明確化した。


希望者全員を65まで継続雇用といっておきながら、健康状態と勤務態度が悪い労働者は例外的に対象からはずすといっています。


そして、昨日可決された法案の修正案の抜粋がこちらです。

3 厚生労働大臣は、第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。



希望者全員を原則とする継続雇用の対象から外すということは実質解雇に相当する行為です。

健康状態、心身不調を理由とする解雇、勤務態度不良を理由とする解雇は通常どこの会社でも就業規則に普通解雇事由として規定されているものであり、会社がその規定を根拠に解雇を行い、労働者が不服として訴えを提起した場合は、司法の場において解雇権濫用法理に基づき解雇の有効性が判断されるものです。その法理が労働契約法第16条によって明文化されています。

今回、解雇に相当する基準を行政の長である厚労大臣が指針で定めるといっていますから、労契法第16条の解雇権濫用法理の規定との関係や、司法判断とのバランスなど今後どうなるのか具体的な指針の内容が気になります。

現行では定年後再雇用の選定基準は労使双方の合意に基づく労使協定によって定められていますが、はっきりした線引きがなくあいまいな基準が多い為に労使間のトラブルが絶えません。

人件費の増大を恐れる企業にとっては継続雇用の例外規定はありがたいところでしょうが、指針の定め方や運用いかんによっては、再雇用がらみの労働トラブルがまた増加するのではないかと懸念されるところです。



それにしても法律を改正する以前に、そもそも60歳定年後の再雇用義務があることすら知らない企業や労働者がいまだ存在するのですが、その状況を政府はきちんと認識しているのか、その点こそまず第一に問題ではないのか、と思う訳でありますが。



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