「みなし残業」という訳の分からない制度

会社員の方がこう話すときがあります。

「うちの会社はみなし残業制だからいくら残業しても決まった額しか残業代が出ない。」

労働法的に考えると、筋の通らない話です。というのも、労働基準法その他の法律に「みなし残業」などという言葉はありません。まさに言葉の一人歩きです。

「いやだって最近はどこの会社もみなし残業やっているじゃないか」、と多くの方は仰るでしょう。ですから一応きちんと書いておこうと思います。



現在、法的に認められているのは以下のようなやり方です。


1.固定残業代(定額残業代)

残業代を毎月一定額で支給する方法です。

本来残業代は実際に残業した時間分だけ払えばいいのですが、残業していない分も含めて多めに固定額を支給しているだけのことです。

ですから実際の残業が固定額分を超えて行われた場合、超過分の残業代を企業は当然支払わなければならず、決して「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」ことが法律的に許されているわけではありません。




2.みなし労働時間制

労使協定の締結や就業規則の規定など、ある一定の要件を満たした場合に、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間働いたものとみなす制度です(※「事業場外みなし」裁量労働制があります)。

例えば、あらかじめ9時間と決められていた場合には、実際に5時間働こうが、10時間働こうが、その日の労働時間は9時間とみなされるわけです。

お分かりだと思いますが、これは労働時間をどうカウントするのかという問題であり、残業代をどう計算するかという取り扱いには一切関係はありません。みなされた労働時間が所定(あるいは法定)労働時間を超えていれば、当然企業は残業代を支払う義務があり、決して「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」ことが認められている訳ではないのです。

「みなし時間が1日8時間なら法定内に収まるから残業代は不要じゃないか。」と言われればまさにその通りです。

しかし、みなし労働時間制は厳しい法律要件を満たして初めて有効な制度です。

私が話を聞く限り、冒頭の「みなし残業」なる制度を運用しているらしい多くの企業はどう考えてもみなし労働時間制の要件など満たしていないのであり、多くの企業は「みなし残業」という存在しない制度を堂々と謳いながら、法的には残業時間が発生しているにもかかわらず、それらをカウントせずに違法に残業代を払っていないというわけです。




このように、「みなし残業」という言葉は、さも制度が適法に存在するかのように企業や労働者を誤解させる言葉なのであり、法的には「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」制度など存在しない、存在するのは「残業代を実際の残業時間より多めに定額で支給する方法」と、もう1つは「労働時間を一定の時間にみなす制度」だけだということをしっかり認識した方がよいと思います。

なお、労基法上の「管理監督者」は「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」に該当するような気がするかもしれませんが、管理監督者を含めた労基法第41条該当者は、「労働時間・休憩・休日の規定が適用されない」のであり、そもそも残業という概念自体がなく、したがって「いくら残業しても」という状況には適合しないということになります。




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