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2013-01-08

「イクメンは出世できない」はあながち間違っていない


昨年末くらいから伊藤忠商事の社長がプレジデント・オンラインで書いた

「『イクメン弁当男子』は、なぜ出世できないか」

というコラムがかなりの反響を呼んでいました。

※詳細は以下の記事を参照
全文表示 | 「イクメン」「弁当男子」は出世できないのか 伊藤忠社長「変わった趣味」論が波紋 : J-CASTニュース

内容を簡単に言うと、

イクメン」「弁当男子」を例にあげ、

「最近の若者はハングリー精神や上昇志向が足りない。育児や家事をやっている暇があったら、そんなものは女性にまかせて仕事に没頭しろ。きっちり役割分担すべきだ。」

というようなことが書かれています。

このコラムに対してネット上では

「時代遅れ」
ワークライフバランスの流れに逆行している」

など批判が多く見うけられます。

一見するとタイトルからして煽り気味な感じがしますが、しかしよく考えると、このコラムの指摘は一概に的外れともいえないと感じます。

※ちなみに「弁当男子」の部分については、弁当を自分で作ろうが作るまいが完全にプライベートの要素であり、「弁当を作るのはヤワな男だ」という主観的イメージの問題なのでこれ以降は除外し、「イクメン」のみに関して言及します。




批判の中で多かったものに、「外国では男性が育休を取って育児に参加するのは普通であり、日本は遅れている」という意見があります。概ね外国企業に在籍し海外で勤務経験のある方の中に多い意見だと思われます。

確かに日本は欧米諸国に比べ育休取得率は低いと思いますし、育休だけでなく有給休暇の消化率も低く、逆に残業は多いという、ワークライフバランスという観点からみれば世界的に遅れているのは間違いなさそうです。

しかし、これらの原因は単に文化や考え方が異なるというような問題ではなく、諸外国と決定的に異なる日本特有の雇用システム、雇用慣行が根底にあります。

決定的な違いとはつまり、新卒一括採用、年功賃金終身雇用解雇規制を前提とする正社員と、そしてそれら正社員と明確に区別される非正規労働者との2層構造です。



ご存じの通り、日本では解雇は簡単には認められません。その代わり企業には広汎な人事権が認められており、例えば転勤を命じたり、職種の変更を命じたり、上限なしに残業を命じたりすることができます。

極端な言い方をすれば、企業は「多少経営が苦しくても労働者の出来が悪くてもできる限り定年までは雇わなければならない。ただし、その見返りとして多少粗っぽい使い方をしても目をつぶるよ。」というのが日本の解雇規制終身雇用の現実です。これは裁判所判例の流れが実際にそうなっています。

そして一方、労働行政のスタンスは有給休暇違反や残業などに対して寛容といえます。近年残業代の未払いが厳しいように感じるかもしれませんが、あれはあくまで過労死等の生命の危険に係るような過重労働に対して厳しい姿勢で臨んでいるのであり、労災認定基準を下回るような残業に対しては監督官は拍子抜けするほどに寛容です。



そしてもう1つ重要な要素は、いまだ日本企業の多くは職務によって賃金が決まるのではなく属人的な要素によって決まる点です(※つまり年功賃金です)。なぜかといえば、職務給では運用が難しいからです。

企業は容易に解雇という選択肢がとれず、配置転換(職種変更)によって人員の調整をはかっていきます。職務が変わるたびに賃金が上下しては困るわけです。

また、企業は新卒採用時に、職務の熟練度合ではなく、人間性をみて採用することになります(※日本の新卒職業訓練を受けていないからです)。定年まで働くことを考慮し、いかに企業の方針にそった人材を育成できるかという視点で、前述の年功制・終身雇用解雇規制にマッチした人材を選定します。

つまり長期雇用と将来の出世の見返りとして転勤、職種変更を素直に受け入れ、残業をこなし、有休等の休暇の取得は最小限に留める人材です。

このような人材が子どもを育てるには、必然的にパートナーの協力が不可欠と考えられます。それも休暇を最小限に留めなければならない正社員ではなく、企業の人事権が比較的及ばない非正規雇用のパートナーです。(役割分担に本来男女の別は関係ないはずですが、とにかく分担は必要だということです。)




ちなみに、育休を推進する大企業も確かに存在します。比較的取得率の高い企業も最近は増えてきました。このような企業であればダブルインカムも可能でしょう。

そのような企業の目的は、もちろん「少子化する日本の将来の為に」ということではないはずです。待遇面をアピールして優秀な人材を獲得する為、そして従業員満足を業績に繋げる為です。全ては業績の為の人材戦略です。

前述コラムの社長が率いる伊藤忠商事の人材戦略においては、男性の育休取得率アップは今のところ必要ないという事です。育休なしでも十分に優秀な人材を獲得し結果を出せるということだと思います。

育休は法令によって企業に義務付けられたものではありますが、労働関連法の実効性を担保する労働行政裁判所のスタンスは先ほど書いた通りです。

そして何より、日本の企業も、そして労働者も、まだまだ年功序列終身雇用といった日本型の雇用システムを実は一番求めている節があります。(※両者の思い描く形にはだいぶギャップがあるとは思いますが。)

時代遅れという言葉では片づけられない今回の発言。日本の雇用システムの根幹の問題です。ワークライフバランスを本当に広く実現させたければ、まずは日本の雇用システムを変えない限り無理なのだと思います。




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