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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2013-04-17

ブラック企業は社名公表よりも労基法違反取締強化によって減少するという意見は見当違い


自民党が最近メディアで話題になっている「ブラック企業」について、社名公表などの措置を政府に提言する方針を固めたという報道があり、ネット上ではこの件について様々な意見がみられます。

その中でよく目にするのが、「なぜ企業名公表なのか。企業に労働基準法を遵守させるよう労働基準監督署がもっと厳しく取り締まるのが先ではないのか。」というような内容です。


自民党ブラック企業対策案ーさらに労基法の運用厳格化を
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizuushikentarou/20130414-00024393/

ブラック企業は「公表」ではなく「取締り」をするべきだ。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakajimayoshifumi/20130412-00024370/



では、この件について書きます。

断言してもいいですが、労働基準監督署労基法について厳しく取り締まったとしてもブラック企業は減りません。なぜなら世の中で問題視されているブラック企業の多くが労働基準法に違反していないからです。(少なくとも重大な違反は)

実務的な観点からいいますと、一般的に労基法違反でよく監督署の指導が行われるのは

賃金不払い
残業代不払い
労働時間(36協定、変形労働時間制・みなし労働時間制など)
労働条件の不明示
解雇予告

そして上記より数は減りますが、他にあり得るのが

年次有給休暇
就業規則作成・届出違反

といったところでしょうか。
あと労基法ではありませんが労基署の監督範囲として最低賃金法違反、労安衛法違反もあります。



ところがです。

上記のような労基法違反の案件は、どちらかというと零細企業であって、かつ法律の知識がない、経営に余裕がなくて労基法のことまで手が回らない、あるいは資金的余裕が全くない、というような事業主が圧倒的に多いのが現状です。これらはブラック企業というよりは、単に労働条件の低い企業、労働環境のよくない企業、法律リテラシーの低い企業というべきものと考えられます。

近年メディア等で問題になっているブラック企業とは、意図的に労働者を追い込んでいくものと認識していますが、少なくとも上記のような労働基準法違反行為は極力行わず、法律を熟知し、合法的に巧妙に労務管理を行っているのです。

雇用契約書や就業規則は会社の有利になるよう緻密なものを作りますし、残業代についても固定残業代、みなし労働時間制などを駆使して労働基準法をクリアするかたちで労働者長時間労働をさせているものと思われます。

つまりブラック企業にとって、残業代をはじめとする労基法の規制はクリアできないハードルではないのです。(少なくとも現行法では)

「しかし有給休暇は消化させていないのでは?」

と思われるかもしれませんが、年次有給休暇は申請されたときに拒否されただけでは労基法違反は成立しません。有休は法律労働者が請求するだけで取得ができますから、労働者が日付を指定して会社を休みその後その日について給与が支払われなかった場合、その時点ではじめて労働基準法第39条違反が成立します。実際のところ有休について労基法違反のハードルは非常に高く、多くのケースでは違反は成立していないことになります。




さて、では上記のようなブラック企業労基法に違反していないのであれば、現実的にどのような法的問題が生じ得るのかというとそれは、

・退職強要
パワハラ
・不当な配置転換、転勤、出向等の命令

このような行為によって労働者を追い込んでいくのだと考えられます。

しかしながら、これらは労働基準法の範囲外の事項であって、当人同士の契約関係、権利義務関係を踏まえた私法上の問題であり、労働基準監督官が手を出せる問題ではないのです。民事不介入ということです。

さらにブラック企業は、労基法をクリアした上で労災認定基準を超えるような長時間に及ぶ残業命令を行使していくものと考えられます。

冒頭で紹介した記事によれば

労働基準法がもっと厳密に運用され、残業代の支払いが当然の社会常識となっていれば、ブラック企業などそもそも成り立つはずもない。

とありますが、残業代問題をクリアした上で強行的・パワハラ的な業務命令・人事命令を発令して労働者を追い込むブラック企業が成り立っていると思われますが、労働基準法をどう厳密に運用して取り締まるのでしょうか。


これでお分かりかと思いますが、労働基準法の遵守状況について労働基準監督署による監督を強化したとしてもそれによって多くのブラック企業が摘発されるという結果は考えにくいのであり、もちろん世の中の一定程度の労務管理のユルい会社の適正化にはつながると思われるので監督強化自体には意義はありますが、しかし根本的なブラック企業問題の解決や改善には到底つながらないことは明らかです。


では何が必要なのかといえば、私見ですが以下のようなことです。

1.ブラック企業が引き起こす不法行為等について司法面での救済をもっと容易に受けられるよう制度を整える。(※現在うまくいっている労働審判制度をさらに改善し、多くの労働者がもっと容易に利用できる制度にしていく等)

2.パワハラ規制について法制化を急ぐ。

3.企業名公表については、新聞などのメディアにて確実に公式発表されるのであれば、ある程度大規模の企業に対してはそれなりの効果は見込める。

4.立法面において、終業時刻から翌日の始業時刻までのインターバルについて最低時間規制を設けることにより、現在のように「割増賃金の支払い」によって間接的に残業を制限するのではなく、直接残業時間を規制することによって労働者の心身の健康を保護する。(※労基法の罰則強化、および労基署の監督強化とあわせて)



企業の違法行為として残業代不払いがクローズアップされがちですが、実はブラック企業問題については残業代問題は中核をなすわけではなく、最も重要なのは企業が強大な人事権・業務命令権を背景に労働者の身体と精神の健康を破壊していく行為であり、残業代の支払いではなく残業時間そのものを規制する必要があり、そして労働者が自ら司法によって解決する仕組みや環境が必要なのだと思います。





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