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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2013-05-09

「限定正社員」をめぐる大いなる誤解


ここ数週間、ニュースで「限定正社員」という雇用形態についての報道が多くなってきたようです。政府の規制改革会議が推し進めているようです。夏の参院選を考慮して安倍政権が「解雇規制緩和」政策を見送ったのでその代わりということでしょうか。

「限定正社員」の中身は以前ニュースで報じられた「準正社員」と同じものです。雇用契約によって職務・勤務地を限定することにより、事業所閉鎖など担当職務や事業所がなくなってしまった場合の解雇が容易になるということです。



私は以前の記事でも書きましたが、法改正を行わなくとも現行法のままでこの運用自体は可能です。職務限定・勤務地限定の雇用契約が結ばれ、その内容で適切に運用されている限り、事業所撤退等を理由にした整理解雇客観的に合理的な理由を有する解雇として有効と認められます。

ただ、そうは言っても多くの企業は訴訟リスクを恐れて職種・勤務地限定契約の運用に二の足を踏む状況なので、それならば統一した解雇ルールを法律で明文化することによって企業が安心して限定契約を運用できるようにしようという話であればまあ理解はできるのですが。



しかしながら、マスコミで報じられている「限定正社員」は、本来法律的にないはずの意味あいが勝手に付加されて違う方向にいっていると思われるので、それは違うだろうというところを書いておきます。



正規と非正規の中間「限定正社員」って? 普及策検討中(朝日新聞
http://www.asahi.com/business/update/0506/TKY201305060006.html

正社員だけど、モーレツではなく、働く職種や地域が限られる。仕事がなくなれば解雇される可能性もある――。そんな「限定正社員」を広げる議論が安倍政権で進む。「働きやすさ」を高めるねらいがあるが、「解雇しやすさ」につなげる思惑ものぞく。

まず、これはタイトルからしておかしいです。法的に考えて、職種・勤務地限定の労働者がなぜ当然のように「正規と非正規の中間」になるのでしょうか。仮に中間に位置づけるとしてもそれは企業が個々に自由に決める問題であり、政府有識者会議主導で政策として進める問題ではありません。

そもそも法的に正社員という分類はないのであって、限定正社員をあえて分類するならば、無期雇用労働者について職務・勤務地が限定されているのかされていないのか、という区分になります。どちらが上ということではなく、契約において何を許容し、何を得るのかをそれぞれの合意によって決める、ということです。

海外ではむしろ職務限定契約は一般的な契約形態であり、非正規的な取り扱いでは決してありません。もちろん仕事内容が決まっているのですからその仕事がなくなれば解雇されるのは正当であり、「解雇しやすさにつなげる思惑」も何も、整理解雇が容易なのは当然の帰結なのです。有識者会議の方々は「解雇規制緩和」のソフトバージョンくらいに考えているのかもしれませんが、これは解雇規制の緩和ではありません。契約の問題なのです。



労働契約に職務内容明記 限定正社員雇用ルール素案(日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1903L_Z10C13A4EE8000/

仕事の範囲が限られる分、賃金は従来型の正社員より安くなる。

なぜ職務が限定されると、当然のように賃金はこれまでの正社員より安くなるといえるのでしょうか。

そもそも日本では正社員の職務・勤務地が限定されず、企業の命令によって配置換え、転勤等が行われるがために賃金を仕事基準で決めることができず、結果として属人的な職能給という名の年功賃金を運用せざるを得なかった訳です。

限定正社員は仕事が限定されているのですから、賃金を仕事基準(つまり職務給)によって決めるのが本来のあり方なのです。この場合、年齢・勤続といった要素は基本的に入り込む余地はありません。

つまり、その職種を何十年やってきた専門職的な限定正社員(職務給)が、入社して2〜3年の限定のない正社員(年功給)よりも賃金が安くなるということは本来あり得ないのであって、そんなことが当然のごとく記事に書かれている時点で、しょせん限定正社員は「従来の正社員より安く解雇しやすく使えるし、パートや契約社員よりは士気があがるだろう」くらいの認識しか持たれていないのだと思われます。



限定正社員の運用の拡大は確かに多様化する働き方のニーズに対応できる可能性をひめています。しかし危惧するのは、誤解しているのが有識者会議なのかマスコミなのかは不明ですが、多くの誤解のもとに限定正社員が運用されてしまう危険性です。以下まとめます。


限定正社員の整理解雇が容易なのは解雇規制が緩和されている訳ではなく、従って経営者恣意的な解雇は当然許されず、能力不足、非違行為などを理由とする解雇は通常通り厳格に判断されるということ

限定正社員は法的には正規・非正規の中間という位置付けはなく、あくまでこれまでの無期労働者の職務・勤務地が限定されているに過ぎず、契約内容は当事者によって決められるものであるということ

限定正社員非正規雇用の延長として低賃金で使おうとする方向性が垣間見えるが、本来、限定なしの正社員に比べ一貫して同じ職種を続けることから高い職業能力の維持が期待できるのであり、職務給によって適正に処遇されることにより限定正社員全体のスキル向上につなげるべきであるということ



ぜひとも注意していただきたいと思います。