諭旨退職が退職勧奨と混同されている?

諭旨退職についての相談を受けていると、「もしや退職勧奨と混同しているのではないか」と感じる時があります。いうまでもなく、諭旨退職と退職勧奨は法的に全く別物です。


「諭旨退職」とは、不祥事を起こした懲戒解雇処分相当である労働者に対し、「反省の姿勢を示して期限までに自主的に退職願を提出するならば懲戒解雇は行わず自己都合退職として取り扱う」というような情状酌量的な制度です。無論、自己都合退職として処理するとはいえ、あくまで「諭旨退職」という名の懲戒処分ですから就業規則にあらかじめ懲戒規定がなければそもそも成立しません。

そして重要なことは、諭旨退職は本来その労働者の行為が懲戒解雇に値することを前提として退職願を提出させ雇用関係を終了させる懲戒処分ですから、その有効性は懲戒解雇と同様に厳格かつ慎重に判断されるべきものであるということです。

つまり、労働者の行為が懲戒解雇を科すのに相当といえることが必要なのであり、そもそも懲戒解雇が罰として重過ぎるのであれば、それを前提とする諭旨退職処分もまた当然に無効となり得るという考え方が成り立ちます。(※懲戒処分の有効性は労働契約法第15条の懲戒権濫用法理によって判断されます。)



労働者に退職願を提出させる点においては、手続き上は確かに退職勧奨による退職と外見は変わらないように感じますが、取り扱いとしては諭旨退職は自己都合退職、退職勧奨は合意退職(会社都合退職)となる点において全く法的に異なるものです。

また、最も混同されがちなのが、失業給付に関連する離職票の離職理由に関してです。退職勧奨の場合には会社から退職の申し込みを行っている訳であり会社都合となりますが、この点も結局「背景に重責解雇相当の行為があった上での退職願提出による諭旨退職」ということであれば、自己都合として取り扱って問題はありません。

極端な話、離職理由は失業給付の支給を決める為のものですから、雇用保険的な視点からはどちらの都合で離職となったのかさえ分かればよいのであり、そして本人が不祥事を起こしたことに端を発する退職なのですから自己都合ということは明白です。


なお、退職勧奨の場合は退職合意書を交わすことをお勧めしますが、諭旨退職の場合は諭旨退職仕様の退職願をきっちりとるのがよいでしょう。退職理由の記載は「一身上の都合」ではなく「非行を行ったので自主的に」という記載の方がよいと思います。諭旨退職は解雇ではありませんから、もちろん30日前の解雇予告は必要ありません。(この点、同じ懲戒処分としてよく挙げられる「諭旨解雇」とは明確に異なります)

あと、退職金の減額は、自己都合といえども懲戒処分である以上、通常の自主退職とは区別して減額率を大きくするなど別途定めができますのでしておいた方が良いと思います。