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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2014-02-03

インフルエンザと休業手当(休業補償)の支払義務


ここ最近またインフルエンザが流行しています。
インフルエンザ感染して会社を休んだ場合、休業手当の支払い義務の有無が問題になるところです。

インフルエンザで会社を休んだ場合、一般的には年次有給休暇を充てるケースが多く、この場合には休業手当の問題は発生しません。ただし有休は会社側の意思で一方的に取得させられるものではないので、労働者が「有休を使いたくない」と言ってしまえばそれまでです。それ以外にも、入社したばかりで有休をまだ付与されていないケース、有休を持っていたけれども使い切ってしまったので利用できないというケースもあり、このような場合に休業手当の支払い義務の有無が問題となります。


こうした場合には「会社を休むに至った経緯」によって考えていくとわかりやすいです。

インフルエンザによって従業員が発熱して動けないため自主的に休んだ場合
これは風邪を引いて休んだ病欠の場合と何ら変わりませんから、普通に欠勤した分の賃金を控除すればいい話です。

医師の指導に従って休業する場合
これは「使用者の責に帰すべき事由」(労基法第26条)には該当しませんから、休業手当を支払う必要はありません。やはり欠勤控除でよいということになります。



判断が難しいのは、インフルエンザ感染が確認できたにもかかわらず、労働者本人が「働ける」と主張して会社に出勤しようとした場合です。

もちろん発熱がピークの間は労働者自身もあまり動けないので出勤しようとするケースは少ないと思いますが、インフルエンザは基本的に発熱の症状がなくなっても感染力は続く可能性が考えられます。会社としては職場での感染の危険がなくなるまでは休業してほしいところです。
(※目安としては熱が下がってから2日。できれば発症した日の翌日から7日は休ませるべき期間であると、厚労省発表の新型インフルエンザに関する職場のQ&Aで示されています。)

ところがです。

熱が下がった後すぐに出勤しようとした場合、これを会社の判断によって休業させれば休業手当(最低60%)の支払いが必要になるものと考えられます。(※極端な話、発熱中であっても労働者が「働きたい」として出勤しようとした場合、これを会社が無理やり休ませればやはり休業手当が必要になるものと考えられます。)

なお、労働契約の側面から考えると、労働者の体調が完全には回復せず通常通りの労務を提供できないような状況であれば、債務の本旨に従った履行が行えないという理由で会社は労務の受領を拒否しても賃金の支払い義務は生じないと考えられます。しかし、労務の提供が完全に行えないかどうかの判断を会社が独自に行うのはなかなか難しく、やはり医師の判断が必要になるのが現実です。

また、インフルエンザ労働安全衛生法(労働安全衛生規則)が定める就業禁止の対象となる疾病(病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病等)には該当しないため、安衛法を根拠に就業を制限して無給とするわけにもいきません。

そもそも労基法上の休業手当は定め自体が非常に曖昧なものであり、インフルエンザに関する点をはっきり示した通達も見当たりません。休業手当の支払義務に関して裁判になればどういう結果になるのかわかりませんし、労働基準監督官もそれぞれの考え方によって異なる指導を行うかもしれません。



一方、本人が出勤したい意思に反して休ませる場合であっても、感染症(※正式には「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)によって就業制限の対象とされ、同法に基づいて都道府県知事が入院あるいは外出自粛等を要請し、または保健所より本人を外出させないよう協力要請があった場合などは、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しないため、休業手当は支払う必要がないということになります。

感染症法は数年前にできた法律ですが、現時点では同法による自宅待機や休業等の要請が行われた実績はまだありませんが、この取り扱いは、季節性インフルエンザか、新型インフルエンザかによって異なってきます。(※季節性インフルエンザ感染症法上、5類感染症と指定されており、鳥インフルエンザ(H5N1)は2類感染症、そして新型インフルエンザは1〜5類に属さない「新型インフルエンザ感染症」という独自の分類になっています。現在、就業制限の対象となり得るのは1類〜3類および新型インフルエンザ感染症等に限られるため、5類の季節性インフルエンザは対象にはなりません。)



最後に、濃厚接触者(感染者の近くで仕事をしていた人など)の取り扱いです。

濃厚接触者を会社の判断で休業させる場合には休業手当は必要になります(ただし、保健所からの要請等によって休業させたのであれば不要です)。また、労働者の同居の家族が感染した際に、会社が本人に対して自宅待機を命ずることは予防的措置になりますから、「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、休業手当の支払わなければなりません。



なお、休業手当の支払いが必要なケースであったとして、気になるのが民法危険負担(第536条)の適用の有無、つまり会社は100%の賃金を支払う必要がないのかという点です。

基本的に、インフルエンザ感染した労働者を休業させる行為は、当該労働者および他の労働者への安全配慮義務の履行という観点から正当化されるものであり、会社には原則として故意・過失等はないと考えられますので、休業手当(60%)が必要だとしても100%の支払い義務はないと考えられますが、念の為に就業規則あるいは雇用契約書において危険負担適用の排除を規定しておくのが確実であると思います。