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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2012-03-26

上司だけでなく部下・同僚からの嫌がらせもパワーハラスメント<厚労省・初の定義>


1月末に、厚生労働省(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ)がパワーハラスメントの定義を初めて公表したことは記憶に新しいところです。さらに先日、同円卓会議によって「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」がとりまとめられ公表されました。

厚労省が定義を公表したことがそんなに重要なのかと感じる方もいらっしゃるでしょうが、実はこれが結構重要なのです。

セクハラとは異なり、パワハラ法令上明確な定義がありません。

例えばセクハラは、男女雇用機会均等法第11条および厚生労働省の定める指針において、「セクシュアルハラスメント」が明確に定義され、さらに企業の対策義務が定められているため、労働者はそれらに該当する行為をセクハラとして訴えることが可能であり、企業側はそれらの法令にのっとって制度を整備し、周知を図って予防対策を講じていくことが可能なのです。

(※均等法は行政取締法規であるため、実際には不法行為を根拠に加害者を、また、職場環境整備義務違反あるいは民法上の使用者責任を根拠に会社を訴え出ることになります。あるいは行政指導により、勧告・企業名公表などが考えられます。)


一方で、労働者が職場内においていじめ・嫌がらせを受けた場合にパワハラだとして加害者や会社に対して責任を追及していくことは相当にハードルが高く、また、会社側としても、どこまでの範囲が指導・業務命令として認められ、どこからがパワハラに該当するのかの線引きをすることが難しく、どのような責任を問われるのかリスクを測って対策を講じるにしても、過去の判例労災認定事例を参考に手探りで行うという部分があり、悩ましい問題でありました。


しかしながら、このブログで何度も書いていますが、パワーハラスメントは今後企業にとって最もスタンスの問われる重要な労働問題になることは間違いありません。

昨年末、精神障害に係る労災認定基準が改正され、そしてこのタイミングで政府から初めてパワーハラスメントに関する定義と対策が発表されたことは、今後のパワハラ法制化への大きなステップになるものと考えられるわけです。


ちなみに、これまで手探りの状況のなかで使われてきたパワハラの定義と、今回厚労省から公表された定義を比較してみると

これまでの定義

パワーハラスメントとは、権力や地位などのパワーを背景にして、本来の業務の範疇を超え、継続的に人格と尊厳を侵害する行動をいう。」


今回公表された定義

「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
※ 上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。」



通常パワハラというと、「上司から部下」という構図を思い浮かべますが、今回の定義では、「部下から上司」、あるいは「同僚間」のものについても含まれ、全ての従業員が加害者または被害者になり得るということが明確に示されています。

また、行為類型については

1.身体的な攻撃(暴行・傷害)
2.精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
3.人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4.過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
5.過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

とされており、これらに当てはまらない場合でもパワハラとなり得るとのこと。

そして、先日公表された予防・解決に向けた提言においては、企業・労働組合経営者・上司・従業員・国・労使団体それぞれに期待する取組についてポイントがまとめられています。

以下参照
職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言取りまとめ |報道発表資料|厚生労働省


企業に求められるのはもちろん予防と、そして起こったときの解決です。

パワハラについて全く対策をとっていない企業は少なくないはずです。実態を把握し、方針を定め、パワハラ防止規程を作成し、相談窓口と担当者を設置し、周知・教育し、対処ルールを決めて、適正に制度を運用する。国の制度が動きだしている今こそ、対策を始める絶好の機会ではないでしょうか。




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2012-03-14

女性の肩を叩いて励ました上司がセクハラと訴えられる現実


某大手企業において、部下の女性から仕事のことについて相談を受けた上司が、「気にするなよ。」と言ってポンと肩を叩き励ましたところ、翌日になって上司からセクハラを受けたと会社に訴えてきたとのこと。

女性の肩を叩いて励ました上司 セクハラと告発され自主退職│NEWSポストセブン

詳細は不明ですが、この上司はやむなく自主退職したという記事です。


近年の職場におけるセクハラへの意識の高まりは今さら説明するまでもないと思います。

セクシュアルハラスメント法令上明確に定義され、さらに企業はセクハラ防止対策を講じることが義務付けられています。実際に紛争が起きれば、セクハラの加害者は不法行為責任、会社は労働契約上の付随義務である職場環境配慮義務違反および民法上の使用者責任を問われることになります。

前述の事件が法的にセクハラに該当するのか、上司や会社が法的に責任を追及されて紛争に発展したのかなど定かではありませんが、同僚や上司などに身体を触られて不快に感じる女性がいることは当たり前と思いますし、近年のセクハラトラブルの増加や一般的な意識の高まりを考えれば、上司がとった行動は仮に悪気がなかったとしても明らかにうかつだったことは間違いありません。

大企業の中には、コンプライアンスの一環としてセクハラに該当しそうな行為を行き過ぎじゃないかと思えるほどに厳しく規定で禁止する会社もあり、現場では気軽にコミュニケーションがとれなくなって仕事に支障をきたしそうだという話も聞きます。

他方、いまだにセクハラ法令で規定されたことさえ知らずに大昔の感覚でセクハラ行為を日常的に繰り返す時代遅れ管理職も少なくありません。


前述の事件の上司は一般的なセクハラ意識の高まりを知らなかったわけでは決してなく、また自分の行為が女性に不快感を与えているとは夢にも思わなかったのだと予想されます。足りなかったのは想像力でしょうか。自分と相手の価値観がまるでズレていたことに全く気付きませんでした。

労働トラブルの大半はこの価値観のズレから起こるものです。会社側は従業員の価値観を的確に把握し先手を打たなければなりません。旧世界の価値観を引きずってきている方々は退場を余儀なくされるということを再認識させられる話でした。



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2011-06-13

セクハラの労災認定


「労働トラブルで最近特に問題になっているものは何か」

と聞かれれば、今ならセクハラパワハラと答えるかもしれません。


先ほどTBSのニュースでセクハラ労災認定についての特集を見ましたので、前回に引き続きセクハラについて書こうと思います。


以下参照
TBS NEWS - TBSの動画ニュースサイト



最近、各地の労働局においてもセクハラの相談が倍増していると聞きます。
行政の企業に対するセクハラの是正指導も確実に増えています。

厚労省の指針に則った対策を講じなければ使用者責任や債務不履行責任を問われることになると前回お伝えしましたが、さきほどのニュースの内容はさらに一歩踏み込みます。


セクハラを原因とする精神疾患・精神障害労災認定されるのか、という問題です。


詳しくはいずれ別の記事で書きますが、精神障害に係る労災認定「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」という行政通達に基づき、「心理的負荷評価表」という表を使って、労災になるのかどうかを行政が判断します。

そして、心理的負荷評価表によれば、セクハラの心理的負荷の強度は中程度に分類されています。つまり、セクハラは滅多なことでは労災として認められません。

実際私も以前にセクハラ労災申請に関わった経験があるのですが、その際労基署の職員に「多分無理ですよ」とはっきり言われました。

前記のニュースに登場する被害者の女性も労災の申請は認められず、行政の判断を不服として国を提訴したところ、裁判の途中で国が突然労災を認めたとのことです。現時点では、セクハラ労災認定を勝ち取ろうと思うなら、裁判まで覚悟する必要があるということです。


しかしながら、今の流れからいけば、厚労省はいずれ基準を見直すのではないでしょうか。


そして最も重要なのは、労災」とはそもそも災害を発生させた会社の労働者に対する補償責任を国の保険で代わりに支払う制度であり、セクハラ労災が認定されれば、会社の使用者としての責任がより明確に問われるということです。早い話、通常のセクハラトラブルよりも損害賠償額がでかくなるということです。仮に精神障害が自殺に発展したら取り返しがつきません。

セクハラを放置する危険性、そしてセクハラ問題において企業が問われる責任を正しくご理解ください。



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2011-06-08

時代の変化に気付かない人々


先日セクハラに関する以下のニュースを見つけました。

岐阜新聞 Web


ある自治体に勤務していた女性職員が懇親会でセクハラ行為をうけたとして、自治体に損害賠償を求め訴訟を起こしたのですが、その裁判で自治体側が提出した証拠が原本と違っていることが発覚したのです。



証拠の書類は懇親会における役割分担表。

f:id:kmayama:20110608123222j:image
上が原本。
下は自治体が裁判所に提出したもの。
「接待」の項目が抜けている。
自治体は原本と違っていることを認めており、
現在内部調査を進めている。



これはもう、何というか、相当に駄目ではないでしょうか。

職員をコンパニオン扱いしたうえに証拠改ざんとは。
彼らの頭の中はバブル景気あたりで止まっているのかもしれません。



私の実感ですが、セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)を重要視しない企業は現在でも少なくないと思います。ですがそれに反して、セクハラが問題化したときの企業の責任はかなり重いものになってきています。

セクハラの定義は現在法律によって明確化されており、セクハラ対策として会社が講じなければならない指針を厚生労働大臣が定めています(通称セクハラ指針」)。
指針の内容は簡単にいうと以下です。

  1. セクハラに関する会社の方針を明確にしたうえ、従業員に周知・啓発
  2. セクハラに関する苦情・相談の窓口や担当者等、必要な体制を整備
  3. セクハラが実際に生じた際の調査、処分、配転などの適切な対応


当然これらの内容はセクハラ防止規程として規定化しておく必要があると思われます。


法令で義務付けられているとはいえ、はたしてそこまでする必要があるのか」

とお考えの方もいらっしゃると思います。


ちなみにセクハラ指針に則った対策をとらずに実際にセクハラが起きた場合、会社は民法715条不法行為使用者責任あるいは職場環境配慮義務に係る債務不履行により被害者から損害賠償を求められる可能性があります。


セクハラ対策の先送りは会社にとって確実にリスクです。
時代の変化に気付けない人々はいずれ退場を命じられる日がくるでしょう。



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