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2013-08-11

「労基法違反=ブラック企業」という定義付けでは規制は無理です


政府法令違反が疑われる4千事業所に立ち入り調査をすると発表しました。


ブラック企業の対策強化 厚労省、4千事業所立ち入りへ(2013年8月8日朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/0808/TKY201308080082.html

若者の使い捨てが疑われる「ブラック企業」対策として、厚生労働省は8日、9月を集中月間にし、約4千事業所に立ち入り調査をすると発表した。違法な残業や賃金不払いなどが疑われるケースに加え、「離職率」が極端に高い企業も初めて対象にし、調査する。
(中略)法律違反が見つかり、指導に応じない場合は、ハローワークでの職業紹介を受け付けない。また、重大・悪質な違反が確認されれば送検し、社名も公表する。



4千事業所を調査するというのはかなりのインパクトですが、ただこれでブラック企業対策になるのかといえば疑問だと思います。


ところでブラック企業の規制を論じる際によく問題となるのが、どうやってブラック企業を定義し特定するのかということです。そして、そんな話になると必ずこんな意見がたくさん出てきます。

「そんなの簡単だ。労働基準法に違反している企業=ブラック企業、ということにすればよい。」


確かに労基法に違反しているというのはわかりやすい基準ですが、その基準でブラック企業対策を進めても、実際はブラック企業の取り締まりにはあまり効果はありません。なぜなら、このブログで既に述べていますが、世間ブラック企業といわれるであろう会社で労基法に違反していない会社なんて山ほどあるからです。

以下参照
ブラック企業は社名公表よりも労基法違反取締強化によって減少するという意見は見当違い - 人事労務コンサルタントmayamaの視点


ブラック企業関連で最も多い労基法違反は残業代の不払いでしょう。堂々と違反している企業も確かにまだ少なくありません。

しかし、定額残業代の制度を利用することによって企業は対策が可能です。判例の示すポイントを踏まえて適正に運用する限り、労働基準監督署も違法ではないという見解を示します。実際、多くの企業がこの定額残業代を導入することにより、月例賃金以外の残業代を追加で支払うことなく合法的に労働者に残業をさせています。

日本の法律では36協定さえ結べば青天井で何時間でも労働者に残業させることが可能です。ですから、36協定を締結し固定残業代を運用して残業させる限り、過重労働を強いても労基法には違反しません。

これが望ましいことなのかどうかはともかく、前述の基準によればブラック企業には該当しないということになります。

さて、一方、解雇、退職強要、セクハラパワハラ、配転、減給などの行為は例えそれが客観的にみて不当なやり方であったとしても、基本的に労基法には抵触しません(ただし解雇予告や解雇制限は別ですが)。これは労働基準法の条文には記載がないからです。これらの問題は監督署に申し出るのではなく、自分たちで民事的に話し合って解決しなければならない類いの問題です。


ですから、例えば先ほどのように定額残業代を適正に運用し合法的に残業をさせている会社が、仮に気に入らない社員を能力不足とかノルマ未達成といった理由で次々に解雇したり、年配でパフォーマンスの落ちてきた社員をどんどん追い出し部屋に押し込んだり、有休や育休を申請した社員に対し常軌を逸する威圧的な指導を行ってうつ病休職に追い込んだり、転勤や減給をちらつかせて執拗に退職勧奨を迫るような行為を繰り返していたとしても、労働基準法には違反せず、従って前述の「労基法違反=ブラック企業」という基準に照らせばブラック企業には該当しないということになってしまいます。



では労基法違反企業は放っておけばよいのかというとそういう訳ではなく、もちろんできる限り指導を行っていくべきだと思います。今回の4000事業所立ち入りは労基法違反企業にはそれなりの効果があるはずです。法令に関する知識が欠けている為に法に違反している経営者も少なくありませんし、そもそも立ち入り調査や指導を行う労働基準監督官の人数が少なすぎるという根本的な問題もあって指導が行き届いていない状況です。

しかしながら、ブラック企業と呼ばれる企業の対策は労基法を基準にしたのではなかなか難しいでしょう。労基法行政指導を行う為のものであり、同時に犯罪行為を特定し刑事訴追を行う為のものですが、ブラック企業の行為の多くはそれらの前提となる違法性を特定することが困難なのです。対策に必要なのは、民事的に問題を解決する為の司法プロセスの環境整備をすること、そして労働時間規制を割増賃金で間接的に行うのではなく、直接インターバル規制をしてしまうことだと思います。

2013-04-17

ブラック企業は社名公表よりも労基法違反取締強化によって減少するという意見は見当違い


自民党が最近メディアで話題になっている「ブラック企業」について、社名公表などの措置を政府に提言する方針を固めたという報道があり、ネット上ではこの件について様々な意見がみられます。

その中でよく目にするのが、「なぜ企業名公表なのか。企業に労働基準法を遵守させるよう労働基準監督署がもっと厳しく取り締まるのが先ではないのか。」というような内容です。


自民党ブラック企業対策案ーさらに労基法の運用厳格化を
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizuushikentarou/20130414-00024393/

ブラック企業は「公表」ではなく「取締り」をするべきだ。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakajimayoshifumi/20130412-00024370/



では、この件について書きます。

断言してもいいですが、労働基準監督署労基法について厳しく取り締まったとしてもブラック企業は減りません。なぜなら世の中で問題視されているブラック企業の多くが労働基準法に違反していないからです。(少なくとも重大な違反は)

実務的な観点からいいますと、一般的に労基法違反でよく監督署の指導が行われるのは

賃金不払い
残業代不払い
労働時間(36協定、変形労働時間制・みなし労働時間制など)
労働条件の不明示
解雇予告

そして上記より数は減りますが、他にあり得るのが

年次有給休暇
就業規則作成・届出違反

といったところでしょうか。
あと労基法ではありませんが労基署の監督範囲として最低賃金法違反、労安衛法違反もあります。



ところがです。

上記のような労基法違反の案件は、どちらかというと零細企業であって、かつ法律の知識がない、経営に余裕がなくて労基法のことまで手が回らない、あるいは資金的余裕が全くない、というような事業主が圧倒的に多いのが現状です。これらはブラック企業というよりは、単に労働条件の低い企業、労働環境のよくない企業、法律リテラシーの低い企業というべきものと考えられます。

近年メディア等で問題になっているブラック企業とは、意図的に労働者を追い込んでいくものと認識していますが、少なくとも上記のような労働基準法違反行為は極力行わず、法律を熟知し、合法的に巧妙に労務管理を行っているのです。

雇用契約書や就業規則は会社の有利になるよう緻密なものを作りますし、残業代についても固定残業代、みなし労働時間制などを駆使して労働基準法をクリアするかたちで労働者長時間労働をさせているものと思われます。

つまりブラック企業にとって、残業代をはじめとする労基法の規制はクリアできないハードルではないのです。(少なくとも現行法では)

「しかし有給休暇は消化させていないのでは?」

と思われるかもしれませんが、年次有給休暇は申請されたときに拒否されただけでは労基法違反は成立しません。有休は法律労働者が請求するだけで取得ができますから、労働者が日付を指定して会社を休みその後その日について給与が支払われなかった場合、その時点ではじめて労働基準法第39条違反が成立します。実際のところ有休について労基法違反のハードルは非常に高く、多くのケースでは違反は成立していないことになります。




さて、では上記のようなブラック企業労基法に違反していないのであれば、現実的にどのような法的問題が生じ得るのかというとそれは、

・退職強要
パワハラ
・不当な配置転換、転勤、出向等の命令

このような行為によって労働者を追い込んでいくのだと考えられます。

しかしながら、これらは労働基準法の範囲外の事項であって、当人同士の契約関係、権利義務関係を踏まえた私法上の問題であり、労働基準監督官が手を出せる問題ではないのです。民事不介入ということです。

さらにブラック企業は、労基法をクリアした上で労災認定基準を超えるような長時間に及ぶ残業命令を行使していくものと考えられます。

冒頭で紹介した記事によれば

労働基準法がもっと厳密に運用され、残業代の支払いが当然の社会常識となっていれば、ブラック企業などそもそも成り立つはずもない。

とありますが、残業代問題をクリアした上で強行的・パワハラ的な業務命令・人事命令を発令して労働者を追い込むブラック企業が成り立っていると思われますが、労働基準法をどう厳密に運用して取り締まるのでしょうか。


これでお分かりかと思いますが、労働基準法の遵守状況について労働基準監督署による監督を強化したとしてもそれによって多くのブラック企業が摘発されるという結果は考えにくいのであり、もちろん世の中の一定程度の労務管理のユルい会社の適正化にはつながると思われるので監督強化自体には意義はありますが、しかし根本的なブラック企業問題の解決や改善には到底つながらないことは明らかです。


では何が必要なのかといえば、私見ですが以下のようなことです。

1.ブラック企業が引き起こす不法行為等について司法面での救済をもっと容易に受けられるよう制度を整える。(※現在うまくいっている労働審判制度をさらに改善し、多くの労働者がもっと容易に利用できる制度にしていく等)

2.パワハラ規制について法制化を急ぐ。

3.企業名公表については、新聞などのメディアにて確実に公式発表されるのであれば、ある程度大規模の企業に対してはそれなりの効果は見込める。

4.立法面において、終業時刻から翌日の始業時刻までのインターバルについて最低時間規制を設けることにより、現在のように「割増賃金の支払い」によって間接的に残業を制限するのではなく、直接残業時間を規制することによって労働者の心身の健康を保護する。(※労基法の罰則強化、および労基署の監督強化とあわせて)



企業の違法行為として残業代不払いがクローズアップされがちですが、実はブラック企業問題については残業代問題は中核をなすわけではなく、最も重要なのは企業が強大な人事権・業務命令権を背景に労働者の身体と精神の健康を破壊していく行為であり、残業代の支払いではなく残業時間そのものを規制する必要があり、そして労働者が自ら司法によって解決する仕組みや環境が必要なのだと思います。





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