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2014-02-09

営業職の残業代リスクが上昇<事業場外みなし・阪急トラベルサポート事件最高裁判決>


営業職などの外回り・外勤社員に対して残業代支給しないという会社は少なくないと思われますが、支給しない法的根拠は何でしょうか。

営業手当が出ているから?
成果主義だから?

そんなことが法的根拠にならないことはいうまでもありません。


営業職に対して残業代支給しない根拠として多くの企業で利用されている制度が「事業場外みなし労働時間制です。この制度を運用すれば、実際に何時間働いたとしても所定労働時間働いたものとみなされる為、結果として残業代を支払う必要はなくなります。

ただし、事業場外みなし労働時間制

1.事業場外で業務に従事
2.会社の指揮監督が及ばない
3.労働時間を算定することが難しい


この3つの要件を満たして初めて認められる制度であり、要件が欠けていれば通常通り「働いた実労働時間」によって残業代を計算し支給しなければなりません。



しかしながら、今後多くの企業において、この事業場外みなし労働時間制適用させるのが難しくであろうことを示す最高裁判決が先月1月24日に下されました。

みなし労働時間制:海外旅行添乗員適用は不当 最高裁」(毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20140125k0000m040076000c.html

小法廷は▽日程や業務内容はあらかじめ具体的に確定している▽携帯電話を持たせてツアー中も報告を求め、終了後に業務日報を提出させている−−ことを重視。「労働基準法が規定した『労働時間を算定しがたいとき』には該当しない」と結論づけた。


裁判は旅行会社である阪急トラベルサポートの添乗員に関する事例ですが、制度の要件を満たすかどうかについての考え方は営業職の場合と何ら変わることはありません。

今回の判決によれば

・旅行日程(日時・目的地)が明確に定められており、業務の内容があらかじめ具体的に確定していた

携帯電話を所持させて常時電源を入れさせておき、途中で旅行日程の変更が必要となった場合には会社に報告して個別の指示を受けることとされていた

・ツアー終了後、添乗日報によって業務遂行の状況等を詳細かつ正確に報告させた


といった事項がポイントであり、これらによれば添乗員勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、前述した事業場外みなしの要件である労働時間を算定し難い」には該当しないということです。



つまり、営業職等の外勤社員に対し事業場外みなしを運用している企業にとって、不払い残業リスクが上昇することは間違いありません。これまで通りの運用を続けた場合には今後違法となる企業も少なくないでしょう。

朝礼等によって出発前に事前に細かいスケジュールを決めてスケジュール通りに行動させたり、帰社後に詳細な日報や業務報告書を提出させれば、労働時間を算定し難い状況とはいえません。

また、社員に携帯電話を持たせて常に連絡をとれる状況にさせ、スケジュール変更や訪問先ごとに随時報告をさせて指示を受けさせたり、最近ではGPSによって会社が社員の位置や行動を把握しているケースもありますが、これらの場合には会社の指揮監督が及んでいないとは到底いえないでしょう。

自社の営業職の管理体制を早急に見直し、状況次第では事業場外みなし労働時間制を取り止めて別の制度の運用等を検討すべき時期にあると思います。

2013-09-23

「残業代ゼロ」特区という報道の違和感


企業が労働者解雇しやすくして、さらに労働時間規制を緩和し残業代をゼロにすることも認められる特区の法案が秋の臨時国会で提出されるという報道があります。一定の年収以上の労働者、高度で特殊な能力・専門的な技術を持ち法規制にとらわれずに思い切り働きたい労働者を想定しているといいます。

現行法下において企業が労働者に対し時間外割増賃金を支払わなくてもよい場面は主に2つあり、1つは労働者管理監督者に該当するケース(※厳密には労基法第41条該当者)、もう1つはみなし労働時間制裁量労働制適用されているケースですが、みなし労働時間制裁量労働制はあくまで労働時間のカウント方法に関する特例であって、今回の法案は労働時間規制を緩和するといっていますから、労働時間規制を適用させない管理監督者に準じたものであるということになります。以前話題になって見送りとなったホワイトカラーエグゼンプションと似たようなものだと考えていいでしょう。

管理監督者労働基準法労働時間に係る規定が適用されません。経営者と一体的な立場で大きな裁量をもって働く訳ですから、経営者と同じように労働時間の枠に収めることが難しく、むしろその枠を超えて働く必要があり、また、経営者並みの裁量・権限があるので規制をはずしても特に本人の不利益にはならないという考え方です。もちろん相応の収入があることが大前提です。

そして労働時間の規制自体がないので、そもそも法定労働時間がありません(所定労働時間を定めるのはある意味企業の自由だと思いますが)。法定労働時間がないので残業(法定時間外労働)という考え方は当然あてはまりません。残業という概念はないのです。残業がないのだから残業代もありません。残業代ゼロ」なのではなくて、「残業代という項目」が初めからないのです。

考えてみれば、「残業が発生しているのに残業代を支払わなくてもよい」とされる法律は元々ありません。みなし労働時間制裁量労働制にしても、「みなし時間」が法定時間を超えていれば時間外割増賃金の支払いは必要になります。一方、管理監督者は残業自体が発生し得ないのです。

そう考えると、今回の法案に係る報道が「残業代ゼロ」と言われているのもおかしなものだと思います。

今回の法案が通れば、特区内においては労働時間の規制が緩和され、管理監督者と同様にその要件(権限や責任、職務内容、裁量、収入)が定められ、要件に該当する労働者労働時間規制の外で裁量をもって働くことになります。もちろん企業はそれら労働時間規制のはずれた労働者に対しても安全配慮義務を負うわけであり、実質的に労働時間を把握する必要がありますし、長時間労働によって過労死などが発生すれば責任を追及されることになります。また、実態として要件を満たしていなければ通常の労働時間に係る規定が遡って適用され、名ばかり管理職のケースと同じように残業代を遡って請求されるリスクもあるでしょう。

このように企業は労働時間規制を緩和されるとしても、今回の「残業代ゼロ」のような見出しの報道に惑わされて企業側に存在する責任を忘れてはいけません。また、報道する側は「残業代ゼロ」をことさら打ち出すのではなく、労働時間規制を緩和する対象者とその要件は労働政策として適正なのか、そして過労死等の労働災害を予防する為にはどのような規制が別途必要なのかがきちんと議論されるような形で報道するべきだと思います。

2013-03-25

「残業代をきっちり払わせれば勤労者の所得は2割上がる」のウソ


「労基局がまともに機能するだけで、日本の個人所得が2割上がることが判明」

このような見出しで最近ネット上で話題になっているのを見かけました。その話題の元になっていたのが、以下の記事です。


「名指し賃上げ要求」よりも、残業代をきっちり払わせよ
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizuushikentarou/20130313-00023863/

日本の企業(特に中小企業)は労働基準法を遵守していない状況なので、安倍政権は各企業に賃上げを呼びかけるよりも、労働基準法違反を厳しく取り締まって残業代をきっちり支払われば日本の勤労者の所得は1〜2割は軽く上がる。その方がよっぽどいい、と書かれています。



法律が遵守されるべきだという点において全く異論はありません。実際に日本の労働法に係る監督行政はユルユルです。法令通りきちんと運用している会社の方がかえって負担ばかり大きくなって馬鹿を見るケースも少なくありません。その辺の不公正な状況については何とかしてもらいたいものだと考えます。



ただし、上記の記事はやはり誤解を招く内容だと思います。

残業代を払っていない企業に法令通り残業代を支払わせれば、本当に皆の収入は上がるのでしょうか。

はっきり言いますが、そんなことはありません。

企業は法律に合わせて人件費総額を変えることは基本的にしません。売上が上がらないのに人件費をあげれば労働分配率の上昇を招き経営リスクが高くなります。

今年法改正となる65歳までの継続雇用の義務化に際しても、企業は若手社員の昇給抑制、新規採用の抑制を行うことによって人件費増を回避しています。法律によって人件費の増加を強制されれば、必ず他の部分を犠牲にすることによって帳尻を合わせます。



では仮に労働基準監督署が残業代未払いの全ての企業に立ち入り調査をして強制的に残業代を全て支払わせたとします。すると企業はどういう行動にでるでしょうか。

まず最初に行うのは賞与のカットです。

通常、どこの企業でも就業規則において賞与の支給は不確定文言(つまり「事情によっては支給しない」ということ)が記載されており、賞与の不支給は違法ではありません。

労基法違反によって残業代の支払いを強制されるのであれば、違法性のない賞与カットは間違いなく行うでしょう。



賞与のカットでも穴埋めできない分についてはどうするか。

次は月例給与のカットが考えられます。

「今まで残業代込みという考えで給与総額を設定していた。残業代を別途とられるならば会社の経営は成り立たないので全員の給与のベース自体を引き下げる」ということです。

「給与を一方的に引き下げるのは違法ではないのか。」と考える方もいると思います。

まず、労働条件の変更が周知され労働者が変更を認識した状態で給与が支払われているのであれば、労基法賃金全額払いに違反するとは考えられません。つまり労働基準法違反ではありませんから、労働基準監督署は対応してくれません。

後は、当人たちの民事の問題です。労働条件不利益変更が労働契約法に照らし有効なのか無効なのかという争いになっていきます。

しっかりとした労働組合が存在する会社では簡単に給与を引き下げることは難しいでしょうが、前述の記事でも書かれていた通り、労働基準法を順守していない企業の多くは中小企業であり、労働組合が存在する会社はむしろ稀です。労働組合のない会社において会社側と不利益変更の有効性を争っていくのであれば、労働者側もそれなりの気概が必要になります。団体交渉だけではなく法廷闘争も頭に入れなくてはなりません。残業代の支払いを実行されたことによって会社業績に本当に悪化している状況であれば、裁判によって不利益変更が有効とされる可能性も十分に考えられます。

不利益変更の有効・無効いずれの結果になったとしても、給与引き下げを阻止するのは簡単ではなく、現実には相当なエネルギーが必要だということです。



もちろん残業代の不払いを正当化するつもりは毛頭ないのですが、ただ、労基署の機能を強化して残業代を全て支払わせればみんなの収入が2割増えてウハウハなどというような単純な問題ではないということがお分かり頂けると思います。

2013-03-20

ユニクロ報道をみて思うこと<サービス残業問題の本質>


先日、東洋経済で「ユニクロ 疲弊する職場」と題して、現場社員(主に店長クラス)の壮絶な長時間労働、過酷な労働環境とそれらに起因する高い離職率の実態が公開され、大きな波紋を呼びました。

※記事はこちら
http://toyokeizai.net/articles/-/13101


この記事をうけて同社柳井会長が体制の見直しを発表したことからも、今回の報道がいかに世間に大きな影響を与えたのかがよく分かります。

※ユニクロ、もう「ブラック企業」とは言わせない! 柳井正氏「サービス残業は会社を潰す」(J-CASTニュース)
http://www.j-cast.com/2013/03/08168877.html?p=all



実務家である私の実感からしても残業代をめぐる労使紛争は最近は本当に増えてきており、サービス残業は放置できない問題となっていますが、一方、今回のユニクロ報道をみて、企業にとって残業問題の真に危うい点とは何なのかを改めて感じたところです。


前述「ユニクロ 疲弊する職場」にて、注目した点は以下です。

社員の月間労働時間を最長240時間と定めている。(中略)社員の間でも、もしこの上限を超過したら出勤停止処分となり、厳しく指導されると認識されている。

サービス残業が発覚した場合には、降格、店長資格剥奪など人事による懲戒処分が行われる。実際、長期間にわたりサービス残業を強要・黙認していた店長には退職勧奨が行われた。



1.1ヵ月の労働時間が240時間を超えると厳しいペナルティがある

2.しかし、240時間でとてもおさまる業務量ではない


このような時、労働者はどういう行動をとるのか。当たり前ですが、ペナルティを受けたくないので、隠れてサービス残業をするようになります。

(※法的に言うと、会社が指示した仕事が客観的にみて所定時間内に処理できないと認められる場合は、黙示的に残業の命令があったもの(※黙示の指示)とみなされます。これを今回のケースにあてはめると、「残業をしろ」と命令し、同時に命令に従って残業をしたら「罰則を与えるぞ」と脅しているようなもので、かなり矛盾した運用をしていることがわかります。)


さらに以下です。

3.サービス残業をしていることが発覚したら厳しいペナルティがある

これによって労働者は隠れてやっているサービス残業を何が何でも会社にバレないように隠すようになる訳です。



未払い残業代の本質、本当の問題とは何でしょうか。それは長時間労働の防止」であり、労働者の健康の確保」です。それが大事なのです。少なくとも監督行政機関である労働局および労働基準監督署はそう考えています。

残業代がきちんと支払われていないこと、未払いの状況そのものが重要なわけではありません。未払いをおおっぴらに許すと、長時間労働に歯止めがきかなくなる、そうすると過労死やうつ病などの労働災害につながる、だからサービス残業は駄目なのです。

誤解を恐れずにいえば、監督行政機関は労災に結びつく可能性の低い短時間のサービス残業にはおそらく興味はありません。残業代を支払わせることそれ自体が目的ではないからです。



そうなると、企業にとって最も重要なのは、まずは正確な実態を把握することです。実態を把握できなければ適切な措置を講じることはできません。今回のようなやり方は論外であり、一番やってはいけない方法であることを分かっていないようです。法的な視点からみて、労働者がサービス残業の事実を隠している状況が企業にとって最もリスキーなのです。

よく労働者のサービス残業を見て見ぬフリをして、労働者の過少な申告をそのまま記録し、残業代を支払わなくて済んだと考えている経営者がいますが、そんなやり方は通用しません。会社には労働時間を把握・管理する義務法律上あるからです。労基法に違反するだけでなく、安全配慮義務違反により億単位の損害賠償リスクがあることを知っておかなければなりません。



ちなみに余談ですが、今回のニュースをみて、ワタミの渡邉美樹会長が大津いじめ問題に関して、「いじめが起きたクラスの担任教師は給与を下げるなど、教師には成果主義、競争原理を持ち込むべきだ」と発言したことを思い出します。いじめの発覚にペナルティを科せば、教師はいじめを隠すようになるのは目に見えているわけですが。





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2013-02-08

固定残業代(定額残業代)の翌月への繰越


毎月固定の残業代支給する手法は中小企業を中心に定着しつつあると思われます。

何時間分の残業代としていくらを支払っているのかを明確にしたうえ他の賃金と区別し、実際の残業が定額分を超過した場合の差額を毎月きちんと支払っていれば、固定残業代は違法な運用とはいえないというのが労働基準監督署と裁判所のスタンスです。

固定残業代を運用することで会社としては相当程度に残業代を抑える対策になっているはずですが、残業が発生する月もあまり発生しない月も同じ金額を払っているからなのか、もう一歩踏み込んでこんな考えが経営者の頭をよぎります。


「毎月一定額の残業代を出しているのに、残業が少なかった月は払い過ぎだから勿体ない。実際の残業時間分との差額を翌月以降に繰り越せないのだろうか。」


まず、結論から言いますが、「繰越ができないとはいえない」、という回答になります。

根拠は、「SFコーポレーション事件」という平成21年の裁判例です。

定額残業代の未消化時間部分の翌月への繰り越しについて、

1.給与規定によりその旨を定め、
2.労働条件通知書兼同意書により社員に通知しかつ同意を得ていた


という要件を満たせば認められるというものです。
(この場合、労働基準法上、繰越額は翌月以降の残業代の前払いの性格を有するという法律構成になるようです。)


ではなぜ、繰越はできると言い切らないのか。
経営者は遠慮なく定額分に達しない未消化分について翌月に繰り越していいのではないかと聞かれると、個人的には繰り越しはお勧めはしません。



まず、上記の判例はあくまで地裁レベルのものであり、確定的な判決ではありません。今後、この件に関する訴訟が起きた際に、最終的にどのような判断が下されるのか予測がつきません。

また、この判例に関する監督行政のスタンスは一切示されていません。

仮に固定残業代の翌月繰越を規定した就業規則を労働基準監督署に届け出る時点で注意を受けるかもしれませんし、実際に制度を運用したのち労基署から臨検を受けた場合、かなりの確率で違法性を指摘され、是正勧告を受ける可能性が濃厚だと思われます。その際、監督官に対して、「繰越を認める裁判例があります」と抗弁したところで対応が変わることはないでしょう。

現時点では、監督行政の見解は記事冒頭に書いた要件を満たした場合に限り「固定残業代は違法ではない」ということであり、「繰越は違法」というスタンスであると考えられます。


どうしても繰越の運用をするということであれば、先ほど書いた通り、就業規則および雇用契約書にその旨を規定するのはもちろんですが、さらに各月の給与明細において、「いくらが未消化分につき次月に繰り越す」ということを明記すべきであると思います。有効性について一切保証はできませんが。




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2012-11-19

固定残業代を運用していても違法は違法


今月は11月なので毎年恒例の「労働時間適正化キャンペーン」が実施されています。この時期は労働基準監督署が残業代不払いについて結構厳しく取り締まります。多くの企業が是正勧告を受けて支払いを命じられることになります。


そんななか、先週こんなニュースがありました。

ページが見つかりません - SankeiBiz(サンケイビズ):総合経済情報サイト
大阪労働局が人材派遣大手の残業代不払いについて家宅捜索を行ったとのこと。

まあ、最近はよくあるなと感じるところでしょうが、注意をひかれるのはここです。

従業員の中には月100時間を超える残業をさせられていたにもかかわらず、実際の残業時間とは関係なく、固定給と月数千〜数万円の定額手当しか支払われていなかったという。

毎月固定の定額残業代のみが支給され、それ以上の差額は支給されなかった為に労働基準法違反として強制捜査を受けたようです。(※派遣法違反や行政指導に従わなかったなどの経緯もあるようですが。)

ただ、実際こんな会社、世の中に山ほどあるのではないでしょうか。



最近は残業代に対する企業側の意識もだいぶ変わってきているように思います。従業員からの未払い残業代請求が増えてきており、対策を真剣に考える企業は実際に多いでしょう。

そして、何とか人件費を抑えつつ対策を講じたいという企業に対し、多くの社会保険労務士やコンサルタントは、みなし労働時間制と併せて「固定残業代」を勧めてくるはずです。(「みんな管理監督者にしてしまえ」などというひどいコンサルは最近はあまりいないと思います。)

残業は多いのだが残業代の原資が十分にないという企業にとって、固定残業代を運用するという選択肢は事実、得策といえます。

しかしながら、忘れてはならないのは、実際に残業した時間数による残業代が定額残業代を超える場合には、その差額をその都度必ず支払うという運用です。これをしなければ、そもそも固定残業代という手法自体が労働基準法違反、違法、法的に認められない、ということです。


前述の事件でいえばニュースを読む限り、監督行政としての臨検調査という軽いものではなく、司法警察権の発動としての捜査であるものと思われます。今後、書類送検、起訴と続くでしょう。

固定残業代支給していても運用が違法だとここまでやられてしまう可能性があるわけです。甘くみてはいけません。

差額を支払う以前の話として、労働時間をまともに記録すらしていない会社もまだまだありますが、これはもう論外です。



なお、固定残業代が他の賃金と明確に区別されていない運用は、これも違法です。「基本給・手当に含まれている」というような運用は全く話になりません。

また、固定残業代の導入時の不利益変更について従業員の個別同意をとるべきなのはいうまでもないのですが、変更について通知をきちんと行っていれば同意をとっていないからといって即違法という話にはなりません。ここは労基法云々ではなく会社と従業員の権利義務等の契約関係、不利益変更法理の話に移っていくところです。




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2012-09-24

「みなし残業」という訳の分からない制度


会社員の方がこう話すときがあります。

「うちの会社はみなし残業制だからいくら残業しても決まった額しか残業代が出ない。」

労働法的に考えると、筋の通らない話です。というのも、労働基準法その他の法律に「みなし残業」などという言葉はありません。まさに言葉の一人歩きです。

「いやだって最近はどこの会社もみなし残業やっているじゃないか」、と多くの方は仰るでしょう。ですから一応きちんと書いておこうと思います。



現在、法的に認められているのは以下のようなやり方です。


1.固定残業代(定額残業代

残業代を毎月一定額で支給する方法です。

本来残業代は実際に残業した時間分だけ払えばいいのですが、残業していない分も含めて多めに固定額を支給しているだけのことです。

ですから実際の残業が固定額分を超えて行われた場合、超過分の残業代を企業は当然支払わなければならず、決して「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」ことが法律的に許されているわけではありません。




2.みなし労働時間制

労使協定の締結や就業規則の規定など、ある一定の要件を満たした場合に、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間働いたものとみなす制度です(※「事業場外みなし」裁量労働制があります)。

例えば、あらかじめ9時間と決められていた場合には、実際に5時間働こうが、10時間働こうが、その日の労働時間は9時間とみなされるわけです。

お分かりだと思いますが、これは労働時間をどうカウントするのかという問題であり、残業代をどう計算するかという取り扱いには一切関係はありません。みなされた労働時間が所定(あるいは法定)労働時間を超えていれば、当然企業は残業代を支払う義務があり、決して「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」ことが認められている訳ではないのです。

「みなし時間が1日8時間なら法定内に収まるから残業代は不要じゃないか。」と言われればまさにその通りです。

しかし、みなし労働時間制厳しい法律要件を満たして初めて有効な制度です。

私が話を聞く限り、冒頭の「みなし残業」なる制度を運用しているらしい多くの企業はどう考えてもみなし労働時間制要件など満たしていないのであり、多くの企業は「みなし残業」という存在しない制度を堂々と謳いながら、法的には残業時間が発生しているにもかかわらず、それらをカウントせずに違法に残業代を払っていないというわけです。




このように、「みなし残業」という言葉は、さも制度が適法に存在するかのように企業や労働者を誤解させる言葉なのであり、法的には「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」制度など存在しない、存在するのは残業代を実際の残業時間より多めに定額で支給する方法」と、もう1つは労働時間を一定の時間にみなす制度」だけだということをしっかり認識した方がよいと思います。

なお、労基法上の「管理監督者」は「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」に該当するような気がするかもしれませんが、管理監督者を含めた労基法第41条該当者は、「労働時間・休憩・休日の規定が適用されない」のであり、そもそも残業という概念自体がなく、したがって「いくら残業しても」という状況には適合しないということになります。




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2012-06-07

管理監督者問題は2段構えで対応


先月、名ばかり管理職について書きました。

人事権のない管理職や管理的業務の少ない管理職、給料が部下とあまり変わらない管理職は労働基準法上の管理監督者には該当せず、したがって残業代の支払いが必要な為、管理職だからといって残業代支給しなくてもよいと安易に考えるのは危険だといいました。

詳細は過去記事を参照
いまだ多くの企業で問題ありの「名ばかり管理職」 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



実はこの管理監督者の範囲については、監督行政と裁判所の判断に微妙な違いがあるというのが今回の話です。

両者の違いを端的にいうと、裁判所の方が監督行政に比べ判断基準が厳しい、つまり管理監督者の範囲がせまいのです。

以前の記事のとおり、管理監督者の範囲については行政通達において明らかにされており、労働基準監督署は通達にそって企業を指導してきますから、「対労基署」という観点からいえば、通達ベースで社内体制を整えていけばよいことになります。

裁判においても通達で言及されている管理監督者性を判断する為の3要素、「職務内容、権限・責任」「勤務態様」「待遇」に着目して判断されることになると考えられますが、それぞれの基準が異なります。



近年のマクドナルド訴訟において、東京地裁で店長の管理監督者性を否定され、結果的に高裁で会社側の敗訴的和解が成立したといわれていますが、このときの判決における行政との違いの大きなポイントは以下です。


1.管理監督者は企業全体としての経営方針の決定に関与することが必要

行政通達では確かに「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場」にあることを管理監督者の条件としていますが、裁判所はそれを拡大解釈して、店舗だけではなく企業全体の、しかも労務管理だけではなく経営方針の決定についてまで関与することを求めています。おそらくこの条件を満たせるのは普通は役員以上ではないでしょうか。少なくともこの条件を満たせる店長は、日本のサービス・飲食チェーン企業にはいないと思われます。


2.労働時間の自由裁量性を過度に重視

通達レベルにおける管理監督者の勤務態様に関しては、「出退勤の時間について厳格な規制を受けない」という内容であり、これは例えば遅刻などをしても欠勤控除や懲戒などの不利益な取り扱いを受けないという程度にとどまります。しかしながら、裁判所の判決では出勤・退勤の時間についてかなり積極的に自由裁量を求めているといえます。


以上2点のポイントは、企業が管理監督者を運用していくにあたってかなり厳しい条件になるものと考えられます。

管理監督者問題は法令と現実にあまりにもギャップがある為、いっきに改善できる問題ではありません。まずは労基署対策を考えて通達レベルで可能な条件を満たしていくことが現実的です。

ただし、通達はあくまでも労基署の調査でしか役に立ちません。労働者との裁判になれば必ずマクドナルド訴訟の判決をふまえた上で管理監督者性の判断が行われることになりますので、前述の2点のポイントを満たしていく方が間違いはありません。

今のところ、管理監督者問題は1.行政への対応、2.裁判所への対応の2段構えで考えておく必要があります。



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2012-05-18

定額残業代ははたしてメリットがあるのか


最近は都心部を中心に従業員からの残業代の請求がかなり増加しているものと予想されます。

残業時間を削減するには、変形労働時間制、みなし労働時間制などの特殊な労働時間制度を導入することがまずは有効と考えられますが、導入してもなかなか大幅な削減にはつながらなかったり、あるいは導入するには制度の整備などちょっとハードルが高いという企業もあります。その場合はとりあえず、毎月固定の定額残業代を設定して支給することが手っ取り早くて有効な対策であるとよく言われます。

定額残業代については労働基準法上明確に言及されていません。法律の趣旨からいって、積極的に奨励するような制度ではないと思われますが、過去の判例などを参考にして違法とされない運用を心掛ける必要があります。


定額残業代が合法と認められるためには以下の要件を満たさなければなりません。

残業代に相当する部分が、他の賃金と明確に区分されている
・何時間分の残業代に相当するのか定められている
・実際の残業時間で計算された残業代が定額残業代を超えた場合には、その差額が支払われている


よく「残業代を毎月定額で払うようにすれば、後はどんなに残業してもそれ以上は払わなくていいんですよね。」と聞いてくる企業の方がいますが、実際の残業時間が定額残業代相当分を超えればその差額分は支払う必要があります。

会社からみれば、残業が少ない月は定額なので働いていない分も余計に払い、さらに残業が定額相当部分を越えたら超えたで差額を支払うことになり、労基法遵守の観点からいえば、定額残業代制度は会社にとって本来メリットのある制度とはいえないのです。



多くの企業が残業代を毎月固定で支給する本当の狙いは

いま現在支給している給与の中から残業代を捻出したい(つまり従業員の認識しているであろう自身の基準内賃金を実質引き下げることを意味します)

そして

見せかけの月例給与の総支給額を多くしたい

という2点につきます。

これはどちらも従業員にとって不利益な事項であり、やり方によっては従業員のモチベーションに大きなマイナス作用を及ぼしかねないということになります。

現在の総支給額の中のいくらかを定額残業代として設定するのであれば、当然従業員一人ひとりの同意書をとるのは必須です。


そして、最も重要なのは、月例給与内における定額残業代の比率です。定額残業代が多い会社になると、残業80〜100時間分という目を疑うような定額残業代を設定している会社も現実に存在します。

※これについては以前の記事で某居酒屋チェーンの実例をとりあげていますので参照。
長時間労働の代償1億円の現実 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



例えば月給20万円の労働者について月3〜4万円程度の定額残業代であれば常識的な金額とも考えられますが、定額残業代が月例給与の半分にも及ぶようなあまりにも労働者にとって不利益な設定だと、いくら労使で合意しているとはいえ法的な有効性を否定されるリスクも否定できません。

そして当然ながら定額残業代の多い会社は、労働者の実際の時間外労働も多くなる傾向にあると考えられます。長時間労働による過労死などの労災事故が発生した際に、このような異常に高く設定されている定額残業代の実態が判明すれば、企業の損害賠償責任はさらに高くなる恐れも考えられます。
(80〜100時間分の定額残業代を設定しているということは、その会社が毎月80〜100時間の残業を労働者にさせることを予定していたととられかねません。そんな会社が安全配慮義務を履行しているとは到底考えられないということになります。)

また、このような会社は、実際の残業時間によって計算された残業代が定額残業代を超えた部分の差額をきちんと支払っていないケースも多いのではないかと思われます。もしもこのことが判明すれば、定額残業代労基法上の時間外手当とは認められず、別途残業代を計算して支払うことになるのはいうまでもありません。

そして何より、定額残業代を大きくして見せかけの総支給額を高くしようとしても、実態を知った労働者は落胆し、帰属意識やモチベーションは低下するのは目に見えています。定額残業代を大きく設定する会社は、「うちはブラック企業だから、入社したら毎日たくさん残業をさせるぞ」と宣言しているようなものです。



定額残業代の適切な額は残業時間20〜30時間分とすることが最も望ましく、残業代圧縮、人件費管理に加え、リスク管理面から考えても最もメリットのある運用といえるのではないでしょうか。多くても月45時間分以内に抑えるべきであると思います。



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2012-05-07

いまだ多くの企業で問題ありの「名ばかり管理職」


法テラスに勤務していた弁護士が残業代の支払いを求めて法テラスを提訴する事件が先月ありました。

no title

これは単なる残業代不払いの問題ではなく、当該弁護士が実態は労働基準法上の管理監督者としての権限を有していなかったにもかかわらず、管理監督者として取り扱われ時間外労働に対する賃金が支払われなかったという「名ばかり管理職」の主張がなされています。



マクドナルド裁判(3年前に高裁段階で和解成立)をきっかけに名ばかり管理職問題は注目を集め、残業代を支払わなくても違法とならない管理職の範囲について真剣に検討する企業も最近は増えてきていますが、世間を見渡せばまだまだ危ない企業ばかりだと言わざるを得ない状況です。


企業の経営者・担当者の方と名ばかり管理職の話をする際に管理監督者という名称を使うと、「それは何ですか?管理職とどう違うんですか?」と聞かれることがあります。

管理職はあくまで会社が任意に決めた社内の職制上の役付者です。そして、管理監督者(※正確には「監督もしくは管理の地位にある者」といいます。)は労働基準法によって定義された、労働時間・休憩・休日の規制が適用されない例外的な労働者(つまり時間外手当・休日手当を支給しなくてもよい者)のことです。

社内の役職を基準にして企業が残業代支給の有無を決めることは当然ながらできません。でなければ、権限のない労働者にも名目だけの役職を与えることによって会社が意図的に残業代の支払いを免れることが可能となってしまいます。

従って、労基法上の管理監督者とは何か、社内において運用されている管理職と一体何が違うのかを正しく認識することが未払い残業代問題に備える第一歩となるわけですが、管理監督者の範囲は一般的に考えられているよりもはるかに狭く、相当厳格に判断されるのが現状なのです。


通常、多くの企業では、課長(あるいは課長代理、課長補佐など)以上を管理職としています。中小企業では係長や主任などを管理職として取り扱っている会社を見たこともあります。サービス業などの店舗型チェーン展開企業においては、かつてそのほとんどが店長を管理職としていましたが、マクドナルド訴訟以降は店長を管理職からはずして残業代支給し、店長を統括しているエリアマネージャー以上を管理職とするように取扱いを変更する企業が現れる一方、いまだに全く取扱いを変えていない企業も少なからず存在する状況です。

これらの課長や店長といった役職者は管理監督者に該当するのでしょうか。


法律上は管理監督者の定義は明確には示されていませんが、行政通達において、管理監督者「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされています。

判断のポイントは3つです。

1.職務内容、権限・責任が相応か
2.出退勤の時間について厳格な規制を受けないか
3.地位にふさわしい待遇か(基本給・役職手当・賞与)



実務的に特に重要と言えるのは、「1」の職務内容、権限・責任だと思います。

例えば、採用・人事考課・異動・解雇などの人事権については実際かなり大きな裁量が求められます。これらの権限が全くない、またはあってもあまり影響力が及ばないという場合には、まず管理監督者とは認められないと考えたほうがいいでしょう。

また、職務内容についても、実際にマネージャーとしての管理的業務を行っているかどうかは非常に重要なポイントであり、課長・部長などの役職が付いていても普段はほとんど部下と変わらない仕事をやっているということであれば管理監督者性は迷わず否定されます。プレーイングマネージャーであっても一般の従業員と同じ内容の仕事は多くても全体の2〜3割にとどめるべきですし、シフト勤務の店舗型サービス業の場合には、自らシフトに入って他のシフト勤務者と同じ業務を行うのは避けるべきです。


「2」「3」はどちらかというと補足的な位置づけであり、「1」の条件を満たしていることがまず大前提になります。まず仕事の中身や権限はどうなのか、その上で勤務態様や待遇はどうなのか、という順番です。

ですから賃金についても相応の金額を払ってさえいれば管理監督者として認められるというものではなく、仮に残業している部下に支給総額で超されるような逆転現象が起きていれば管理監督者性を否定される重要な要素となるでしょう。もちろん逆転していなければよいという訳でなく、相当程度の格差が必要とされます。


法令上は、人事権、管理的業務、逆転現象などがキーワードになりそうですが、これらの条件を満たす管理職は実際ほとんどいないのではないでしょうか。該当しそうなのは最低でも部長クラスから限りなく役員レベルに近い労働者だと思われます。

つまり、現実には日本中の企業において名ばかり管理職が溢れている状況、といえなくもないと思います。

とすると、管理監督者の範囲を正しく認識するだけでは問題は解決しません。実質的に役員レベルに達していない管理職のほとんどを管理職からはずした上で残業代支給するなど現実的に不可能だからです。

どうしてもすぐには管理監督者の取扱いを適正化できないといったときは、仕方ないので取りあえず早急に月例賃金における役職手当の割合を高めることです。万が一名ばかり管理職問題でトラブルになり管理監督者性を否定された場合に、役職手当として支給していた額を残業代相当額として取り扱ってもらうことができれば、会社が遡って支払うべき残業代を小さくできますし、残業代の算定基礎から役職手当分を外してもらうことも可能と考えられるからです。


ただし、線引きの微妙な管理職は別としても、明らかに管理監督者に該当しないと考えられる管理職については一刻も早く管理職から外し、役職手当を減額させた上で残業代支給することを強くお勧めします。



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2012-03-12

残業代抑制と事業場外みなし労働時間制


旅行会社が自社の添乗員適用している「みなし労働時間制」が不当だとして訴えられていた裁判で、みなし労働時間は認められず、残業代を支払うよう会社に命じられる高裁判決が先日ありました。

朝日新聞デジタル:どんなコンテンツをお探しですか?


みなし労働時間制とは、現実に何時間働いたかに関わらずあらかじめ決められた時間を働いたとみなす制度です。例えばある会社において、この職種の1日の労働時間は大体10時間くらいだと決めたら、1時間働こうが15時間働こうが一律10時間勤務とみなして10時間分の賃金を支払います。

なぜこんな制度を導入するのかというと、ずっと外出している営業マンとか、デザイナーとか、専門職とか、労働時間を算定するのが難しい、あるいは業務の時間配分を指示するのが困難である職種の労働時間を適切に算定しようというのが法律の趣旨ですが、実際のところ導入する企業の大半は「あらかじめ決めた以上の残業代を払いたくない」というのが本音であることは間違いありません。

ただし、みなし労働時間制の導入率は全国的にみて高くはありません。全体の1割程度です。導入するためには労使協定などの面倒な手続きが必要なことと、導入が認められるための細かい要件がたくさんあるためです。

みなし労働時間制には、

・事業場外みなし労働時間制
・専門業務型裁量労働制
・企画業務型裁量労働制

の3つがあり、今回問題になっているのは「事業場外みなし労働時間制ですが、この事業場外みなしを導入するための条件として

1.事業場外(会社の外)で業務に従事
2.会社の指揮監督が及ばない
3.労働時間を算定することが難しい


が必要です。

そして厳密に言ってしまえば、事業場外みなしを使っている会社の多くが、

「2.会社の指揮監督が及ばない」 と 「3.労働時間を算定することが難しい」

の条件を実質満たしていない
というのが現状でしょう。

携帯電話やタブレットなどのモバイル端末が普及している現在、会社の指示が及んでいない状況というのは相当に少ないと考えられますし、営業日報や業務報告書で細かく報告させている場合は労働時間が算定し難いとはなかなかいえません(※ただし、携帯等を持たせているからイコール適用できない訳ではなく、あくまでも実態で判断されるものです)。


最近増えているテレワーク(在宅勤務)モバイルワークにも事業場外みなしを適用するかどうかの選択肢がありますが、

・始業・終業の都度、会社に連絡させているか
・勤務時間中は常に連絡がとれる状態にすることを義務付けているか
・業務について随時細かく指示を行っているか

という実態に基づいて適用の可否を判断されることになります。


今回の旅行会社添乗員の問題については、「旅程を記した指示書や日報」の存在によって、労働時間の算定は可能であるし、会社の指揮監督も及んでいるという判断に至ったようです。




残業代を払いたくない、抑制したい

要件を満たすか微妙だが、事業場外の業務 or 外出の多い業務だから、とりあえずみなし労働時間制適用

後で労働基準監督署 or 退職した従業員から指摘され、残業代を過去に遡って支払うはめに

こんなケースが今後増加しないとも限りません。


事業場外みなし労働時間制は結果的に残業代を抑制できる制度ではありますが、それはもともと通常の方法では労働時間を正確に計算できない業務であったというだけの話です。残業代を払いたくないからみなし労働時間制という安易な考えで制度を導入するリスクをくれぐれもお忘れなく。



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2011-07-17

更新料「有効」 最高裁判決がもたらすもの


15日、重要な最高裁判決がでました。

気になっていた方も多かったのではないでしょうか。賃貸住宅に係る更新料の有効・無効を争う裁判です。

既に地裁で10件、高裁で4件が更新料を無効と判断しており、首都圏と関西を中心に多くの訴訟が継続中でした。該当物件は100万件と言われ、無効の判決最高裁で確定すれば、過去の更新料を利子付きで借主に返さなければならなくなると考えられ、賃貸住宅業界は気が気ではなかったことでしょう。


※以下参照
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110716-00000118-san-soci


今回、最高裁が更新料が有効であるとする判断を初めて下したことによって、貸主側はほっと胸をなでおろし、借主側は大きく落胆したところですが、この判断にショックを受けた業界がもう1つあると思われます。



以前の記事で、弁護士の急増消費者金融に対する過払い金返還請求ビジネスについて触れました。

※その時の記事です。
残業代紛争は嵐の前の静けさなのか - 人事労務コンサルタントmayamaの視点


多くの法律事務所は、いずれ終焉を迎える過払い金返還請求に代わるビジネスを模索し、そしていくつかの分野に目をつけていました。

その1つが未払い残業代問題であることは以前書いたとおりですが、それと同等か、あるいはそれ以上の有望株として更新料返還請求ビジネスに目をつけ、今回の訴訟の動きを注視していたものと思われます。

ポスト過払い金として重要なポイントは、マニュアル化して多くの事務員を動員し、大量処理をかけられるかという点が挙げられます。そしてその為には、更新料を無効とする最高裁判決が最も重要だったわけです。


その目論見は今回見事に打ち砕かれたわけですが、
はっきりしていることは、

  • 多くの弁護士・司法書士を潤わせていたサラ金過払い金返還請求ビジネスは近々終息し、代わりのビジネスが必ず必要になる
  • そして、有望なビジネスと見込んでいた更新料問題は当該「代わりのビジネス」となり得ない
  • 他方、多くの中小企業においていまだ未払い残業代問題は根本的に解決されておらず、ポスト過払い金ビジネスとして依然有望な分野である

ということです。


労働トラブルは勃発した時点でおおかた勝負は決まっているものです。予防が何よりも重要であるということを何度も言っておきます。



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2011-06-02

名ばかり管理職を甘く見てはいけない

つい最近ですが、知り合いの同業者の関与先で従業員から残業代を請求されるトラブルがありました。

未払い残業代を請求されるにもパターンは色々ありますが、今回のケースは、会社が管理職にしていた社員が実態は管理職じゃないとして支払われていなかった残業代を請求してくる、いわゆる名ばかり管理職問題です。



名ばかり管理職はマクドナルドの店長が訴えた訴訟が有名なので、知らない人はほとんどいないものと思われます。マクドナルド事件は高裁で和解が成立しており、会社側の敗訴的和解と言われてはいますが、この問題で最高裁の判断はでていません。

しかしながら、全国のサービス業チェーンは気が気じゃないことでしょう。それまでは管理職が当たり前だった店長を管理職からはずすことを検討する企業も多かったと聞きます。



そして2日前、以下の2つのニュースを見つけました。


某コンビニの店長が管理監督者の実態がなかったとして東京地裁が時間外手当支払いを命令
http://www.asahi.com/national/update/0531/TKY201105310500.html

某大手ミシンメーカー支店長3人が管理監督者にあたらないとして残業代の支払いを求めて提訴
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_date2&k=2011053100388



名ばかり管理職祭りでしょうか。




一応ですが、労働基準法残業代を支払わなくてよいといっているのは、管理職ではなく、管理監督者です。(もっと正確にいえば「監督若しくは管理の地位にある者」労基法第41条)


会社の定める管理職が法律上の管理監督者に該当するのかどうかの基準はザックリ言うと以下の3点です。

  1. 職務内容・権限と責任(労務管理について経営者と一体的立場)
  2. 出退勤について厳格に管理されていない
  3. 地位にふさわしい待遇(基本給や手当、賞与など)


要するに、従業員を採用・人事評価・昇格・降格・解雇などができて、何時に出勤して何時に帰って何日に休むとか自分である程度決められて、かつ残業しまくっている非管理職よりも給料が高いということです。

この基準どおりに判定すると、法律管理監督者として認められるのはいいとこ部長以上でしょう。現実的に企業にとって厳しい基準です。

それもあってか、名ばかり管理職問題は実際のところ甘く考えている企業が多いという実感です。

よくあるのは、管理監督者としてのマネージャー業務よりプレーヤー業務のほうが多いとか(プレーヤー業務は3割以内に抑えるべき)、従業員全体に占める管理職の割合が多すぎるとか(25%を超えると多いという印象)。あと、給料の逆転現象は避けるべきなのは言うまでもありません。



はっきり申し上げて、名ばかり管理職問題は勃発すれば会社はかなりの確率でキツイ状況に追い込まれます。何しろ労働基準監督署は長時間労働や未払い残業代と並んでこの問題を重視しています。裁判にでもなろうものなら相当に厳格な基準で管理監督者性を判断されることになります。加えて主張立証責任は会社側にあります。


思い当たる方は1日も早い行動をお勧めします。




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2011-05-09

残業代紛争は嵐の前の静けさなのか


会社が労働者から未払い残業代の請求を受ける案件がここ数年急増しており、今後さらに増加すると言われています。その要因の1つとしてあげられるのが、大量の弁護士の参入です。


いま弁護士業界は、司法制度改革によって司法試験の合格者が急増し飽和状態にあるというのを聞いたことがある方も多いのではと思います。

そして近年、そんな供給過剰な弁護士の受け皿となっていたのが、サラ金に対する過払い金返還請求です。これは利息制限法と出資法がそれぞれ定める上限利率の差額(グレーゾーン金利)にあたる利息を請求する仕事で、専門にする弁護士にとっては、はっきり言ってドル箱でした。

しかしながら、最近は過払い金も請求し尽くしてきて、そろそろ収束とも言われています。
当然、過払い金請求に代わる収入源が必要となるわけですが、そんな弁護士業界が、ポスト過払い金請求の有望株として狙っている分野の1つが未払い残業代請求であることは間違いなさそうです。最近は、残業代請求を促す法律事務所のウェブサイトや電車広告も、増えてきたように感じます。




そして先日、日弁連(日本弁護士連合会)が全国の弁護士を対象に行う残業代請求をテーマにした特別研修会の情報を見つけました。
(※研修会自体は、3月17日に予定されていた為、震災の影響を理由に中止となりました。)


以下、日弁連公式サイト研修会ページより引用

未払残業代請求事件は、弁護士が扱う労働事件の中で重要な一分野です。

労働時間の管理、残業代の支払いに対する意識が必ずしも高くない企業が未だ散見される一方で、労働者の権利意識は高まっており、退職などを契機とした残業代請求事件の増加が予想されます。

従来は労働問題を扱う機会の多くなかった弁護士であっても、今後は、残業代請求の基礎を理解しておく必要性が高まってきているといえるでしょう。

引用ここまで



いよいよ来そうだなという実感です。
弁護士でさえ就職難と言われる状況のなか、日弁連も未払い残業代問題を現実的なターゲットとして真剣に考え、本格的に動き始めたということでしょうか。



特に中小企業で常態化するサービス残業。
企業側の意識の低さは、請求側にとってはむしろチャンスといえるでしょう。
何も対策をとらずに昔の感覚でサービス残業をさせている会社は、さすがにそろそろ腰を上げた方がよさそうです。

2011-04-16

未払い残業代を「不当利得」で返還請求


最近何かと話題になる未払い残業代問題。
特に退職した従業員から訴訟を起こされる案件が増えています。




「ちなみに未払いの残業代って、昔の分まで請求できるの?」

という疑問も沸いてきますが、残業代を含めた賃金の請求権は、2年間行われない場合は時効で消滅します(労働基準法第115条)。

そのため未払い残業代の請求は過去2年分について行われるのが通常でしたが、
最近ちょっと変わったケースを見つけました。




某飲食チェーンの元社員が、5年以上前の残業代を、
民法第703条の不当利得による返還請求によって支払うよう訴訟を提起したのです。

以下参照
http://kishadan.com/lounge/table.cgi?id=201001291904215


不当利得に基づく請求権の消滅時効は10年です。
もしこの訴えが認められるような事になれば、
全国の中小企業にとって少なからず影響があると考えられるでしょう。


残業代の不払いが不当利得の要件を満たすかどうか等様々な問題はあるものの、
今後、労働者の関心のさらなる高まりや
未払い残業代紛争の広がりにつながっていく1つのきっかけになるのではないかと思われます。




労働者の意識に反して、
企業側の関心がいまいち低いこの問題ですが、
早急な対策が必要なことは間違いありません。



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